※この物語はフィクションであり、実在の人物及び団体とは一切関係ありません。



 とある大学。


 学生食堂の2階テラス席。


 ここは学園一の問題児『天野勇二あまのゆうじ』の特等席だ。



前島悠子

ねぇねぇ師匠ってば。



 その日、天野の隣には『弟子』である前島まえしま悠子ゆうこの姿があった。



天野勇二

なんだよ。
さっきからうるせぇな。

前島悠子

そんな冷たいこと言わないでくださいよぉ。
再来週の土日なんです。
久々のオフなんですよ。
どこか遊びに行きましょうよ。

天野勇二

医学生ってのは忙しいんだ。
生憎ヒマじゃないな。

前島悠子

ちょっとだけでもいいじゃないですかぁ。
おデートしてくださいよぉ。

天野勇二

なぜ俺様がお前とデートをしなければならない?
必要性を感じないな。

前島悠子

そんな冷たいこと言わないでくださいよぉ。
再来週の土日なんです。
久々のオフなんですよぉ。


 前島はめげずに天野を誘っている。


 前島は大学生でありながら、国民的アイドルという2足のわらじを履いた女の子。


 土日のオフなんて本当に珍しいのだ。


前島悠子

ちょっとだけでいいですから、どこか遊びに……。

……あれ?


 テラスの階段を上り、1人の男が現れた。


 天野はその顔を見て驚きの声をあげた。


天野勇二

み、宮内みやうち
宮内じゃないか!

宮内圭吾

いよう、天才クソ野郎。
奥田おくだの結婚式以来だな。


 宮内は天野が在籍する医学部のOBだ。


 天野は嬉しそうに笑った。


天野勇二

あの『色々あった』結婚式のことだな。

宮内圭吾

ああ、そうだ。
色々あった。
あの件では本当に感謝してるぜ。


 色々なことがあった奥田の結婚式。


 2人が顔をあわせるのはそれ以来だ。


(詳しくは『彼が上手に結婚する方法』を参照)


前島悠子

宮内先輩って……。
もしかしてアレですか?
混沌こんとんのカルテット』の?


 前島が無邪気に尋ねる。


宮内圭吾

へぇ?
よく知ってるな。
君は天野の後輩かい?

前島悠子

はい!
前島悠子と申します!
師匠の弟子です!

宮内圭吾

前島?
師匠に弟子?

……えっ?


 宮内は仰天して前島を見つめた。


宮内圭吾

も、もしかして、アイドルの前島悠子ちゃん!?
君がそうなのか!
小谷野こやのから話を聞いたぜ!

へぇ!
こりゃ確かに美人だ!
天才クソ野郎も隅に置けないな!
あっはっはっは!


 宮内が腹を抱えて笑っている。


 天野は少々顔を歪めながら尋ねた。


天野勇二

おい宮内。
なぜ大学に来たんだ。
俺様に用事なのか?

宮内圭吾

ああ、そうなんだよ。


 宮内は封筒を差し出した。


宮内圭吾

まずは見てくれ。
『混沌のカルテット』から天才クソ野郎への『招待状』だ。

天野勇二

招待状だと?


 訝しげに封筒を開ける。


 1枚の便箋が入っている。


 そこには次のように書かれていた。





天野勇二様



この度、奥田おくだ和彦かずひこバチェラーパーティーを開催することになりました。


蓮華れんげの別荘で開催いたします。


はた迷惑なことばかり起こすジョウ識知らずの4人組と一緒に、


疲れた日常から逃げ出し、自然の中でチョウ極上の美酒を飲み交わしませんか。


林道りんどうの奥深くにある小さな別荘にて、幾センもの星空と共にお待ちしております。



『混沌のカルテット』より





 天野は思わず笑ってしまった。


天野勇二

『バチェラーパーティー』だと!
もう奥田は結婚したじゃないか!

宮内圭吾

あいついきなり結婚するからなぁ。
そんな機会もなかっただろ?

天野勇二

だが、アメリカ式のバチェラーパーティーなんて、『混沌のカルテット』には似合わないぜ。



 『バチェラーパーティー』とは、新郎が独身最後の夜を同性の友人と過ごすパーティーのことだ。


 主にアメリカで行われており、基本的にはストリッパーを呼んで乱痴気らんちきさわぎするパーティーだ。



宮内圭吾

まぁなぁ。
確かに『混沌のカルテット』には似合わないよな。


 宮内は素直に同意した。


宮内圭吾

俺たちはまるで女っ気がなかったからなぁ。
女との縁がないのが俺たちのカルテットだ。
だから別荘で酒でも飲んではしゃごうってワケさ。
それにな……。


 宮内は少し神妙な顔で言った。


宮内圭吾

俺たちの友情が再確認できたのは、天野、お前のおかげだ。
是非ともパーティーに参加してほしい。
これはカルテット全員の願いなんだ。


 天野は嬉しそうに頷いた。


天野勇二

面白そうだ。
是非とも参加したいな。
奥田の別荘なのか?

宮内圭吾

ああ、住所はメールする。
再来週の土日なんだが暇か?


 天野の隣にいた前島がピクリと反応した。


 天野は舌打ちしながら告げた。


天野勇二

ああ、特に予定はない。
どこかに集まってから現地に向かうのか?

宮内圭吾

いや、現地集合しよう、という話になってる。
15時までに来てくれ。
それまでに準備しておくからさ。


 宮内はカルテットのリーダー。


 医学部の会合では必ず幹事を任されるほどの社交派だ。


 細かいところは宮内が手配しているのだろう、と天野は判断した。


前島悠子

あの!
宮内先輩!


 前島がすかさず挙手した。


前島悠子

それ、私も参加していいですか!?
お泊まりですよね!?
ちょうど土日ともオフなんです!
奥田先輩の結婚式にご招待いただいたんですけど、仕事の都合で参列できなかったことがすごく残念だったんです!
是非ともお願いします!

天野勇二

お、おい。
バチェラーパーティーだぞ?
女のお前が参加しては迷……

宮内圭吾

ああ、構わないぜ!
飛び入りゲストは大歓迎だ!
トップアイドルの前島さんなら尚更だよ!

前島悠子

やったぁ!
ありがとうございます!


 宮内はあっさり承諾してしまった。


 懐の深い社交派の男だ。


 トップアイドルが参加すれば場も盛り上がるだろうと、素早く判断したのだろう。


宮内圭吾

それじゃあな!
楽しみにしてるぜ!


 宮内は爽やかに去った。


 天野はその後姿を見送ると、前島に向かってボヤいた。


天野勇二

バチェラーパーティーだというのに。
女が参加するものじゃないぜ。

前島悠子

いいじゃないですかぁ。
師匠のお友達とお泊まりだなんて、すっごくワクワクしますねぇ。
週刊誌やマネージャーには内緒ですよ!


 天野は深くため息を吐き、カルテットの招待状をぼんやり眺めていた。




 パーティーの会場である別荘は山梨県の奥深くにあった。


 地図には載っていないが蓮華湖れんげこという小さな湖があるようで、その湖畔に別荘が建てられている、とのことだ。


 天野は愛車のポルシェに前島を乗せ、山梨の山奥へ向かった。


前島悠子

師匠と山奥をドライブ……。
これもオツなものですねぇ。


 助手席の前島は上機嫌だ。


 最近は仕事が忙しく、天野と関わる機会が少なかったが、こんな『ご褒美』が待っていたのなら仕事を頑張って良かったと、しみじみ感じていた。


天野勇二

おい、やめろって。
運転中に抱きつくな。
ただでさえ道が悪いんだ。

前島悠子

いいじゃないですかぁ。
師匠ってばテレちゃってぇ。


 別荘は相当な山奥にあった。


 付近には集落もバス停もない。


 かなり不便な地区であり、秘境という言葉がぴったりの場所だ。


天野勇二

……おっ?
あれかな?


 いくつもの林道を抜け、ようやく別荘が見えてきた。


 古い木造のコテージだ。


 天野がポルシェを停めて外に出ると、既に『混沌のカルテット』は集合していた。


奥田和彦

天野くん!
久しぶりだね!


 真っ先にやって来たのは奥田だ。


 かつては『天才ブタ野郎』と呼ばれた男だ。


天野勇二

イベリコめ。
バチェラーパーティーを開くなんて生意気だな。

奥田和彦

でへへ。
宮内くんたちの発案なんだよ。

天野勇二

前島も連れて来てしまったが、迷惑じゃなかったか?
追い返すか?

奥田和彦

あはは。
そんなことしないでよ。
ゲストは大歓迎だよ。


 天野たちが話していると、別荘の中からバーベキュー道具を持った小谷野こやのが現れた。


前島悠子

あっ!
小谷野先輩だ!
お久しぶりです!

小谷野小太郎


………ま……え……
……う………い……


 小谷野は嬉しそうに前島とハイタッチを交わした。


 相変わらず全身フランケンの強面こわもてのくせに、声が小さくて何も聴こえない。


川島直人

……ククク……。

天野クン、久しぶり……。

……フフフ……。

天野勇二

うわぁ!
川島かわしま!?
お前いつの間にいたんだ!

川島直人

……フフフ……。

ずっと側にいたじゃないか……。

……ククク……。


 チビで陰気な川島が笑っている。


 存在感のない暗い男だ。


宮内圭吾

おお!
天野に前島さん!
ありがとうな来てくれて!


 宮内が大量の食材を持って現れた。


 テーブルに肉や野菜などを置く。


 目玉は上質なイベリコ豚の肉塊だ。


宮内圭吾

どうだ。
上質のイベリコだぜ。

天野勇二

クックックッ。
天才イベリコ野郎のパーティーには欠かせないな。

宮内圭吾

ああ、ただの豚肉なんて用意できないぜ!

天野勇二

そうだな!
あっはっは!


 これでパーティーの参加者は揃った。


 早速飲み始めよう、という話になった。


宮内圭吾

今回は上質な酒を揃えたぜ。
まずはドンペリゴールドだ。

天野勇二

いいな!
乾杯しようぜ。
イベリコ独身最後の夜……ではないのか。

川島直人

……フフフ……。

独身時代に戻った夜……。
なんてどうだい……?

……ククク……。


 川島が陰気のくせに気の利いたことを言った。


宮内圭吾

それいいな!
独身時代に戻った夜!
それに乾杯しよう!


 宮内がシャンパンを豪快に振り、「ポン!」とフタを開けた。


 泡がはじけてシャンパンが吹き出す。


宮内圭吾

あはははっ!
イベリコをシャンパン漬けにしてやる!

奥田和彦

えへへ!
やめてよぉー!

天野勇二

あっはっは!
やめろよ!
『ブタに真珠ドンペリじゃないか!
もったいない!




 天野たちは上質な酒を飲み、静かな湖畔を眺めながら楽しげにはしゃいだ。


 別荘からも湖畔を眺めることができ、湖の入り口まで1分ほどで辿り着くことができる。


 山奥で不便だが自然を満喫できる別荘だ。


前島悠子

ここは素敵ですねぇ。
秘境の別荘というのもオツですよねぇ。

奥田和彦

中も綺麗だし広いんだよ。
8人は泊まれるんだ。

天野勇二

実に素晴らしい。
俺様もこんな別荘を所有したいものだ。


 やがて日が暮れて、天野たちはバーベキューを始めた。


 天野は浴びるほど酒を飲み、イベリコ豚に舌鼓を打った。


 酒も料理も極上。


 空を見上げれば満天の星空。


 山奥の秘境で飲む酒は格別だ。



天野勇二

……うん?



 タバコを吸いながら酒を飲んでいると、ふと林の中に人影が見えた。


 湖畔の山奥だ。


 人がいるはずもない。


天野勇二

イベリコよ。
俺たち以外に誰か呼んでいるのか?

奥田和彦

ほぇ?
呼んでないよ。


 獣の影ではない。


 確かに人影だ。


 天野が林に向かうと、人影は慌てて逃げようとしている。


 小走りで追いついて呼びかけた。


天野勇二

お前ら、こんなところで何をしている。


 人影は女性の2人組だった。


 天野の呼びかけに少し怯えている。


???

す、すみません。
私たち、ハイキングしていたら道に迷っちゃって……。

???

灯りが見えたから、人里かと思ったんですけど……。


 天野は驚いて言った。


天野勇二

よくこんな山奥まで来たな。
もう日が暮れる。
帰らないと危険だぞ。

???

そ、そうですよね……。
あの、バス停ってどちらかご存知ありませんか?

天野勇二

バス停?
数時間は歩くぞ。
車で来たんじゃないのか?

???

は、はい。
バスで来たんです。
どうしよう……。


 女性2人は激しく困惑している。


 茶髪の勝ち気そうな娘と、地味な黒髪メガネの娘。


 年の頃は20代半ば、といったところだ。


前島悠子

師匠?
どうかしたんですか?

宮内圭吾

天野、どうした?
何かあったのか?


 ふらふらと千鳥足で前島と宮内がやって来た。


天野勇二

道に迷ったらしい。
女の2人組みだ。


 宮内は驚いて言った。


宮内圭吾

こんな時間にこんなところでか!?
今から人里に帰るのは無理だぜ。

天野勇二

俺たちはかなり酒を飲んでしまった。
悪いが送ることもできない。

???

そ、そうですか……。
日帰りのつもりだったのに……。


 女性2人は困ったように顔を伏せた。


 宮内が名案とばかりに言った。


宮内圭吾

それなら一緒にバーベキューしないか?
別荘には君たちが眠れるスペースもある。
どうせ帰れないなら泊まっていけばいいさ。

???

え、で、でも、ご迷惑じゃないですか?

宮内圭吾

気にするなよ!
困った時はお互い様さ!
それに俺たちは医者で冴えない連中なんだ。
身の危険を恐れる必要もないぜ!


 宮内が気さくに語りかける。


 女性2人はすまなそうに頭を下げた。


???

それじゃ、御邪魔させていただきます。

???

お楽しみのところ、本当にすみません。

宮内圭吾

気にしないで楽しんでよ!
マジで地味な集まりだから!
ゲストは大歓迎だ!


 宮内が女性2人の肩を抱いて歩いて行く。


 天野もそれに続こうとしたが、前島が袖口を引っ張り呼び止めた。


前島悠子

あの、師匠……。
気のせいかもしれないんですが……。
ちょっと、妙じゃありませんか?


 訝しげに女性2人の背中を指さす。


 大きなリュックサックを背負っている。


前島悠子

『日帰りのつもり』って、言いましたよね?
あれ、『日帰り』の荷物の量ですかねぇ……?


 天野は納得したように頷いた。


 確かに日帰りの量ではない。


 どこかに宿泊するつもりだった、そんな量だ。


天野勇二

ああ……。
妙だな。
それほど危険な気配は感じないが……。
まぁ、念のため警戒しておけ。


 前島は静かに頷いた。





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11,223

つばこ

どうも、つばこです。
今週もお読みいただきありがとうございます。
 
今回は『混沌のカルテット』とのバチェラーパーティーから何か始まるようです。
カルテットとの物語については『彼を上手にご主人様にする方法』『彼が上手に結婚する方法』『彼が上手に理想の医師になる方法』などをご参照いただければ幸いです。
 
『天才クソ野郎の事件簿』もすっかり長い物語になりました。シリーズ物の宿命ですが、恐らく読者の皆さまは、
 
「どんな事件が起きても、天野くんや前島ちゃんなどのレギュラーメンバーは死んだりしないんだろうなぁ( ゚д゚)」
 
と、感じてらっしゃるのではないでしょうか。
それではどんな事件が起きてもハラハラしないので、ここらでひとつ『どれだけ主役級のキャラでも死ぬ時は死ぬ』ということを書きたいなぁ、と思ってます!
 
ではでは、いつも応援やコメント、本当にありがとうございます!∠( ゚д゚)/

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コメント 119件

  • ゆんこ

    なんか、カタカナが煽ってるね。誰が書いたん?

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  • バルサ

    コメ欄読んで、⁇だったが やっと チョウ セン ジョウ分かった(^^;;なるほど‼︎

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  • シャオ

    前島悠子全然好きになれないしゆきりんとうまくいってほしかった…

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  • やなぎん

    ちょっと待って、カルテットと天野くんと悠子ちゃんだけだから平和な回になると思ったのに…
    さすがつばこさん

    8部屋あってふたり増えるから…あれ、足りなくない? と思ったら涼太くんいないんだった
    またお留守番かい涼太くん

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  • チョコスケ

    チョウセンジョウか...
    なるほど((

    そしてつばこさんのコメが怖い...←

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