週末の日曜日。


 天野は涼太と一緒に街へ出ていた。



天野勇二

髪だけはマシになったが、私服が致命的にダサいな。
貯金をおろして服を買え。



 そう言って涼太をビー○スに放り込んだ。


 店員と相談しながらコーディネートを重ね、アウターもパンツも靴も全て新調した。


 涼太は消えていく万札をなげいていたが、天野は「モテる男は衣服に金を惜しまない」と言い聞かせ、ようやく涼太の見た目は垢抜あかぬけてきた。



佐伯涼太

どうかな。
これで僕ちゃんもイケてるかな。

天野勇二

ああ、ファッションだけなら俺と遜色そんしょくないな。

佐伯涼太

うっひょう!
僕ちゃん超絶イケメン級!
これ、大事にするよぉ。
一生着るね。

天野勇二

別に一生着なくていいんだよ。
それじゃ行くぞ。



 そして勝負を挑むため、駅前にあるファミレスへ向かった。


 葛城がアルバイトしている店だ。


 時刻は15時過ぎ。


 アイドルタイムに入り店内は空いている。



天野勇二

いいか。
もう一度作戦を確認するぞ。


 2人は顔を見合わせ、作戦の手順を確認した。


天野勇二

基本的に俺が葛城と会話する。
葛城のシフトは16時までだ。
俺が遊びに誘うから、お前はごく自然な表情を浮かべていろ。

佐伯涼太

わかった。
そのぐらいは楽勝だよ。

天野勇二

まずお前と葛城の関係をフラットに戻す必要がある。
葛城に話しかけたら、お前にさり気なく目線を移す。

佐伯涼太

『パワーポイント』だね。

葛城さんの視線が僕に移るんだ。

天野勇二

そうだ。
葛城と目があった瞬間、ギクシャクしてしまったことを謝罪しろ。
スリーワードで決めてくれ。
それで葛城との関係を『ただのクラスメイト』に戻すんだ。

佐伯涼太

オッケー。
まかせてよ。
今日の僕ちゃんならイケる気がする。


 涼太は頼もしく頷いた。


 この時、涼太の中にある『チャラ男』としての才能は目覚めようとしていた。



 毎日『チャラ男講座』を受講したこと。


 天野から洗顔剤や化粧水やハンドクリームなどをプレゼントされ、顔と肌を徹底的に磨いたこと。


 鏡を見ながら姿勢を矯正きょうせいしたこと。


 ファッション誌や女性誌を熟読し、オシャレや流行とは何か学んだこと。


 家族から「あんた急にいい男になったわね」と言われたこと。



 涼太の外見と内面が変貌へんぼうげようとしていた。




 2人がファミレスに入ると、すぐに葛城が天野たちを発見した。


葛城沙也加

……あれ?
勇二くんに、佐伯くん?


 驚いて駆け寄って来る。


天野勇二

やあ葛城さん。
今日はバイトだったんだ。

葛城沙也加

うん。
ホントに来てくれたんだ。
ありがとう。

天野勇二

小腹が空いただけさ。
忙しいだろう?
無理しなくていいぜ。


 そう言うと、天野はチラリと涼太を見つめた。


 葛城の視線が涼太に移る。


 涼太は爽やかに微笑んで両手を広げた。


佐伯涼太

やぁ葛城さん!
この間は変なこと言ってごめんね。
嫌な思いさせちゃったかな?


 葛城は安堵あんどしたように息を吐いた。


葛城沙也加

ううん。
私も変なこと言ってごめんね。

佐伯涼太

いいんだよ。
それより制服似合ってるね。
良いカンジだよ。


 涼太はにやけてしまいそうな頬を叩き、できるだけ自然体で言った。


葛城沙也加

えへへ、ありがと。
注文が決まったら呼んでね。


 そう言って葛城は店内に戻った。


 混雑した時間帯を過ぎたといっても日曜日。


 客とのんびり会話しているヒマはない。



 店内を駆け回る葛城を眺めながら、涼太がうっとりとした目つきで呟いた。


佐伯涼太

いいなぁ……。
あの葛城さんもカワイイなぁ……。
エプロンがまたいいよねぇ。
外側にフリルがあるんだねぇ。
『観察』すると素敵なことがたくさん見つかるねぇ。

天野勇二

お前、目が気持ち悪いぞ。
だが葛城の前では隠し通したな。

佐伯涼太

どう?
あれで良かった?

天野勇二

ああ、上出来だったぜ。



 しばらく2人は適当な料理を注文し、ごく自然に談笑だんしょうしていた。


 葛城はマジメに働いており、2人のテーブルにはなかなか近づかない。


 天野は仕方なく席をたち、何度もコーヒーやドリンクをおかわりした。


 この店にはドリンクバーのスタンドが設置されている。


 水だってセルフサービスだ。



天野勇二

(葛城め。水だけはサービスしてくれるんじゃねぇのか)



 エスプレッソマシンを操作しながら、葛城への接触方法を考えていると、1人の男が声をかけてきた。


???

ねぇ、君が沙也さやちゃんのお友達?

天野勇二

……うん?
そうですけど。

???

じゃあ君が佐伯くん?

天野勇二

俺は佐伯じゃありません。
佐伯はあっち。


 天野は親指で涼太をさしながら、話しかけてきた男を眺めた。


 ファミレスの店員だ。


 大学生ぐらいだろうか。


 なかなかの男前だ。


 身長が高く、筋肉も程よくついておりスタイルが良い。


 男は照れ臭そうに笑った。


店員の男

君じゃないんだ。
沙也加ちゃんの友達が来たって言うから、どんな子なのか気になったんだよ。
気を悪くしたらごめんね。

天野勇二

別に構いませんよ。
葛城さんとは友達ですから。


 天野は男の胸にあるネームプレートを睨みつけた。


 進藤しんどうという名の男だ。


 いつもの天野であれば『自己紹介』おこたる人間は全力で説教だが、相手は葛城の知人であり先輩だろう。


 爽やかな笑顔を浮かべ、軽くハッタリを飛ばした。


天野勇二

進藤さんのことも聞いてますよ。
葛城さんとは、とても仲が良かったそうで。

進藤さん

あれ?
そのこと知ってるの?

天野勇二

ちょっと小耳に挟みまして。
もう別れたんですよね?

進藤さん

あはは……。
ちょっと恥ずかしいな。
まぁ、色々あってね。


 ハッタリに引っかかった。


 天野は親しげに尋ねた。


天野勇二

進藤さんはイケメンだし頭も良さそうですね。
大学生ですか?

進藤さん

君にイケメンなんて言われると照れちゃうね。
そう、大学生なんだ。

天野勇二

どこの大学に通ってるんですか?

進藤さん

僕はね、あそこに通ってるんだよ。


 進藤は一流大学のひとつを告げた。


天野勇二

頭良いんですねぇ。
興味あるなぁ。
どんな大学なんですか?

進藤さん

悪くないところだよ。
少しカビ臭い校舎だけど、そこがまたいいんだ。
教授も一流ばかりだしね。

天野勇二

へぇ、興味深いなぁ。
進藤さんは何年生ですか?

進藤さん

もう4年さ。
君が入学する前には卒業……できれば良いんだけどね。


 実に人当たりの良い男だ。


 天野を見下すこともなく、かといってびることもなく、ごく自然に接している。


進藤さん

……おっと、あんまり話してると怒られちゃうな。


 進藤は周囲を見回すと、そっと天野の耳元でささやいた。


進藤さん

君のお友達は、沙也加ちゃんを狙ってるんだってね。


 天野は苦笑した。


 どうやら葛城はかなり『お喋り』のようだ。


天野勇二

みたいですね。

進藤さん

これは僕から聞いたって、内緒にしてほしいんだけど……。


 楽しそうに言葉を続ける。



進藤さん

沙也加ちゃんはアパレルとホラー映画が大好物。
すぐ飛びつくよ。
誘うように言ってあげて。
君たちのことを応援してるから。



 天野の肩を親しげに叩き、進藤は仕事に戻っていった。


 天野はその背中を見送り、ゆっくりテーブルに戻った。



佐伯涼太

ねぇ、なんか男の人と話してなかった?
勇二の知り合い?


 涼太は会話を遠目に眺めていたようだ。


天野勇二

いや……。
初対面の男さ。
進藤という名だ。
葛城の『元カレ』だぞ。

佐伯涼太

えっ!
マジで!?
あ、あの人がそうなの!?



 涼太は仰天して進藤を見つめ、口唇を噛み締めながら「ぐぬぬ」うめいた。


 愛しの葛城と交際していた男。


 悔しいがかなりのハイスペックだ。


 知的で余裕たっぷりの男前イケメン


 高身長かつ八頭身に近いモデル体型。


 きっと車の免許も持っているのだろう。


 逆立ちしても勝てそうにない。



天野勇二

お前のことを『応援している』だとよ。
聞いてもいないのに、葛城の好みを教えてきやがった。
葛城は『アパレルとホラー映画』が大好物だとさ。

佐伯涼太

な、なにそれ……?
元カレって生物は、別れた女を誰かに押しつけたがるの?

天野勇二

さぁね。
いけ好かねぇ男だな……。



 2人が進藤の意図を掴めず悩んでいると、葛城が天野たちのテーブルへやって来た。



葛城沙也加

美味しかった?
もうお皿下げてもいいかな?


 すかさず天野が笑顔を浮かべる。


天野勇二

美味しかったよ。
葛城さんの新鮮な姿も見れた。
良い時間を過ごせたよ。

葛城沙也加

それなら良かった。
また来てね。

天野勇二

こっちの皿も下げてくれるかな?

葛城沙也加

うん、もちろん。

天野勇二

追加でデザート頼んでいいかな?

葛城沙也加

へぇ、甘い物が好きなんて意外だね。

天野勇二

葛城さんが持って来てくれたら嬉しいね。

葛城沙也加

えへへ。
頑張ってみる。
まかせて。

天野勇二

バイトあがったら、どこか遊びに行かない?


 ここで勝負に出た。


 いきなり誘いを持ちかけられ、葛城が驚いて固まる。


天野勇二

涼太と台場だいばあたりに行こうか、って話してたんだ。
一緒に来ない?
確かバイトもあとちょっとで終わりでしょ?

葛城沙也加

う、うん……。
まぁ、そうなんだけど……。


 困惑する葛城をさらに攻める。


天野勇二

台場は遠いからさ。
車で行こうと思うんだよ。

葛城沙也加

く、車?
えっ?
免許、持ってないでしょ?


 天野は「あっはっは」と軽く笑うと、とんでもないことを言った。



天野勇二

車なんて運転するものじゃない。
運転手に走らせるものだよ。


ちょうど親父のロールスが空いててさ。
無駄に広いから葛城さんもどうかな。



 この発言に葛城は仰天し、思わず涼太の顔を見つめた。


 涼太は自然に微笑んでいる。


 その瞳が「よくあることだよ。珍しいことでもないね」と告げているかのようだ。


天野勇二

軽く考えてよ。
俺たちはクラスメイトだから遊ぶなんてフツーのことさ。
ちゃんと家まで送り届けるから安心していいし。



 葛城は皿をお盆に載せたまま、困惑して黙り込んだ。


 顔には「興味がある。ロールスロイスとかすごく興味がある」と書いてある。


 天野はそこで葛城に『言い訳』を用意してやった。



天野勇二

それに涼太のバカが葛城さんに迷惑かけたみたいだしさ。
お詫び程度に考えてよ。
葛城さんに来てほしいなぁ。
行こうよ。



 それはとても軽い誘い文句だった。


 熱が入りすぎていた涼太とは違う。


 葛城は少し迷っていたが、小さく頷いた。


天野勇二

オッケー!
じゃあ決まり!


 即座に段取りを決める。


天野勇二

駅前に車を停めてるんだ。
バイト終わったらメールしてよ。
何時にあがるの?

葛城沙也加

えっと……。
もうすぐ終わるから……。
30分後でもいい?

天野勇二

もちろん!
やっぱりデザートの注文はいいや。
車で食べよう。
楽しみにしてるよ。

葛城沙也加

う、うん。
誘ってくれてありがとう。

天野勇二

気にしないで。
ただのクラスメイトなんだから。


 そう言って天野は葛城を送り出した。


 葛城は期待と困惑の表情を浮かべ、店の奥へ消えていった。


佐伯涼太

はぁ……。
やっぱり勇二の持つ力はズルいよ。


 涼太は嬉しそうに笑いながらも、ちょっと恨めしそうに呟いた。


佐伯涼太

お金持ちでイケメン。
おまけに誘い文句までお上手。
特に『行こうよ』っていう言葉のノリが軽くて良いねぇ。
思わず僕まで頷いちゃった。

天野勇二

俺様の力を持ってすれば、あんな小娘の1匹や2匹、簡単に釣れるのさ。
女を誘う時はとにかく軽い言葉でいいんだよ。
『消しゴム貸して』ぐらいのノリでいいんだ。

佐伯涼太

いやぁ、先生のご指導は勉強になります。

天野勇二

だが、ここからが作戦の本番だ。
お前と葛城が会話しなければ意味がないんだからな。


 涼太は力強く拳を握った。


佐伯涼太

まかせてよ。
何だか今日の僕ちゃんなら、マジでイケる気がする。


 週末まで会話術を磨き、外見も変化させた。


 頼れる友人も傍にいる。


 涼太は根拠のない自信に満ち溢れていた。


天野勇二

俺は最低の男を気取り、葛城の好感度を下げまくる。
お前はそれをうまく使え。
俺のことも好きなだけけなせよ。

佐伯涼太

悪いねぇ。
勇二に悪役ヒールを演じてもらうなんて。

天野勇二

いいのさ。
俺は悪役ヒールが大好きだからな。


 天野と涼太は「クックックッ」と、お互いに悪い笑みを浮かべていた。






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つばこ

天野くん「俺様の力を持ってすれば、あんな小娘の1匹や2匹、簡単に釣れるのさ」
つばこ「なんだよぉぉぉぉ!!!! やっぱり『ただしイケメンに限る』じゃないかぁーーー!!! 天野くんのウソつきぃぃぃぃーーーーーーーー!!!!。・゜・(/Д`)・゜・。」
 
 
今週は謎の元カレ、進藤さんが出てきました。
進藤さんがどんな人なのか、現時点ではよくわからないんですが、つばことしてはもう「このクソ男が( ゚д゚)ペッ」と思ってます。
 
だってさぁ、大学4年生なのにJK(1年生)に手を出して、すでに別れてる(or捨ててる)ってことですよねぇ。
これはロリコンゲス野郎の臭いがプンプンしますよ。
どんな関係だったのか不明ですけど、手を出したなら最後まで責任とってロリ婚しろって話ですよヽ(`Д´)ノプンプン
 
ではでは、いつもオススメやコメント、本当にありがとうございます!∠(`・ω・´)

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コメント 150件

  • ユタ

    女の子を誘う時は『消しゴム貸して』ぐらいの軽い感じですね… なるほどφ(._. )メモメモ

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  • ピカルディの3度

    いや、大学4年って成人してる年齢だよね
    未成年者というか、18歳以下の子供に遊び半分で手を出したら条例的にアウトでしょ

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  • まこと

    だめ!たかが7歳差ごときでロリ婚なんて言わないで( ̄□||||!!

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  • らんこ

    僕ちゃん…は正解なのかな?(  ̄▽ ̄)チャラ男的に…

    一気に今の涼太にはなったけれどもw

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  • ゆんこ

    だめ!ロリ婚したらロ離婚しないと涼太が付き合えないじゃん!

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