【結婚式翌日】

◆時刻:AM8:30

◆現在地:名古屋市なごやし中村区なかむらく名駅めいえき1丁目




 結婚式の翌日。


 朝のニュース番組を観た小谷野こやのは、天野たちが宿泊したマリオットホテルのロビーへ向かっていた。


 手には先日、天野から貰った『ブリ○ーニ』の白タキシードが握られている。



宮内圭吾

……あれっ?
小谷野じゃないか。



 ロビーには『混沌のカルテット』の指揮者リーダーである宮内。


 陰気な川島の姿があった。


 2人ともロビーのソファに座り、新聞を読みながらコーヒーを飲んでいたようだ。



宮内圭吾

いやぁ小谷野。
改めて昨日はすまなかった。
せっかくの結婚式なのに迷惑をかけちまったな。

小谷野小太郎

いいんだ……。
そのことは……気にしないで……。
来てくれて……。
ありがとう……。

宮内圭吾

ありがとな。
お前は本当にいいヤツだよ。


 嬉しそうに握手を交わす。


宮内圭吾

ところでどうした?
わざわざ俺たちの見送りに来た……ってワケじゃなさそうだな。


 宮内は白タキシードを見て苦笑した。


 川島が納得したように言う。


川島直人

……ククク……。

小谷野クン……。
ニュースを観たんだね……。

……フフフ……。

小谷野小太郎

う、うん……!


 小谷野はブンブンと頷いた。


 それは色々なことがあった結婚式の翌日。


 小谷野は朝のテレビ番組のニュースを観て、仰天することになった。




女子アナ

本日未明、愛知県警は麻薬取締法の容疑で、名古屋市の中国マフィア虎頭タイガーヘッドを一斉摘発しました。




 テレビは連行される『中国マフィア』の姿を映している。


 その中に、一際激しく抵抗するモヒカン頭の男がいた。


 ロシアンゲイバーを襲撃してきた『中国マフィア』の元締めボスだ。



女子アナウンサー

警察は大量の麻薬と拳銃、そして百貨店倉庫から盗んだと思われるブランド品を押収しており、今後も余罪を追求する方針です。



 小谷野は映像を観て青ざめた。


 『百貨店倉庫から盗んだと思われるブランド品』の中に、天野が無理やり渡してきた『ブリ○ーニ』のスーツがあったからだ。


 恐らく天野が『白タキシード』を強奪し、『中国マフィア』の犯行として偽装したに違いない。


 小谷野は比較的常識のあるフランケンだ。


 これは大変だ、スーツを返さなくては、と考えたのだ。




宮内圭吾

……それで、わざわざ持って来たのか?


 小谷野が涙目で頷く。


宮内圭吾

お前は律儀りちぎだなぁ。
でも、それは貰っとけよ。

どんな手を使ったのか知らないけど、天野は全部『中国マフィアの犯行』にしちまったんだ。

ゲイバーの破壊もマフィアのせいになってるんだとよ。
アイツはマジで恐ろしいヤツだぜ。


 宮内の言葉に川島も頷く。


川島直人

……フフフ……。

今からそれを返すと、天野クンも僕たちも、困ることになりそうだよ……。

……ククク……。

小谷野小太郎

で、でも……!

川島直人

……ククク……。

気になるなら、燃やしてしまえばいいさ……。
どうせそうするしか、僕たちに道はないんだ……。

そうするしか……ないんだ……。

……エヘヘ……。

小谷野小太郎

で、でも……。
せめて……天野くんに……何か言わないと……。

宮内圭吾

ああ、それはやめとけよ。
今あっちは修羅場しゅらばの真っ最中だ。



 宮内が乾いた笑みを浮かべ、ロビーの奥を指さす。


 小谷野はそこに広がる光景を見てまた仰天した。


 奥田の嫁こと、香澄かすみの姿がある。


 香澄の前には膝をついて土下座する奥田の姿。


 そして、困惑した表情を浮かべる天野の姿があった。




奥田香澄

離婚です。




 天野は慌てて口を開いた。


天野勇二

ちょ、ちょっと待ってくれ。
これは『名古屋コーチン』だと言ってるじゃないか。

あまりに絶品だったんで、俺様がうっかり奥田のケツに彫ってしまったんだ。
何せ俺様は天才だからな。
タトゥーぐらい簡単に彫れるのだ。
あっはっはっ。


 香澄はそんなに甘くなかった。


奥田香澄

そんな名前の『名古屋コーチン』はありません。

奥田和彦

あ、あるんだお!
本当だお!
そんな品種があるんだお!

奥田香澄

ウソです。
じゃあ、その『リシア』って名前の『名古屋コーチン』とやらを持ってきてください。
どれだけ美味しい鶏肉なのか、是非とも食べてみたいですね。



 香澄は聞く耳を持っていない。


 本気で怒っている。


 自分の主人が、尻に女性名称と思わしきダイナミックな『タトゥー』を入れ、全身の毛を脱毛したあげく「何も覚えてないんだ。えへへ」と抜かしているのだ。


 怒って当然だろう。



奥田香澄

それに宇佐美さんから、詳しい話を聞かせてもらったんです。


 天野と奥田の背筋が凍った。


奥田香澄

なんでも天野さん。
あなたが新郎を連れ出して、結婚式を台無しにする寸前だったそうですね。



 実は昨日、結婚式を控えた宇佐美から


「お宅の旦那さんが主人を連れ去って見つからないんですよ! どうしてくれるんですか!?」


 と、こっぴどく叱られているのだ。


 そのため朝一番の新幹線に飛び乗り、東京から名古屋までやって来た。


 奥田を捕まえて説教し、宇佐美と小谷野の親族に謝罪して回るつもりだ。



奥田香澄

しかも『フィリピンパブで飲むぞ』と、楽しそうに騒いでたんですってね。
もしかして『リシア』って、そのフィリピンパブの女の子じゃないでしょうね。


 天野と奥田の顔面が蒼白そうはくになった。


天野勇二

ち、違う!
それは理由があるんだ!

奥田香澄

どんな理由があるんですか。
カンちゃんにはそんな店に行っちゃダメって、キツく言ったのに。

奥田和彦

誤解なんだお!
ボクたちはラリってたんだお!

天野勇二

そうなんだよ!
中華料理店でスペースケーキを食わせられたんだ!
杏仁豆腐あんにんどうふと揚げ団子に大麻マリファナをぶちこまれたんだよ!

奥田香澄

そんなバカな言い訳を信じると思いますか?
ただでさえ酷いのに『タトゥー』だなんて……。
こんなの絶対に離婚です。



 天野は青ざめて天を仰いだ。


 数々の『ハングオーバー』の爪痕つめあとは、全て『中国マフィアがやったこと』にしてクリアしている。


 一晩中、名古屋の街を駆け回り、偽装工作と裏工作に励んだのだ。


 ところが、香澄の説得が予想以上の難問だった。



天野勇二

(クソッ……。どうすりゃいいんだ。尻の『タトゥー』なんて除去することが困難だってのに……)



 途方とほうに暮れていると、視界に小谷野たちの姿が入った。


 3人とも心配そうに修羅場を見守っている。


天野勇二

……小谷野か!
助かった!
お前からも誤解だと香澄さんに説明してくれないか!?

奥田香澄

えっ?
小谷野さん!?


 香澄は小谷野の姿を見ると、慌ててその場に土下座した。


奥田香澄

小谷野さん!
誠に申し訳ございませんでした!
うちの主人がご迷惑をおかけし、本当に……!
本当に申し訳ございません!


 小谷野は慌てて香澄に駆け寄った。


小谷野小太郎

いいんです……。
お、お腹の子供に……さわるから……。
やめてください……。

奥田香澄

そんな訳にはいきません!
ご迷惑をおかけし、なんとお詫びを言えばいいのか……!

小谷野小太郎

いや、ほんとに……。
や、やめて……ください……。



 なんとか香澄を立ち上がらせる。


 それでも香澄は泣きながら頭を下げ、謝罪の言葉を口にする。


 天野たちは「できた嫁さんだ。ブタ野郎にはもったいないな」と思っていた。


小谷野小太郎

式は……無事に……終わりました……。
だから、奥田くんのこと……。
許してあげてください……。


 小谷野は爽やかに微笑んだ。


小谷野小太郎

俺たちは『混沌のカルテット』なんです……。
何があっても、俺たちの『絆』は折れない……。
この程度のこと、なんてことないんです……。


 優しく香澄をソファに座らせる。


小谷野小太郎

それにちゃんと、みんなは、俺を迎えに来てくれた……。
俺のことを、探してくれた……。
俺はみんなに、感謝しかない……。
感謝しかないんですよ……。


 香澄と天野たちが「なんという聖人せいじんだ」と思いながら小谷野の笑顔を見つめる。


小谷野小太郎

それにそもそも……。
『フィリピンパブ』に行こうと、言い出したのは…………。


 小谷野が1人の男を指さした。







川島直人

……ムケ?





 陰気な川島がぽかんと口を開ける。


川島直人

……エヘヘ……。

な、何を言ってるのかな……?

ぼ、ぼ、ぼ、僕なの……?

僕が『フィリピンパブ』に行こうって、言い出したの……?


 小谷野が素早く『手話』を天野に送った。


 天野は「ああそうだった」と手を叩いた。


天野勇二

俺様も思い出した。
そういえばお前が「フィリピンパブに行こうよ……ククク……」と言い出したんだ。

川島直人

ムケケ……!?
う、嘘だ……!
だって、あの夜の記憶は……!

宮内圭吾

いや、そうだった。
俺も思い出した。
川島が言い出したんだよ。


 天野と小谷野の意図を読んだ宮内が、すかさず話を合わせた。


川島直人

ムケケッ!?

宮内圭吾

「前からフィリピーナに興味があったんだムケ」とか言ってなぁ。
奥田はイヤだって抵抗したんだよな。

天野勇二

ああ、そうだ。
陰気なくせに「フィリピーナを抱きたいムケ」とか言ってな。

宮内圭吾

そうそう。
それも言ってたな。


 川島は青ざめた。


 天野と宮内は香澄に見えないよう、ウインクをビシバシ飛ばしている。


 ここは話を合わせろ奥田のために空気を読んでくれ、と言っているのだ。



川島直人

……ムケケ……。

そ、そうだった、ね……。

僕が、無理やり、奥田クンを誘ったんだ……。

香澄さん、ごめんよ……。

……ムケケ……。



 ボロボロ泣きながら頭を下げる。


 困惑する香澄に小谷野が言った。



小谷野小太郎

それに……。
お尻の『タトゥー』は、本物じゃないんです……。

『タトゥーシール』なんです……。

俺がタトゥー職人さんに『シール』にしてくれって……お願いしたから……。

天野勇二

な、なにっ!?



 天野は慌ててセロハンテープを用意し、奥田の尻をぺろんとめくった。


 テープをしっかり貼り、思い切りがす。



天野勇二

おおおっ!
剥がれた!
リシアの『タトゥー』が剥がれたぞ!

奥田和彦

ほ、本当に!?
ボクのお尻はキレイなの!?

天野勇二

ああ!
確かに言われてみれば、あんな短時間でタトゥーが仕上がるワケねぇんだ!
おらぁ!
全部剥がれちまえ!!


 全てのシールを剥がし、満足気にケツを「バチコーン」と叩く。


 プリンプリンの脂肪が揺れる。


奥田和彦

やったぁぁっ!
消えたお!
ボクのお尻もツルンツルンだお!


 奥田は天野たちと手を取り合って喜んでいたが、なんともいえない表情を浮かべている香澄を見て、また土下座の体勢に戻った。



奥田和彦

香澄ちゃん……。

ごめんなさいだお……。

どうか、ボクのことを許してほしいんだお……。



 天野は「やれやれ」と呟き、奥田の隣に並んだ。


 その隣に宮内と小谷野。


 川島も納得がいってない様子だったが、同じように膝をつき、頭を下げた。



天野勇二

この通りだ。
奥田は本当に悪くないんだ。

宮内圭吾

俺からも頼むよ。
奥田には香澄さんが必要だ。

小谷野小太郎

離婚は……。
やめて……。

川島直人

……ムケケ……。

ごめんよ……。

……ムケケ……。



 5人の男が深々と土下座している。


 これはもうさすがに責められない。


 香澄は「はぁ…」と大きくため息を吐いた。



奥田香澄

……もう、わかりました。

カンちゃん、私だって離婚なんかしたくないよ。
事情はわかったから頭を上げて。

奥田和彦

ほ、本当に……?
許してくれるの……?

奥田香澄

本当だってば。
カンちゃんはいい友達を持ったね。
小谷野さんに皆さん。
どうかこれからも、カンちゃんと友達でいてくださいね。


 宮内がおどけたように笑う。


宮内圭吾

ああ、もちろんだ。
俺たちはカルテットだからな。
どんな秘密があっても、誰一人欠けることのできない仲間さ。

小谷野小太郎

うん……。
香澄さん……。
ありがとう……。

川島直人

……エヘヘ……。

もうフィリピンパブには、誘わないから……。
安心してよ……。

……エヘヘ……。


 その光景を嬉しそうに眺めながら、天野が言った。


天野勇二

せっかく『混沌のカルテット』と香澄さんが合流したんだ。
小谷野も時間は大丈夫だろう?
名古屋の街を案内してくれよ。

宮内圭吾

あっ、それいいな。
結局マトモな観光はしてないもんな。

奥田和彦

それなら名古屋の喫茶店に行ってみたいなぁ。
変わった喫茶店が多いんでしょ?

天野勇二

いいじゃないか。
朝飯モーニングでも食うか。
そのついでに小谷野よ。
俺たちがどれだけラリった夜を過ごしたのか、教えてくれないか?


 小谷野は苦笑しながら頷いた。


小谷野小太郎

いいよ……。
もう本当に、酷かったんだ……。

川島くんなんて、すぐに服を脱ごうとするし……。
フィリピンパブの女の子全員を口説いては、全員にフラれるし……。

あんなに酒癖が悪いなんて、知らなかった……。

天野勇二

あっはっは!
そういえば川島と再会した時、全裸になってやがったな!
そんな理由があったのか!

川島直人

ムケ……。
なんだかそれ……。
僕はあまり聞きたくないな……。
……ムケケ……。



 ホテルのロビーに天野たちの笑い声が響く。


 なんとか取り戻した平穏な日常。


 短くも長かった名古屋での『非日常ハングオーバー』が、ようやく終わりを告げようとしていた。








(おしまい)



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つばこ

ご愛読いただきありがとうございます。
何かひとつでも心に残るものがあれば幸いです。
 
天野くん「ほら、俺様の電話番号だ。宜しく頼むぞ」
ロシアンゲイバーの店長「オ店ヲ破壊シタノハ、ゼェンブ、中国マフィアガ、ヤッタコトナノヨォ。天野ナンテ知ラナイワァ。ウフフ♪」
 
 
さてさて、次のエピソードですが、今回まったく出番のなかった天才クソ野郎の相棒こと、涼太くんにカムバックしてもらいます。
チャラ男の『依頼』から始まるひとつの物語。
彼はいったいどんなことを依頼するのか。
最近は物騒なエピソードが続いているので、大学生らしい平和&穏やかな依頼にしてもらおうと思ってます(´∀`*)ウフフ
 
それでは来週土曜日、
『彼女を上手に泣かせる方法』
にてお会いしましょう。
 
つばこでした!ヽ(*´∀`*)ノ.+゚

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コメント 77件

  • 藤雪

    リシアがタトゥーのとこバシバシ叩いてたのはシールが剥がれないようにだったのかな…

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  • かず

    いつも楽しく読ませていちいていただいています。タイムリーに読めないのが、かなしいのですが、
    これからも 応援しています。

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  • ろあ

    私だったら、ケツのタトゥーよりも毛がない事の方にキレそうw
    奥田がどこでどうしてツルツルになったのか、無事に生えてくるのか凄い気になるw

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  • 佐倉真実

    漫画で二人の出会いを見ているところだから、なんだか感慨深い(● ´ ω`●)
    離婚されなくて済んで本当に良かった…!!

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  • ゆんこ

    当事者ならとんでもないことなった…やっちまった…ってなるとこだけど、めっちゃ面白かった('ω'ノノ" ☆パチパチ

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