駅前の路上。


 真っ白な高級車ロールスロイスが停車している。


 天野が近づくと、運転手の男がうやうやしく頭を下げた。



運転手

ぼっちゃま。
お待ちしておりました。

天野勇二

悪かったな伊藤いとうよ。
休みのところを呼び出して。

伊藤(運転手)

いえいえ。
坊ちゃまのデートに使っていただけるとは光栄でございます。

天野勇二

いつも感謝しているぜ。


 偉そうなねぎらいの言葉を聞き、伊藤は嬉しそうに頭を下げた。


 天野の父親は本当に『専属の運転手』を雇っている。


 ロールスロイスだって本当に所有しているのだ。




 伊藤は天野の幼少時から運転手を務めている。


 付き合いはかなり長い。


 天野にとっては叔父おじのような存在で、伊藤から見れば可愛い孫のようなもの。


 伊藤は天野のために、念入りにロールスを磨き上げていた。




 ロールスの後部座席で天野たちがのんびりしていると、葛城からメールが届いた。


天野勇二

……ほう。
これは期待値を上回ったぞ。

佐伯涼太

葛城さんから?

天野勇二

ああ、そうだ。

『友達が一緒でもいいかな?』

だとよ。
1人じゃ不安だったのか、自慢したら誰かが釣れたのか。
どちらかだろうな。

佐伯涼太

ありゃ、葛城さんだけじゃないんだ。
どうしよう?

天野勇二

これは好都合さ。
俺は女友達とやらを狙い撃ちして口説きまくる。
もう葛城と話なんかしねぇぞ。


 メールを返信して10分後。


 葛城が小走りでやって来た。


 隣に小柄な娘を連れている。


葛城沙也加

ごめんなさい。
待たせちゃった?

天野勇二

いや、全然。
そちらがお友達?

葛城沙也加

うん、バイト先の友達なの。
違う高校だけど同い年なんだ。
高橋里音たかはしりおんちゃんだよ。


 小柄な娘がおずおずと頭を下げる。


高橋里音

ど、どうも、高橋です。
ごめんなさい。
急に参加しちゃって。

天野勇二

ゲストは歓迎さ。
いや、君ほど可愛い子なら、むしろ大歓迎だよ。


 天野は即座に高橋をロックオンした。


 それほど可愛い娘ではない。


 愛嬌あいきょうのある子狸こだぬきのような顔つきだ。


 しかし、胸元の自己主張が激しく、スタイルは悪くない。


 「軽く落とせそうな女がきたぜ」と、天野は悪い笑みを浮かべた。


天野勇二

さぁ、乗ってよ。
高橋さん、足元に気をつけて。


 高橋の乗車をアシストし、さり気なく肩を抱いて隣に誘導する。


天野勇二

伊藤よ。
台場まで行ってくれ。

伊藤(運転手)

かしこまりました。


 車はゆっくりと発進した。


 葛城は車内を眺め、感嘆かんたんの声をもらした。


葛城沙也加

す、すごいね。
勇二くん、本当のお金持ちなんだね……。


 実に豪華ごうか絢爛けんらんな車内だ。


 白を基調としたインテリアは恐ろしいほど清潔で、それ自体が輝きを放っているかのようだ。


 本皮のシートは寝具のように柔らかく、どこか甘い香りが漂っている。


 中央には小さな机が置かれ、鮮やかなマカロンタワーがそびえ立っていた。


天野勇二

そうかな?
普通だよ。

葛城沙也加

ふ、普通じゃないと思うなぁ……。

天野勇二

それより高橋さんは俺とタメなんだよね。
どこの高校なの?


 葛城を軽く無視シカトすると、天野は即座に高橋へ切り込んだ。


高橋里音

あの、南の高校で……。

天野勇二

へぇ、いいところだよね。
何か飲む?

高橋里音

あ、はい。
冷蔵庫まであるんだ。
すごいなぁ……。

天野勇二

小腹が空いたら言ってね。
スイーツも用意してるから。
バイトは高校から始めたの?

高橋里音

うん。
葛城さんと一緒に始めたの。

天野勇二

そうなんだ。
ファミレスのバイトってさ、やっぱり忙しいの?

高橋里音

うちは暇なほうみたい。

天野勇二

へぇ、興味あるなぁ。
高橋さんは看板娘なんでしょ?

高橋里音

い、いやぁ……。
私なんてぜんぜん……。
それは葛城さんのほうかなぁ……。


 天野は苦笑しながらマカロンをひとつ頬張り、高橋の手にもひとつ握らせた。


天野勇二

何を言ってるのさ。
謙遜けんそんしなくていいのに。
絶対高橋さんが看板娘だよ。



 このイケメンは涼太に会話術を徹底的てっていてきに叩きこんでいたが、本人はそんな技術を必要としないほどの魅力がある。



 彫りの深い整った顔つき。


 大人びて色気のある流し目。


 つやっぽく触れる指先。


 マカロンを手渡しただけで高橋のハートを鷲掴わしづかみにした。



葛城沙也加

勇二くん、高橋さんが好みなのかなぁ……。



 その様子を葛城が苦笑いしながら見つめていた。


 自分を熱心に誘ったくせに、女友達に色目を使い、完全に無視している。


 この時、葛城の中にあった天野への好感度は地に落ちた。



佐伯涼太

内緒だけど、勇二はちょっと幼くて小柄な娘がタイプなんだよ。


 涼太が小声でささやいた。


葛城沙也加

そうなの?
なんか意外。

佐伯涼太

でしょ?
しかもそれでいて、グラマラスな娘じゃないとイヤなんだって。

葛城沙也加

うわぁ……。
いるよね。
そういう男子……。

佐伯涼太

だよねぇ。
僕にはちょっとよくわかんないや。
葛城さんは喉乾いてない?

葛城沙也加

ううん、大丈夫。
ホントに豪華な車だね。
なんか緊張しちゃう。

佐伯涼太

わかるなぁ。
僕もね、初めて乗った時は落ち着かなかったよ。

葛城沙也加

乗ったことあるんだ?
2人は中学が一緒だったから?

佐伯涼太

もう小学校からのくさえんだからさ、何度か乗せてもらったんだ。
葛城さんは同中おなちゅうの友達とかいるの?


 自然に質問を飛ばす涼太の姿を見て、葛城はかなり安堵あんどしていた。


 今日の涼太は余裕に満ち溢れている。



佐伯涼太

(……うん。イケる。僕はめっちゃ平常心だ。これイケちゃう)



 涼太にとっては好条件が重なっていた。



 車内という密閉空間。


 何度か乗ったことのある高級車。


 葛城はかなり緊張しており不安気。


 天野は外野を無視しており2人きり。



 様々な要素がプラスに働いた。


 隣に葛城が座っていても、俯瞰ふかんで自らを見つめる余裕すらあった。



葛城沙也加

仲良かった子は少ないんだ。
あまり女友達がいなくて。

佐伯涼太

へぇ?
意外だなぁ。
男友達と遊ぶほうが楽しいタイプ?

葛城沙也加

それもあるんだけど、あんまり女の子から好かれないみたい。

佐伯涼太

ふぅん。
それわか……いや、わかんないなぁ。
葛城さんが友達だったら楽しいだろうに。


 この時の涼太は本当にしっかりしていた。


 瞬時に脳が回転し「同調してはいけない」ポイントも押さえている。


佐伯涼太

葛城さんがモテるからかな?
僕も勇二がオシャレでモテるからさぁ、たまに嫉妬するよ。

葛城沙也加

そんなことないよ。
佐伯くんも私服素敵じゃない。

佐伯涼太

そう?
葛城さんのほうがセンスいいと思うけど。

葛城沙也加

今日はバイトだったし、すごくラフな格好で来ちゃったよ。
なんか恥ずかしい。


 確かにラフな服装だ。


 涼太はよく観察して、それらを褒めてやった。


佐伯涼太

その格好だってオシャレじゃん。
特にカーデが可愛いと思うよ。
そういうの好きなの?

葛城沙也加

やだ、これ子供っぽくない?
あんまり見ないで。

佐伯涼太

あはは、ごめんね。
葛城さんは大人っぽいからさ。
ギャップがあって良いと思うよ。

葛城沙也加

恥ずかしいなぁ。
ちゃんとした服もあるんだからね。

佐伯涼太

へぇ、どんな服が好きなの?
どこが葛城さんの御用達?

葛城沙也加

やっぱりあそこかなぁ……。


 女子高生に人気のあるブランドを口に出す。


 涼太は心の中で「良かった。それなら知ってる。雑誌で見たやつだ」と呟き、嬉しそうに頷いた。


佐伯涼太

いいねぇ。
似合うと思うよ。
キュートかつエレガントなブランドが好きなんだね。

葛城沙也加

えぇ?
佐伯くんわかるの?

佐伯涼太

わ、わかるに決まってるよぉ。


 涼太は真面目で根気強い男だ。


 『観察』のパワーポイントを強化するため、ファッション誌を購入し、ちゃっかり予習していたのだ。


葛城沙也加

へぇ、なんだか意外。

佐伯涼太

だよねぇ。
葛城さんのガチ私服も見てみたいな。
最近は何か買ったの?

葛城沙也加

最近は買ってないの。
バイト代が入ったら買おうと思って。

佐伯涼太

いいじゃん。
春物が出揃ってくるよね。



 葛城は感心しながら涼太を見つめた。


 涼太の相槌あいづちは自然で、何だかとても話しやすい。


 それに間近で見ると顔も整っており、姿勢も堂々としていて男らしい。


 天野が「漫画の主人公のようにモテる」と言ったのも、あながち嘘ではないかもしれないな、と感じていた。



佐伯涼太

バイト代入ったら、何を見に行く予定なの?

葛城沙也加

うん……。
本当はね、ひとつ狙ってるワンピがあるんだ。
でも出たばかりの新作だから高くて手が出ないの。
あのね、シャツワンピでノースリーブでね、夏でも1枚で着れそうなんだよ。



 葛城のエンジンに火がついた。


 会話という名の人工衛星が軌道に乗る。


 涼太は笑顔を浮かべ、楽しそうに相槌を打ち続けた。





佐伯涼太

(ああ……! 夢のようです先生! こんなに楽しく葛城さんとお喋りしています……!)



 葛城のアパレルに関する話をスリーワードで切り返し、焦らずに『パーソナルへの質問クエスチョンを重ねる。


 とはいえ、さすがに



葛城沙也加

男の子はマキシワンピなんて好きなのかなぁ。

葛城沙也加

ドルマンニットを着こなす人ってオシャレだよね。

葛城沙也加

ペプラムってどう思う?



 なんて会話に入ると、付け焼き刃の知識では対応できない。


 すぐに思考がパンクしそうになる。



佐伯涼太

(こんな時は『パワーポイント』だ。えっと、背筋を伸ばして、正面を向いてっと……)



 自らを客観的に見つめ直し、思考を整理する。


 その後に「それってどんなやつだっけ?」と切り返す。


 それだけで葛城はペラペラ喋り続けた。



葛城沙也加

私ね、トングってすっごく可愛いと思うんだ。
でもビーサンって馬鹿にされるの。
酷いと思わない?
ビーサンとは違うのに。
ターコイズやビーズがついてね、可愛いと思うんだ。
でも爪のお手入れが大変だし、歩き方に品がない、子供っぽいとか言われたりするの。
やっぱりミュールのほうが男の人は好きなの?

佐伯涼太

どうかなぁ。
だけど僕もトングが一番可愛いと思うよ。
好きなものを履いていいんじゃない?

葛城沙也加

そうだよね!
佐伯くんって話わかるなぁ。

佐伯涼太

そりゃそうだよ。
トングね。
うん、いいと思うよ。



 涼太としては「なにそれ?」と首を捻る単語が山のように溢れていたが、とにかく笑顔でやり過ごした。


 やがてロールスは台場に到着した。



天野勇二

俺は里音りおんちゃんとパレットタウンに行ってくる。
お前らはどうする?



 本当に気の利く親友だ。


 あからさまに「邪魔だからついてくるな」という顔を浮かべ、葛城のことも『お前ら』扱い。


 それに車内で涼太と葛城が、アパレルを中心に盛り上がっていたことを聞いている。


 「台場だったら行くところもあるだろ」とメッセージを送っているのだ。



佐伯涼太

葛城さん、ヴィーナスフォートでも行かない?


 天野からのパスを受けて提案。


 葛城は嬉しそうに頷いた。


葛城沙也加

行きたい!
佐伯くん、付き合ってくれるの?

佐伯涼太

もちろん!
僕はむしろ買い物に付き合いたいな。
あ、でも僕がいるとお邪魔?

葛城沙也加

そんなことないよ!
嬉しいなぁ。
男の人って服とか一緒に見てくれないもの。
退屈じゃない?

佐伯涼太

ぜーんぜん!
退屈なんかしないよ。
むしろ見ることが楽しいよね。

葛城沙也加

だよね!
じゃあ行きましょ!



 天野は上機嫌でスキップする涼太を見送りながら「アイツ随分ずいぶんと同調が上手くなったな」と感心していた。


 天野はまだ気づいていなかったが、この時、涼太の『チャラ男』としての才能は完全に開花していた。



高橋里音

勇二くん、行かないの?

天野勇二

……うん?
ああ、行こうか。
遊園地パレットタウンに女の子と来たのは初めてなんだ。

高橋里音

えっ、本当に?
意外だなぁ。
勇二くんはモテそうなのに。

天野勇二

そんなことないさ。
俺は遊園地を世界で一番可愛い女の子と歩くのが夢だったんだ。
それも仲良く手をつないだりしてさ。


 天野はまぶしいほどの笑顔を浮かべ、高橋の手を握った。



天野勇二

その夢、叶えさせてくれるかな。



 その言葉で高橋のハートを握りつぶす。


 もう高橋の顔は真っ赤だ。


 天野のことを白馬ロールスに乗った王子様だ、と思っていた。





天野勇二

(はぁ……。くだらねぇ)



 白馬の王子様は高橋の手を握りながら思った。



天野勇二

(女なんて何がいいんだよ……。クソくだらねぇ……。早く帰りてぇなぁ……)



 2人はそれぞれの口説き方を用いて、女子との距離を縮めたり、縮めなかったりしていた。




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つばこ

今週のイラストを見たつばこ「天野くんと涼太くん……。これで、高校1年生なのか……。今時の高校生男子はオトナっぽいんだなぁ…( ゚д゚)」
 
 
今週の涼太くんは絶好調でしたが、これは天野くんが用意した『環境』のおかげだと思います。
恐らく天野くんは前回の敗戦から、
 
「まだ2人きりにさせるのは早かった。あのヘタレは俺様が傍にいないとダメだ。会話を打ち上げるための場を用意してやろう」
 
みたいなことを考えたのでしょう。
そのためロールスという「密室」を用意し、涼太がリラックスして会話できる環境を作り上げたのです。
アイツは何だかんだ言っても、友達思いのいいヤツですよねぇ(´∀`*)ウフフ
 
ではでは、いつもオススメやコメント、本当にありがとうございます!(∩´∀`)∩ワーイ

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コメント 148件

  • ハヤ

    上位コメ団結すな。

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  • だいたろう

    車内の挿絵が完全にホストww

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  • rtkyusgt

    挿絵の勇二ホストでしょ(笑)

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  • ゆめおぼろ@天クソ/パステル

    完全にホストクラブで草

    あとロリ巨乳大好きですありがとうございます

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  • むってぃ

    高橋さんのハートを握りつぶすっていう表現めっちゃすき!さすがクソ野郎って感じだわ笑笑

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