( ゚д゚)
天野たちがお台場に出かけた翌日。
その日から『涼太&沙也加』という、異質な
クラスメイトたちは突然仲良くなった2人の姿に驚いていたが、それ以上に『高校デビュー』を遂げた涼太の姿に仰天していた。
つい最近まで
人とは短期間でここまで変わってしまうのかと、クラスメイトたちは気持ち悪そうに涼太を眺めていた。
そして、天野には100を超える『マジックワード』を考えるという、試練の日々が訪れた。
天野勇二
……ということだ。
これが78個目のマジックワード、 『かきくけこ』だ。
佐伯涼太
なるほどねぇ。
女子ってこんなプロセスで褒めるんだ。
ただ
天野勇二
まぁ、そういうことだ。
全ての『マジックワード』はブラフだったが、それはあくまで『女性の口説き方』という点だけだ。
『マジックワード』自体は会話術やコミュニケーション術の初歩知識。
天野はそれを独自に体系化して落とし込んでいる。
これが涼太にハマった。
佐伯涼太
なるほどなぁ。
これってさ、44個目のマジックワードと組み合わせると効果的だよね。
天野勇二
なに……?
よ、44個目……?
佐伯涼太
『
勇二が教えてくれたのに何をボケてるのさぁ。
むしろ『キャラ
天野勇二
あ、ああ……。
佐伯涼太
まさか『かきくけこ』の『こ』が『
21個目のマジックワード『言い訳』をより応用させたってことかぁ。
これで女の子を温泉に誘いやすくなるんだね!
天野勇二
そ、そうだな……。
困ったことに『チャラ男』の才能は想像以上だった。
天野の言葉を
本当に100を超えるマジックワードを1ヶ月ほどで覚えてしまった。
涼太はそれからどんどん進化を
教師に怒られても茶髪を貫き通し、眉をこまめに整え、化粧水を塗りたくり、歯と口臭に気を使い、ファッション雑誌を読みふけり、衣服や靴が清潔であるように努めた。
顔には自信がみなぎり、
そして身長が伸びた。
ぐんぐん伸びた。
単純に成長期を迎えたのかもしれないが、天野は「絶対に内面の変化によるものだ」と思っていた。
ほんの1ヶ月ほどで、天野と同じ180センチを越える八頭身に進化したのだ。
結果、涼太は女子からの視線を集めるイケメンとなった。
この男が女を知ったらどこまで進化してしまうのか、当時の天野は不安だった。
きっと沢山の女性に手を出す軽薄な男になるだろう、と思っていたし、そうなった。
そこまで仕立て上げたのは天野自身だ。
例え背後から刺されるようなチャラ男になっても、自分だけは見届ける義務があるだろう、と思っていた。
こうして『天才的チャラ男』はこの世に誕生したことになる。
葛城の『キープ』に昇格してから1ヶ月ほどの時が流れた。
涼太はその夜、駅前のファーストフード店で葛城を待っていた。
佐伯涼太
うぷぷっ……。
沙也加ちゃんってば、
『バイト後に少しだけでも会いたい』
だなんて、カワイイこと言ってくれるよなぁ……。
携帯電話を見ながらニヤけている。
葛城は21時までバイト。
その後、少しだけデートをしないかと誘われたのだ。
佐伯涼太
……ん?
ふと涼太は視線を感じた。
店内の奥にいる女子高生の集団が、こちらをチラチラ眺めている。
他校の制服。
見知らぬ顔だ。
頬がほんのり赤く染まっているので、涼太に関する好ましい話をしているのだろう。
佐伯涼太
(僕ってば、 マジでモテるようになったよなぁ……)
涼太は小さな笑みを浮かべた。
佐伯涼太
(ちょっと前の僕なんて、女の子に見向きもされなかったのに。あの子たちをナンパしたら、結構うまくいったりするのかなぁ……)
涼太はご機嫌だった。
いつの間にか身長が伸び、女子との接触も増えるようになった。
今の自分なら「女の子なんてDNAの配列が違うだけのホモサピエンスだよ」と、胸を張って言えるだろう。
佐伯涼太
(まぁ、僕は沙也加ちゃんにしか興味ないけどさ)
まだこの時の涼太は『純情』な青年だった。
どれだけモテるようになっても、葛城のハートを掴まなくては意味がない。
葛城との関係は順調。
2人きりで出かけることも多い。
しかし、まだ『キープ』から『
葛城の『悩み事』とやらが解決していないのだろう。
葛城沙也加
お待たせ。
涼太くん、待たせてごめんね。
バイトあがりの葛城がやって来た。
明るい笑顔を浮かべ、涼太の前に座る。
今日もポニーテールの尻尾がリズミカルに揺れている。
いつか涼太が「いつもの
佐伯涼太
ううん。
ぜーんぜん待ってないよ。
何か頼む?
葛城沙也加
いいの。
最近、食欲なくて。
明るい笑顔を浮かべているが、よく『観察』すると心なしか顔色が悪い。
佐伯涼太
バイトあがりでお疲れ?
もし体調悪いんだったら無理しないでね。
葛城沙也加
悪いよ。
涼太くんを待たせてたのに。
佐伯涼太
僕はどうでもいいって。
沙也加ちゃんのことが一番大切なんだから。
葛城は嬉しそうに微笑んだ。
葛城沙也加
それ、ホント?
佐伯涼太
ホントだよ。
僕はね、沙也加ちゃんのためなら全てを捧げちゃうんだ。
葛城沙也加
また調子いいこと言って。
ホントかなぁ?
最近、女子の評判が良いから浮かれてない?
佐伯涼太
あははっ。
浮かれてなんかいないよ。
僕は沙也加ちゃんにしか興味ない。
沙也加ちゃん以上の女の子はいないからね。
葛城沙也加
そんな嬉しいこと言われると、頼りたくなっちゃうよ。
佐伯涼太
いいじゃん。
何もかも頼ってくれていいんだよ。
涼太が爽やかに告げると、葛城は小さく息を吐いた。
葛城沙也加
……それなら、涼太くんに甘えても、いいのかなぁ……。
それは、これまで聞いたことのない、甘く切ない呟きだった。
その場の空気が一変する。
涼太は驚いて葛城を見つめた。
佐伯涼太
(……あれ、なにこの空気。こんな空気、初めてなんですけど)
葛城の様子がいつもと違う。
涼太は震える口を開いた。
佐伯涼太
あ、甘えていいんだよ。
ぼ、僕はね、沙也加ちゃんに頼られるのが、人生で一番の幸せだからさ。
葛城沙也加
……ホント?
佐伯涼太
ホントだよ。
誰が何を言ってもホントだよ。
葛城は何度か頷いた。
意を決したように口を開く。
葛城沙也加
それなら……。
前に言ったこと……。
覚えてる?
佐伯涼太
ま、前に言ったこと?
え、えっと?
葛城沙也加
ほら、涼太くんとお付き合いできない理由のこと。
まだ待ってほしいって、言ったでしょ?
『悩み事』のことだ。
涼太は慌てて頷いた。
佐伯涼太
覚えてるよ。
悩み事が解消するまで待ってほしい、ってやつだよね。
葛城沙也加
うん。
佐伯涼太
何かあったの?
僕はなんだって力になるよ。
葛城は静かに涼太を見上げた。
葛城沙也加
……ホントに?
佐伯涼太
もちろんだって。
なんだって協力する。
葛城沙也加
うん……。
ありがとう…‥。
実は、私もね……。
葛城はそっと手を伸ばし、机の上に置かれた涼太の両手に触れた。
葛城沙也加
涼太くんと、お付き合いしたい。
そう思ってるんだ……。
私も涼太くんのこと、好き、だから……。
それは涼太が初めて聞く『愛の告白』だった。
信じられないほどの衝撃が体中に走った。
目の前が涙でじわりと
ただ『好き』だと告げられることがこんなに嬉しいなんて。
この言葉を聞くために、自分はこの世界に存在していた。
そう感じた。
佐伯涼太
マ、マジで?
ホントに……?
葛城沙也加
うん……。
葛城が照れ臭そうに頷く。
その仕草、表情、瞳や肌の色。
全てが美しく、また愛おしく見えた。
葛城沙也加
ずっと待たせてごめんね。
私のことを一番想ってくれるのは涼太くんだなぁって、わかったの。
佐伯涼太
と、当然だよ!
僕は誰よりも沙也加ちゃんを愛している。
この気持ちは誰にも負けないよ!
葛城沙也加
それなら……。
優しく涼太の手を握りしめる。
静かな声で呟いた。
葛城沙也加
私の『悩み事』をね、解決するために、助けてくれないかな……?
佐伯涼太
なんでも言ってよ!
僕が沙也加ちゃんの力になる!
葛城沙也加
ホントに?
私が何を言っても、嫌いにならない?
佐伯涼太
嫌いになるワケないじゃん!
こんなに好きなのに!
葛城は嬉しそうに頬を染めた。
葛城沙也加
そう言ってくれるの、きっと涼太くんだけ……。
もう、涼太くんしか頼れないの……。
佐伯涼太
うん、頼ってほしいな。
なんでも言ってよ。
葛城沙也加
実はね…… 。
瞳を伏せたまま、葛城はずっと抱えていた『悩み事』を告げた。
佐伯涼太
えっ……。
涼太の世界がぐらりと揺れた。
目の前の景色から色が消えていく。
全ての景色や物音までが、まるで『まがい物』だったかのように消えていく。
ファーストフード店に流れていたBGMも。
どこかの女子高校生の話し声も。
全て消えていった。
目の前には葛城がいる。
両手に感じる温もりだけが、そこに葛城がいることを教えてくれている。
佐伯涼太
マジで……?
それ、本当なの……?
葛城沙也加
うん……。
ホントなんだ……。
私ね……。
葛城の瞳から涙が落ちた。
その涙を拭うことも、ハンカチを取り出すことも、何も考えられなかった。
葛城沙也加
妊娠してるみたいなの……。
そう呟く顔に、涼太は1人の少女の
この時。
この瞬間まで。
涼太は気づかなかった。
葛城沙也加
ずっとね、生理がこなかったんだ……。
似ている。
明らかに別人なのに、どこか
涼太が初めて恋をした少女。
ほんの
葛城沙也加
妊娠検査薬を使ってみたら、陽性だったの……。
もう、どうしたらいいのか……わからないの……。
太陽のように明るかった笑顔は嘘のように消え去り、
だからだろうか。
その顔が太陽の光を嫌っていた、綾瀬の白い顔を思い起こさせた。
佐伯涼太
(どうして……)
涼太は闇の中で呟いた。
佐伯涼太
(どうして僕は、こんなことを考えているんだろう)
葛城が何かを喋っている。
泣きじゃくり、何か言葉を発している。
その声は涼太に届かなかった。
佐伯涼太
(どうして僕は、こんな時に、綾瀬さんのことを思い出しているんだろう)
声をかけたのか。
何も喋っていないのか。
涼太にはわからなかった。
触れていた手の温もりさえ、静かに消えようとしていた。
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