天野勇二

まず実演しよう。
桃香に対して『本能への質問クエスチョンから『パーソナルへの質問クエスチョンに移行し、会話を驚嘆きょうたん同調どうちょう質問しつもんのスリーワードで切り返す。


 天野は桃香に向き直った。


天野勇二

桃香よ、お腹はいっぱいになったか?

天野桃香

うん!
パフェ美味しかったぁ。

天野勇二

あっはっは。
桃香はいつも美味そうに食べるよなぁ。
他に好きなメニューはあるのかい?

天野桃香

えっとね……。
ドリアも好きだよ。
お母さんと来た時はドリアを食べたの。

天野勇二

ほう?
確かにドリアも美味そうだ。
いつ来たんだい?

天野桃香

1ヶ月ぐらい前だったかなぁ。
たまには外食しようって話になったの。

天野勇二

なんだよ。
俺も行きたかったなぁ。
どんな話をしたんだ?

天野桃香

何を話したかなぁ……。
そうだ!
秋葉原で募集してるアイドルオーディションのことを話したんだ。
悠子ゆうこちゃんっていう女の子がセンターでね、今度オーディションが………もがもが。


 桃香の口を無理やり塞ぎ、涼太に向き直った。


天野勇二

こんな感じだ
かなり早めに質問を重ねたが、実際はもっと余裕を持って質問し、女に長く喋らせろ。


 涼太はメモをとりながら涙目で訴えた。


佐伯涼太

こ、高等すぎるよ。
流れが読めないよ。

天野勇二

こんなもん授業よりよっぽど楽だ。
頭の中でとにかく驚嘆きょうたん同調どうちょう質問しつもんと呟き続けろ。
まず女の話に対して『驚嘆リアクション』する。

『へぇ?』
『なるほど』


その程度の相槌あいづちでいい。
女はこちらの反応をそれほど期待していない。
『ちゃんと聞いている』というポーズさえ示せればいい。


 天野は指を2本伸ばした。


天野勇二

最重要なのは2つ目のマジックワード。
同調どうちょうだ。
女の話に無理やり同調して肯定しろ。
女は自分に否定的な男と話なんかしたくない。

佐伯涼太

ど、同調?
何でも同調すればいいの?

天野勇二

それでいい。
女は『そうだね』と言ってほしい生物だ。
本心とは違ってもバカみたいに同調し、女の全てを肯定しろ。

佐伯涼太

そう言ってもなぁ……。
同調できない時もあるんじゃないの?


 涼太の困惑した声を聞くと、天野は楽しそうに指をパチンと鳴らした。


天野勇二

ほら、もう同調できていない。
俺が女ならば今の発言で

『この男は話が通じない。話をしても時間の無駄』

と考えるだろう。
傾聴けいちょうのマジックワードは驚嘆きょうたん同調どうちょう質問しつもんのセットなんだ。
最後には『質問しつもん』がある。
その前に必ず同調を挟むんだ。


 小首を傾げている涼太に、言って聞かせるように言葉を続ける。


天野勇二

もう一度言うが、お前は『女が楽しく自分の話をする』ための『聞き手』だ。
女の話にケチをつけたり、自分の意見を伝えたり、討論ディスカッションしようなんて考えるな。
先ほどの言葉を訂正するなら

『なるほど。そうすればいいんだ。同調できない時はどうしよう?』

となる。
これで驚嘆きょうたん同調どうちょう質問しつもんのスリーワードが完成だ。



 涼太は うなるしかなかった。


 確かに『同調』をふまえた上で、疑問をさり気なく返している。



佐伯涼太

スリーワードだ……。
否定的な印象もないね……。

天野勇二

しかも 『パーソナルへの質問クエスチョンに移行している。
なぜ女がそう考えるのか、深く尋ねることができる。
会話ってのはこの繰り返しだ。
簡単な女はこれだけで落ちるぞ。
自分の全てに同調し、会話を楽しく盛り上げる男なんて貴重だからな。
例えば、お前はどんな音楽バンドが好きだ?

佐伯涼太

えっと……。
僕はアレかな……。


 流行はやりのロックバンドを口に出す。


天野勇二

もし葛城も同じバンドが好きだったら、お前は嬉しいだろう?

佐伯涼太

そりゃ嬉しいよ。

天野勇二

そのバンドの何が好きなんだ?
一番好きな歌は?

佐伯涼太

やっぱりボーカルの声かなぁ。
歌はね、一昨年発売したクリスマスソングが一番好きだよ。


 天野は驚いたように両手を広げた。


天野勇二

なんと、葛城もボーカルの声を気に入っていて、同じ曲が好きだと言い出した。
何もかも同じ。
そこで、

『こんなに好みがあうなんて運命みたいだね』

とか言われてみろ。
同調は恐るべき口説き文句に変貌へんぼうげ、お前は葛城との関係が運命だと錯覚する。
ただ同調した、それだけなのに。
だから同調ってのは重要なのさ。



 涼太は自分の中にあった価値観が、ガラガラと音をたてて崩れていくのを感じていた。


 同調。


 それだけで女が落ちる。



佐伯涼太

(葛城さんにそんなこと言われたら最高すぎる……。僕だったら絶対落ちる……!)



 同調して頷くだけならば、奥手な自分でもできるかもしれない。


 やってみる価値はある。


 涼太は『同調』という文字を書きなぐりながら呟いた。



佐伯涼太

だけど……。
なんだか……。



 不安な点もあった。


 全てに同調してしまうと、自分の個性や存在が無意味のように感じてしまう。


 相手が惚れてくれるのは『同調する男』であり、それは『嘘をいている自分』にも等しい。



佐伯涼太

それだと、なんだか嘘吐きみたいだよね……。
僕自身に惚れてくれるワケじゃないし……。

天野勇二

ほう?
お前自身。
それはなんだ?

佐伯涼太

そりゃ、佐伯涼太という男だよ。

天野勇二

ならば逆に尋ねるが、お前は葛城の何に惚れたんだ?

佐伯涼太

えっ……?
そ、それは……。


 涼太は思わず黙りこんだ。


 天野は楽しげに桃香に尋ねる。


天野勇二

なぁ桃香よ。
クラスで一番人気の男子はどんなヤツだい?

天野桃香

うんとね……。
タケルくんかなぁ。

天野勇二

なぜその男子が人気なんだ?

天野桃香

タケルくんはね、すごく足が速いんだよ。
いつもリレーのアンカーだし。
そう言えばタケルくんが授業中に先生に…………もがもが。


 また桃香の口を無理やり塞ぐ。


 天野はニタリと嫌な笑みを浮かべた。


天野勇二

桃香が言った通り、小学生なんて『足が速いヤツ』が人気だっただろう?
そしてお前はどうだ?
ひとめ惚れだろう?
つまり葛城の 『外見』に惹かれたんだ。
葛城の中身なんてお前は知らない。
人ってのは『才能』に惚れる生物なんだよ。

佐伯涼太

さ、才能……?

天野勇二

そうさ。
足が速いヤツ。
見た目がいいヤツ。
勉強ができるヤツ。
仕事ができるヤツ……。
誰しもがひいでた才能や能力に惚れ込む、というワケだ。


 どこか楽しそうに笑みを浮かべ、涼太の顔に指を突きつける。


天野勇二

お前は『会話術』の秀でた男になるんだ。
様々な能力の中でも会話術コミュニケーションは万能に近い。
極めればどんな女だって落とすことができる。

天野桃香

ねぇちい兄ちゃん。
タケルくんがこの間ドブに落ちたんだけどね。

天野勇二

桃香はちょっと黙っていような。
それに嘘を吐くことを嫌がっているようだが、目の前にいる女を肯定する嘘の何が悪いんだ?
お前は嘘吐きになるんじゃない。
女にとって最高の話し相手になるのさ。
そのための『技術』だ。


 指先を涼太の胸に突きつける。


 まるでその胸の中に、自らの信念を押し込んでいるかのようだ。


天野勇二

それに女ほど嘘で塗り固められた生物はいないぜ。
化粧を落とせば別人。
衣服や靴で身体を誇張こちょうするのが当たり前。
お前は女子のオシャレを否定するのか?

佐伯涼太

そ、それは……。
否定しないけど……。

天野勇二

そうだろう?
なのに会話術で女を喜ばせる行為を否定するのか?

佐伯涼太

うーん……。
否定、できないね……。

天野勇二

ならば最高の『聞き手』になれ。
どうせ俺たちの中身や本質なんてものに、大した価値はないんだ。
人間なんて、所詮は空っぽの偶像だからな。


 下衆ゲスな笑みを浮かべながら言葉を続ける。


天野勇二

それに何だかんだ言っても、男の目的はひとつだろう?
お前だっていつかは葛城を口説き落とし、どこかに連れ込み、服を脱がせて、股をひら……


 そこまで言うと、隣に小学生の桃香がいることを思い出した。


 慌てて口を閉じた兄を、桃香が澄んだ瞳で見上げる。


天野桃香

うん?
男の子の目的ってなに?
服を脱ぐ?
温泉にでも行くの?

天野勇二

い、いや。
何でもない。
桃香は気にしなくていいんだ。
涼太、わかったな。

佐伯涼太

う、うん……。
わかったよ。


 涼太は何度も頷いた。


 天野の考えが徐々に浸透しんとうしていく。


天野勇二

この世の中には『ただしイケメンに限る』といった、クソくだらねぇ考え方がある。
確かに顔が良ければ女にモテる。
だが、俺様に言わせればその考え方は『マジックワード』をうまく使えない馬鹿の戯言たわごとだ。
優れた会話術は全てを凌駕りょうがする。

否定的な相槌あいづちを打つイケメン。
全てに同調し肯定してくれるお前。
女が最後に選ぶのは絶対にお前だ。

わかったな?
では桃香で練習しろ。

佐伯涼太

う、うん……。
やってみるよ。


 涼太は桃香と向きあった。


 桃香はどこか楽しそうに涼太の顔を眺めている。


佐伯涼太

も、桃香ちゃん。
勇二のことは好き?

天野桃香

うん。
ちい兄ちゃんは優しいもん。

佐伯涼太

や、優しい?
このクソ野郎が……?

あ、いや。
そうだよねぇ。
うんうんわかるよ。


 『驚嘆きょうたん』と『同調どうちょう』はこれでいいだろう。


 次は『質問しつもん』だ。


天野桃香

涼太兄ちゃんは、ちい兄ちゃんのこと好き?

佐伯涼太

ヒィッ!?
桃香ちゃんからの質問だよぉ!
勇二!
どうすりゃいいの!?


 天野は心底呆れながら涼太を睨みつけた。


天野勇二

小学生相手にビビってんじゃねぇよ。
人間なんだから質問することもあるだろ。

佐伯涼太

そ、そうだよね。
そんな時はどうすればいいの?
僕の面白い話をすればいいの?

天野勇二

何度も言うが、お前は『聞き手』だ。
鉄板のネタがあっても話すな。
どうせつまらない。

天野桃香

そうかなぁ。
ちい兄ちゃんの『すべらない話』とか、すごく面白いけど。

天野勇二

桃香はちょっと黙っていような。
今は自分のターンは捨てて、とにかく『パーソナルへの質問クエスチョンに切り返せ。
それができれば十分だ。

佐伯涼太

何をかれても、すぐ葛城さんの話に戻すんだね。

天野勇二

そうだ。
お前は頭の切れる男だから、他のマジックワードも教えたいところだが……。
まずは『聞き手』を習得すべきだろうな。

佐伯涼太

マジックワードって、そんなにあるの?

天野勇二

そりゃあるさ。
今教えているのは基礎中の基礎。
俺様のマジックワードは100を超えるぞ。



 この言葉を聞き、涼太も桃香も戦慄せんりつを覚えた。


 よりにもよって「100を超える」と言い出した。



佐伯涼太

(うげぇ、なんなのこのイケメンチャラ野郎。どんだけ引き出しがあるのよ)


 涼太はプルプルと首を横に振った。


佐伯涼太

い、いきなり100なんて覚えられないよ……。

天野勇二

初めから全てを覚える必要はない。
基礎を抑えれば応用させるだけ。
何事も学業と同じさ。

佐伯涼太

ひぃぃ……。
チャラ男って、勉強熱心だったんだね……。

天野勇二

ああ、イケメンがそれだけでモテると思ってるなら大間違いだ。
だが案ずる必要はない。
お前だったら必ず習得できる。
女だけでなく、お前の人生を助ける武器にもなるはずだ。

佐伯涼太

ホ、ホントに……?

天野勇二

ああ、俺を信じろ。
大丈夫だ。
お前なら、きっと全てうまくいくさ。

佐伯涼太

は、はい……!
先生、僕がんばります!

天野勇二

良い返事だ。
では、桃香に練習してみろ。



 夜遅くまで猛特訓は続いた。


 チャラ男になるにも努力と工夫が必要なのだなと、涼太が痛感した1日だった。






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つばこ

実はこの後、天野くんは『かきくけこ』というマジックワードを涼太くんに教えたりしてます。女性の『褒め方』や『口説き方』に関するものらしいです。
ここは残念ながらカットしてますので、皆さまでお好きなものを妄想していただければ幸いです(´∀`*)ウフフ
 
天野くんは高校生時点でほぼ完成してますが、大学生の時と比べると、決定的なものがいくつか欠けています。
今回の『チャラ男編』では、その違いなどに刮目いただけると嬉しいなぁ、と思ったりしてます。
ちなみに『チャラ男編』のテーマは「青春は甘くない」です。皆さまの青春はどんな味でしょうか。つばこはコンソメ味でした。
 
ではでは、いつもオススメやコメント、本当にありがとうございます!ヽ(*´∀`*)ノ.+゚

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コメント 146件

  • rtkyusgt

    このころは 本質 が確定していない頃だもんね。のちに本質が天才クソ野郎って分かって悠子にも本質の話を・・・でもこのころから天才は溢れ出てるなぁ〜。

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  • ゆんこ

    桃香はちょっと黙っていような!

    不憫ww

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  • なゆ

    ちょいちょい挟まれるワード
    「桃香はちょっと黙っていような」
    がなんかすごく好きwww

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  • ココノ

    うーん…?まず鉄板の
    か 可愛いね
    き 綺麗だね

    だとして。後が難題……

    く 
    け 結婚したらいいお嫁さんになりそう
    こ こんなに素敵な子と出会えるなんて僕は幸せ者だ

    く…?く……!?

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  • ゆめおぼろ@天クソ/パステル

    ただしイケメンに限るって言いまくっててすいませんでした
    頑張ります!

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