10分後。


 天野はテラスに琴乃とメガネを呼び寄せた。


 全員が集合すると、ヒアルロン酸はテーブルに地図を広げた。


ヒアルロン酸

犯人のここまでの傾向を考えると……。
次の遺棄いきは、この辺りでは起きると思うんです。


 練馬区ねりまくの南から荻窪おぎくぼまでを指さす。


天野勇二

もっと南かもしれんな。

ヒアルロン酸

そうですね。
高井戸たかいどまでカバーしたいところですが、人手が足りませんね。


 テラスにいるのは天野、涼太、琴乃、メガネ、ヒアルロン酸の5人。


 前島は芸能活動のため、一足先にテラスを後にしている。


天野勇二

どうせ警察も同じ場所ポイントを警戒している。
たった5人で警察を出し抜くのであれば、広範囲を調べても意味がない。
ヤマを張って絞り込むべきだろうな……。


 天野は思案して言った。


天野勇二

……よし。
荻窪おぎくぼ駅までの南部をメガネヒアルロン酸
井荻いおぎ駅周辺を琴乃
西武池袋せいぶいけぶくろ線までの北部は涼太、お前だけで探せ。


 メンバーはそれぞれが複雑な表情を浮かべた。


佐伯涼太

えぇっ?
ぼ、僕は1人なの?
犯人と出くわすかもしれないのに!?

天野勇二

そうだ。
犯人を見つけたら蹴り飛ばせよ。
スタンガンは使うな。

佐伯涼太

えぇっ!?
スタンガン、ダメなの!?
それじゃ僕ちゃんの『必殺・稲妻キック』が出せないじゃん!

天野勇二

そんなもの持って警察に 事情じじょう聴取ちょうしゅされてみろ。
面倒になる。
素手でぶちのめせ。


 メガネとヒアルロン酸はお互いの顔を見つめた。


 2人が考えていることは同じだ。


 このペアでは犯人に勝てる自信がない。


 そして、できれば愛しの琴乃と行動したい。


 しかしそれを天野に訴えても無駄なことだろうなぁと、2人はため息を吐いた。


白石琴乃

ちょっと!
なんで私がアンタとペアなのよ!


 琴乃が噛みつく。


 天野は冷静に吐き捨てた。


天野勇二

単純な戦闘力のバランスだ。
万が一犯人と接触した場合、女であるお前が一番貧弱で狙われやすい。
この中では俺様が一番強い。
当たり前のことだ。



 琴乃たちはしぶしぶ天野の指示に従い、それぞれのポイントへ向かった。


 環八かんぱちを歩き、遺棄いきされたパーツが転がってないか、不審者はいないか、調査して回った。



天野勇二

やはり検問が多いな。



 環八かんぱちには大規模な検問が敷かれている。


 その結果、凄まじいほどの渋滞が発生していた。


 天野は単車を停めてヘルメットを取ると、周囲を歩きながらぼやいた。


天野勇二

チッ……。
これじゃほとんど動けやしない。
不審者も遺棄いきされたパーツも見当たらねぇな……。



 もう遺棄いきが終わったのか。


 今日は遺棄いきしないのか。


 いったいどこに遺棄いきするのか、何ひとつわからない。


 しかしどうせヤマを張った捜査だ。


 空振りに終わってもいいと、天野は覚悟していた。



白石琴乃

はぁ……。
最悪の気分……。
『美人探偵コトちゃん』が『天才クソ野郎』と合同捜査なんて……。
探偵として情けないわ……。


 琴乃もヘルメットを脱いでぼやいている。


 天野は呆れながら尋ねた。


天野勇二

なぜそこまで『探偵』という肩書にこだわる?
前も言ったが、探偵の主な仕事は素行そこう調査ちょうさだ。
弁護士にアゴでコキ使われるのが趣味なのか?

白石琴乃

前も言ったけど、そんな地味な依頼はお断り。
私は『絶海の孤島での不可能殺人』なんかを解決する美人探偵になりたいの。

天野勇二

くだらねぇなぁ。
そんな探偵、すぐに廃業しちまうぞ。
前も思ったが、お前は心底どうしようもない女だな。


 琴乃はプンスカしながら言い返した。


白石琴乃

じゃあ、なんでアンタは『学園の事件屋』なんかやってるの?
報酬が『昼を奢るだけ』なんて割に合わなくない?

天野勇二

構わないさ。
それは俺様の『趣味』だからな。

白石琴乃

あらそう。
大したポリシーもなくやってるのね。

天野勇二

ポリシーがないワケじゃないが、お前のようなバカの単細胞には話す気にならんな。


 琴乃はイライラして言った。


白石琴乃

アンタって本当に無礼でムカつく男よね……!
どこまで探偵をバカにすれば気が済むのよ!

天野勇二

別に俺は『探偵』をバカにはしていない。
お前が自称する『名探偵』を小馬鹿にしているだけだ。

白石琴乃

よく言うわよ。
アンタがやってることは私が目指す『名探偵』そのもの。
『学園の事件屋』『美人探偵コトちゃん』、何も変わらないと思うけど?


 天野は少し強い瞳で琴乃を見つめた。


天野勇二

この機会だからはっきり言っておく。
『学園の事件屋』は正義の味方じゃない。
この世にはびこる悪と何も変わらない。
お前が目指している『名探偵』とは根本から違うんだ。

だが、俺は俺なりに、そのことに自らの存在意義を見出した。
だから今も依頼を受けて、この趣味を続けている。


 偉そうに言葉を続ける。


天野勇二

そもそもな、俺様は自ら『天才クソ野郎』と名乗り始めたワケじゃないんだ。
この趣味を続けていたら、誰かが勝手に『天才クソ野郎』と呼び始めた。
お前も名探偵を自称するのではなく、様々な過程を経て、他人から『美人探偵コトちゃん』と呼ばれろよ。


 琴乃は顔を真っ赤にして叫んだ。


白石琴乃

私はもう、色々な人から『美人探偵コトちゃん』って呼ばれてるわよ!

天野勇二

それはお前が自称しているからだ。

白石琴乃

そうじゃない!
私だって事件を解決したことあるもの!

天野勇二

ほう?
どんな事件だ。


 琴乃は悔しそうに顔を歪めた。


白石琴乃

ま、迷子になった猫を見つけたり、落とした学生証や財布を探したり、友達に言い寄る男に文句を言ったり、テストのヤマを教えたり……。


 天野は感心したように言った。


天野勇二

素晴らしい。
立派な探偵の仕事だ。
それで良いじゃないか。

白石琴乃

良くないわよ!
アンタは殺人事件を何件も解決して、アイドルのSPまで務めたりしてる!
それが私のなりたい『名探偵』なのよ!

天野勇二

何を言ってやがる。
迷い猫を探したんだろ?
それで依頼人を満足させたんだからいいじゃないか。
お前は俺様とは違う立派な探偵だよ。


 琴乃はムスっとして頬を膨らませた。


白石琴乃

またバカにしてる。
本当にムカつく男ね。
アンタはどうして、そこまで『悪』であることにこだわるのよ。

天野勇二

俺は昔、心を壊してな。
正義のヒーローになりたかった自分が嫌になったんだ。
それに俺の行動を見ていればわかるさ。
クソ野郎そのものだってな。


 琴乃は呆れたように言った。


白石琴乃

私にはわかんない。
アンタが何を考えてんのかさっぱり。
ただ、アンタが『クソ野郎』ってことは理解できた。

天野勇二

クックックッ……。
それで十分だ。


 その時、天野の前を1台のロードバイクが通過した。


 都内のオフィス業務には欠かせない自転車便メッセンジャーだ。


 天野は表情を一変させると、ヘルメットをかぶり単車にまたがった。


天野勇二

行くぞ!
ヘルメットをつけて乗れ!

白石琴乃

え、え?
なんでよ?

天野勇二

早くしろ!!!


 急いで単車を走らせる。


 ロードバイクは猛スピードで環八かんぱちをまたぎり、裏路地を抜け、北部へ走り去った。


 天野はスマホを取り出した。


佐伯涼太

はぁい。
涼太だよー。

天野勇二

勇二だ。
来たぞ。
そっちに向かってる。

佐伯涼太

うぇぇ!?
マジで!
こっち来てんの!?

天野勇二

青いトレックのロードバイクだ。
歩道も見逃すな。


 天野は電話を切り、環八かんぱちの流れに乗った。


 しかし、検問のため渋滞が発生しており、まったく前に進まない。


 舌打ちしながら裏路地に逃げる。


 しかし警察は甘くなかった。


 張っていた白バイにあっさり捕まった。


白バイ隊員

停まってください。
検問です。


 ここで警察と揉めるだけ時間の無駄だ。


 苛立ちを噛み殺しながら免許証を差し出すと、スマホが鳴った。


天野勇二

待ってくれ。
電話だ。
その間、この女を頼む。


 警官に琴乃を押しつける。


 さり気なく離れて電話に出た。


天野勇二

勇二だ。

佐伯涼太

ゆ、ゆ、勇二?
涼太だよ。

天野勇二

どうした?

佐伯涼太

あ、あ、あったよ。
ど、どうしよう……?



 天野はニヤリと口唇を歪めた。



 第6の遺棄いき事件の発生だ。



 警察より早く遺棄いき死体を発見することができた。



 これは大きな進展になる。



天野勇二

手か?

佐伯涼太

そ、そう……。
手なんだ。
ど、どうすればいい?

天野勇二

布で隠せ。
それを隠すように立っていろ。
場所はどこだ。


 天野は住所を聞くと尋ねた。


天野勇二

置いたヤツは見たか?

佐伯涼太

い、いや、まったく見てない。
突然、出現したカンジ。

天野勇二

近くにロードバイクがいただろ。

佐伯涼太

う、うん。
確かに何台かいたね。

天野勇二

青いトレックはいたか?

佐伯涼太

う、うん。
いたと思う。
トレックが何か知らないけど、青いのは何台か見た。

天野勇二

今からそちらに向かう。
ヒアルロン酸たちも集合させろ。

佐伯涼太

わ、わかった。

天野勇二

くれぐれも注意しろ。
近くに犯人がいて、お前の様子を伺っているかもしれない。
殺されるんじゃないぞ。


 涼太の「ひぃ!」という悲鳴を聴きながら電話を切る。


 その間、琴乃は警官と談笑していた。


白石琴乃

まだ付きあい始めたばかりでぇ、今日が初デートなんですぅ。
川越かわごえまでお出かけするんですよぉ。


 琴乃がブリっ子を演じて愛敬を振りまいている。


 事情聴取を早く終わらせるため、芝居を打っているようだ。


白バイ隊員

最近は物騒ですからね。
気をつけてください。

白石琴乃

はぁい。
ありがとうございまぁーす。


 事情聴取はあっさり終わった。


 単車を発進させると、琴乃が嫌そうに吐き捨てた。


白石琴乃

アンタが『恋人』だなんて、自分で言って吐き気したわよ。
うわぁ気持ち悪い。
鳥肌立っちゃった。

天野勇二

ああ、俺様もお前と付き合うのは御免だな。

白石琴乃

あら?
珍しく意見が一致したわね。

天野勇二

まったくだな。
さて、本当に気持ち悪いものに出会えるぜ。


 天野は涼太の指定した場所まで走った。


 オフィスビルの植え込み前に、涼太の青白い顔があった。


天野勇二

涼太よ。
ブツはどこにある。


 手袋をしながら尋ねる。


 涼太は植え込みを指さした。


 何かの上にハンカチが置かれている。


佐伯涼太

ここにあるよ。
予め言っておくけど、超グロイよ。


 周囲には猛烈な腐敗臭が漂っている。


 臭いの元は、ハンカチの下だ。


白石琴乃

ね、ねぇ……。
この臭い、なに?


 琴乃が鼻をつまんでいる。


天野勇二

まだ言ってなかったな。
第6の遺棄いき事件の発生だ。
遺棄いきされたパーツを調べる瞬間は今しかない。
見るだけではなく、よく臭いを嗅いでおけ。


 琴乃の顔に緊張が走る。


 涼太は無言でハンカチを取った。



白石琴乃

きゃああっ!



 琴乃は思わず口元を押さえた。


 そこにあるのは、真っ黒に腐敗した右手だった。



白石琴乃

う、うわぁ……。
なにこれ……!?
き、気持ち悪い……!



 天野は手首の切断面を調べた。


 かなり切れ味の鋭い刃物で切られている。


 恐らく電動ノコギリだろう。


 切断面からは大量のウジがわいている。



白石琴乃

うげぇ……。
よくそんな気持ち悪いもの、じっくり見れるわね……。

天野勇二

アホか。
お前もよく調べろ。
探偵じゃねぇのか。



 天野はピンセットを取り出した。


 爪の間に何か詰まってないか確かめる。


 爪はボロボロに折れ、根元にラインストーンが微かにへばりついている。


 何度もひっくり返し、手のひらの痕跡も確かめる。



白石琴乃

うわぁぁ……!
アイツ、あんなに触ってる……。
なんか触り方がキモいんだけど……!

佐伯涼太

ホントだよねぇ。
顔色ひとつ変わってないよ。
医学生って恐ろしいね。

白石琴乃

それにこの臭い……!
鼻が曲がりそう。
人間が腐ると、こんなイヤな臭いがするのね……。

天野勇二

ギャーギャーうるせぇんだよ。
警察に気づかれる。
こっちに来て俺様と手を隠せ。



 琴乃と涼太は口元を押さえ、天野と遺棄いきされた手を隠すように立った。


 天野は何度も手のひらの痕跡と、爪の間に詰まった肉を調べている。


 手は開いた状態で硬直している。


 手のひらには何かが食い込んだ後がある。


 皮膚が切れ、出血した形跡も見受けられる。



天野勇二

手のひらには何が食い込んだ?
指の骨は折れてない……。
切り落とした後に開かせたとすれば……。

……うん?



 天野は立ち上がり、瞳を細めながら周囲の臭いを嗅いだ。


 遺棄いきされた手にも鼻先を近づける。


 何度も注意深く臭いを嗅ぐと、天野は小さく頷いた。



天野勇二

……なるほど。
そういうことか。



 最後に写真を撮影する。


 手のひら、手の甲、爪先、切断面。


 全方向から撮影した。


天野勇二

これでいいだろう。
撤収するぞ。


 琴乃は驚いて尋ねた。


白石琴乃

えぇっ!?
警察は?
通報しないの!?

天野勇二

誰かが勝手に通報するさ。
これだけ腐敗臭が強ければすぐに見つかる。
そんなことよりも……。


 天野は何事もないように言った。



天野勇二

なんか小腹が空いたな。
肉が食いたい気分だ。
ファミレスにでも行こうぜ。






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つばこ

涼太くんは運が良いですよねぇ。あいつ持ってますよ。なかなか遺棄された人体の第一発見者にはなれませんよ。
 
【涼太くんの持ってるエピソードまとめ】
・死体の第一発見者になる(7話)
・殺人犯を尾行する(23話)
・殺人事件にたまたま遭遇する(81話)
・また死体の第一発見者になる(107話)
・遺棄事件の第一発見者になる(163話)New!!
 
最初は死体を見てプルプル怯えていたのに、今はかなり図太くなってきた涼太くんの運命やいかに!
 
 
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コメント 104件

  • ぷよぷよ

    誰かが勝手に通報するさ←罪無き一般市民に「切断された手」という超グロいものを見せてしまうということ
    天野、わりと容赦ない( ノД`)…

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  • Do印

    こっから肉食いに行くとかヤバいな

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  • 綾夏

    天野お!こんなのよく観察してから、肉食いに行くのか〜!すごいな

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  • バルサ

    腐敗臭漂うのを見た後で、食べに行けるとは つわものだわ(^^;;

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  • チアリーポジティブ

    この子頭花畑すぎる…

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