『チャラ男講座』が実施された翌日。


 放課後の校門前。


 涼太は1人のクラスメイトを待ちぶせしていた。



佐伯涼太

……大丈夫。
今の僕なら、きっと全てうまくいく……!



 何度も大きく深呼吸。


 頭の中で、天野から教わったマジックワードを復唱する。


 涼太は手鏡を取り出し、自らの髪を眺めた。



佐伯涼太

よし……!
セットは乱れてない!
清潔感もバッチリ!



 実は昨晩、天野は妹の桃香を帰らせると、



天野勇二

お前の冴えない外見にメスを入れよう。
美容院に行くぞ。
そのクソダサい髪型から変えてやる。



 と言って、行きつけの美容院に涼太を放り込んだのだ。


 パーマをあてて、地毛よりも明るくさせる。


 涼太が「先生に怒られちゃうよ」と天野に訴えても、



天野勇二

知ったことか。
校則なんて破るためにあるんだ。
何を言われてもだ』ということで押し通せ。


 そんなスリーワードを返すのみ。


 涼太は立派な高校デビューをげていた。



佐伯涼太

これはきっと……。
僕の人生における分岐点ターニングポイントだ……!



 涼太はそう信じていた。


 そして何より、超絶イケメンである親友の言葉を信じた。



天野勇二

俺様のマジックワードを習得しなければ、お前は一生モテない。
そんな地獄に落ちる。
だが、全てを習得した時……。
お前は誰もが驚くほどのチャラ男になるだろう。



 そんな天野の言葉を信じた。


 人は変わりながら生きていく。


 もう情けない自分とは決別しよう、今がその時だ、と涼太は思っていた。



佐伯涼太

あっ!
葛城さんだ!



 そして、勝負の時がきた。


 目の前に片思いの美少女、葛城沙也加が現れた。



 いつもは自転車で走り去ってしまうのだが、この日は少し様子が違った。


 自転車を押し、のんびり歩いている。


 話しかけるには絶好のチャンス。


 涼太は自らの人生を変える一言目を口にした。



佐伯涼太

や、やぁ!
葛城さん!



 思い切って葛城の前に出る。


佐伯涼太

ぼ、僕は、1年生の佐伯涼太だよ!
葛城さんと同じクラスなんだ!


 葛城はおずおずと頷いた。


葛城沙也加

う、うん……。
知ってるけど……。


 涼太は嬉しそうに顔をほころばせた。


佐伯涼太

葛城さんが僕のことを知ってた!
嬉しいなぁ。
今日はもう家に帰るの?


 スリーワードで切り返しつつ、『パーソナルへの質問クエスチョン』を飛ばす。


葛城沙也加

そう、だけど……。



 葛城は心底驚いていた。


 昨日までの涼太とはかなり印象が違う。


 野暮やぼったい黒髪を、派手に染めたからなのか。


 背筋を真っ直ぐ伸ばし、どこか堂々としているからなのか。


葛城沙也加

……髪型、変えたんだ?


 葛城のほうから『質問クエスチョン』が飛んできた。


佐伯涼太

う、うん。
僕って地毛が茶色いんだ。

葛城沙也加

へぇ……。
それが地毛なの?

佐伯涼太

ううん。
さすがにここまで明るくはないよ。
これはね、ブリーチした後に茶色と少し赤を入れてね……。

……あっ。
いや、そ、そうじゃない!


 涼太はブンブンと首を振った。


 ここで自分のことをペラペラ喋り続けても、葛城の気は引けない。


佐伯涼太

そ、そんなことよりさ!


 自らの言葉をさえぎる。


 涼太は頬を染めながら言った。





佐伯涼太

ぼ、僕もさ、今帰るところなんだ。
よかったら、一緒に帰らない?

葛城沙也加

えぇっ?
それは……


 葛城は苦笑しながら言った。


葛城沙也加

ちょっと恥ずかしいかなぁ……。
佐伯くんって、結構大胆だね。



 葛城が笑っている。


 ひとめ惚れした美少女が、手の届く場所に立ち、笑顔を向けてくれている。


 それだけのことが、どうしてこんなに嬉しいのだろう。



佐伯涼太

だ、だめかなぁ……?


 顔を真っ赤にさせながら呟く。


 葛城は笑顔のまま言った。


葛城沙也加

ダメっていうか……。
あまり佐伯くんのこと知らないし。
変な噂を立てられたら、お互いに困らない?


 涼太は思わず「困らない。困ることなんかひとつもない」と即答しそうになったが、それではいけないのだ。


 ここはスリーワードだ。


 天野から教わった驚嘆きょうたん同調どうちょう質問しつもんで切り返し、粘り強く押すのだ。


 涼太は自らの頬をパンパン叩き、爽やかな笑顔を浮かべた。


佐伯涼太

うんうん。
確かに困るよね。
なんか僕、いきなり高校デビューしちゃったし。
同類とか思われたくないよね?


 葛城は思わず吹き出した。


葛城沙也加

そうじゃないってば。
デビューは成功だと思うよ。
似合ってる。

佐伯涼太

マジで!?
僕も気に入ってるんだ。
葛城さんのポニーテールには負けるけどさ。

葛城沙也加

私の髪なんか適当だよ。
佐伯くん、変なところ褒めるね。

佐伯涼太

そうなんだ。
僕は変なんだ。
それでもお願い!


 涼太は両手をあわせて叫んだ。


佐伯涼太

どうか葛城さん!

僕に『ポニーテールの似合うクラスメイトと一緒に下校する』っていう素敵なイベントをください!

望みはそれだけ!

葛城さんとお喋りしながら下校したいんです!


 大声をあげながら頭を下げる涼太のことを、通り過ぎる生徒たちが不思議そうに眺めている。


 葛城は恥ずかしそうに言った。


葛城沙也加

ちょっと佐伯くん、そんなに大声を出さなくても……。

佐伯涼太

そうだよね。
大声じゃ恥ずかしいよね。
じゃあ小声にするよ。


 か細い声で「一緒に帰りたいなぁ」と呟く。


 その極端なキャラ変に、葛城はまた吹き出してしまった。


葛城沙也加

やだ、変なの。


 この時、葛城は涼太に興味を抱いたのだろう。


 苦笑しながら頷いた。


葛城沙也加

……しょうがないなぁ。
途中までね。

佐伯涼太

いよっし!
やったぁ!


 校門で涼太は勝利の雄叫おたけびをあげた。





 2人はとりあえず一緒に『駅まで』歩くことになった。



 涼太が通っている高校は、駅から徒歩20分ほどの場所にある。


 涼太は徒歩で通学していたが、葛城は駅から自転車で通学するタイプの生徒だった。


 必然的に葛城は自転車を押しながら、駅までの道のりを歩いた。



佐伯涼太

(えっと、まずは『本能への質問クエスチョンだ……。本能……。葛城さんは何を考えてるんだろう……)



 『一緒に帰る』という難関を突破したが、涼太はその先のプランを何もっていなかった。


 葛城も少し緊張気味だ。



佐伯涼太

き、緊張してる?

葛城沙也加

えっ?
いや、別に緊張はしてないけど……。

佐伯涼太

そ、そうだよね。
ぼ、僕もね、緊張なんかしてないんだよ……。



 おバカな質問クエスチョンとおバカな回答アンサー


 涼太の頭の中は真っ白だ。


 憧れの女子と一緒に歩き、2人きりの空間の中にいる。


 この状況はとても嬉しく、またガチガチに緊張してしまうものだった。



佐伯涼太

(やばいよ。沈黙だよ。このまま駅まで20分なんて拷問ごうもんだよ。何か喋らないと……。あ、いや、何か聞かないと……)



 脂汗を流す涼太を見て、葛城が尋ねた。


葛城沙也加

どうして佐伯くんはそんな緊張してるの?

佐伯涼太

ふぇっ!?
き、緊張なんて、してないよぉ……。

葛城沙也加

緊張してるじゃん。

佐伯涼太

う、うん。
そうなんだ。
緊張してるんだ。

葛城沙也加

あはは、どっちなの。


 『同調どうちょう』を外して会話がグダグダになっている。


 涼太は顔を真っ赤にさせながら言った。


佐伯涼太

だ、だってさぁ、葛城さんと一緒なんだよ?
そりゃ緊張するよ。

葛城沙也加

どうして私と一緒だと緊張するの?

佐伯涼太

葛城さんは美人で人気者だからさ、僕みたいな凡人が一緒に歩ける相手じゃないんだよ。

葛城沙也加

そんな卑下ひげすることないのに。
勇二くんから聞いたよ。
本当はすごくモテるんでしょ?


 葛城のほうがスリーワードで切り返している。


 涼太は慌てて首を横に振った。


佐伯涼太

モ、モテたことなんかないよ。
あのクソ野郎は嘘を言ったんだ。

葛城沙也加

そうなの?
どうして?

佐伯涼太

ど、どうしてなのかなぁ……?


 その理由はすぐに思い出した。


 葛城は『女から支持される男』に興味を持つタイプらしい。


 だから天野は無茶な設定を作ったのだ。


佐伯涼太

モテなかったワケじゃない……のかなぁ?
えっと、僕もよくわからないんだ。

葛城沙也加

変なの。
中学生の時は、女の子からよくラブレターを貰ったんでしょ?

佐伯涼太

わ、忘れたなぁ……。
中学の時は好きな女子なんかいなかったし。
葛城さんこそ沢山貰ったでしょ?


 これは悪くない切り返しだった。


 葛城が嬉しそうに微笑む。


葛城沙也加

えへへ、内緒。

佐伯涼太

内緒かぁ。
うんうん、内緒にしたい気持ちわかるよ。
でもモテたでしょ?

葛城沙也加

そんなことないよ。
それにね。


 葛城は微笑みを浮かべたまま言った。


葛城沙也加

中学の時から年上のカレシがいたから、学校の友達に興味なかったの。




 バリーンと、涼太の中で何かが割れる音がした。



 震える頬を何度も叩く。



 必死に『パーソナルへの質問クエスチョンを探す。




佐伯涼太

そ、そ、そうなんだぁ……。
カレシ、ぐらい、いるよねぇ……。
葛城さんはモテそうだもんねぇ……。

葛城沙也加

そんなことないよ。

佐伯涼太

き、気になるなぁ。
カレシって、どんな人なの……?

葛城沙也加

バイト先のお店で知り合った人。
大学生でね、凄く頭が良いんだ。
大企業の内定も貰ったんだって。

佐伯涼太

お、大人だねぇ……。
葛城さんは、年上がタイプなの?

葛城沙也加

やっぱり車を持っている人がいいからさ。

佐伯涼太

く、車かぁ……。



 唸るしかなかった。



 車の免許なんて、遠すぎる未来の話だ。



 涼太の心は息絶えようとしていた。



葛城沙也加

でも、卒業論文で忙しいって言うから、別れちゃったんだけどね。


 涼太の心は息を吹き返した。


佐伯涼太

そ、それって、今はカレシがいないってこと?

葛城沙也加

そうだよ。
佐伯くんはどうなの?

佐伯涼太

い、いるワケないじゃん!
葛城さんより魅力的な女子はいないよ!


 悲鳴にも近い言葉を聞き、葛城は少し恥ずかしそうに俯いた。


 その反応を見て、涼太は「やっちゃった」と気づいた。


 今の発言は『愛の告白』に等しい。



葛城沙也加

そう……。



 葛城が困ったように俯いた。


 ポニーテールがどこか迷惑そうに揺れている。



佐伯涼太

い、いない!
いないんだから、しょうがない!


 いちばちか、涼太は勝負に出た。


佐伯涼太

僕は葛城さんがめっちゃタイプなんだよぉ。
美人でカワイイからさぁ、僕はとにかく恋しちゃってるんだよぉ。

葛城沙也加

そ、そうなの……。
でも、あまり話したことないのに……。

佐伯涼太

それはさ、僕に勇気がなかったからなんだ。
もっと葛城さんのことが知りたいんだ。

葛城沙也加

私のこと?

佐伯涼太

そう!
例えば好きな人とかいないの?


 葛城は首を横に振った。


佐伯涼太

それなら僕に、チャンスをくれないかなぁ。
僕は葛城さんが好む男になるよ。

葛城沙也加

そ、そう……。

佐伯涼太

だからさ、何か葛城さんのことを教えてよ。
その、好きなこととか。
好きになるポイントとかさ。

葛城沙也加

そう、言われても……。

佐伯涼太

な、何でもいいからさ。
その、教えて欲しいなぁ……。

葛城沙也加

うーん……。



 どんどん葛城の口数が減っていく。



 明らかに困っている。



 そのぐらいは涼太でも理解できた。



佐伯涼太

な、何かさぁ……。
その……。
知りたいんだ……。



 ただオロオロと葛城の顔を見つめる。



 気まずい沈黙が2人の間を流れる。



 涼太はもう涙目だ。




葛城沙也加

……えっと……




 葛城はしばらく黙っていたが、思いつめたように言った。




葛城沙也加

今は……まだ……。
ごめんなさい……。







 涼太の中で何かが砕け散った。




 ごめんなさい。




 その言葉の意味をゆっくり理解した時、涼太のデビュー戦は幕を閉じた。




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つばこ

茶髪の涼太くんだぁーーーヽ(*´∀`*)ノ.+゚
涼太くん! おかえり! やっといつものキミに会えたよ! でもちょっと焦りすぎかな! ガツガツしすぎ! もっと落ち着こう!
 
実は葛城さん、つばこが高校時代に好きだったセンパイをモデルにしています。彼女もまた、ポニーテールの似合う美少女でした。
彼女はコンソメ味のポテコが大好きで、よく食べさせてもらったものです。ポテコを指に挟み、それを「あーん♡」と食べさせてくれたのです。とても不思議な味がしました。彼女はつばこの口にポテコを放り込む度に、
 
「やっぱりお菓子はコンソメ味だよね」
 
つばこは『のり塩こそが至高派』でしたが、即座に「同感です」と答えてました。
そんな青春。
だからつばこの青春はコンソメ味なのです(*´ω`*)
 
ではではいつもオススメやコメント、本当にありがとうございます!(*- -)(*_ _)ペコリ

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コメント 128件

  • まこと

    苦しいよ、涼太くん。
    ちょっと落ち着いてー

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  • ゆんこ

    つばこセンセ!

    くちうつしだったのかな?不思議な味って…気になるな〜(*´Д`)ハァハァ

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  • たらこ

    天野くんはあれだよ
    今の涼太が涼太になった
    責任を少なからず
    取るべきだよ笑

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  • 和泉

    二人のことを見守る天才クソ野郎が可愛すぎて愛おしい!!
    ?っじゃねーよ!笑

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  • バルサ

    チャラい涼太になったーでも、中身はまだピュアだね(^^)
    双眼鏡片手に見守る天野くんがイイ‼︎

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