とある大学。


 学生食堂のテラス席。


 ここは『天才クソ野郎』こと、天野勇二の特等席。


 その日も天野はタバコに火をつけ、テラスに落ちる木漏れ日をのんびり眺めていた。



佐伯涼太

ハァーーイ!
ユージ!

My name is Ryota Saeki!!!
Finally "The PakoPako-Genius" has come back terrace!!!



 テラスに涼太がやって来た。


 今日も激しくチャラチャラしている。



佐伯涼太

……って、あれ?
左手、怪我してるじゃん。
どうしたの?



 天野の左手に包帯が巻かれている。


 キラービーのきりを避けきれず、左手を突かれてしまったのだ。


天野勇二

ああ、これか。
刺されたんだよ。
キラービーに。

佐伯涼太

えぇ!?


 涼太は仰天して尋ねた。


佐伯涼太

まさか勇二!
レイちゃんとワンナイトカーニバルしちゃったの!?
それで刺されたの!?


 天野は面倒臭そうに言った。


天野勇二

何を言ってるんだ。
キラービーは男だよ。

佐伯涼太

えぇッ!?


 涼太の全身がわなわなと震える。


佐伯涼太

レイちゃんって、お、男のだったの!?
確かに向こうのニューハーフは本物そっくりって言うし……。

ま、まさか!
勇二もしかして掘られちゃったの!?


 天野は白い目で涼太を見つめた。


天野勇二

お前はアホか。
レイは女に決まってるだろ。
キラービーは『複数犯』だったんだよ。

佐伯涼太

えっ!?
そ、そうなの?

天野勇二

お前は外務省で何を聞いてたんだ。
笹井と五十嵐は情報を漏らさなかったが、黒崎はヒント』を出していただろう?

ハニートラップ担当のレイがデコイとして動き、針を持った本体がターゲットを刺し殺す。
キラービーはそんな連中チームだったんだよ。


 涼太は感心したように頷いた。


佐伯涼太

へぇ……。
全然気づかなかった。
さすが天才クソ野郎だね。

天野勇二

いや、俺としても黒崎のヒントがなかったら読めなかった。
ただアイツも決定的なことは言わないからな。
まったく諜報員ってのは厄介な連中だよ。


 タバコを灰皿に押し込みながら呟く。


 涼太は呆然としながら尋ねた。


佐伯涼太

そっか……。
じゃあレイちゃんはアメリカに帰ったの?

天野勇二

知らんな。
国際刑事警察機構インターポールにでも突き出されたんじゃないか。

佐伯涼太

えぇッ!?
レイちゃん捕まっちゃったの!?

天野勇二

ああ、俺様がちょっとボコってな。

佐伯涼太

え、えぇぇっ!?


 涼太はアンビリバボーな表情を浮かべた。


佐伯涼太

な、なんで……?
勇二は女の子に手を上げたりしないじゃん。
ましてや、どうしてレイちゃんをボコる必要があったのさ……?


 天野は肩をすくめた。


天野勇二

仕方ないだろ?
俺様は善良な民間人なんだ。
殺人蜂がブンブン飛び回っていたら潰すに決まってるさ。

佐伯涼太

でもレイちゃんだよ?
超絶ブロンド美女のトモダチだよ?

天野勇二

関係ないね。
ちゃんと忠告してやったというのに、アイツは最後まで俺様をナメてかかりやがった。
隠れみのに使ったあげく、必要な情報提供を怠ったんだ。
当然の報いだよ。

佐伯涼太

で、でも、可哀想じゃんかぁ。
美人だったのにさぁ。

天野勇二

どんな顔をしていても蜂は蜂だ。
潰す時は容赦なく潰すさ。
俺様という極悪は、あんな小悪党を見逃してやるほど甘くないんだよ。

佐伯涼太

酷いなぁ。
別に勇二が殺されそうになったワケでもないのに。


 天野は呆れて言った。


天野勇二

あの女はデコイとはいえ立派な『殺し屋』だぞ?
俺様の脅威を感じた瞬間、即座に催涙スプレーを取り出したり、拳銃で撃ち殺そうとしてきやがった。

おまけに本体キラービーは自己紹介や挨拶もせず、即座に拳銃や凶器を装備して攻撃だ。
さすがに潰すさ。
まぁ、手加減はしたけどな。


 涼太は頭を抱えて叫んだ。


佐伯涼太

なんでまた!
そんな映画シネマみたいなことになってるのさ!?
勇二はトランスポーターの主人公じゃないんだよ!


 天野は新しいタバコを取り出すと、思い出したように言った。


天野勇二

ああそうだ。
お前が喜ぶと思って撮った写真があるぞ。

佐伯涼太

え?
なんの写真?

天野勇二

レイの水着姿だ。


 スマホを取り出し、レイと箱根はこねに行った時の写真を見せる。


 富士山の前ではしゃいだり、大涌谷おおわくだにで温泉タマゴを頬張ったり。


 涼太は写真を見てまた発狂した。


佐伯涼太

これ箱根じゃん!
レイちゃんと箱根に行ったの!?

天野勇二

ああ、単車バイクでな。

佐伯涼太

ずるい!
いつの間に!
なんで僕は誘ってくれなかったの!?

天野勇二

まぁ、なんとなく。


 涼太はがっくりと肩を落とした。


佐伯涼太

勇二ぃ……。
やっぱり最近、僕ちゃんの扱いが雑だよ。
僕は寂しいよ。

天野勇二

そんなこと言うな。
ほら見ろ。
レイのビキニ姿だぞ。
お前が喜ぶと思って撮ったんだぞ。


 画面をスライドして写真を切り替える。


 涼太は生唾を飲み込んで画面を見つめた。


佐伯涼太

うっわぁ……!
レイちゃん、胸すっごいね。

天野勇二

温泉施設にはサイズの小さい水着しかなくてなぁ。
本人はあまり気にしてなかったが、胸が水着をぶち破りそうだったよ。

佐伯涼太

いいなぁ。
これをナマで見たのかぁ……。
お尻とかもうTバックじゃん。


 涼太は恍惚こうこつの吐息を漏らしながら画面をスライドし、水着姿のレイに見惚れた。


 だが、1枚の写真を見て、その動きが止まった。



佐伯涼太

……ゆ、ゆ、勇二……?
これ、なに……?
レイちゃんが、勇二に跨ってるけど……?



 天野はそれを見てため息を吐いた。


天野勇二

それか……。
俺は嫌だったんだけど、レイが無理やり撮ってなぁ。
あいつが『ハニートラップ』を仕掛けている時の写真だよ。

佐伯涼太

ハ、ハニートラップゥ!?
外務省のシブいスパイいわく、世界でも3本の指に入っちゃう、あのハニートラップ!!!


 涼太は写真を拡大して天野の口元を睨みつけた。


 ピンクのリップの後が、ばっちり残っている。


 レイの口唇と同じ色だ。



佐伯涼太

ゆ、勇二さん……。
これまさか……。
キスした後、じゃありませんよね……?



 天野は驚いて涼太を見つめた。


天野勇二

良くわかったな。
お前、写真分析のプロだな。

佐伯涼太

うきぃー!!!


 涼太はスマホを振り回してじたばたもがいた。


佐伯涼太

いいなぁいいなぁ!
キスとかいいなぁ!
レイちゃんのキスはどんな感じだったの!?

天野勇二

そうだな……。



 天野は腕組みをしながら呟いた。



天野勇二

舌が別の生き物みたいに動くんだ。
あれほどキスが上手い女は初めてだったな。

佐伯涼太

うぎゃーー!

う、羨ましい!
チュウしたい!
僕もチュウしたかった!
刺されてもいい!
全身を貫かれてもいい!

僕もレイちゃんとチュウしたかったッ!



 スマホを握りながら叫ぶ。


 そこに絶妙なタイミングで、前島悠子が現れた。



前島悠子

師匠!
涼太さん!
おはようございます!



 涼太は慌ててスマホを背中に隠した。


 前島がこの写真を見れば、とんでもない修羅場しゅらばになること間違いない。


 涼太の判断は実に正しかった。


 しかし、前島はいぶかしげに涼太を見つめると、



前島悠子

涼太さん。
レイちゃんとチュウしたかった!
って絶叫してましたけど、何かあったんですか?


 無垢むくな表情で尋ねた。


佐伯涼太

んんぅーー?
そんなこと言ってたぁ?
空耳じゃない?

前島悠子

そうですか?
そう聴こえたんですけどねぇ……。

ところで師匠、レイちゃんはまだ日本にいらっしゃるんですか?




 涼太は冷や汗を垂らしながら天野を見つめた。



 天野は余計なことを言わないだろうか。



 平然とコーヒーを飲みながらタバコの煙を吐き出しているが、余計なことを言って、修羅場を作ったりしないだろうか。



 祈るような気分で見つめる。



 天野は平然と言った。




天野勇二

レイはアメリカに帰ったよ。

前島悠子

あら、そうですか……。
残念ですねぇ。


 前島が悲しそうに目を伏せる。


 涼太は安堵あんどして大きく息を吐いた。


前島悠子

……あれ?
師匠、左手どうしたんですか。
怪我したんですか?




 涼太はまた冷や汗を垂らし、天野を祈るように見つめた。



 どうかお願いしますクソ野郎様。



 余計なことは言わないでください、と心の中で呟く。



 天野はまた平然と言った。




天野勇二

料理してる時に、うっかり包丁でザクッとやっちまってな。

前島悠子

うわぁ、痛そうですねぇ。
それなら今度、私が師匠のためにお料理作りますよ。

天野勇二

お前は忙しいんだからいいよ。


 涼太は嬉しそうに天野の肩を叩いた。


佐伯涼太

それでいいんだよ!
それでいいの!
結局はバレなきゃいいんだもん!
それが正解!
勇二もやればできるじゃん!

天野勇二

はぁ?
何を言ってるんだお前は。

佐伯涼太

いやぁ、嬉しいなぁ。
祈ったかいがあったよぉ。
勇二も気配りができる大人になったんだねぇ。



 腕組みをして満足気に頷く。


 その時、涼太の手に握られたスマホを見て、前島が驚きの声をあげた。



前島悠子

あれ?
その写真、水着姿のレイちゃんじゃないですか。

佐伯涼太

っひゃぁぁぁ!



 涼太は慌ててスマホを背中に隠した。


 天野が声を出さずに「バカ」と、口パクで注意した。



佐伯涼太

ち、違うよぉ。
こ、これはね、僕の趣味のね、ちょっとエッチな画像だよ。

前島悠子

えっ?
だってそれ、師匠のスマホじゃないですか。

佐伯涼太

ふぇぇっ!?
そ、そうだっけ!?
あ、そ、そうか!


 涼太は冷や汗をダラダラ流している。


 前島は何か「ピーン」ときた。


前島悠子

うん……?
怪しいですねぇ。
何か隠してませんか?

佐伯涼太

あ、怪しくなんかないよぉ。
ゆ、勇二のスマホだけど、僕の趣味の、ちょっとエッチな画像だよ。
隠すほどのもんじゃないよ。

前島悠子

いや違いますね。
絶対レイちゃんでしたよ。
見せてください。


 涼太は後退しながら必死に叫んだ。


佐伯涼太

見せるワケにはいかない!
前島さんだけには見せられない!
女の子が見るもんじゃないッ!

前島悠子

なんでレイちゃんの写真を見せてくれないんですか!
やっぱり何か隠してますね!


 前島が涼太のスマホを奪い取ろうと手を伸ばす。


 涼太はそれを避けながら叫んだ。


佐伯涼太

これは誤解だ!
隠してない!
僕は何も隠してない!

前島悠子

隠してるじゃないですか!
見せてくださいよ!

佐伯涼太

見せられないッ!
こんなの見ちゃダメだ!
前島さんはこんなの見ちゃいけない!
僕は前島さんのためにやってるんだ!

前島悠子

ちょっと涼太さん!
何をワケのわからないこと言ってるんですか!
スマホを見せてください!



 逃げまどう涼太。


 それを猛追もうついする前島。


 2人がテラスをドタバタと走り回る。



天野勇二

やれやれ……。
いつも騒がしい連中チームだ。



 天野はのんびり煙を吐き出しながら、2人の追いかけっ子をニヤニヤと楽しそうに眺めていた。









(おしまい)




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つばこ

ご愛読いただきありがとうございます。
何かひとつでも心に残るものがあれば幸いです。
 
涼太くん「結局は(浮気なんて)バレなきゃいいんだもん!」
つばこ「そんなことないぞ。浮気はダメだぞ。浮気は万死に値するぞ。私は元恋人の3回目の浮気が発覚した時に、そう思ったぞ(´;ω;`)」
 
 
さてさて、天クソの物語は基本的に『東京』が舞台なんですが、次回は気分を変えて『名古屋』での事件を紹介したいと思います。
『フランケン』こと小谷野の結婚式に参列するため、名古屋を訪れた天野&混沌のカルテットたち。
そこで待つ、衝撃の大事件とは……! 
天クソ史上、最高にカオスなエピソードです! ご期待ください!
 
それでは来週土曜日、
『彼が上手にハングオーバーする方法』
にてお会いしましょう。
 
つばこでした!ヽ(*´∀`*)ノ.+゚

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コメント 64件

  • 焼きましゅまろ

    みんな忘れちゃってるよ、、、、、、、











    前島ちゃんは、レイチェルより先に師匠とチューしたんだ。よって前島ちゃんの勝利!!(何言ってんだこいつ)

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  • アオカ

    天野くんが名古屋に来るとか嬉しいような
    名古屋がヤバいことになりそうで不安なような…www
    まぁ愛知県民としてはめっちゃ楽しみです!

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  • 花奏*のんびりと萌えを回収

    前島さんはうちには合わないなー付き合って欲しくない

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  • バルサ

    何か涼太だけ焦ってて面白い(^^)当の本人は素知らぬ顔…他人様(^^;;
    無課金&どれでもレンタル券や頂いた作品券でここまでキター*\(^o^)/*4ヶ月ちょい。天クソ野郎〜面白いぞ‼︎

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  • アノニマス

    涼太の方が焦ってて、おもしろwwww

    浮気は、上手に隠してくれたら許します(笑)ただ、相手の名前を布団の中で呼んできたらグーパンです!

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