※この物語はフィクションであり、実在の人物及び団体とは一切関係ありません。





 都内にある一流私大。


 学生食堂の2階テラス席。


 ここは学園一の問題児、天野勇二あまのゆうじ根城ねじろだ。



 その日、天野はいつものように昼食であるみかんを頬張りながら、のんびりタバコを吸っていた。



???

……失礼だけど、あなたが天野勇二さんかしら。



 テラスに1人の女子学生が現れた。


 ショートカットの美人。


 目鼻の整った、聡明な瞳の持ち主だ。


天野勇二

そうだが……。
お前は誰だ?


 天野は偉そうに言い放った。


天野勇二

人に名前を尋ねる時は自分から名乗りましょうと、幼稚園で教わらなかったのか?
幼稚園の決まりごとも守れないクソガキめ。
それともお前は、まだオムツが取れてない赤子クソガキなのか?


 女性はにんまりと不敵な笑みを浮かべた。


???

噂は本当だったのね。
初対面の相手でも、気障キザで嫌味ったらしい物言いを振りかざす真性のクソ野郎……。

はじめまして。
私は白石琴乃しらいしことのというものよ。


 琴乃と名乗った女は、腕を腰に置き、偉そうに天野を見下している。


天野勇二

なるほど。
それで、俺様に何の用だ?


 琴乃は指を「ビシッ」と天野に突きつけた。



白石琴乃

天才クソ野郎!
この私と勝負しなさい!



 天野は冷静に尋ねた。


天野勇二

……俺様と勝負だと?
なぜだ?

白石琴乃

私はね、あなたと同じように『あだ名』があるのよ。


 琴乃は左指を突き上げた。


白石琴乃

キュートな推理でたったひとつの真実を解き明かす!

見た目は美人で頭脳はオトナ!

その名も……!






白石琴乃

美人探偵コトちゃん!






 天野はごくごく冷静に言った。


天野勇二

もう春になったからな。
陽気にやられて頭がイカれたのだろう。
学食の冷凍庫で涼んできたらどうだ?
スーパーの冷凍食品コーナーで余生よせいを過ごすのも悪くない。
気の利いた店員が『半額』のシールを貼ってくれるかもしれないぞ。


 琴乃は苛立ちながら叫んだ。


白石琴乃

ちょっと!
人の話を聞きなさいよ!

天野勇二

いや、お前が俺様の話を聞けよ。

白石琴乃

私は『学園の美人探偵』なの!
あなたは『学園の事件屋』として有名みたいだけど、私は美人探偵として有名なのよ!



 天野は呆れてしまった。


 久々にやって来たテラスへの訪問者は、かなりイカれた娘のようだ。



天野勇二

……それで、その名探偵様が、俺様に何の用なんだ?



 琴乃は天野を憎々しく睨みつけた。


白石琴乃

私はね、あなたみたいな事件屋とは違って、理知的に謎を解き明かし解決する『名探偵』なの。
それが何よ!
あなたこの間、指名手配されたくせに、真犯人を突き出して『現代の名探偵』って呼ばれてたじゃない!



 天野はのんびり煙を吐き出した。


 確かに以前、そんな事件があった。


 マスコミがそのように騒いでいた気もする。


(詳しくは『彼を上手に流出させる方法』を参照)



白石琴乃

いつの時代も名探偵は1人で十分なの。
あなたに出しゃばられたら『美人探偵』の名が汚れる!
だから私と勝負しなさい!
『学園の名探偵』の座をかけて!


 天野はげんなりしてしまった。


天野勇二

お前なぁ……。
もう大学生なんだから、中学2年生クソガキみたいなこと言ってんじゃねぇよ。
まだ厨二病が治らないのか?
何が『学園の名探偵』だ。
そんなもの好きに名乗れよ。


 琴乃は腕をブンブンと振り回した。


白石琴乃

じゃあ、なんでアンタは『学園の事件屋』なんてやってんのよ!?
学生のあらゆる依頼を引き受ける。
しかも報酬は『昼を奢る』だけ。
そんなの『探偵』と変わらないじゃない!

天野勇二

バカな女だ。
さては『事件屋』『探偵』の区別がついてないな?
ここはアメリカでもイギリスでもない。
現代日本の探偵なんて弁護士にアゴでコキ使われるような存在だぜ。
そんなに素行調査そこうちょうさがやりたいのか?
人様の不倫現場をスクープするのが好みか?

白石琴乃

そんな地味な依頼はお断りね。
警察が解決できない難事件を解き明かすのよ。

天野勇二

難事件?
それはなんだ?


 琴乃はキラキラと瞳を輝かせた。


白石琴乃

もちろん 『古い洋館の密室殺人』とか、『田舎村での見立て殺人事件』とか……。
警察がさじを投げ出すような未解決事件を解決するのよ!

天野勇二

呆れたな。
お前はドラマや漫画の見すぎだ。
そんな名探偵、この現代に存在しないぜ。

そもそもお前は殺人事件を解決したことがあるのか?
ちなみに俺は探偵じゃないが3件ほどあるぞ。
しかもそのひとつは、お前の大好きな密室殺人だ。


 琴乃はぐっと喉を詰まらせた。


天野勇二

それに俺様は『謎解き』なんて興味ないんだ。
俺様は瞳を見ただけで、そいつが嘘を吐いているのか。人を殺したことがあるのか……。
大体のことを見分けられる。
どんなトリックがあっても知ったことじゃない。
そいつをぶん殴って脅して自供させるか、証拠を作って警察に突き出しちまえばいいんだ。


 琴乃は顔を真っ赤にして怒鳴った。


白石琴乃

そんなの警察の違法捜査と変わらないわ!
あんたみたいなヤツが冤罪えんざい事件を作るのよ!

天野勇二

残念だが、この天才クソ野郎の目に狂いはない。
ひとつ証明してやろう。

お前は感情的に動く脳味噌の足りない厨二病患者バカだ。
俺様の挑発に乗ってすぐ怒り狂う。
俺様がむかついてしょうがないんだろう?
俺様の言動は不快だろう?
お前はバカだからイエスと言いそうだ。
そうだろう?


 琴乃は悔しそうに顔を歪めた。


白石琴乃

くっ……。
べ、別に……。
アンタ程度にそんなこと思わないわ。


 天野は指を「パチン」と鳴らした。


天野勇二

今、俺はお前の『嘘』を知った。
そして『ライアーサイン』を手に入れた。

白石琴乃

ラ、ライアーサイン?

天野勇二

人は嘘をく時に必ずサインを出しちまうのさ。

お前の場合は左手が無意識に恥骨ちこつを撫で、重心が左側に傾く。
まばたきの回数が倍に増え、左頬の筋肉が硬直し、右目尻の 痙攣けいれんが発生する。

俺はこの一瞬でお前の嘘を吐く時の仕草ライアーサインをここまで見抜いた。
もうお前の心理を読むことも容易くなった、というワケだ。


 琴乃は思わず自らの身体を眺めた。


 そんな些細ささいな変化、まったく気づかなかったという顔をしている。


 天野はからかうように言った。


天野勇二

クックックッ……。
さぁ、ここでひとつ名探偵に問題を出してやろう。

今の発言ライアーサインの中にはひとつブラフがあった。

さて、どれのことかわかるかな?
お前自身の身体の変化だぞ?
名探偵ならスパッと解いてくれよ。


 琴乃は思わず唸った。


 天野はさらに不快な言葉を叩きつける。


天野勇二

わかりやすいところで解説してやろう。
今、お前の眼球は一瞬『右』を向いた。
人間が想像力を働かせる時の仕草のひとつだ。

記憶を辿たどる時は『左』
想像する時は『右』を無意識に見てしまう。

この時点でお前は『ブラフ』なんか気づいてないし、俺様が指摘したことを全て覚えていない、ということがわかってしまった。


 ニタリと悪い笑みを浮かべる。


天野勇二

何が名探偵だ。
笑わせるぜ。
俺様は貴様みたいな小娘に付き合う気はない。
せろ。





 琴乃は愕然がくぜんと天野を見つめた。


 屈辱と怒りが全身をプルプルと震わせている。



白石琴乃

……本当に、噂通りなのね……!



 何度も大きく深呼吸。


 天野のことを殺すような目つきで睨む。



白石琴乃

なるほど。
学業だけでなく、人の不快感を煽って居心地の悪い空間を作ることに関しても天才。
これが『天才クソ野郎』ってワケ?

天野勇二

そういうことだ。
わかったら消えろ。

白石琴乃

そうはいかない!

私が『美人探偵』として有名になるには、アンタを超える必要があるのよ!


 琴乃がテラスのテーブルを「どん」と叩く。



白石琴乃

天才クソ野郎!
やっぱり私と勝負しなさい!
これは『依頼』よ!
昼を奢るわ!



 天野はあっさり言った。


天野勇二

却下だ。
先の見えてる勝負なんてしたくない。

白石琴乃

うふふ。
さては勝つ自信がないのね。

天野勇二

よくそんな自信がわいてくるな。
そこだけは尊敬するよ。
俺様が勝つ、ということだ。
自分が勝てる勝負なんかに興味はない。
時間の無駄だからな。


 琴乃は狂ったように絶叫した。



白石琴乃

むきぃぃー!
ムカツク!
アンタ本当にむかつく!


いいから勝負しなさい!
この学園の名探偵はコトちゃんなの!
勝負するまで付きまとうわよ!



 天野は果てしなくげんなりしながら、汚物でも見るかのように琴乃を睨んでいた。







 その日の放課後。


 天野は相棒である涼太りょうたを連れて、『ミステリー研究部』の部室へ向かった。



佐伯涼太

『美人探偵コトちゃん』が天才クソ野郎に挑戦状を叩きつけるなんてねぇ……。
確かに同業者同士、いつか衝突するんじゃないかと思ってたよ。

天野勇二

なんだ?
琴乃ってのは有名なのか。

佐伯涼太

そこそこ有名だよ。
最強に厄介な依頼は僕らのところにやって来るけど、その前にコトちゃんを頼る学生は少なくないね。

天野勇二

あのバカな小娘にねぇ。
何を頼むんだか。

佐伯涼太

やっぱり 『美人探偵』ってフレーズがいいんだよ。
実際にコトちゃんは美人だしさ。
天才クソ野郎に依頼するよりは敷居しきいが低いんじゃない?


 天野は何となく納得しながら、『ミステリー研究部』の扉を開けた。


天野勇二

天野勇二だ。
天才クソ野郎のお出ましだ。


 『ミス研』の部室には長机が2つ置かれている。


 上座には琴乃。


 両サイドに2人の男が座っている。


佐伯涼太

やっほー!
コトちゃん!
佐伯涼太だよ!
相変わらず美人だね!
どうしてここにオードリー・ヘップバーンがいるのかと思ったよ!


 涼太が大げさに褒めると、両サイドの男たちの顔が不快げに歪んだ。


 天野はそれを見て、男たちが琴乃に抱いている感情を察した。


白石琴乃

涼太くんも来てくれたの。
相棒バディ』もご一緒なんて光栄ね。

佐伯涼太

違うよ。
僕はコトちゃんに会いたくて来たんだ。
クソ野郎は関係ないよ。


 天野はギロリと両サイドの男2人を睨みつけた。


 男たちはすっかり怯えており、天野をチラ見するばかり。


 案の定、天野の怒号が飛んだ。



天野勇二

おい貴様ら!
俺様は名を名乗ったぞ!
お前らも名乗るのがすじだろうが!


ミス研ってのコミュ障のたむろ場か?
早く名乗らないと、俺様が勝手に『あだ名』をつけるぞ。



 2人の男は慌てて立ち上がった。


ミス研部員の男A

あの、えっと……。
お、お前から言えよ。

ミス研部員の男B

え、え?
い、いいよ。
お前からでいいよ。

ミス研部員の男A

いや、お、俺は……。
お前の後でいいよ。

ミス研部員の男B

僕はお前の次で……。




 ドカン!




 天野が長机を蹴り飛ばした。


天野勇二

遅ぇんだよ!
もういい!
俺様が『あだ名』をつけてやる!


まずそこのお前。
小太りのブサイクのくせにメガネがオシャレじゃないか。
そうだな。

『メガネ』
でいいや。


 もう片方の男を睨みつける。


天野勇二

お前はブサイクなチビだが、肌が白くて綺麗じゃないか。
そうだな。

『ヒアルロン酸』でいいや。


 天野はあだ名をつけると「座れ」と指示した。


 メガネとヒアルロン酸は複雑な表情を浮かべたまま椅子に戻った。


白石琴乃

改めて自己紹介するわ。
私は白石琴乃。
ミス研の部長であり、通称 『美人探偵コトちゃん』
依頼は昼間に言った通り。

『学園の名探偵』の座をかけて、勝負しなさい!


 琴乃が偉そうに叫ぶ。


 天野はため息を吐きながら尋ねた。


天野勇二

どんな勝負をしたいんだ?

白石琴乃

探偵なんだから『推理勝負』に決まってるじゃない。
そうね……。
水平思考問題で勝負するってのはどう?

天野勇二

そんなもんやって何の得があるんだ。
それに勝ったところでお前の地位は向上しないぞ。

白石琴乃

あらぁ?
さては勝つ自信がないのね?

天野勇二

違う。
俺様はお前の百歩も千歩も先を見ている。



 天野は鞄からひとつの地図を取り出した。


 地図は東京のとある区域のもの。


 いくつかの赤い『×印』が書かれている。


ヒアルロン酸

それは、もしかして……。


 ヒアルロン酸が一番に反応した。


天野勇二

そうだ。
最近起きた事件だ。


 天野は地図を広げながら、琴乃に語りかけた。


天野勇二

いいか。
俺様は依頼を受けた。
お前が『美人探偵』として有名になりたい、という依頼だ。
俺様はそのプロデュース方法を用意してやった。


 地図を指さしながら言葉を続ける。


天野勇二

これは1週間前から発生している事件だ。
都内の某所に『人体の一部』をばらまくという猟奇的な死体遺棄いき事件。

通称環状八号線かんじょうはちごうせんバラバラ死体遺棄事件したいいきじけんだ。

お前らも知っているだろう?
マスコミは連日この事件を報道しており、警察は血眼ちまなこになって犯人を追っているからな。


 琴乃は困惑しながら地図を見つめた。


白石琴乃

こ、これが……。
どうしたっていうの?

天野勇二

まだ理解できねぇのか。
大丈夫か。
この美人探偵。


 天野は偉そうに言い放った。



天野勇二

この事件を警察よりも早く解き、犯人を確保しろ。
そうすれば、お前は『美人探偵』として学園の人気者になれる。






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つばこ

どうも、つばこです。
今週もお読みいただきありがとうございます。
 
今回は天野くんに匹敵するほどの厨二病患者こと、『美人探偵コトちゃん』を軸として物語が展開していきます。
しかも今回はcomico PLUS ノベルで販売中の『ちょっと変わった黒魔術を紹介します』とのコラボ作品になっており、そちらを読んでいると二重に楽しめる、というオマケつきになっております。
つばこのクロスオーバーっぷりを楽しんでいただければ幸いでございます。
 
ではでは、いつも応援やコメント、本当にありがとうございます!∠(`・ω・´)

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コメント 95件

  • ハヤ

    やべぇ奴だしやべぇ奴だけど、前話のビッチとの高低差で可愛く感じるwwいや、うん、実際これは嫌いじゃないぞ!

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  • 千花音(ちかね)

    メガネはよくあるけど、ヒアルロン酸は嫌だwww

    由来はポジティブやけど、呼ばれんのは恥ずかしそうww

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  • ゆんこ

    (#^ω^)

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  • 和泉

    美人探偵って言うからてっきり前島さんかと思ってました!
    アルカナも読んでるところなのでヒアルロン酸登場がとても嬉しいです!(*´∀`)

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  • たま

    やっとヒアルロン酸に出会えた٩(ˊᗜˋ*)و

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