もし「あれは児童虐待かな?」と思った時は、『189』にダイヤルしてみてください。
携帯電話からもかけられます。
最寄りの児童相談所で相談できる(匿名でも可)ようになっております。
恐らく大和くんのケースも、誰かが電話して児童相談所に伝えていた…‥ということなのでしょう。
ではでは、いつも応援やコメント、本当にありがとうございます(*´ω`*)
桃太郎に誘われ、アパートに侵入し、部屋で倒れている『少年』を発見した翌日。
天野は都内の
天野勇二
名前は『
住所は世田谷区の……。
アパートの住所を職員に告げる。
天野勇二
小学3年生。
9歳の少年だ。
昨晩、部屋で倒れているところを発見して病院に運んだのさ。
あんたたちは知らないか?
天野は細かく質問を重ねたが、児童相談所の職員には『守秘義務』というものが存在する。
いくら天野が親切な第三者だとしても、他人の家庭事情をペラペラ喋ることはできない。
しかし、天野は「目を見るだけ」で、ある程度の心理を読んでしまう『天才クソ野郎』だ。
児童相談所を後にする頃には、ひとつの確信を手にしていた。
天野勇二
(児相の職員は『長谷部大和』の存在を知っていた……。そしてあの部屋の状況……)
大和が倒れていたのはアパートの一室。
ゴミが散乱する汚い部屋だった。
あちこちに埃が積もり、清掃という概念が存在しないかのような部屋。
冷蔵庫の中は空っぽだった。
天野勇二
(誰が見ても明らか。『
嫌そうにため息を吐く。
天野勇二
(児相の反応を見る限り『
顔を歪めながらスマホを見つめる。
天野勇二
(しかも、まだ母親から連絡がない。イカれてやがるぜ。俺様はガキを病院に運び、
苛立ちを噛み殺しながら天野の家に戻ると、
桃太郎
ワフッ!
庭先の桃太郎が吠えた。
尻尾をブンブン振り回し、散歩用のリードを口に咥えている。
まるで「早く散歩に連れて行ってほしいワン」と、せがんでいるかのようだ。
天野勇二
そうか……。
もうすぐ日暮れか。
空を見上げ、にやりと口唇を歪める。
天野勇二
さてはお前、この時間にガキと
だから夕方になると散歩をせがんでいたのか。
桃太郎
………
天野勇二
それを早く言えよ。
……いや、お前の『目線』に違和感を覚えた時に、気づくべきだったか。
お前は伊藤の家というより、その周囲を見ていたからな。
天野は苦笑しながら車に桃太郎を乗せ、伊藤の家付近を目指した。
目的地は『長谷部大和』が住むアパート。
昨晩は裏庭から侵入したが、本日はしっかり玄関の扉を叩いた。
天野勇二
おい。
いるのはわかっているぞ。
開けろ。
部屋からは反応がない。
天野勇二
チッ……。
居留守を決め込みやがって。
桃太郎よ、吠えろ。
桃太郎
ワフッ!
桃太郎がひと鳴きすると、部屋の中でゴソゴソと物音がした。
ゆっくりと扉が開かれる。
少年
……桃太郎?
あっ……!
少年が天野の顔を見て、慌てて扉を閉じようとする。
天野は靴先を扉の隙間にねじ込んだ。
天野勇二
随分と失礼な態度じゃないか。
俺様は昨晩、君を病院に運んでやった男だ。
俺の顔を忘れたか?
少年は怯えながら天野を見上げている。
可哀想なことに真っ青だ。
天野勇二
そんなに怯えることはない。
体調はどうだ?
母親は帰ってきたか?
何か食べたのか?
矢継ぎ早に質問を飛ばす。
少年は青ざめて震えるだけ。
天野は苦笑しながら言った。
天野勇二
まぁ、どうせ帰っていないのだろう。
食い物を買ってきた。
良かったら食べてくれ。
天野は遠慮なく部屋に入り、室内に大きな買い物袋を置いた。
おにぎりにパンや弁当など。
子供でも簡単に食べられるものが入っている。
少年
い、いらない……。
少年は涙目で首を横に振った。
天野勇二
なぜだ?
腹が減っているだろう?
少年
ママが、知らない人から、物を貰うなって……。
そう告げる少年のお腹が「ぐぅ…」と鳴った。
天野は優しげに言った。
天野勇二
なかなかしっかりした男だ。
だが、俺様は『知らない人』ではない。
君を病院に運び、点滴を打たせ、この部屋に送り届けた。
つまり、君は俺様のことを知っている。
少年
で、でも……。
天野勇二
それに俺様は桃太郎の飼い主だ。
桃太郎とは仲が良いのだろう?
少年は驚いたように天野を見上げた。
少年
ち、ちがうよ……。
桃太郎の飼い主は、伊藤のおじいちゃんだから……。
天野勇二
伊藤から桃太郎を預かっているんだ。
伊藤は今、入院していてな。
少年
えっ……?
ほ、ほんと?
伊藤のおじいちゃん、死んじゃうの……?
天野勇二
死なないために入院している。
伊藤のことは知っているのか。
少年
う、うん……。
天野勇二
俺は伊藤の友達だ。
つまり、君は『友達の友達』ってワケだな。
もうこれで『知らない人』ではない。
さぁ、遠慮しないで食え。
腹が減っているだろう?
少年はしばらく迷っていたが、空腹には勝てなかったのだろう。
そっと菓子パンに手を伸ばした。
最初は遠慮がちに欠片をつまんでいたが、すぐに勢いよく頬張り初めた。
天野勇二
ゆっくり食えよ。
ちゃんと噛むんだぞ。
天野は優しげに告げながら、部屋の中を見回した。
殺風景なアパートの一室だ。
床にはたくさんのゴミが散らばっている。
台所には天野が書いた「これを見たら連絡してほしい」というメモが置かれたまま。
母親が帰ってきたら、自らに連絡するよう電話番号を残していたのだ。
天野勇二
(メモが動かされた形跡はない……。母親は家に帰ってないか)
天野は電灯のスイッチを操作し、ため息を吐いた。
電気が止められている。
ガスも止められている。
蛇口を捻っても、出てくるものはない。
天野勇二
まったく……。
なんて母親だ。
子供を殺す気かよ。
この部屋には電話もない。
天野は少年に尋ねた。
天野勇二
君の母親と話したい。
携帯の番号を教えてくれ。
少年は2個目のパンを頬張りながら、首を横に振った。
少年
知らない……。
天野勇二
今どこにいるんだ?
職場の連絡先も知らないのか?
少年
うん……。
天野勇二
何かあった時はどうやって連絡するんだ。
少年は困ったように顔を伏せた。
少年
知らない……。
困ること、ないし……。
天野は舌打ちしながら部屋を眺めた。
部屋の片隅にランドセルが置かれている。
天野勇二
ちゃんと学校には行っているのか?
少年はまた困ったように顔を伏せた。
質問する度に怯えた表情を浮かべている。
天野は「ふぅ」と息を吐き、少年の正面に座った。
天野勇二
まぁ、『友達の友達』を
まずは自己紹介しよう。
俺様は天野勇二というものだ。
さっきも言ったが、今は桃太郎の飼い主を務めている。
親指で桃太郎を指差す。
ちなみに桃太郎は玄関できちんとお座りしている。
部屋には上がらないよう、しっかり
なかなか利口な犬だ。
長谷部大和
少年がぽつりと呟いた。
天野勇二
大和か。
立派な名前だな。
今はいくつだい?
長谷部大和
9歳……。
天野勇二
ならば小学3年生かな?
桃太郎とはよく遊ぶのかい?
長谷部大和
うん……。
天野勇二
そうか。
桃太郎と仲良くしてくれて、ありがとうな。
大和はその声に答えず、黙ってパンを食べ続けた。
3つのパンを食べ終え、天野が差し出した牛乳を飲み、ふぅと息を吐く。
長谷部大和
ごちそうさま……でした……。
天野勇二
残りは置いていく。
腹が減ったら食ってくれ。
大和はふるふると首を横に振った。
長谷部大和
いらない……。
天野勇二
なぜだい?
ママが帰って来るのか?
長谷部大和
ちがう……。
ママが見たら、怒るから……。
大人から物を貰うと、ママはすごく怒るんだ……。
怯えた表情を浮かべている。
天野は静かに頷いた。
天野勇二
ならば持って帰ろう。
ママにはナイショで、また持って来るよ。
大和はそこで初めて嬉しそうに微笑んだ。
だが、それも一瞬のこと。
笑顔は霧のようにかき消えてしまった。
桃太郎
……ワフッ!
玄関の桃太郎が小さく吠えた。
大和が静かに立ち上がる。
長谷部大和
散歩に、行こうか。
桃太郎
ワフッ!
長谷部大和
うん……。
わかった。
大和がよろよろと立ち上がる。
天野勇二
大丈夫か?
体調が良くないはずだ。
寝ていたほうがいいぜ。
大和は泣きそうな表情を浮かべた。
散歩を邪魔されることを恐れている。
天野は頭をかきながら言った。
天野勇二
しょうがねぇな……。
じゃあ、俺も連れて行け。
どこを散歩しているのか、飼い主として把握する必要がある。
大和は静かに頷き、桃太郎のリードを持って外に出た。
天野がため息を吐きながらそれを追いかける。
天野勇二
(アイツ……。鍵をかけずに出かけやがった。鍵すら渡されてないのか……)
大和は嬉しそうに歩いている。
桃太郎も尻尾を振り回し上機嫌だ。
1人と1匹は住宅街を抜け、河川敷に向かった。
これがいつもの散歩ルートなのだろう。
やがて河川敷の広い場所にたどり着くと、大和は桃太郎を放してやった。
桃太郎
ワンッ!
桃太郎が元気よく駆け回る。
だが、すぐに大和の元に戻り、嬉しそうに身体をこすりつけた。
天野勇二
随分と懐いているな。
君たちは本当に仲良しだ。
長谷部大和
うん。
桃太郎は、僕の親友だから。
大和が「行っておいで」と告げると、桃太郎はまた元気よく駆け回る。
大和はそれを追いかけようとしたが、その場にぺたんと座りこんだ。
顔色が青い。
まだ体力が回復していないのだろう。
天野勇二
無理をするな。
また病院で点滴はイヤだろ?
長谷部大和
うん……。
天野勇二
俺様も座りたい気分だ。
ここからの眺めは悪くないな。
天野も大和の隣に座る。
桃太郎は2人を見ると慌てて駆け戻り、大和の膝の上に寝転んだ。
長谷部大和
……あの……。
聞いても、いい……?
天野勇二
なんだ?
長谷部大和
桃太郎は、どこか遠くに行っちゃうの?
伊藤のおじいちゃんは、もう帰ってこないの……?
そっと天野を見上げる。
天野勇二
それほど遠くではないが……。
君の足では遠いかもな。
ここから40分ほど歩いた場所で、桃太郎を飼っているよ。
大和は「ほっ」としたように息を吐いた。
長谷部大和
会いに行っていい?
天野勇二
ああ、もちろんだ。
長谷部大和
いっしょに遊んでもいい?
天野勇二
いいぜ。
桃太郎もそれを望んでいるだろう。
長谷部大和
やった……。
天野は励ますように言った。
天野勇二
伊藤はいつか帰って来る。
その時はまた、いつものように桃太郎と遊んでくれ。
大和は照れくさそうに微笑んだ。
純真無垢な少年の笑顔。
天野は「やっと年相応の顔を浮かべやがった」と思いながら言った。
天野勇二
桃太郎に君のような友達がいるとは知らなかった。
いつも桃太郎を散歩させているのかい?
長谷部大和
うん。
毎日してる。
天野勇二
ま、毎日か……。
本当に桃太郎が好きなんだな。
長谷部大和
好きだよ。
桃太郎も僕のことが好きなんだ。
頭を撫でられ、桃太郎は心地よさそうに
長谷部大和
ママはね、友達をつくると怒るんだ。
男の子とも、女の子とも、遊んじゃダメだって。
大和は桃太郎の頭を撫でながら言った。
長谷部大和
でも……。
「犬の友達をつくるな」って、言わなかったから。
大和は無邪気に桃太郎をあやしている。
天野は黙ってその横顔を見つめた。
そして、沈みゆく夕陽を眺め、嫌そうに息を吐いた。
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