※この物語はフィクションであり、実在の人物及び団体とは一切関係ありません。




 これはまだ天野勇二あまのゆうじが高校1年生の頃。



 『天才クソ野郎』『学園の事件屋』とは、呼ばれていなかった時代の話だ。





 とある放課後。


 都内にある高校の校門。


 1人の男子生徒が、クラスメイトの女子を待ちぶせしていた。



???

やぁ、こんなところで会うなんて奇遇だね。
一緒に帰らない?
せっかくだからお茶でもして帰ろうよ。

……よし、これだ。
これでいくぞ。



 何度も深呼吸して『声をかける言葉』を練習している。


 野暮やぼったい黒髪の冴えない高校生。


 かなり緊張しているようだ。


 膝は小刻みに震え、顔色は青く、脂汗が何本も流れ落ちている。




 彼の名前は佐伯さえきりょう




 大学生にもなれば『天才的チャラ男』『歩くゴム屋さん』などと呼ばれるチャラい男だが、この時はまだ高校1年生。


 ウブで冴えない高校生だった。


 容姿は垢抜あかぬけておらず、同年代の女子と話すのは苦手。


 女の子とは縁のない、灰色の青春を送っていた。



???

…………

佐伯涼太

……あっ!



 校門を自転車に乗った1人の女子生徒が横切った。


 クラスメイトの葛城沙也かつらぎさやだ。



佐伯涼太

やぁ、葛城かつらぎさん。
こんなところで会うなんて奇遇だね。
良かったら一緒に帰らない?


 頭の中ではそんな言葉が浮かんだが、口からは「やはぅふぅ……」と情けない息が漏れただけ。


 小さくなっていく葛城の後ろ姿を、涼太は涙目で見送った。


佐伯涼太

また、ダメだった……。

チラリと……。

見てもくれなかった……。


 相手はクラスメイトなのに、挨拶さえ交わしたことがない。


 葛城に無視されるのも当然だった。


佐伯涼太

まぁ、きっとね。
日柄ひがらが悪かったんだよ。


 自分に言い聞かせる。


佐伯涼太

神様が今日は『話しかけちゃいけない日』って決めたんだ。
それならしょうがないね。
よしっ!
明日こそ頑張るぞ!

天野勇二

さっきから何をブツブツ言ってんだ。

佐伯涼太

うひょお!
聞いてたの勇二!?


 振り返れば涼太の友人、天野あまのゆうが涼太を見下していた。




天野勇二

気持ち悪いヤツだな。
まだ葛城をストーキングしてるのか。

佐伯涼太

ち、違うよ。
僕はストーカーじゃない。
偶然だよ。
そう、偶然をよそおっているんだよ。

天野勇二

そんなに葛城が気になるのか?

佐伯涼太

しょ、しょうがないじゃん。
いいじゃん。
クラスメイトの女子に恋してもいいじゃん。

天野勇二

恋、ねぇ……。


 天野はその言葉を嫌そうに呟いた。


天野勇二

そんなに葛城と話したいなら、俺が声をかけてやるぞ。
俺にとっても葛城はクラスメイトだからな。

佐伯涼太

いやぁ……。
教室で話しかけるのは、恥ずかしいじゃん……。
勇二に頼るのも悪いしさぁ……。



 この時、天野と涼太の『女子との経験値』には、天と地ほどの差があった。


 もう天野は『イケメン』として完成している。


 女の子の扱いにも長けており、女子からの注目を集めまくる男だった。


 中学時代には天野のファンクラブまで設立されたほどだ。


 涼太はそんな男の親友であることが誇らしく、またねたましくもあった。



天野勇二

ふぅん。
じゃあ勝手にしろよ。


 天野は吐き捨てるように言った。


天野勇二

あんな女の何がいいのか、俺にはまるで理解できねぇな。
性格の悪さが顔ににじみ出てやがる。
クソみたいなビッチだぜ。


 涼太はげんなりと顔を曇らせた。


 相変わらず性格と口が悪い。


 元から野蛮で少し口の悪い男ではあったが、高校生になったら荒れ始めてしまったのだ。


佐伯涼太

ダメだよ。
女の子をビッチなんて言っちゃいけないよ。

天野勇二

ビッチをビッチと呼んで何が悪い。
それより俺に付き合えよ。
またくだらねぇ連中を見つけたんだ。
徹底的に叩き潰してやる。


 涼太はため息を吐いた。


佐伯涼太

そんなのイヤだよ。
もうやめようって。
どうしてそんなことするのさ。

天野勇二

街の害虫どもを駆除してるんだ。
これで渋谷が少しはマトモな街になるぜ。
クックックッ……。
楽しみだ。
こうやって潰してやる。


 校門の前でシュッシュッと手足を振り回し、見えない敵を蹴り飛ばしている。


佐伯涼太

何度も言うけど、暴力を振るうのはやめようよ。
いくら勇二が首席でも退学になっちゃうよ。

天野勇二

あっはっは。
そんなヘマはしないさ。
なぜなら、俺が叩き潰すのは害虫という名のクズだけだからな。
俺様がしているのは『社会貢献活動』なんだ。



 当時の天野はとにかくグレていた。


 参考書を片手に持ち、暴力団や半グレと繋がっているような悪党に喧嘩を売り、片っ端から潰して警察に送りつけていた。


 合法ドラッグの売り子、盗難車を売りさばくグループ、万引きの元締め、恐喝やひったくりを繰り返す小悪党……。


 そうした連中に暴力を叩きつけるという、ちょっと変わったグレ方をしていた。



佐伯涼太

そんなことしてるとさ、友達がいなくなっちゃうよ。
僕はそのことが心配だよ。

天野勇二

友達だぁ?
いらねぇよそんなもん。
くだらねぇな。


 当時の天野の口癖くちぐせ「くだらねぇ」だった。


 涼太は心配だった。


 このままでは天野が1人ぼっちになり、本当の悪党になってしまうかもしれない。


佐伯涼太

僕は本当に心配してるんだ。
勇二が何を言っても、僕は勇二の友達だから。

天野勇二

無駄な心配だな。
俺様は無敵だ。
誰も勝てやしないさ。

佐伯涼太

そうじゃないよ……。
そのことは別に心配してないんだって……。

はぁ……。
勇二の気持ちもわかるけどさぁ。


 親友である涼太は、天野が荒れ始めた『理由』を知っている。


 だからこそ、天野のことが心配だった。


 天野は突然、思い出したように口を開いた。


天野勇二

お前がそう言うなら、俺も友人として忠告しよう。
葛城はやめておけ。
あの女は駄目だ。
お前に相応しい女じゃない。


 涼太は首を捻った。


佐伯涼太

勇二は前からそう言ってるね。
葛城さんと話したことあるの?

天野勇二

いや、ないな。

佐伯涼太

じゃあそれ、勇二の『先入観』でしょ。
先入観を持つのはよくないって言ってたじゃない。

天野勇二

そんなことが問題じゃない。
顔を見ればわかる。
葛城はロクな女じゃない。
俺様のセンサーが近づく価値もない、と告げている。
他の娘と親しくなったらどうだ?


 天野としては心からの忠告だったが、涼太は首を横に振った。


佐伯涼太

イヤだよ。
確かに葛城さんは美人だし、高嶺たかねの花かもしれない。
でも葛城さんじゃないとダメなんだ。

天野勇二

なぜだ?
あの女の何がいいんだ?

佐伯涼太

だって、可愛いし、スタイルも良いし、明るくて笑顔も素敵だし……。


 恥ずかしそうにうつむく。


 葛城の姿を思い浮かべただけで顔が赤くなってしまう。


 涼太はとにかくウブな青年だった。


佐伯涼太

きっとこれ、ひとめ惚れだと思うんだ。
初めて顔を見た時、ビビって感じるものがあったんだよ。
それから葛城さんのことで頭がいっぱいなんだ。


 天野は静かに涼太の顔を睨みつけた。


 本気で惚れているようだ。


 舌打ちしながら尋ねる。


天野勇二

ならばなぜ、話しかけない?

佐伯涼太

そ、それはさぁ……。
やっぱり、恥ずかしいじゃん……。

天野勇二

いつから失語症になった?
俺とは普通に喋っているじゃないか。

佐伯涼太

勇二とは別だよ。
だって、相手は女の子だよ……?

天野勇二

女だから何だってんだよ。

佐伯涼太

いや、女の子だから恥ずかしいんだってば……。
怖いじゃんか……。


 天野は首を捻りながら、涼太のウジウジした情けない顔を見つめた。


 中学時代の涼太とは、特に異性の話をしたことがなかった。


 だからこそ天野も気づかなかったが、随分と奥手で情けない男に成長していたようだ。


天野勇二

情けねぇな。
女なんてDNAの配列が違うだけのホモサピエンスだぜ。

佐伯涼太

勇二はモテるからさ。
この気持ちはわからないよ。

天野勇二

実にもったいない。
お前は磨けばイケメンになるのに。


 涼太の顔立ちは整っている。


 髪型と眉を整え、肌にも気を使い、清潔感を漂わせ、猫背の姿勢を直し、自信に満ち溢れた顔つきになれば、垢抜けたいい男になるだろうと、天野は感じていた。


佐伯涼太

そう言ってくれるのは嬉しいけどさ、僕は全然モテないじゃん……。

天野勇二

それが一番ダメなんだ。
まずは自信を持てよ。
まず女を抱け。
ナンパでもしてこい。

佐伯涼太

無茶なこと言わないでよ。
それができたら悩んでないんだよ。

天野勇二

チッ……。
くだらねぇ男だ。
好きなだけウジウジ独り言でも呟いてやがれ。


 情けない涼太を捨て、天野は暴力を振るうため出かけることにした。


 近隣の高校生が徒党を組み、単車を盗んで小遣い稼ぎをしているらしい。


 それを壊滅させてやるつもりだ。



天野勇二

(あの野郎……。よりにもよって葛城に惚れるとは)



 振り返れば校門の前で、涼太が情けなく肩を落としている。



天野勇二

(問題は『顔』なんだろうな……)



 葛城の顔を思い出し、天野は嫌そうに首を振った。



天野勇二

(葛城の『顔』が問題なんだ。だが、涼太は気づいてないな……)



 葛城かつらぎ沙也加さやか


 健康的で笑顔の似合う美少女だ。


 どこか大人びており、高校1年生とは思えないほどの色気をかもし出している。


 スタイルや骨格も悪くない。


 大人になればもっと美人になるだろう。





 その『顔』が問題なのだ。



 どこか似ている。



 涼太の初恋の相手、綾瀬清美あやせきよみに似ているのだ。







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つばこ

どうも、つばこです。
今週もお読みいただきありがとうございます。
 
涼太くんの初恋の相手、綾瀬清美さん……。
第27話~30話『彼女に上手にさよならを告げる方法』にて登場した難病を持つの女の子です。
是非ともお読みいただければ嬉しいです。
 
しかし高校時代の涼太くんは今とは別人ですね( ゚д゚)
チャラ男のチャの字もありません。
いったい君は何があって、あんな変態にメガ進化してしまったんだよ…(´;ω;`)ウッ…
 
今回の『チャラ男編』はこれまでの中で最も長い物語になると思います。
それでもどうか最後までお付き合いいただければ幸いです。
  
ではでは、いつもオススメやコメント、本当にありがとうございますヽ(*´∀`*)ノ.+゚チャラーン

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コメント 166件

  • rtkyusgt

    参考書片手にグレるとかww
    さすが天才クソ野郎!

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  • れいあ

    なかなかハードな高校生活を送ったんだね笑

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  • なゆ

    女の子に声もかけられないような涼太が
    歩くゴム屋さんと呼ばれ、心と股を同時に開かせる眼差しを習得し、「パコパコしたい!」などと言うようになるんだ。
    時の流れは恐ろしい……

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  • すず

    涼太に何があったらあんな風に育っちゃうの!!!!
    この涼太可愛いよ!!!!!

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  • だいず

    涼太ウブ!(笑)
    でもそれより、
    "天野は暴力を振るうため出かけることにした。"
    でめちゃめちゃ吹いた

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