【結婚式当日】

◆時刻:12:30

◆現在地:名古屋市なごやし中村区なかむらく名駅南めいえきみなみ5丁目




 天野は中国マフィアが指定した倉庫へ向かうため、運転席に飛び乗った。


 助手席には奥田。


 その膝の上にリシアがまたがる。



宮内圭吾

なぁ!
こんなに犬がいるなんて聞いてないぞ!
うげぇ!?
俺の股間を踏むなよ!

リリーちゃん

ヤメテェー!
ミヤウッチーノコカン、リリーノヨォォォ!


 宮内たちはギャーギャーわめきながらも、なんとか後部座席に乗り込んだ。


 土佐犬を1頭ずつ、膝の上に乗せてあやしている。


川島直人

……ムケ、せ、せまいね……。
せまいよ……。
ムケケ……。


 川島は不幸なことに宮内とリリーの間に座ってしまった。


 しかも膝の上では土佐犬が「バウバウ」と牙をいている。


 車内はとんでもない混沌カオスに包まれていた。


宮内圭吾

重い!
土佐犬って結構、重いな!


 宮内が悲鳴をあげる。


 人間だけでも積載量の限界を超えているのに、さらに犬が4頭。


 チワワはなぜか奥田に懐いており、奥田とリシアの間で「クンクン」鳴いている。


リシア

オックダサーン。
コノコ、カワイーネェー。
ケッコンシタラ、ペットニ、シマショー!

奥田和彦

い、いや、その……。
僕は、結婚は、しないお……。

リシア

キッコエナーイ!
ケッコンケッコン!
ナマエ、キメルネー!




◆時刻:13:00

◆現在地:名古屋市なごやし港区みなとく空見町そらみちょう




 天野はやかましいカルテットたちを無視して、中国マフィアが指定した倉庫へ向かった。


 倉庫は比較的すぐに見つかった。


 体育館のように大きな倉庫だ。



天野勇二

ここか。
周囲に敵の姿はないか。
さて、どうするかな……。



 天野は腕組みしながら思案した。


 さすがの天野も敵の姿がわからず、事情さえも不透明な状況では、大した作戦を練ることが難しい。


 倉庫に近づきながら全員に告げた。



天野勇二

とにかく平和的に交渉しよう。
喧嘩なんか吹っかけるな。
小谷野の身柄を確保することを一番に考えるんだ。
それでも全員、念のため戦闘の準備に入れ。



 天野は肩を回し不敵な笑みを浮かべている。


 宮内と奥田と川島がアタッシュケースを持ち、リリーとリシアは不安げにそれぞれの恋人の背後に立つ。


 『戦闘の準備』と言われても、天野以外は無力だ。


 いったい何をすればいいのだろう、と涙目になっていた。



天野勇二

よし、倉庫に入るぞ……。



 静かに扉を開ける。


 広い倉庫に足を踏み入れる。


 慎重に進んでいくと、1人の男が現れた。






???

……アマーノ。
待ってタヨ。
昨日は楽しかったネ。




 大きなサングラスをかけた中国人風の男だ。


 髪はモヒカンスタイルのオールバック。


 ド派手な赤いスーツを着ており、胸元に一輪の白いバラを差している。


 天野は周囲を警戒しながら尋ねた。



天野勇二

お前は、誰だ?



 周囲には人の気配がない。


 集団で襲われることも覚悟していたが、そんな気配を感じない。


 赤スーツの男の後方には1人の大柄な男が椅子に座っている。


 頭に茶色い紙袋を被せられ、手足を拘束されているようだ。



川島直人

……ムケケ……。

奥に捕まってる人がいるね……。
かなりの大男だよ……。
あれ、小谷野クンじゃないかい?

……ムケケ……。

天野勇二

ああ、そのようだな。
つまり、あの赤スーツ男が俺たちを呼び出した中国マフィアか……。
あんな派手な男、まったく覚えてねぇぞ……。


 困惑しながら赤スーツの男を見る。


 赤スーツの男は口唇をピクピク痙攣させると、呆れたように言った。


チャン・コンサン

誰……とは失礼ネ。
こっちはアマーノの名前を忘れてないヨ。

私は『チャン』ヨ。
ユーが戦ったマフィアのボス……。
昨日は子分タチが世話になったネ。


 チャンと名乗ったマフィアの元締めボスは、胸元の白いバラを投げ捨てて叫んだ。






チャン・コンサン

アマーノ!
ここがユーの墓場ヨ!
死にたくなけれバ、そしてフランケンの命を救いたけれバ、今すぐ『ブツ』を返すネ!



 天野は即座に指先を偉そうに振り回した。


 お得意の気障キザったらしいジェスチャーの登場だ。


 こんなよくわからないピンチの場面は、得意の『ハッタリ』で切り抜けるのが、天才クソ野郎のやり方だ。



天野勇二

アーーーッハッハッハッ!

それはできんな!
俺様が単身でここに来たとでも思っているのか!?
俺様のバックには名古屋の極道ヤクザがついている!

極道は貴様らみたいな海外マフィアがのさばることを許さねぇ!
下手に俺様に手を出せば、極道との長い抗争が始まるぜ!?



 チャンは思わずたじろいだ。


 名古屋という街は地元の暴力団ヤクザの力がとても強い。


 そのため『海外マフィア』との間では、何年も文字通りの『死闘』が繰り広げられているのだ。



 日本で悪事を働こうとする海外マフィア。


 それを追い出して日本で悪事を続けたい暴力団ヤクザ


 縄張りを巡る激しい抗争だ。



天野勇二

しかも、それだけじゃない。



 天野は宮内の背後で震えているリリーを指さした。



天野勇二

俺様のバックには『ロシアンマフィア』もついている!



 チャンの顔に戦慄せんりつが走る。


 暴力団ヤクザに加えて『ロシアンマフィア』までたずさえているなんて、中国マフィアのチャンにとって最悪に近い脅威だ。



天野勇二

それだけじゃねぇ!
俺様のバックには『フィリピンマフィア』もついている!



 天野は奥田の背後で震えているリシアを指さした。


 宮内と奥田と川島は「また天才クソ野郎がお得意のハッタリを始めやがった。よくもまぁ、こんな状況で息を吐くようにウソを吐けるものだ。このためにリリーとリシアを連れてきたのかぁ」と感心しながら、天野を見つめた。



リリーちゃん

ワ、ワタシ、タダノ、オカマ!
マフィアナンカジャ……モガモガ……!


 リリーの口を宮内が慌てて塞ぐ。


宮内圭吾

リリー。
大丈夫だ。
ここは天野に話を合わせるんだ。

リリーちゃん

モガ……。
ミヤウッチーガ、言ウナラ……。
ワカッタ……!


 その様子を見てリシアが叫んだ。



リシア

ソウネ!
ワタシタチノ、バック!
デラデカイ、マフィアガイルネ!



 リシアはリリーより頭の回転が早かった。


 奥田の背中に隠れながらも、大声でハッタリを飛ばす。



リシア

オックダサーンニ、テヲ、ダシタラ、ユルサナァーイ!
チュウゴクマッフィア、ミナゴロシネーー!



 中指を突き上げながら叫ぶ。


 奥田はその勇気ある行動に、思わず涙がこぼれた。


奥田和彦

リシア……!
よく事情も知らないのに、ありがとうだお!

リシア

オックダサーンヲ、マモルタメ!
ヘーキヘーキ!



 中国マフィアのチャンはかなり慌てふためいていた。


 天野の存在だけでも脅威なのに、背後に3つの巨大な組織が控えている。


 ここまで最悪な敵なんてそうそう存在しない。


 そして、実際に存在しない。



チャン・コンサン

な、なんて男たちヨ!
これ以上、ウチの組織を潰す気なノ!?
私たちが、何をしたっていうのヨォ!?

天野勇二

うるせぇな。
小谷野を返せ。
さもなくば殺すぞ。

チャン・コンサン

な、な、なんて勝手なのヨォォッ!



 チャンはサングラスを投げ捨てた。


 その下に現れた顔を見て、天野たちはさすがにチャンに同情した。



チャン・コンサン

このキズ!
ユーに殴られてできたのに!



 チャンの両目に青アザができ、酷く腫れ上がっている。


 瞳も内出血しており真っ赤だ。


 天野は覚えてないが、サミングでチャンの両目を潰し、さらに掌底しょうていを叩きこんでいる。


 それも1発ではない。


 5発だ。


 片目に5発ずつ掌底をぶちこんでいる。



天野勇二

うーん……?
それ、俺様がやったのか?

チャン・コンサン

そうヨ!
私タチに、なんの恨みがあるってのヨ!

ウェェェェン!



 チャンは両膝をついて泣き出した。



チャン・コンサン

いきなり私のキャデラックを強奪して、ウチのアジトを襲撃して、ブツを奪っていったじゃないのヨォ!

しかも応援を呼んだ仲間を全員、病院送りヨ!

もうウチの組織は私しか残ってナイのに!

お願いだからブツを返してヨ!

それがないと殺されるのヨォォォ!!!



 チャンはボロボロ涙を流している。


 わんわん泣いている。


 天野たちは困って互いの顔を見つめた。


天野勇二

なぁ、どうする?
俺様が想像していた以上に、この組織は壊滅していたみたいだぞ。


 宮内も困ってアタッシュケースを見つめる。


宮内圭吾

でもなぁ……。
これ麻薬だろ?
善良な民間人である俺たちは、警察に突き出す必要があるぜ。

天野勇二

しかし俺たちは『スペースケーキ』を食ってしまった。
ケースを警察に持って行けば、当然、俺たちも検査を受けて引っかかる。
中華料理店がスペースケーキを出したなんて警察は信じないぞ。

しかもドラッグを強奪した経緯は覚えてない。
アジトを潰したことも覚えてない。
アジトの場所すらわからない。

さすがにそんなことを言ったら警察も怒るだろ。


 奥田がため息を吐きながら言った。


奥田和彦

もうあげちゃったほうがいいお。
これ以上、面倒ごとはごめんだお。

天野勇二

そうだな。
おいチャン!
これがブツだ。
フランケンを返してくれ。


 チャンは泣きながら頷き、台車に5個のアタッシュケースを載せた。


チャン・コンサン

ヒッグ、ヒッグ……。
もうウチの組織に関わらないでヨ!

天野勇二

ああ、なぜかわからないが悪かったな。
じゃあ、消えろ。
今すぐに俺様の前から消えないと、撃ち殺す。


 天野は懐から拳銃トカレフを取り出してチャンに向けた。


 この男は本当にクソ野郎だ。


 トカレフのひとつを勝手に拝借し、安全装置を外して弾をこめてある。


 銃口の先にあるのはチャンの頭。


 奥田たちはあまりの卑劣ひれつっぷりに、チャンにかなり同情した。



チャン・コンサン

な、なんてクソ野郎なのヨ!
覚えてなさいヨォォォ!



 チャンはアタッシュケースが載った台車を押し、泣きながら倉庫を後にした。


 天野がその背中を見て満足気に頷く。



天野勇二

フッ……。

実に平和的な交渉だ。
さすがは俺様。
和平交渉もお手の物だ。

しかもあのアタッシュケースには、こっそり『GPSロガー』を仕込ませてあるんだ。
居場所を追跡できるようにしてやったのさ。
後で警察に回収してもらい、マフィアも潰してもらおう。

さぁ、小谷野を連れて帰るぞ。



 奥田たちは当たり前のように拳銃トカレフを懐にしまう天野を見て、それぞれ何か言いたい気分になったが、もう面倒になっていた。


 奥田がいち早く倉庫の奥に走り、椅子に拘束された大男の紙袋をとった。



奥田和彦

小谷野くん!
助けに来たお!
急いで結婚式場に行くお……

……おっ?



 拘束されていた大男が嬉しそうに泣き叫んだ。



拘束されていたロシアンオカマ

ウェーーーン!
助ケデグクレテ、アリガトウ!

リリーちゃん

フ、フランケンチャン!



 リリーが嬉しそうに駆け寄った。


 ロシアンゲイバーの同僚の男だ。


 源氏名げんじな『フランケンちゃん』


 マッチョな胸板とゆるふわなツインテールがウリのオカマちゃん。


 趣味はティーン向けの女性ファッション誌を読むことだ。



リリーちゃん

フランケンチャン!
リリーヨ!
良カッタワァ!

フランケンちゃん

リリーチャン!
助ケニキテ、クレタノォ!?
ビェェェン!
コワカッタヨォォ!

リリーちゃん

モウダイジョウブ!
ミヤウッチータチノ、オカゲヨォ!



 天野は思わず懐から拳銃トカレフを取り出し、倉庫の天井目掛けて発砲した。


 乾いた発砲音と天野の絶叫が倉庫に響き渡る。




天野勇二

こいつはロシアのオカマじゃねぇかよ!
小谷野じゃねぇ!
小谷野ぉぉッ!
お前、どこで何をしてやがるんだぁぁぁぁッ!





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つばこ

今回の『ハングオーバー編』はとにかくカオスな展開かつ、カオスな登場人物がてんこ盛りのエピソードですので、中国マフィアのボスもとことんカオスにしてやるぞぉー! と頑張った結果、あんな感じになりました(*´∀`*)
読者の皆さまには「カオスすぎて頭が痛い。でもまぁ、そんなカオスも悪くないよね」なんて感じていただければ幸いです(*- -)(*_ _)ペコリ
 
さてさて、ついに結婚式までのタイムリミットが1時間を切りました。
これはもうどう考えても間に合わないなぁ( ゚д゚)
いったい小谷野はどこにいるのか!?
いつも応援やコメント、本当にありがとうございます!!!!(`・ω・´)ゞ

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コメント 108件

  • コウ

    ちょっと待った。トカレフに安全装置なんてないぞ!(KY)

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  • hikari@ネト充ラブ

    天才クソ野郎+お酒+ヤバい物=中国マフィアほぼ壊滅

    コレ、テストニデルヨー!

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  • まこと

    よし、宇佐美にはそのフランケンで許してもらおう

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  • ゆんこ

    今まで奥田の結婚式が一番面白くて好きやったけど、ダントツ今回の話が面白い

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  • なゆ

    ハングオーバーという映画は知らなかったけど、あまりにもこのお話が面白すぎて見てみたくなったwww

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