俺たちは念願の街にたどり着いた。色とりどりの布の屋根を広げたバザーが開かれている。
2人揃って人混みを縫って歩き、掘り出し物が無い物かと探す。交易の国とだけあって様々な国風が滲み出る商品が並んでいる。ワームの幼体丸焼きとかあった。
物色していた俺の脳内に天啓のような情報が降って沸いた!
・・・・神に地平線を捧げよ!
開拓団のサブマスターであった俺は脳みそをフロンティア精神に乗っ取られる事が偶にある・・・
ツチノコ地竜開拓団のメンバーは皆漏れなく整地教の開祖であり信者だ・・・
そんな時は平らに何もかもを整地してしまいたい気分になるのだ。まっさらな世界はきっと素晴らしい光景だろう・・・
無自覚にラスボスのような危険思想に陥り掛けた俺の頭をカーソンがはたいた。STRの加減を間違えてゴキンと音がした。
突如殺人を公衆の面前で犯したカーソンに注目が集まった。
HAHAHA!全くカーソンはおっちょこちょいなガールだぜ!ツッコミを受ける側も命懸けって訳よ!
更に首が折れながら笑う俺に異常なものを見る目が集まる。何この人、怖っ・・・
【瘴鼠衛衣】が無かったら即死だったぜ・・・ゴキンと頚骨から外れた首を付け直してポーションをぶっ掛ける。治った。
状態異常のデメリットが相殺されると言うことは。
尋常な回復手段では治りにくいと言う致命級状態異常の特性すら克服するという事である。
サッと目を逸らされた。辺りはあり得ないものを見てしまった客と店主が何も無かったかのように振る舞っている。関わりたく無い様子があからさまに出ていた・・・
人混みの中にはマスターも居たらしく、人の形をした怪物を見る目で見られた。
俺も随分と軽い命になったもんだ・・・今では戦闘中じゃなきゃ通り魔にぶっ刺されても談笑できる自信がある。殺し殺されてを繰り返して短期間で異常な価値観に染まってしまった・・・
噂に聞く年中修羅場の国天地の住人のようだ。彼の国では戦争や果たし合いは常識だと聞く。
遥か彼方の天地の住人が否定する声が聞こえた気がした。
いくら命の優先順位が低いとはいえ、刺されたら反撃するのだ。いや、刺される前に殺しているが、と。
カーソンもだいぶ異常な価値観に染まっている。今ではマスターの首をうっかり折っても軽く謝罪する程度。マスター!と心配する声が遠く彼方の過去になって久しい。
【瘴鼠衛衣】の特異な生存能力が体を多少損耗しようが使えるようにしてしまうのが原因だ。カロリーの貯蓄次第でいずれ【頭部損失】などの完全な致命傷すら克服するだろう・・・
流石に【全身消失】などという消費するカロリーごと消し飛ばされたら一巻の終わりだ。
まぁそんな状態異常に罹患した時点で誰もかもが死ぬだろうが。
もはや体より【瘴鼠衛衣】が本体なまであるかもしれない。体はカロリーを貯蓄する器で出来ている・・・
次の進化が心配だ。俺はきっと次の進化結果次第で人間の尊厳を失うに違い無い。傾向は最初っから有った。
第1形態の融合で怪物になるスキル。エンブリオが出力したマスターのパーソナルの解析結果が如実に語っていたのか。
俺には人の形を失う宿命にあったのも知れない。或いは尋常な常識すら。
俺もまた捨て去る者の1人だったのか。
【拳姫】が超級職という類稀なる名声を犠牲に人生の目的を果たしたように。
【ヘイワン】が命を捨てて英雄の輝きに憧れたように。
俺は【詐欺王】のように不利になる程愉しむ事が出来る人間だ。
有利な状況で勝ったって、それは当然の結果であると断じて、退屈だと自分の有利を捨て去る。
俺たちの本性は勝利を求めながら勝因を捨て、結果までの過程を信奉する破綻者だ。
フェアじゃないとかセーフティがどうのとか普段言ってても、本心ではどうでも良いのだ。
愉しければ良い。その時が来たら、尊厳すら人の皮ごと捨て去るのだろう。
空回りしていた歯車が噛み合った音がした。跳ね回る愉悦の歯車と羽化する人外の歯車。尋常ならざる大小の歯車達は回り出す。the・Worldの覚醒シーンのようだ。
俺は・・・いや、俺たちはもっと強くなれる。
カーソン。人外から生まれたお前も無自覚だろうが俺の同類だ。
この日、命すら賭けることを許容するinfinite dendrogramの何処かで、新たな怪物の産声を上げた・・・
・・・・・
バザーで【身代わり竜鱗】というアイテムを買った。
【救命のブローチ】という上級者向けの規格外なアクセサリーもあったが、俺はしょっちゅう致死に至るダメージを食らっているので判定回数が心許ない。あととんでも無く高い。カルディナじゃ無くても数百万リルだし。
いっそのこと【身代わり竜鱗】で一回こっきりのダメージカットを意識した方が安上がりかもな。どちらもいいお値段だ・・・こっちはカルディナ価格で五十万リルだ。
いざという時につけようか。来るかどうか分からずに死蔵しそうだが。
久々にクエストでも受けてみようか。後進教育で随分とクエストをやっていない。
と言う訳で
【クエスト【討伐依頼――異形の暴竜 推定中位純竜級 難易度:六】が発生しました】
【クエスト詳細はクエスト画面をご確認ください】
そこいらのマスターに声を掛けてパーティを組む。多分俺たちだけでやれる気がしなくも無いのだが、初めての場所で初めての討伐対象だからな。この辺を知っている奴が居ると便利かもな。
でパーティはこんな感じ。
【放蕩者】マニゴルド
【疾風槍士】ダンカルンカ
【黒土術師】mural
【獣戦鬼】ルン・バ・ンル
【偵察隊】虞惰雄
索敵、タンク?、アタッカー、後衛全てを揃えた良いパーティ編成だ。因みにタンク?は【放蕩者】マニゴルドだ。ジョブそのものは非戦闘だがエンブリオが防御に長けていて、火力も担当できるらしい。
おお、遊び人である【道楽者】系統にしては意外とまともな構成だった。一瞬【放蕩者】って聞いて、へ?ってなったけど。
討伐対象は地竜山脈から降りてきた単眼双頭の【暴竜】だ。奇形のレアモンスターなのでどんな能力を使うのか全く分かっていない。おそらく【暴竜】の特性に沿ったものだと思うが・・・
まだ知る由もないが、後に空をジェット噴射する地竜種が現れる事例があるのでその推測は結構当てにならない。まぁどちらにせよこの例はUBMになる程の前例がない希少なモンスターなのだが。
因みに暴竜はステータスに特化した純竜と言われている。
他の地竜のように外殻化や圧縮装甲のような目立った力は無く、リアルのブレスを吐かないドラゴンそのものの様な種族である。
絡め手が無くとも単純故に強いタイプだ。名前の如く純粋に暴力に特化している。
なので硬化させた土で拘束するより、足を躓かせるサイズの穴を開けてフルボッコにする作戦だ。
タイミングが相手のステータスが高い以上シビアになるだろうが、デンドロでは魔法職は自分より早い相手に合わせる技術が高い基準で求められる。魔法職はMPに特化するので近接職のような高速戦闘が出来ない。それでもやるのだ。
でなければただのカカシと同然の様に狩られる。当たらない火力は怖くないから。
厳冬山脈、カルディナの北部の地域。この辺りで奇形暴竜が発見されているらしい。【偵察隊】の虞惰雄が索敵スキルにエンブリオを載せてサーチする。虞惰雄は広域をカバーする事が出来る純粋なシナジー型だ。
地竜の強い反応が西部にあるらしい。目標か?
徒歩で反応の方向へ移動する。猫バス式はやらない。
あれは休憩を目的地で取ることを前提とした移動法であるし、出来るだけ手の内は晒さない方針だ。
カーソンは状態異常耐性に特化したガードナーとして教えてある。全てでは無いが嘘ではないので《真偽審判》に引っかかる事は無い。
いた。奴だ。単眼の双頭地竜。これ程特徴的な地竜を見間違えることはないだろう。
奴は丁度狩りでドロップした食料アイテムを食べている所だった。
アレは確か亜竜級のモンスターのドロップだった筈だ。大した損耗もない様なので力量としては亜竜程度は容易く屠るか。
やるか。ハンドサインでリーダーになったマニゴルドに問う。地竜の肉体スペックで音がバレるかも知れないからだ。風向きは風下なので匂いではバレないだろう。
マジ、先制、頭部、顎のサイン。【黒土術師】の土石操作で顎にアッパーを喰らわせて脳震盪が起こしたい様だ。
コクリと頷いたmuralが消費アイテムで《詠唱》の音声を消してサイレントで魔法準備状態に入った。二番槍のダンカルンカの脚がグッと力が込められる。
虞惰雄が状態異常アイテムの投擲態勢に入り、マニゴルドがコインを手に握ってスキルを打ち出す構えになった。
『《魔法威力拡大》《魔法射程延長》《魔法発動隠蔽》《アース・ピラー》』
無音で発動の前兆が隠蔽された魔法の岩の柱が、暴竜が舌を出しているタイミングで顎に突き刺さった。舌を思いっきり噛んだ上にアッパーを食らってフラフラになる。
「《背向殺し》《ストーム・スティンガー》ッ!!」
背後から【野伏】のジョブスキルでダメージを増加させた奥義を喰らわせる。突き出された槍は鱗を貫いて背骨を穿ち【下半身不随】の状態異常を発生させた。
「《マネー・イコール・ストロング》」
マニゴルドが握られた貨幣が消えて光の玉になりまだ立ち直っていない暴竜の単眼を撃った。
腰をやった上に敏感な目を直接撃たれた暴竜が悲鳴をあげる。
俺とカーソンは追撃しようとした瞬間【偵察隊】の虞惰雄が叫んだ!
「皆んなソイツからはなれろぉーーーー!」
《暴竜の警傷》
暴竜の腰と目の傷口から放たれた衝撃が、反応して跳びずさったダンカルンカのアバターを粉砕し、周囲の物体を粉々に粉砕した!
一撃で上級職を粉砕した衝撃はその威力を撒き散らした後に次第に威力を潜めて消失した。
その威力を目の当たりにした俺は叫んだ。
「カウンター系かっ!奴はステータスだけじゃねえ!固有スキルだ!」
攻撃範囲を確認したマニゴルドがパーティに指示を出す。
「有効打は遠距離だ!前衛が1人やられた!目と背中の方向に気をつけろ!」
虞惰雄がアイテムボックスから白い玉を取り出して背中に投擲した。暴竜の背中の傷口に見事に命中した白い玉は高い粘着力で傷口をベッタリと塞いだ。トリモチだ!
俺が薬品を飲み込んで【衰弱】【麻痺】【脱力】を【瘴鼠衛衣】で相殺して共有させる。エンブリオと融合できない今はこれが限界・・・!
しかし効果は有った様で急激に下がったステータスに身体が重くなった暴竜が全身を平伏させた。
チャンスと見たmuralが《グランド・ホールダー》を発動させて巨大な土の腕達で弱体化した暴竜を完全に拘束した。
俺とカーソンは暴竜の首を同時にへし折って【頚骨骨折】【呼吸不全】を発生させる。カウンターになり得る傷口は作らない。
もがき苦しんでいた暴竜だが次第に弱まり、痙攣した後、全身を光の粒子に変えた・・・
戦闘を終了して集まったメンバーで暴竜がドロップした【奇形暴竜の宝櫃】を囲む。【宝櫃】がドロップした場合、開封して装備出来る人に渡し、クエスト報酬を残りで分配すると言う約束だ。
この中で1番LUCが高いマニゴルドに開封してもらうことになる。
LUC・・・あっ
アイテムボックスの中から探り出してマニゴルドに手渡す。
「これを使ってみたらどうだ?」
【塞翁の虹運賽子】だ。LUCを数千上下させる1日一回限定の禁制アイテム。見た目にはゲーミング色の六面体サイコロだが、数字が刻印されていない。
使用法として使用者が6〜50までの偶数を指定して振る事で数に応じた面が増え、出た偶数を二乗した分のLUCを上昇させるが、奇数が出た場合出た数の二乗した分LUCを下降させる。
もし奇数でステータス以上のマイナスだった場合、LUCが0より下回った者を死亡させる出来事が起きる。何が起きるかは未確定だ・・・
しかし最大で2500もLUCを嵩増しする事が出来る・・・
驚いたマニゴルドが確認するように言った。
「これは・・・いや、大丈夫なのか?俺のLUCがこの中で1番高いとはいえ2000もいってないぞ?」
マニゴルドのLUCは1678。
つまり41以上の奇数を出した場合、マニゴルドは確実に死ぬ。
だが幸いな事にこの辺りは全然人がいない地域が広がっている・・・加えて【偵察隊】の《気配察知》には何もおかしいところはない。
マニゴルドに引き攣った笑みと脂汗が滲み出る。確率は50面から41、43、45、47、49を出した時なので十分の一、90%がセーフだが10%がアウトという事になる。
ざわ・・・ざわ・・・
「これは俺がもらった相手から聞いた話だが・・・LUCに特化した超級職がこのアイテムの効果を超級職の固有スキルでデメリットとメリットを高倍率化させて振った結果、死亡したらしい・・・つまりこのダイスはお前よりLUCが高い者が振っても最悪を引いた事があるという事だ・・・」
急激に張り詰める空気に俺はニヤニヤ笑いが止まらなかった。自分が賭けているわけではないとはいえ、久しぶりの緊張感だ。もはや実家の空気よ。
90%・・・一見高いように見えて、信用できない数値だ。完璧に信用できるのは小数点が無い0%と100%のみ。
スマホアプリのパワプロで怪我率が1%だったが、1%を引いてケガイベントを起こした俺は99%という数字に出会っても信用する事は無い・・・
ゲーミング色の賽子をグッと握る。
手に汗が湧き、平均感覚がおかしくなっていく。
覚悟・・・何が起ころうと受け止める覚悟を灯したマニゴルドは五十面ダイスを地面に転がした・・・!!
コロコロと転がるサイコロはゆっくりと回転を止め・・・!
出た目は・・・!
左寄りの4!!
2桁目がある・・・!
右に・・・!
8!!!!
偶数だ!!
思わずパーティメンバーと抱き合う!
48の二乗で2304!
合計3982!!実に二倍以上の嵩増し!!
マニゴルドは期待の表情でそっと宝櫃を開いて・・・・・
出たのは女性の水着・・・・!!
・・・・・・?
!?
これはとある夢のVRMMOの物語。
水着はパーティ唯一の女性であるmuralが貰った。男達で報酬を粛々と分配した・・・
ルンバとカーソンの子供は何人欲しいかアンケート
-
一人(抗菌と同じく特典化)
-
双子
-
五つ子(五等分の花嫁√(嘘))