宮内圭吾

おーい!
カルテットの諸君!
喜べ!
飛び入りゲストのお出ましだ!



 宮内が女性2人を別荘まで連れて行くと、奥田も川島も小谷野も揃って「もじもじ」し始めた。


 基本的に『混沌のカルテット』は女慣れしていない。


 理由は単純明快。


 モテないからだ。



宮内圭吾

まず君たちを見つけた目つきの悪い男が天野。
『クソ野郎』ってあだ名の男さ。

それで、そこの太ってるのが『イベリコ』ってあだ名の男だ。
今日はイベリコの結婚祝いパーティみたいなものなんだ。


 もじもじして使えない3人を無視して、宮内が自己紹介を始めた。


宮内圭吾

そこのチビッこいのが川島。
そこのフランケンみたいなデカい男が小谷野。
覚えにくいと思うからさ、

『フランケン』
『チビ』
『イベリコ』
『クソ野郎』

って覚えればいいよ。


 宮内はそこで困ったように前島を見た。


 前島は天下のトップアイドルだ。


 それを告げても構わないのか、迷っている様子だ。


前島悠子

わ、私は、目つきの悪い『クソ野郎』の妹です!

名前は、えっと……。
流星ナガセっていいます!
キラキラネームです!


 天野と宮内は顔を見合わせて苦笑した。


宮内圭吾

そうそう!
君はクソ野郎の妹ちゃん!
そして俺が宮内圭吾!
将来はスーパードクターになる天才内科医のタマゴさ!
よろしくな!


 コミカルでオーバーな自己紹介。


 女性2人はそれを見て頬を緩めた。


宇佐美梨花

えっと……。
私は宇佐美うさみっていいます。


 茶髪の女の子が頭を下げる。


木嶋彩乃

私は木嶋きじまといいます。
私たち、同じ会社の事務員なんです。


 黒髪のメガネ娘も自己紹介した。


 天野は何気なく2人の荷物を見つめた。


 前島が指摘した通り、『日帰り』とは思えないほどの重装備だ。


 宿泊も想定しているだろう。


 しかし、テントや寝袋などは所持していない。


 どうやって夜を明かすつもりだったのか。


 天野は違和感を覚えていた。



宮内圭吾

まぁ、とりあえず乾杯しよう!
小谷野!
焼け焼け!
イベリコを焼け!



 調理は小谷野の役目だ。


 フランケンな筋肉ムキムキの身体を縮めて、一生懸命、肉や野菜を焼いている。


川島直人

……ククク……。

ここはね……。
美味しいロースなんだよ……。

……フフフ……。


 陰気な川島も気を使っているのか、女性陣に料理を振る舞っている。


 川島は外科医だ。


 そのためか、肉の配分が見事に均等だ。


宮内圭吾

よし!
ゲストも増えたし、次のドンペリを開けようぜ!


 宮内がシャンパンをポンポン開けて女性に振る舞う。


 宇佐美も木嶋も酒が入り、場はそれなりに盛り上がってきた。


天野勇二

まぁ、とりあえず酒だな!
イベリコ!
ピンドンも一気に飲め!

奥田和彦

うわわぁぁ!?
そ、そんなに飲めないお!


 浴びせるように酒を飲ませる。


 それを見て川島が女性陣に言った。


川島直人

……ククク……。

おかしな連中だろ……?
アイツら、医学部では『天才』って、呼ばれていたんだ……。

……フフフ……。

宇佐美梨花

えぇっ!?
それじゃもしかして、皆さん全員がお医者様なんですか?
すごいよ木嶋ちゃん。
エリートさんの集まりだよ。

木嶋彩乃

そ、そうだね。
なんだか気後れしちゃうね。

川島直人

……フフフ……。

気にするなよ……。
まだ半人前のタマゴさ……。

……ククク……。


 陰気な川島が意外にも女性陣の相手を務めている。


 モテたいのだろうか。


 そこにフランケンこと小谷野が、よく焼けたイベリコを持って来た。


小谷野小太郎

こ、これ、たべて……。
とても、おいしい……。


 シャイで内気な小谷野にしては頑張って声を出した。


宇佐美

うわぁ!
美味しそう!
ありがとうございます。
えっと、小谷野さん?


 宇佐美が小谷野に尋ねた。


 小谷野はコクコクと頷き、耳まで真っ赤にしている。



天野勇二

(ほう……。これは珍しい)


 天野はその様子を見て苦笑した。


天野勇二

(あいつらが女に話しかける光景なんて初めて見たぜ……。あの珍妙な連中カルテットも、女にモテたかったんだな……)





 やがて陽は完全に落ち、あたりの景色は真っ暗になった。



 バーベキューの炎と別荘の明かりだけが周囲を照らしている。



 宮内がビールを飲みながら言った。


宮内圭吾

いやぁ、なんだか学生時代に戻った気分だなぁ。
やっぱりカルテットは最高だよ。
同窓生と飲む酒が一番美味いよな。


 宇佐美がそれを聞いて尋ねた。


宇佐美梨花

皆さん、同じ大学の医学部だったんですか?

宮内圭吾

ああ、そうなんだ。
医学部のカリキュラムってのは大変なんだぜ。


 天野がすぐに冷やかす。


天野勇二

お前は特に成績が悪かったもんな。

宮内圭吾

よせよ。
お前らみたいな天才が多すぎたんだ。
だけど、初めて死体を見た時はホント鳥肌立ったよなぁ。
今でも覚えてるよ。


 女性陣が「ぎょっ」として宮内を見つめた。


 愉快なバーベキューの場ですべき会話ではない。


 宮内は朗らかに笑った。


宮内圭吾

あはは。
医学部ってのはそんなのばっかりでさ。
もう慣れちまったんだ。


 川島がワインを飲みながら陰気に笑った。


川島直人

……ククク……。

夜も更けてきたし……。
せっかくだから、怖い話でもしないかい……?

……フフフ……。


 陰気な川島はオカルトや心霊現象などの『怖い話』が大好物だ。


 天野が苦笑しながら言った。


天野勇二

こんな真っ暗な山奥じゃ、お前の話、すげぇ怖そうだ。
俺様の話を聞けよ。
そうだなぁ……。
俺様がライフルを持った武装集団を手榴弾で全滅させた話なんてどうだ?


 天野もあまり聞きたくない話を振った。


 前島が無言で「師匠、それはないです」とアイコンタクトを送っている。


奥田和彦

そんな怖い話より、アキバの『メイド喫茶』の話をしようよ!
色々なお店があるんだよ!

宇佐美

あははっ!
イベリコさんのメイド喫茶の話、楽しそう!


 宇佐美だけが手を叩いて笑っているが、他のメンバーはまったく興味がない。


 宮内がため息を吐きながら言った。


宮内圭吾

お前らロクな話題がないな。
フランケン、何かないか?

小谷野小太郎

……こ………………ん………………
……………じ……………か…………
…………………さ…………………?


 小谷野の声は小さくて聞こえない。


 宮内は大きくため息を吐いた。


宮内圭吾

やっぱりここは俺のターンだな。
ここに来る前にな、そこにある蓮華湖れんげこってのを調べてみたんだ。
そしたら興味深い事件が出てきたんだよ。

これがさ、かなり、変わった話なんだ。
聞けば必ず驚くぜ。


 にやりと笑って全員の顔を見つめる。


 さすがカルテットのリーダーは話の振り方が違う。


前島悠子

宮内先輩、話し上手ですね。
それ聞いてみたいです。


 宮内は笑みを浮かべながら酒を飲み、静かに語り始めた。


宮内圭吾

蓮華湖れんげこなんて湖、聞いたことがなかったからさ。
気になって調べたんだよ。

そしたらこの湖、本当は『沼』なんだ。
湖じゃないんだよ。
湖として認定されるほど大きくないんだ。

じゃあ、なぜ蓮華湖れんげこという名前があるのか?
そいつを命名したのは、ひとつの『カルト教団』だったんだ。


 もう暗くなった湖を見つめる。


宮内圭吾

以前、この『沼』の近くには蓮華教れんげきょうという名前の宗教団体が生息していた。
その団体が沼を蓮華湖れんげこと名づけ、近くに施設を作ったんだ。


 奥田が不安げに尋ねる。


奥田和彦

でも宮内。
湖の近くには、この別荘しか建物がないよ。

宮内圭吾

そうなんだ。
『沼』の近くにはこの別荘しか建物がない。
つまり、この別荘こそが蓮華教れんげきょうの本部』だったんだ。

だが、かなり前に別荘として売りに出された。
なぜだ?
蓮華教れんげきょうはどうなった?
そこまで知ったら調べなくちゃ気がすまないだろ?


 奥田が少々不安げな顔をしている。


 天野もなんだか嫌な予感がしてきた。





宮内圭吾

蓮華教れんげきょうは仏教に近い新興宗教だったが、ひとつだけ変わった性質を持っていた。
蓮華教れんげきょう教祖きょうそ
は、

自らが生まれ変わり輪廻りんねから解脱げだつし、全ての人々を救う

という思想の持ち主だった。

生まれ変わったら信者を「救済」して極楽へ導く

そんな教えまであったそうなんだ。


 天野が冷静に口を挟んだ。


天野勇二

なんだか教祖が信者を殺す……。
そのようにも聞き取れるな。


 宮内は頷いた。


宮内圭吾

その言葉通りさ。
一度死んだ教祖は生まれ変わると、『2つの心臓』を持って生まれ変わるそうだ。
その教祖に殺されることで、あの世の極楽なんかに辿り着けるらしい。

それを実行するため、ちょうど今ぐらいの季節に、教祖は湖に入って生まれ変わりを試みた。
言いかえれば『自殺』さ。




 そこで宮内は言葉を切った。



 途端にその場を重苦しい沈黙が支配する。



 森のざわめきと虫の鳴き声がやかましいくらいだ。



天野勇二

(宮内のヤツめ。実は『怖い話』をしたかったのか)



 天野が気配なく女性2人の背後に移動する。


 宮内は静かに口を開いた。



宮内圭吾

……だが、教祖が生まれ変わることはなかった。
それで蓮華教れんげきょうは自然消滅した。
だが不思議なことがひとつ残っていた。
教祖の遺体が湖から発見されなかったんだ。


 誰かがゴクリと生唾を飲み込んだ。


宮内圭吾

つまり、本当は教祖が死んだのかどうか、それさえわからないんだ。
教祖が湖から沈んだまま出て来ない。
だから蓮華教れんげきょうは解散するしかなかった。
それが実際の話なのさ。



 そこまで言うと、急に宮内は「ケタケタ」と笑い始めた。


 いきなり気が狂ったかのような笑顔だ。


 ゆっくりと宇佐美と木嶋を指さす。


 2人とも震えている。




宮内圭吾

もしかしたら……。
教祖はまだ湖にいて、こっそり君たちの背後に……!




 そこで天野は女性2人の肩を「ぽん」と叩いた。



木嶋彩乃

キャァァァァッ!



 宇佐美と木嶋が飛び上がって悲鳴をあげた。


 宮内がしてやったりと叫んだ。


宮内圭吾

天野!
さすがだな!
お前はやっぱり天才だよ!

宇佐美梨花

や、やめてくださいよ!
ビックリするじゃないですか!


 宇佐美も木嶋も涙目だ。


天野勇二

クックックッ……。
すまんな。
悪ノリしてしまった。
驚かせてごめんよ。

宮内圭吾

いやぁ、お前は足音もたてずに移動したよなぁ。
オチをつけてくれるなんて最高だ。
さすが天才クソ野郎だな。



 その時、湖から「ドボン」という大きな音が聴こえた。




 全員、黙って湖を見つめた。






川島直人

……ククク……。

魚も、気を利かしたのかな……。

……フフフ……。



 川島が陰気な声で言った。


 場をフォローするつもりだったのだろう。


 だが陰気な川島の声では、恐怖感を倍増させるだけだ。


 そして、再度、湖から






 ボジャン


 ドボン


 ザパン






 という音が聴こえた。



天野勇二

なんの音だ?
魚じゃないようだが。

小谷野小太郎

きに………な……る。


 天野と小谷野が湖に向かって歩き出した。


前島悠子

ま、待ってくださいよ!
師匠!
じゃなくて、えっと、兄貴!

宮内圭吾

おいおい。
俺も連れて行けよ。
気になるじゃないか。


 前島と宮内も後を追いかけた。


 湖の入り口までは1分ほどで辿り着く。



天野勇二

なんだ……?



 天野は湖の入り口に立ち、湖面を睨みつけた。



 湖には波が立っている。



 どの方向から波立っているのかわからない。



前島悠子

だ、大丈夫ですかねぇ……?
タヌキさんとか、ですかね……?

天野勇二

恐らくそうだと思うのだが……。
ちょっと周囲を調べよう。
お前もついてこい。

前島悠子

は、はい!



 天野は湖の右側に向かった。



小谷野小太郎

………おれ……も……。
あっち…………。



 小谷野は左側に向かった。



宮内圭吾

どうしたんだろうなぁ。
犬とか狸か?
熊だったら少し厄介だな。



 宮内は天野について来た。



 3人は湖の反対側に回ってみたが、獣らしきものの気配は感じられなかった。





宮内圭吾

……なんか、気味悪いな。




 宮内が怯えたように言った。


天野勇二

お前がつまらん作り話をするからだ。

宮内圭吾

まったくだ。
悪いな。
でも、蓮華教れんげきょうに関する話は全部ホントの……。










キャアアアアアアアッ!










 切り裂くような悲鳴が轟いた。




 前島が思わず天野にしがみつく。




 女性の悲鳴だ。



 別荘の方角から聴こえた。




宮内圭吾

な、な、なんだ!?

天野勇二

わからん!
戻るぞ!
前島!
俺様から離れるな!

前島悠子

は、はい!




 天野たちは急いで湖の入り口まで戻った。


 宇佐美と木嶋が震えて立っている。


 近くには小谷野の姿。


 地面にしゃがみこみ、何かを調べている。



天野勇二

おい!
小谷野!
何があったんだ!?



 小谷野は真っ青な顔で天野を見上げた。


 静かに首を横に振る。


 小谷野の前に横たわるものを見て、天野は驚愕の表情を浮かべた。




天野勇二

な、なんだと……!?




 1人の男が仰向けに倒れている。



 ピクリとも動かない。



 胸の中心には長い刃物の柄。



 そこを中心に真っ赤な液体が流れ、地面を赤く濡らしている。



 それは、天野が知っている男だった。



天野勇二

か、川島……!?
川島じゃないか!?
どういうことだ小谷野!?




 天野が川島に触れようとしたが、小谷野はそれを手で制した。



 川島の脈を確かめる。



 そして、静かに告げた。




小谷野小太郎

……もう……手遅れだ……。
川島くんは、死んでる……。





この作品が気に入ったら「応援!」

応援ありがとう!

20,855

つばこ

Ten little Indian boys went out to dine;
One choked his little self and then there were nine.
 
最初の犠牲者は『混沌のカルテット』のひとり、川島直人。

この作品が気に入ったら読者になろう!

コメント 120件

  • 四鈴

    優子ちゃん、演技に気付かないんだねー。

    通報

  • まこと

    え?え?
    あ、なんだーイベントか、ほ、ドキドキ

    通報

  • ゆんこ

    天野くんに触らせないあたり、ドッキリであってほしい…川島くんが死ぬのはショック

    通報

  • ゆめおぼろ@天クソ/パステル

    イベリコの声が全然ないけど

    通報

  • バルサ

    殺人⁈ホラー⁈(・・;)えーーーーー‼︎
    高校生の時の話しから こっちにきた。無料分のみ読んだら面白そうだったから、探偵は次に回す(^^;;

    通報

関連お知らせ

オトナ限定comicoに移動しますか?
刺激が強い作品が掲載されています。

  • OK