【結婚式当日】

◆時刻:13:50

◆現在地:名古屋市なごやし中村区なかむらく宿跡町しゅくあとちょう





 天野は車を全力で走らせ、名古屋市の中村公園なかむらこうえん近くまでやって来た。


 この辺りは名古屋駅から西に位置する下町。


 のどかな住宅街が広がっているが、江戸時代には遊郭ゆうかくがあったり、裏稼業の人間が出入りしていたりと、様々な歴史のある地域だ。



天野勇二

うーむ……。
ナビによるとこの辺りだな。


 地図カーナビを確かめながらブリーダーの住居を探す。


奥田和彦

天野くん、あそこに広い庭があるよ。
大きなオリも置いてある。
あそこじゃないかな。

天野勇二

それっぽいな。
調べてみるか。


 天野が車を停めると、後部座席の土佐犬たちが嬉しそうに「キャンキャン」と吠え始めた。


 宮内と川島の膝上を楽しそうに走り回る。


宮内圭吾

こら!
やめろって!
お前らは重いんだよ!
股間も踏むな!
なぁ、もう降ろしていいか!?

天野勇二

随分と興奮しているな。
犬を降ろすか。


 車から降り、周囲を観察してみると、そこには天野たちが来襲らいしゅうしたことを示す、明らかすぎるほどの残骸ざんがいがあった。


宮内圭吾

おい……。
見ろよ天野……。
あれたぶん、『俺たちの車』だよな……?

天野勇二

ああ、恐らくそうだろうな……。



 天野はげんなりしながら目の前の光景を見つめた。


 犬小屋と思われる広い庭の一角。


 真っ赤なキャデラックが、金網に突っ込み、大きな穴を開けていた。



天野勇二

これが中国マフィアから強奪したキャデラックか……。
やはり土佐犬はここから盗んだのか……。
まったく……。
昨晩の俺様は何をしていたんだ……。

川島直人

……ムケケ……。

天野クン……。
僕はキミが逮捕されないか、本気で心配になってきたよ……。

……ムケケ……。

天野勇二

何も覚えてないってのが最悪だ。
覚えていれば弁解の余地もあるだろうによ。


 天野がため息を吐いていると奥田が言った。


奥田和彦

ねぇ、あそこに金網を補強してる人がいるよ。
ブリーダーの人かな?


 見ると1人の男が困り顔で佇んでいる。


 どうやら壊された金網を補強しているようだ。


 天野はもう何もかもわかりきっていたが、仕方なく尋ねた。


天野勇二

すまないが、ここの人間か?

金網を補強している男

……え?
はい、そうですけど。

天野勇二

ならば、この犬たちは、あんたの犬か?


 土佐犬とチワワがブンブン尻尾を振る。


 男は嬉しそうに叫んだ。


金網を補強している男

ああ!
ノブナガ!
ヒデヨシ!
イエヤス!
それにブリリアンジャスティンビーバーじゃないか!
良かったぁ!
お前たちを探していたんだぞ!


 男は土佐犬とチワワの飼い主。


 つまり土佐犬を飼育しているブリーダーだ。


 犬たちは嬉しそうに「クンクン」鳴き、ブリーダーの男は「よしよし」と犬たちを抱きしめる。


 何者かに拉致された犬と飼い主の再会。


 なかなか感動的な光景だ。


天野勇二

やはりここの犬だったか。
ちょっと見かけたんでな。
連れて来てやったんだよ。

ブリーダーの男

そうなんですか!
ご親切にありがとうございます!
いやぁ、良かった!
こいつらだけ見つからないんで、本当に困ってたんですよ!



 ブリーダーは天野のことを知らない。


 それもそのはず。


 天野がキャデラックを庭に直撃させ、土佐犬たちを強奪したのは早朝のこと。


 ブリーダーは当然ながら寝ていた。


 そのため「さぁて、朝の散歩に行くかな……って、うお!? なんだこのキャデラック!?」と、朝から仰天することになった。



天野勇二

それはそれとして聞きたいんだが……。
キャデラックの側で、体格の良い男を見たりしなかったか?
ちょっとワケありで探しているんだ。
『フランケン』みたいな風貌ふうぼう筋肉男マッチョだ。


 天野が尋ねるとブリーダーの顔つきが変わった。


ブリーダーの男

フ、フランケンみたいな男!?
もしかして、あの男を知っているんですか!?

天野勇二

なんだ。
覚えがあるのか?

ブリーダーの男

覚えがあるも何も、このキャデラックに乗ってやがったんですよ!


 ブリーダーの男が興奮したように叫ぶ。


ブリーダーの男

朝に見てみたら庭のフェンスがぶち壊されていて、犬が何頭もいなくなってたんです!
しかもキャデラックの後部座席に、男が失神して倒れていたんですよ!
まるで『フランケン』みたいな大男でした!

天野勇二

な、なんだと……!


 間違いなく小谷野だ。


 ついに出てきた本物の小谷野フランケンの手がかり。


 天野は興奮を抑えながら尋ねた。


天野勇二

そ、それで……。
その男はどこだ?
どこに行った!?

ブリーダーの男

どこに行ったも何も、あそこに捕まえてますが。


 ブリーダーは庭の奥を指さした。


 よく見ると、何頭もの土佐犬が犬小屋の奥に向かって「ギャンギャン」と激しく吠えまくっている。


 犬小屋の奥を威嚇いかくしているのだ。


 相手はひとつの大型生物。


 犬小屋の奥にいる大型生物。


 その頭には、懐かしい顔が乗っていた。







奥田和彦

あ……あ……!
い、いた……!



 奥田がブルブル震えながら呟く。



川島直人

ムケケケッ!
ムケーーッケッケッ!



 川島が興奮のあまり奇声をあげる。



宮内圭吾

こ、小谷野ぉ!
会いたかったぞ!



 宮内が嬉しそうに叫び、3人は慌てて駈け出した。




 小谷野だ。


 小谷野が犬小屋の奥にいる。


 なぜか首輪をつけられ、悲しげに正座している。


 天野は興奮してブリーダーに叫んだ。


天野勇二

お、おい!
なんでアイツを捕まえてんだよ!

ブリーダーの男

いや、あいつが犬小屋を破壊した犯人みたいですからね。
事情を聞いてるんですが、何も喋らないんで捕まえてるんですよ。

天野勇二

何をしてんだ!?
犬みたいに捕まえやがって!
なぜ警察に通報しなかった!?


 ブリーダーの男は困ったように苦笑した。


ブリーダーの男

いやぁ……。
警察沙汰になるとですね、うちもちょっと困るんですよ……。
色々とやばい人の犬を預かってるもんで。
できれば穏便おんびんにすませたいんですよねぇ。

天野勇二

お前の事情なんか知るか!
アイツは今日、式なんだぞ!

ブリーダーの男

式?
なんのことですか?

……って、うわぁぁ!?


 天野はブリーダーの男の首を両手で掴み、高く持ち上げた。


ブリーダーの男

ぐ、ぐえぇ!
く、く、苦しい!

天野勇二

結婚式があるってのに、首輪をつけて捕まえやがって!
お前のせいで小谷野が行方不明になっていたのか!
全てお前のせいだったのか!

ブリーダーの男

ちょ、ちょっと待ってくださいよ!
僕が何をしたっていうんですか!?
こっちは被害者なのに……!

天野勇二

黙れ!
無駄な手間をかけさせやがって……!
くらいやがれ!


 投げっぱなしのパワーボムでキャデラックのボンネットに叩きつける。


 哀れなブリーダーはその一撃で気絶。


 天野は急いで小谷野のもとに走った。


天野勇二

えぇーい!
この邪魔な犬どもが!
どきやがれ!


 小谷野を威嚇する土佐犬を追い払う。


 天野が到着すると、ちょうど小谷野を拘束していた首輪を奥田たちが破壊していた。



天野勇二

小谷野!
良かった!
無事だな!?
式場に急ぐぞ!



 小谷野は涙目でコクコクと頷いた。


 なぜか知らないが、白いタキシードを着ている。


 泥や酒らしきもので汚れているが、なかなか上質なタキシードだ。


 天野は腕時計を見ながら叫んだ。



天野勇二

急げ!
もう14時じゃねぇか!
お前の結婚式が始まっちまうぞ!
なんでお前は逃げなかったんだよ!?
犬に吠えられてビビリやがったのか!?

お前はバカじゃないのか!?

いや、お前はバカだ!



 小谷野は涙目で天野に訴えた。


 それは小谷野が言いたいセリフだ。


 必死に手話で説明を始める。




小谷野小太郎


…………お………………………
………………れ…………………
……まっ…………………………
…………………
て………………





 フランケンのようなガチガチの筋肉男のくせに、小谷野は口下手でとても気が小さい。


 声なんて何を喋ってるのか聞き取れないほど小さい。




小谷野小太郎


……も……………………
…………と………………
も………………と………
…………は………………




 それは深夜1時。



 ラリった天野たちに家を襲撃されたのが、小谷野の悪夢ともいえる夜の始まりだった。



 必死の抵抗を試みたが、天野に絞め落とされて拉致らち



 無理やり白いタキシードを着せられ、中国マフィアのアジト壊滅かいめつに付き合わされた。





小谷野小太郎


…………し…………ぬ…………
……か…………と………………
………………おも………………
……………………っ……………





 アジト壊滅後はフィリピンパブに移動。



 「それはやめたほうがいい」と涙目で説得したのに、奥田がリシアを口説き始め、なぜかタトゥーを彫ると言い出した。



 しかも宮内が「俺はゲイなんだ! 今まで内緒にしててごめん!」と泣きながらカミングアウトしてきたので、その流れでロシアンゲイバーへ行くことになってしまった。




小谷野小太郎


……………ま………た……
……ちゅう…………………
………………ご………………
…………く……………………




 ロシアンゲイバーでも天野たちは狂ったように飲んで騒ぐ。



 その騒ぎを嗅ぎつけた中国マフィアが襲撃に訪れ、小谷野は全員を守るために必死に戦った。



 なんとかマフィアを追い返したが、天野が「犬が欲しいな! 犬が! マフィアに対抗するために闘犬を仲間にするぞ!」なんて言い出したからまた大変。



 小谷野の「お願いだからやめて」という制止を無視して、キャデラックを全力で走らせブリーダーの庭に直撃。



 小谷野はその衝撃で失神してしまったのだ。



 目を覚ました時には、すでに首輪をつけられ、闘犬のオリの中にいた。




小谷野小太郎


……………い……ぬ…………
…………こ……………………
……………………わ…………
………………い………………




 とにかく小谷野は気が小さい。



 目を覚ましたら周囲は土佐犬だらけで、それはそれは驚いた。



 当然ながらブリーダーの男は烈火れっかごとく怒っている。



 小谷野ならば首輪を破壊することは容易かったが、これ以上物を壊すのは悪いし、土佐犬は凶暴で怖いし、何もできなくて泣いていた。



 どんなに弁解しても声が小さくて聞いてもらえない。



 ひたすら天野たちが迎えに来てくれるのを待つしかなかった。



 「バカは天野くんのほうじゃないか」と小谷野は必死に訴えたが、誰も聞いていなかった。




天野勇二

急げ!
金山かなやまだ!
式場に急げぇ!




 天野は車を全力で走らせ、信号なんか無視して金山の結婚式場を目指した。


 時刻は14時15分


 小谷野の結婚式が始まる時間はとっくに過ぎていた。






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つばこ

天野くん「お前のせいで小谷野が行方不明になっていたのか! 全てお前のせいだったのか!」
つばこ「それは違うぞ。たぶんほとんどお前のせいだぞ( ゚д゚)」
 
 
とはいえ、小谷野がちゃんと見つかって良かったです(*´∀`*)
生きていて本当に良かった。
お犬様たちも無事におウチへ帰れて良かった。
当たり前のように結婚式の時間をオーバーしてますけど、とりあえず良かった。
ブリーダーさんにはただひたすら同情しかありませんが、まぁ、たぶん軽傷だと思うし、ある意味穏便に済ませられたから良かった…………ということにしてくれたらいいなぁ( ゚д゚)
 
さて今頃、金山の結婚式場はどうなっているのか!?
いつも応援やコメント、本当にありがとうございます!!!+。:.゚ヽ(*´ω`)ノ゚.:。+゚

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コメント 85件

  • エネミー

    そっかwwwwww
    小谷野だけスペースケーキ食べてないから一部始終覚えてんのかwwwwww

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  • ルナ

    ロシアンゲイバーでみんなを守りながら戦ったフランケンが本当に素敵

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  • 見抜キング

    縁切られるレベルだな

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  • のんちゃん

    the理不尽wwww
    小谷野くんが不憫すぎる…というか、天才クソ野郎は周りにどれだけ迷惑かければ気がすむんですかね…

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  • 春優菜奈

    完全に小谷野被害者じゃないか!!
    理不尽過ぎて笑うwww(笑)

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