富樫は天野が頷くのを確認すると、静かに口を開いた。



富樫和親(ヒアルロン酸)

犯人の拠点アジト『船』です。
恐らくクルーザー漁船などの上で、死体をバラバラにしているんです。



 涼太は思わず膝を叩いた。


佐伯涼太

だからしおなのか!
つまり犯人は『水上』にいるんだ!
船に乗ってとかに逃げたんだね!?


 琴乃も納得したように呟く。


白石琴乃

どれだけ陸上を探しても無駄だったのね。
遺棄いきが終われば船に戻り、川を下って海に出る。
ガソリンを用意しておけば長時間の航海も可能。
被害者を拷問して切り刻んでも、水上なら誰も気づけない……!


 天野は満足気に頷いた。


天野勇二

その可能性が高い。
それに、この前提があれば

『なぜ環八かんぱち遺棄いきするのか』

という理由も推理できる。


 マーカーを持ち、地図を指さす。


天野勇二

環八かんぱち羽田はねだから赤羽あかばねまで続く幹線道路だ。
しかし、相手が船を持ち、そこを本拠地アジトとする場合、環八かんぱちはまた違った顔を見せる。



 環八かんぱちに線を引くと、今度は赤羽あかばね側の荒川あらかわをなぞり、海までの線を引いた。


 そのまま環八かんぱちの起点である羽田まで線を伸ばす。


 『地上の線』『水上の線』がつながり、地図上にひとつのえんが現れた。



佐伯涼太

つながったね。
まるで環八かんぱち『ループ』してるみたいだ。

天野勇二

しかも東京の主要部を囲んでいる。
もしかしたら犯人は、

遺棄いきした人体で東京主要部を囲みたい

そんなことを考えているのかもしれん。


 軽く舌打ちすると、赤羽あかばね側の荒川あらかわに指を置く。


天野勇二

もしアジトを荒川に停泊すれば、赤羽なんて目の前だ。
自転車ロードバイクを走らせたり、その他の川を利用したりすれば、警察のマークをくぐり抜けることも可能というワケだ。


 天野はそこで肩をすくめた。


天野勇二

だが、これはあくまで俺様の『推理』だ。
見当違いである可能性も高い。
確たる証拠も手にしていない。
だが、警察の裏をかくなら、この可能性にヤマを張るしかない。

白石琴乃

そうね……。
地上の捜査じゃ、警察を出し抜くことはできない。
アンタはこれからどうするの?

天野勇二

『聞き込み調査』だ。
不審な船がなかったか。
船を停めて自転車ロードバイクで走り出したヤツはいなかったか。
目撃者を探すんだ。


 メガネが不安げに呟いた。


メガネ

で、でも……。
それは、犯人と接触する可能性があるのでは……?

天野勇二

あり得るな。
怪しいヤツや船を見かけたら俺様を呼べ。
そして、この調査はかなりの広範囲になる。
効率化のため、単独でやってもらう。



 一同は言葉を失った。


 犯人と接触する可能性が高いのに、まさかの単独行動の命令だ。


 天野はそんな動揺を無視して言った。



天野勇二

まず荒川だ。
赤羽あかばねから足立あだち尾久橋おくばしまで。
ここを琴乃。
お前が調査しろ。

白石琴乃

わ、わかったわよ。
赤羽より西はいいの?

天野勇二

範囲が広すぎる。
今回は捨てる。
そしてメガネ。
お前は荒川あらかわから分岐する隅田川すみだがわを全て調べろ。

メガネ

えっ!
す、全てですか!?

天野勇二

ああ、お前だけで十分だ。
それから富樫。
お前は尾久橋おくばしから総武本線そうぶほんせんの橋まで調べろ。
かなり範囲が広い。
効率よく動けよ。

富樫和親(ヒアルロン酸)

は、はい!

天野勇二

そして涼太。
お前は富樫から南のポイントだ。
海に出たら東の葛西かさい側も調べてくれ。

佐伯涼太

オッケー。
そうなると勇二は海沿いを調べるのね。

天野勇二

ああ、新木場しんきばから羽田はねだ……。
いや、もっと南も調べてみる。


 涼太は「はぁ」とため息を吐き、心の中で呟いた。



佐伯涼太

(勇二はなんだかんだ言っても、女の子に優しいんだから)



 天野は犯人と接触する可能性の高い場所を引き受け、ミス研メンバーにはその逆となる場所を与えている。


 涼太は「この心遣いにコトちゃんは気づかないだろうねぇ」とため息を吐いた。



天野勇二

どうした琴乃よ。
顔が青いぞ。
まさかビビってるのか?


 天野が悪い顔で尋ねる。


天野勇二

この程度でビビっていては、『名探偵』なんて遠い夢だ。
怖いなら降りてもいいんだぜ。


 琴乃は悔しそうに唇を噛んだ。


 強く天野を睨みつける。


白石琴乃

……言ってくれるじゃない。
私はビビってなんかない。
アンタより沢山の情報を持ち帰ってやるわよ。


 天野は偉そうに頷いた。


天野勇二

クックックッ……。
良い返事だ。

では今から調査を開始する。
21時にこのファミレスに集合だ。
もう一度言うが、何かあればすぐに俺様を呼べ。

絶対に生きて帰って来いよ。





 その言葉を合図にして、一同はそれぞれの調査場所へ向かった。


 天野は単車を走らせ、東京湾の停泊ポイントを探し続けた。



天野勇二

チッ……。
見つからんな。



 聞き込みを続け、時には金を握らせたりしてみるが、有力な情報は現れない。



天野勇二

やはり羽田から南か……。



 羽田を南に進み、神奈川県かながわけんに入る。


 ここまで来ると運河は迷路のような広がりを見せる。


 天野は細かく路地裏を走り抜け、ついに目当てのものを発見した。



天野勇二

ほう……。
これはクロいな。



 運河の塀に1台の自転車ロードバイクが置かれている。



天野勇二

ここに船を停めて、この自転車ロードバイクを使えば……。



 環八かんぱちなら15分ほど。


 その程度の時間であれば、船が見つかる可能性も低い。


 天野はここを第1候補と考え、さらに他の場所も調べて回った。





 21時になった。



 天野がファミレスに戻ると、すでに他のメンバーは全員揃っていた。


佐伯涼太

おかえり勇二。
なんとか無事に帰れたよ。


 涼太はげっそりとやつれた顔を浮かべている。


天野勇二

クックックッ……。
犯人と接触するかもしれない緊張感と隣合わせ。
なかなか痺れる調査だったろう?

では、各自の調査結果を報告しろ。
まず琴乃からだ。


 琴乃は自慢げに胸を張った。


白石琴乃

かなり有力な情報を得たわ。
深夜に自転車ロードバイクを運び出すクルーザーを見た、という目撃情報があったの。


 琴乃はメモをテーブルの上に置いた。


白石琴乃

クルーザーには船名が描かれてたけど、英語の筆記体で描かれていて、目撃者は読めなかったみたい。
『G』から始まる文字だって言うから、似た文字を見つけてもらったわ。


 メモに書かれた船名を指さす。


白石琴乃

たぶん、船の名前は大量虐殺ジェノサイド号』
どう?
これ、かなりクロくない?


 天野は神妙に頷いた。


天野勇二

それはクロいな。
推理の裏付けになり得る。
なかなか有力な情報だ。

メガネ、次はお前だ。


 メガネはしゅんと肩を落とした。


メガネ

すみません……。
隅田川には、不審な船の痕跡がありませんでした……。

天野勇二

本当だな?
聞き込みもした結果か?

メガネ

も、もちろんです。
間違いありません。

天野勇二

ならば隅田川は使ってない、ということか……。

よし、メガネよ。
スマホでニュースを調べろ。
警察が第6の遺棄いき事件について記者会見を開くはずだ。

メガネ

わ、わかりました!

天野勇二

じゃあ次は富樫。
お前だ。

富樫和親(ヒアルロン酸)

はい。
これを見てください。


 富樫は1枚の写真を取り出した。


富樫和親(ヒアルロン酸)

僕もごく短時間、違法停泊した船の目撃情報を手に入れました。
昨日の午後です。
琴乃さん、『ジェノサイド』は青文字じゃありませんでしたか?

白石琴乃

深夜だから正確じゃないけど、青か黒だって言ってたわね。

富樫和親(ヒアルロン酸)

でしたら、これが『ジェノサイド号』かもしれません。


 写真に映ったクルーザーを指さす。


富樫和親(ヒアルロン酸)

目撃者に同じ形の船を教えてもらい、撮影してみました。
船名は青い文字で描かれ、妙な臭いもしたそうです。
第6の遺棄いき事件と時間も一致します。


 天野は頷きながら船の写真を睨みつけた。


天野勇二

その情報が確かならば、犯人はかなりの距離を走っているな。
間接証拠として使えそうだ。
よし、次は涼太だ。


 涼太は激しく困惑しながら、苦笑いを浮かべた。


佐伯涼太

あはは……。
みんな結構、情報を集めたんだね……。
僕はごめん。
完全に空振った。


 天野は舌打ちしながら涼太を睨んだ。


 涼太はプロの探偵級のスキルを持つ男だ。


 その涼太が空振ったのだから、犯人は涼太の調査ポイントに痕跡を残さなかったのだろう。


天野勇二

仕方あるまい。
では最後に俺様からの報告だ。


 天野は地図を指さした。


 神奈川県、羽田の南の運河通りだ。


天野勇二

ここに自転車ロードバイクが停められていた。
近くには施設がなく、人気も少ない。
こんなところに自転車ロードバイクを停める必要性がない。
そのため、犯人はここに船を停泊させ、この自転車ロードバイクを使う可能性が高いと判断した。

富樫和親(ヒアルロン酸)

事前に自転車ロードバイクを準備していたんですね。

天野勇二

そうだ。
ここからなら環八かんぱちもそう遠くない。

白石琴乃

でも、また環八かんぱち遺棄いきするのかしら?

天野勇二

ああ、環八かんぱち遺棄いきしないのであれば、このポイントを使う必要がない。
警察の記者会見次第だな。


 メガネがスマホを見ながら言った。


メガネ

警察は環八かんぱち周辺の捜査を強化し、県警とも連携をとり、捜査範囲を拡大すると発表してますね。

天野勇二

矛盾むじゅんしてるな。
地元民の犯行なのか。
遠方からの犯行なのか。
警察はまるで目星がついてねぇな。

佐伯涼太

もう環八かんぱちには遺棄いきしないかもね。
犯人にとっても遺棄いきはリスキーなんだし。

天野勇二

そうだな。
捜査をかく乱するために、別の場所に遺棄いきする可能性も高い。

さて……。
どうすべきかな……。



 天野はタバコに火をつけた。



 煙を吐き出し、冷静に思考を整理する。



 この状況で警察を出し抜き、犯人の尻尾を掴むには、どこにヤマを張ればいいのか。



 天野は紫煙しえんを眺めながら言った。



天野勇二

……犯人がもう一度、環八かんぱち遺棄いきする可能性に賭けよう。
また遺棄いきが成功すれば警察の面目メンツは丸潰れだ。
犯人の強すぎる自己顕示欲も満たされることだろう。



 天野は小さく頷くと、ミス研メンバーに告げた。


天野勇二

俺様はこれから張り込みを行い、犯人と直接対決する。
お前らの仕事はここまでだ。
とっとと帰れ。

白石琴乃

はぁ!?


 琴乃が驚いて立ち上がった。


白石琴乃

なんでよ!?
ここまできて帰れっての!?
私もこの手で犯人を捕まえるわ!

天野勇二

勢いだけで口を開くな。
冷静に考えろ。
犯人は4人以上を殺害している猟奇殺人犯シリアルキラーだ。
大切な仲間がバラバラにされてもいいのか?


 富樫とメガネを指さす。


 琴乃は思わず唸った。


白石琴乃

じゃ、じゃあ。
せめて警察に……。

天野勇二

警察が俺たちの意見に耳を貸すかよ。
張り込みポイントなんか無視するに決まってる。
おまけに敵はイカれたシリアルキラー。
マトモな正論は通じないだろう。


 天野は拳を握りしめた。


 ニヤリと極悪の笑みを浮かべる。


天野勇二

そうなれば、俺様は自らの『悪』という凶暴性を全開にして、相手をブチ殺すつもりで挑むだけさ。

そこに正義なんてこだわりはない。
だから俺は『事件屋』であり、『悪』にこだわるんだ。

お前にはそこまでの覚悟があるまい。
ここは俺たちに任せろ。


 涼太も神妙な顔つきで頷く。


 メガネと富樫は素直に言った。


メガネ

それがいいと思います。
僕はコトちゃんが狙われないか心配です。

富樫和親(ヒアルロン酸)

ここは天野さんたちにお任せしましょう。
時には引くことも大事ですよ。



 琴乃は悔しそうに顔を歪めた。



 これまでの被害者は全て女性だ。



 犯人と対峙すれば、一番に狙われるのは琴乃だろう。



 部員たちの命も危険にさらすことになる。



 それでも琴乃は首を横に振った。



白石琴乃

私は美人探偵コトちゃん』
こんなところで逃げたくない!

美人探偵の誇りにかけて立ち向かうわ!

富樫くん!
斉藤さいとうくん!
私に協力して!



 琴乃は左指を突き上げて叫んだ。


 富樫とメガネはその言葉に頷いた。


富樫和親(ヒアルロン酸)

わかりました!
琴乃さんがそこまで言うなら従います!

メガネ(斉藤くん)

必ず僕がコトちゃんを守ります!
僕の命にかけて!



 ミス研は覚悟を決めて盛り上がっている。


 涼太は不安げに囁いた。



佐伯涼太

ねぇ……。
みんな大丈夫かなぁ?
殺されちゃうかもよ?


 天野は偉そうに言った。


天野勇二

まぁ、いいんじゃないのか。
俺様は忠告した。
後は好きにさせてやれよ。
どうせ、最後は俺がぶん殴って確保しちまうさ。


 天野は余裕の表情だ。


 楽しげにミス研メンバーを眺めている。


 この時、涼太は一抹いちまつの不安を覚えていた。







 張り込みは深夜から行われることになった。


 それまで一時解散。


 琴乃は実家に戻ることにした。


白石(母)

あら?
琴乃じゃない。
こんな夜遅くにどうしたの?

白石琴乃

てへへ。
ちょっと明日使うものがあるの。


 琴乃は実家の2階に上がり、妹の部屋をノックした。


白石琴乃

雪乃ゆきの
ちょっといい?

白石雪乃

あれ?
琴乃ねえさん?
どうしたの?

白石琴乃

えへへ。
ちょっとね。
悪いけど本棚借りるね。


 琴乃は本棚から一冊の本を取り出した。


白石雪乃

その本がどうかしたの?

白石琴乃

ううん。
なんでもないの。
気にしないで。
うふふ。


 琴乃は自分の部屋に戻った。


 本を開き作業を始めると、







白石琴乃

ビシュバシビッタンスーコキコンデルバー!







 妹の部屋に戻り、何事もなかったかのように本を戻した。


白石雪乃

本当にどうしたの?
何かあったの?

白石琴乃

うふふ。
いいのよ。
あなたは何も知らなくていいの。


 琴乃は優雅に微笑むと、実家を飛び出し、夜空を見上げて叫んだ。



白石琴乃

見てなさいよ!
天才クソ野郎!
美人探偵コトちゃんの黒魔術スーパーパワーを披露してやるわ!






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つばこ

今回の『美人探偵編』は、つばこの別作品『ちょっと変わった黒魔術を紹介します』とのコラボになっておりまして、両方読んでいるとより楽しめる形式になってます。恐らく『黒魔術』を読んでいただいた方は、それはそれはビックリされたことでしょう。
なお、『黒魔術』を読んでなくともなんとなく成立する物語になってます。その点はご安心ください(*´ω`*)
 
☆急募☆
 
現在、つばこは5月初旬に開始予定の『天才クソ野郎とアルカナの支配者』の執筆に取り掛かっております。
 
そこで皆さまにお願いがあります!
とにかく話数が多いので、作者コメントに書くことがないんです!
なので、何か『つばこへの質問』をください!
『アルカナ編』の作者コメントで回答します!
できれば5/23までに計40個ぐらいください! お願いします!!!
 
※〆切誤りのため修正しました(;´Д`)

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コメント 99件

  • ぷよぷよ

    黒魔術の本そのものに魔力があるのではなく、魔力を持つ使用者しか使えないってことなのかな…
    琴乃が使っても効果なかったらしいし

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  • ゆんこ

    つばこセンセに質問です。

    センセはエロスなイカしたオジサンですか?

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  • バルサ

    質問でいっぱいのコメ欄。
    誰かが、琴乃には雪乃という妹が居て黒魔術とか言ってたが本当に出てきた!
    続き気になる(^^)

    通報

  • アオカ

    宣伝の仕方うまいなwww
    黒魔術も読んでみたいな…

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  • アノニマス

    つばこさん宣伝上手www

    ポンコツサイコパスブス探偵が正義を語るな。

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