前島は、天野の脈を取ると、大きく首を横に振った。




前島悠子

ダメです……。
何の反応もありません……。
師匠が、死んじゃった……。




 ぽろぽろと大粒の涙がこぼれる。



小谷野小太郎

ど、どうして……?
あまのが、なんで……?

宮内圭吾

わ、わからない……。
なんで、こんなことが……?



 別荘から異変を感じ、1人の男が駆けてきた。



奥田和彦

ね、ねぇ、さっきの悲鳴、天野くんでしょ?
何かあったの?



 奥田は倒れている天野を見て悲鳴をあげた。



奥田和彦

あ、あああ天野くん!?
なんでぇ!?
ウソでしょぉ!?



 湖から「バシャッ」と音をあげ、2人の人間が上がった。


 川島と木嶋だ。


 川島は潜水用のボンベを地面に置くと、天野を見て驚愕の表情を浮かべた。



川島直人

……ムケケ……。

ウソ、だよね……。
ど、どうして、天野クンが……?

……ムケケ……。



 想定外の光景に困惑している。


 宇佐美がぽつりと呟いた。



宇佐美梨花

本当に……。
『教祖』が、殺したの……?



 前島は目元を拭い、静かに立ち上がった。




前島悠子

……違います。
『教祖』なんていません。




 全員の顔を睨みつける。



 宮内、宇佐美、小谷野。



 そして、奥田に、川島と木嶋。



 それぞれが驚愕の表情を浮かべている。




前島悠子

師匠を殺した真犯人……。
蓮華教れんげきょう教祖きょうそ……!




 前島はビシッとポーズを決めると、




前島悠子

この中にいます!




 大きな声で叫んだ。



宇佐美梨花

そ、そんな訳ないでしょ!?
私と宮内さんと小谷野さんは、ずっとあなたと一緒にいた!
奥田さんも別荘に隠れてた!
川島さんと木嶋さんは、湖から上がったばかりなのよ!?



 宇佐美はパニックに陥り、青ざめて叫び始めた。



宇佐美梨花

やっぱり近くに誰か隠れてるのよ!
天野さんも『教祖』って言ってた!
誰よ!
出てきなさいよ!



 前島は軽く笑った。



前島悠子

違います。
師匠を殺した真犯人、『蓮華教の教祖』は、この中にいるんです!

真実はいつもひとつ!
おじいちゃんの名にかけて!



 前島が再びポーズを決めると、






天野勇二

クックックッ……






 ひとつの笑い声が地面から響いた。


 全員の身体が恐怖に固まる。



天野勇二

前島よ。
お前、それが言いたいだけだろ。



 天野がゆっくり起き上がった。



 宇佐美が「キャア!」と叫んで小谷野に抱きつく。



 天野は胸から刃物を引き抜いた。



 正確にいえば、『刃物のギミック』を胸から取り外した。



 それを見て一同は大きく息を吐いた。



天野勇二

あれぇ?
川島に奥田に木嶋。
お前ら、なぜ生きているんだ?



 宮内が悔しそうに叫んだ。


宮内圭吾

そういうことか!
ちくしょう!
さすが天才クソ野郎だ!


 天野はニタニタと笑みを浮かべながら全員に言った。


天野勇二

まずは蓮華教の本部に戻ろうぜ。
川島と木嶋も着替えないと風邪引くぞ。
それに俺様は酒が飲みたいな。








 全員は別荘に戻った。


 川島と木嶋はシャワーを浴びに行き、天野たちはバーベキュー道具を元に戻し、またイベリコを焼き始めた。



宮内圭吾

完璧に騙せたと思ったのによぉ。
まさかとはなぁ。


 宮内が再びぼやいた。


小谷野小太郎

で、でも……。
あまのくん……。
いきててよかった……。


 小谷野が肉を焼きながら嬉しそうに笑う。


奥田和彦

ねぇ、どこで僕らの『ドッキリ』だって気づいたの?


 奥田が尋ねた。


 天野はタバコを取り出しながら言った。



天野勇二

『招待状』を受け取った時だ。
初めから、だよ。



 宮内が悔しそうに膝をパンと叩いた。


宮内圭吾

やっぱりかぁ。
ほら奥田、言ったじゃないか。
あれじゃ簡単すぎるって。

奥田和彦

そっかぁ……。
天野くんならネットの掲示板に詳しくないと思ったし、裏の裏をかいたつもりだったんだけどなぁ……。

天野勇二

いくら何でも単純すぎるさ。
頭文字の『縦読み』
『これはつり』だなんてよ。

しかも本文の不自然なカタカナを繋ぎ合わせると『チョウセンジョウ』になる。
『混沌のカルテット』から天才クソ野郎への挑戦状かと、楽しみにしていたのさ。

だが、あまりに単純すぎるんで、こっちでゲームでもやるのかと思ったよ。
それでもギミックぐらいは用意しようと思ってな。

宮内圭吾

だから『血のり』なんか持ってたのか。

天野勇二

ああ、水さえあれば『血液』の完成だ。
なかなかリアルだったろう?

宮内圭吾

さすがだな。
マジで殺されたのかと思ったぜ。
前島さんも知ってたのか?


 前島は嬉しそうに首を横に振った。


前島悠子

いいえ。
私も知りませんでした。
敵を騙すなら味方から、ですよね。

天野勇二

そういうことだ。
だが、こいつはしたたかな女だぜ。
俺様が死んだ時に見せた涙……。
あれは演技だからな。

前島悠子

私はプロの女優ですからね。
師匠の演技なんかすぐに見破れますよ。



 一同は絶句した。


 前島は『天野は殺されたフリをしている』と一目で気づき、天野の仕掛けた『逆ドッキリ』を理解した。


 そこで自らも一芝居打ち、悲しげに号泣してみせたのだ。



天野勇二

とはいえ、川島が殺された時は『ドッキリ』という線は捨てて考えていた。
マジだった場合、シャレにならないからな。

奥田和彦

それじゃ、どこで気づいたの?

天野勇二

いくつかある。
まず川島と奥田。
お前ら死体の『消失』だ。

死体を引きずった形跡はない。
死体を吊り上げる装置ギミックも見当たらない。
そうなれば答えはひとつ。

死体が勝手に歩き出した、ということだ。

つまり殺害はフェイク。
ならば死亡を確認した小谷野と宮内。
こいつらもグルになっていると想定できる。

奥田和彦

そうかぁ。
天野くんは現実主義者だもんね。
死体が消失したなんてオカルトは信じないか。

天野勇二

そうだ。
そして宇佐美。


 いきなり名前を呼ばれ、宇佐美は驚いて天野を見つめた。


天野勇二

お前が『致命的なミス』を犯した。

宇佐美梨花

わ、私ですか?

天野勇二

ああ、そうだ。
川島の死体を発見した時、お前は

『川島さんと奥田さんが……』

と言った。
だがな、あの時まで、誰もこいつを『奥田』とは呼んでいないんだよ。
『イベリコ』と呼んでいた。

それなのに、なぜ、奥田という名を知っている?
答えはひとつしかない。
裏で繋がっているからだ。

宇佐美梨花

そ、そうだったんですか……。


 宇佐美が呆然としていると、別荘から川島と木嶋がシャワーを浴びて戻ってきた。


天野勇二

川島と木嶋。
お前らのケースは簡単だ。

川島の死体が消失する直前、何かが湖に飛び込む音が聴こえた。
あれは川島が潜水用の荷物を背負い、自ら飛び込んだ音だ。
あとは湖の中央で木嶋と合流し、空気を吸わせて湖底に隠れていればいい。


 天野は別荘の壁を指さした。


 真っ赤な『丸い印』


 死体の額にも描かれていた、蓮華教のシンボルマークだ。


天野勇二

そして『カインの刻印』だ。


 川島が驚いたように言った。


川島直人

……フフフ……。

カインの刻印を……知っていたのか……。

……ククク……。

天野勇二

ああ、お前らはアガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』がやりたかったのだろう?
カインの刻印の定義は決まっていないが、額に丸い点、というのが主流だからな。

つまり、刻印は『全てはブラフである』という、お前たちのメッセージだった。


 指をパチリと鳴らし、宇佐美の荷物を指さす。


天野勇二

宮内たちが死ぬところも見たかったが、このタイミングで俺が死んだ方が面白いと思ってな。

宇佐美が用意した『刃物』を拝借すると、刃が引っ込む仕掛けギミックになっていた。
せっかくだから使わせてもらったのさ。

教祖のデマで騙そうとしたのに、存在しないはずの教祖に殺されてしまった、という筋書シナリオだ。

宮内圭吾

お前は恐ろしい男だな。
そこまでお見通しとは脱帽だよ。

天野勇二

それでもいくつか謎が残っている。
宇佐美に木嶋。
君らはなんの知り合いなんだ?


 宮内がにやにやと笑みを浮かべた。


宮内圭吾

さすがにそれはわからないだろ。
聞いたらとんでもなく驚くぜ。

天野勇二

ほう?
言っておくが、木嶋が川島の恋人で、宇佐美が小谷野の恋人
そんなことを聞いても驚かないぞ。



 一同は仰天して天野を見つめた。



 その通りだからだ。



宮内圭吾

な、なんでわかるんだ!?
そんなのわかるワケない!

天野勇二

俺様の優秀な瞳をナメるなよ?
小谷野と川島が女に話しかけるなんて、初めて見る光景だったからな。
じっくり観察していたのさ。


 煙を吐き出しながら言葉を続ける。


天野勇二

すると、2人の瞳には、明らかな恋心と親しみの感情が浮かんでいた。
こんな山奥で、いきなり出会った女に、そんな視線を向けるか?
全員がグルならば、その疑問も融解ゆうかいするってワケさ。



 宮内は大きくため息を吐いた。



宮内圭吾

……完敗だ。
『混沌のカルテット』の完全敗北だ。
やっぱ天才クソ野郎は違うな。



 天野は新しいシャンパンを取り出した。


天野勇二

さぁ、もう蓮華教の時間は終わりだろう?
川島と小谷野の彼女を交えて、改めて乾杯しようぜ!



 天野たちは再びグラスを合わせた。



 バチェラーパーティの夜は、こうして楽しく過ぎていった。








 翌日の朝。


 天野は別荘を出ると、大きな欠伸をしながら山間の景色を眺めた。



天野勇二

ふわぁぁ……。
良い天気だ……。



 山奥だから感じられる、清澄せいちょうな朝の空気。


 霧のような薄雲がゆるく流れている。



前島悠子

あっ、師匠!
おはようございます!



 前島が嬉しそうに声をかけた。


 バーベキューの後片付けをしていたようだ。



天野勇二

前島か。
朝からご苦労だな。
片付けなんて俺たちに任せておけよ。

前島悠子

そんなワケにはいきませんよ。
私は後輩ですもん。

天野勇二

できた弟子だ。
散歩にでも行こうぜ。

前島悠子

はい!
喜んで!

……あっ。
でも、湖に行っちゃダメですよ。

天野勇二

なぜだ?

前島悠子

小谷野さんと宇佐美さんがデートしてるんです。



 天野はそれを聞くと、むしろ楽しげに湖へ向かった。



天野勇二

よう。
2人とも早起きだな。


 湖のほとりに小谷野と宇佐美が立っていた。


宇佐美梨花

天野さんに前島さん!
おはようございます。


 宇佐美は丁寧に頭を下げた。


 蓮華教信者の時とは別人のようだ。


宇佐美梨花

実は私、小谷野さんと同じ病院で、看護師として働いてるんです。
天野さんたちをお見かけしたこともありますよ。

天野勇二

小谷野は看護師を口説いたのか。
フランケンのくせに生意気だな。


 小谷野は真っ赤になって俯いた。


 照れているのだ。


 天野はその肩をぺしぺし叩き、からかうように言った。


天野勇二

なぜ、こんな内気なフランケンに惚れたんだ?

宇佐美梨花

小谷野さんと一緒にいると、すごく安心できるんです。
子供好きで可愛いところもありますし。
そのギャップが素敵なんですよ。

天野勇二

君はなかなか見る目があるな。
おいフランケン、お前はまだ半人前なんだ。
結婚するとか言い出したらタダじゃおかないぞ。


 小谷野はもじもじしながら言った。





小谷野小太郎

……じ、じつは……。
そうする、つもり……なんだ……。




 天野は驚愕の表情を浮かべた。



 思わず手話で尋ねる。




天野勇二

お、お前、今……。
結婚すると言ったのか?



 小谷野はコクコクと頷き、手話で答えた。



小谷野小太郎

そうなんだ。
彼女と結婚しようと思う。



 天野は愕然がくぜんとして小谷野たちを見つめた。



天野勇二

マジか!?
それはドッキリじゃないだろうな!?
お、お前が、本当に結婚するのか!?



 小谷野と宇佐美は見つめあって微笑んだ。







宇佐美梨花

本当なんです。
もうすぐ入籍するんですよ。

前島悠子

わぁ!
おめでとうございます!
お2人、とってもお似合いですよ!




 前島は素直に祝福しているが、天野は呆然としたままだ。



 確かに小谷野は性格の良い男だ。



 しかし、見た目は内気シャイなフランケン。



 女性と交際できるような男ではないのだ。




小谷野小太郎

あまの……くん……。
それだけじゃ……ないんだ……。




 天野は嫌な予感がした。



 いつか、こんなシチュエーションがあった。



 静かな山奥の湖畔ではなく、いつもの学生食堂のテラス席だったが、似たようなことがあった。




天野勇二

な、何があるんだ。
正直、これ以上の衝撃は存在しないぞ。




 小谷野は言葉で伝えるのは難しいと思ったのだろう。


 手話を使って語りかけた。





小谷野小太郎

天野くんのところにある、『産婦人科のクリニック』を紹介してくれないかな?




 天野の父親は産婦人科のクリニックを手広く経営している。



 そのひとつを紹介してくれ、とのこと。



 天野は頭をかきむしりながら叫んだ。




天野勇二

やっぱりデキ婚かよ!?
奥田の時と同じじゃないか!
また俺様にドッキリを仕掛けるのか!?



 宇佐美は照れ臭そうに微笑んだ。



宇佐美梨花

ドッキリじゃありませんよ。
どこかご紹介していただけませんか?

天野勇二

嘘だッ!
もうお前らの発言は何が真実で、何が嘘なのかわからん!

どこだ!?
どこにカメラを仕掛けた!?

前島悠子

師匠!
お、落ち着いてください!
何の罪もない草木をむしらないでください!

天野勇二

離せ!
どいつもこいつもガキを作ってから結婚しやがって!

ドッキリに決まってる!
絶対に嘘だッ!


もう俺様を騙すのはやめろぉぉッ!




 山奥の静かな湖畔。



 風光明媚ふうこうめいびな景色の中に、天野の「嘘だぁッ!」という絶叫が、何度もこだましていた。










(おしまい)



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つばこ

ご愛読いただきありがとうございます。
何かひとつでも心に残るものがあれば幸いです。
 
今回は『どれだけ主役級のキャラでも死ぬ時は死ぬ(というドッキリ)』でした(*´∀`*)テッテレ-
久々にホラーも書いてみたかったんです(´∀`*)ウフフ
【おまけ】
  
宮内「そういえば、最初に『ドボン』って湖で音がしたけど、あれ誰が仕掛けたんだ?」
奥田「ボクは知らないよ。宮内じゃないの?」
小谷野「おれ……じゃない……」
川島「ククク……。僕も知らないよ……。フフフ……」
 
宮内「……えっ?」
 
 
さてさて、次回はガラっと趣向を変えて、ラブがコメディしちゃう物語になります。
しかも、過去エピソード出てきた「あの人」が再登場します。人気上位と想定される「あの人」ですよ!
 
それでは来週土曜日、
『彼が上手に浮気する方法』
にてお会いしましょう。
 
つばこでしたヽ(*´∀`*)ノ.+゚

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コメント 122件

  • rtkyusgt

    作者コメでのホラー落ち最高。

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  • またその落ちかよw

    と思った矢先の作者コメによるホラー落ちw

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  • えいじ

    4人の中で一番彼女できそうな宮内が彼女連れていないのは…やっぱりアルカナで言ってたry

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  • まこと

    不細工からデキ婚してくカルテット

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  • Atik

    宮内のガールフレンドは?この人はまだなの?ああ、可哀想に

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