佐伯涼太

ねぇ、ちょっと!
どういうことなのさ!



 涼太は憤慨ふんがいしながら天野に詰め寄った。



佐伯涼太

あんなに楽しそうに話しちゃって!
葛城さんのこと『ロクな女じゃない』って言ってたじゃん!

天野勇二

おいおい。
クラスメイトと円滑に会話するのは普通のことだろう?

佐伯涼太

よく言うよ!
クソみたいなビッチとかののしってたくせに!
めっちゃ盛り上がってたじゃん!
どんな話をしたのさ!?
教えてよ!


 涼太はうまく天野たちを尾行していたが、会話の中身までは聞き取れなかったようだ。


 天野は何事もないように言った。


天野勇二

葛城から頼みごとをされたよ。

佐伯涼太

頼みごと?
なにをさ?

天野勇二

佐伯涼太という男に『待ちぶせ』されて困っている。
間接的に何とかしてほしいと頼まれたよ。


 残酷な事実をありのまま伝えた。


 涼太はさすがに言葉を失い、その場に崩れ落ちた。


佐伯涼太

そ、そうだよねぇ……。
そりゃ、そうなるよねぇ……。
会話もしたことないのに、校門で待ちぶせされたら、それは嫌だよねぇ……。

天野勇二

ああ、これを日本語で『つきまとい』と言うんだ。
ひとつ賢くなったな。

佐伯涼太

そうそう。
それを英訳すると『ストーカー』だよね。
これで英語の成績もバッチリ……て、そうじゃないよぉ!


 涼太はリノリウムの床を叩きながら泣いていた。


 情けないことに、この男、本当に泣いていた。


佐伯涼太

まだ友達にもなってないのに……。
ひっぐ……。
なんて日だぁ……。

天野勇二

そして俺が見る限り、お前に『脈』はない。
まるでない。
これっぽっちもない。

佐伯涼太

うぐぅ!
僕のガラスハートにヒビが入っちゃう!

天野勇二

葛城は明るく健康的な美少女。
お前は意気地いくじのない根暗ネクラなストーカー。
元々、勝負は見えている恋だったしな。

佐伯涼太

やめてよぉ!
僕の心にトドメを刺すのはやめてッ!

天野勇二

だが、少し興味が出てきた。


 天野はどこか楽しそうに呟いた。


天野勇二

考えてみれば、勝ち目のないいくさほど面白いものはない。
それにあのクソビッチ、もしかすると……。
いや、それは考えすぎかな……。


 ブツブツと独り言を呟く。


 廊下をぐるぐると歩き始めた。


 天野が考えごとをする時の癖だ。


 涼太が驚いて尋ねる。


佐伯涼太

ど、どうしたの?
まさか、葛城さんを『口説き落とす作戦』でも練ってるの……?

天野勇二

鋭いな。
さてはお前エスパーだな。


 満足気な笑みを浮かべて立ち止まる。


 天野は偉そうに宣言した。


天野勇二

涼太よ。
俺様が今から、お前の恋を全力でバックアップしてやろう。
葛城を口説き落としてパコる。
その作戦を練り上げた。

佐伯涼太

えっ!
マ、マジで!?

天野勇二

マジだ。
この俺様にかかれば全てうまくいく。
どうだ、心強いだろう?

佐伯涼太

う、うーん……。



 これが中学時代の天野の発言であれば、何よりも心強かっただろう。


 しかし、今の天野は立派なDQNドキュンだ。


 何を考えているのか、今ひとつ理解できないところがある。



佐伯涼太

い、いいよ。
だって、もうフラれたってことでしょ……?



 ここは安全策を選択するために拒否。


 だが意外にも天野は乗り気だった。


天野勇二

おいおい。
諦めたら試合終了だぜ?
あの女の傾向と対策は掴んだ。
葛城は『女から支持される男』に興味を持つタイプだ。
マイノリティを貫く個性派よりも、ジャニーズなどの大衆が好む男が大好物。
そんな女はな、意外にも押しに弱く流されやすいんだよ。

佐伯涼太

お、押せって言うの?
この僕が?
ストーカーの僕が?


 天野は力強く頷いた。


天野勇二

そうだ。
葛城はお前に興味を抱き始めている。
話を盛りに盛ったからな。

佐伯涼太

盛った?
どういうこと?

天野勇二

お前は女に不自由しておらず、バレンタインのチョコやラブレターを山ほど貰い、街を歩けば逆ナンされ、漫画の主人公のようにモテる……。
そんな男だと伝えてやったのさ。


 とんでもなく話を盛っていた。


 何もかも『嘘』だ。


 漫画の主人公のようにモテていたのは、天野本人だ。


佐伯涼太

うげぇ……。
なにそれ……。
それ全部、勇二のことじゃない。

天野勇二

ウソも方便さ。
少なくとも葛城は、そんな風に噂される男が好みなんだ。


 天野は悪い笑みを浮かべながら両手を広げた。


天野勇二

まずは葛城と会話して親しくなれ。
女との関係は会話から始まり会話で終わる。

勝負は『明日』だ。
明日を逃せば勝機はない。
下校時に校門の前で捕まえて、まずは葛城とフランクに会話できる仲になるんだ。

佐伯涼太

あ、明日?
明日しか勝機がないの?

天野勇二

ない。
葛城はお前が話しかける機会チャンスを与えるはずだ。
噂が真実であるか確かめるために。
そこが勝機だ。



 涼太は困惑して黙り込んだ。


 天野が言うのだから本当に勝機チャンスなのだろう。


 しかし、当時の涼太にとっては無茶な注文だった。



佐伯涼太

それは、無理だよ……。



 声をかけること、会話をすること、場を盛り上げること、葛城の好感度を上げること。


 全てにおいて自信がない。



天野勇二

なぜ無理だと決めつける?
お前と葛城の関係はまだ始まってもないんだぜ?

佐伯涼太

それはわかるけどさぁ……。
女の子と話すのは、恥ずかしいよ……。
勇二はそばにいてくれる?

天野勇二

俺は立ち会わない。
お前と葛城のタイマンだ。

佐伯涼太

うわぁ……。
マジか……。
な、なにを話せばいいのかな……。
好きな物とか、聞いてない?


 天野は心底呆れたように涼太の泣き顔を見下した。


天野勇二

はぁ……。
お前はダメだな。
そんな情報いらねぇんだよ。
なぜなら葛城から直接聞けばいいからだ。
それが最適だ。

佐伯涼太

じゃあ何を話せばいいのさ?
僕には会話の 糸口いとぐちが見つからないよ。

天野勇二

お前が話すんじゃない。
お前は尋ねるだけでいいんだ。

佐伯涼太

尋ねる?

天野勇二

そうだ。
女なんて勝手にオチのないくだらねぇ話を喋らせておけばいいんだ。

佐伯涼太

意味がわからないよ……。

……ひっぐ……。

勇二はぁ……。

いつも、ひっく、そうだよぉ……。


 嗚咽おえつをあげて泣き出した。


佐伯涼太

勇二は天才だからさぁ……!
言ってることのレベルが高すぎてよく理解できないんだよぉ……!
こっちは凡人なんだよ!
凡人のストーカーなんだ!
勇二には凡人の気持ちなんて理解できないんだぁ!



 両手をじたばた振り回す。


 駄々だだっ子のように泣きわめいている。


 天野はげんなりしながらため息を吐いた。



天野勇二

(……コイツ、こんなにダメな男だったのか……)



 今の涼太はダメすぎる。


 このままでは押すことも引くことも不可能。


 まず価値観を破壊し、思考を切り替える必要がありそうだ。



天野勇二

これは一度、お前に女との『会話術』を教えた方がいいかもしれんな……。
俺はもう女に興味はないが、その中で習得したことを叩き込んでやるか。


 涼太がすがるように天野を見上げる。


佐伯涼太

勇二の習得したこと……?
なにそれ?
まさか天才は口説き文句まで持ってるの?

天野勇二

そういうことだ。
どうだ?
俺様の会話術、聞きたいか?



 涼太はゴクリと生唾を飲み込んだ。



 中学時代にモテにモテまくった超絶イケメンの会話術。



 とても興味がある。



佐伯涼太

この通りです!
どうか先生!
僕に恋のレクチャーをお願いします!


 即座にジャンピング土下座する涼太の姿を見て、天野は偉そうに頷いた。


天野勇二

いいだろう。
俺が15年間でつちかった全てを、お前に叩きこんでやろう。



 不敵な笑みを浮かべる天野。



 土下座しながら感涙かんるいしている涼太。



 いったいこの2人は何をしているのか、通り過ぎる教師や生徒は不思議そうに眺めていた。







 天野は涼太を連れて駅前にあるファミレスへ向かった。


 葛城がバイトしているファミレスとは別の店だ。


天野勇二

ここの勘定かんじょうはお前が持てよ。

佐伯涼太

もちろんですよぉ。
先生になんでも奢りますよぉ。

天野勇二

あと1人ゲストを呼んでいる。
そいつの分も出せよ。

佐伯涼太

さっき電話で誰か呼んでたもんね。
誰を呼んだの?


 天野は嬉しそうに笑みを浮かべた。


天野勇二

女を呼んだよ。
俺も会いたいと思ってたんだ。
そいつをお前の『練習台』にさせようと思ってな。

佐伯涼太

えっ?
れ、練習台……?

天野勇二

ああ、実際に女を前にした方が手っ取り早いだろう。



 涼太はまたゴクリと生唾を飲み込んだ。



 練習台。



 いったい何の練習台なのか。



 どこか卑猥ひわいな単語』のように感じるのは、気のせいだろうか。



天野勇二

おっ、来たぞ。



 入り口から1人の少女が駆けてくる。


 涼太はその姿を見て青ざめた。



天野桃香

ちい兄ちゃーーん!
久しぶりーー!

天野勇二

桃香ももかよ。
元気にしていたか?


 天野の妹、桃香は嬉しそうに微笑むと、ランドセルを置きながら天野の横に座った。


天野桃香

元気だよ。
ちい兄ちゃんも元気そうだね!

天野勇二

俺はいつだって元気さ。
いきなり呼び出してすまないな。
今日は涼太の奢りだ。
何でも好きな物を頼め。

天野桃香

わぁーい!
じゃあチョコバナナのパフェがいいなぁ。



 桃香は嬉しそうにメニューを眺めているが、涼太はガタガタと小刻みに震えていた。


 当時、桃香は小学生だった。


 まだ女性と呼べる年齢ではない。



佐伯涼太

あ、あの、先生。
僕には無理です。
ちょっと練習台にはできません。

天野勇二

はぁ?
何を言ってんだ?

佐伯涼太

ぼ、僕はですね、その手の趣味がないんですよ。

天野勇二

うん?
持ち合わせがないのか?
パフェ代も払えないのか?

佐伯涼太

ち、違います。
お兄さんは何を考えてるんですか。
そういう問題ではありません。

天野勇二

どういう問題だよ?
桃香はチョコバナナのパフェが食べたいと言っているんだ。



 チョコバナナ、という単語ですら、どこか卑猥に感じる。



佐伯涼太

いや、だからぁ……。
ぼ、僕にはその手の趣味がないんですってばぁ……!

天野勇二

はぁぁ?
お前が食べるんじゃない。
桃香が食べるんだぞ。

佐伯涼太

も、桃香ちゃんが食べるぅ!?
いやだ!
なにそれ怖い!!!


 ガタガタ震える涼太を見て、天野は小首を傾げた。


天野勇二

何を言ってんだアイツ?
まぁいいや。
パフェ代くらい俺が出してやろう。
どうだ桃香よ。
兄は涼太と違って太っ腹だろう。

天野桃香

うん!
やっぱりちい兄ちゃんが一番カッコイイ!

天野勇二

そうだろうそうだろう。
どんなパフェでも食べていいんだぞ。

天野桃香

やったぁ!
じゃあ一番大きいのがいいなぁ。

天野勇二

よし、それにしよう。
一番大きいチョコバナナにしよう。







 久々の再会にご機嫌な兄妹。


  混乱し青ざめる涼太。


 そんなメンツにて、天野による『チャラ男養成講座』が始まろうとしていた。





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つばこ

涼太くんがおバカな思考から立ち直るまでに、約30分ほどの時間がかかりましたとさ(´∀`*)ウフフ
 
さてさて、2016年もあと少しで終わりますね。
皆さまはどんな1年になりましたか。
今だから書きますが、2016年は「天クソもそろそろ終わってしまうのかなぁ」という気持ちを抱き続けた1年でした。
どうせいつか終わるのであれば、その前に刺激的すぎるエピソードを公開してしまおう。
そんなことを考え、2016年の後半はタブーだらけのネタをお届けしました。
その大トリを飾っているのが、現在公開中の『チャラ男編』でございます。
 
来年も天クソの物語は続きます(そう簡単には終わらせぬぞ(`ω´)グフフ)が、まだまだつばこには皆さまの応援が必要です。
どうか、これからも天クソを読んでください!
そして皆さまの心に何かがひとつでも残りますように!
 
ではでは、良いお年を!ヽ(*´∀`*)ノ.+゚

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コメント 95件

  • まこと

    奥手ながらも発想は既にパコりまくってるようで…何もかも卑猥に聞こえてる涼太くんであった

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  • ココノ

    いやはやしかし……ここから、天野くんすら一目置くような変態パコ野郎が生まれるとは…。
    やっぱ涼太は素質あったんだよねぇ…(しみじみ)

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  • ゆめおぼろ@天クソ/パステル

    やたら優しい顔のサムネ
    なんのシーンかと思ったらシスコンシーンだったか。。。

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  • バルサ

    この時に、すべてうまくいくのセリフが出てきた(^^)

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  • アノニマス

    15年で培ったモテテク……どうりで現 諒太がアレな訳だ

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