様々なオーディションを繰り返し、1週間が経過した。



 個人面接も無事に終了。



 結果を伝えるため、天野は春川の事務所へ向かった。



天野勇二

よう春川。
来たぜ。

春川泰俊

お待ちしておりました。
応接室で話しましょう。


 応接室に案内される途中、廊下の隅から前島がひょこり顔を出した。


前島悠子

師匠に春川さん!
お疲れ様です!

春川泰俊

悠子ちゃんか。
良かったら聞いていく?
天野さんの結果発表。

前島悠子

いいんですか!?
是非聞いてみたいです!

春川泰俊

天野さん、構いませんよね。



 天野は舌打ちしながら頷いた。


 前島は嬉しそうに天野の隣に座る。


 春川は早速本題に入った。



春川泰俊

それで……。
ユニットは誰でいきましょう。



 天野は机の上に研究生たちの名簿を広げた。



天野勇二

非処女の女には『×印』をつけた。
使わない方が無難だろう。


 名簿は『×印』だらけ。


 しかし、様々なことが書きこまれている。


春川泰俊

ここに書かれているのは?

天野勇二

最適なトレーニング方法や、向上すべき身体能力など。
俺様なりの所感しょかんを加えた。
うまく使ってくれ。


 春川は薄く笑った。


 かなりの量だ。


 細かく書き連ねてある。


春川泰俊

参考にさせていただきます。
それで選抜メンバーは?


 天野は椅子にふんぞり返った。


 偉そうに吐き捨てる。




天野勇二

いない。




 春川はニタリと笑みを浮かべた。


 狡猾こうかつで腹黒いタヌキの笑みだ。


春川泰俊

いないワケはないでしょう?
『未来のセンター』は1人もいないと?

天野勇二

ああ、きっちり選抜してみたが、前島や柏田になれる女は存在しなかったよ。

春川泰俊

それは『処女』の娘だけですか?

天野勇二

そうだ。
それに俺様がきつく言い聞かせてやった。


 どこか誇らしげに言葉を続ける。


天野勇二

これからどんなことがあっても、スポンサーや関係者とは寝るな。
『枕営業』の誘いがきても断れ。
肉体関係を迫るバカは俺様が教えたプロレス技で撃退しろ。


そう言ってやったよ。



 春川の笑みが止まった。



 タヌキは消え去り、1人の厳しい男の目つきになった。



春川泰俊

ほう……。
なぜ、そう言ったんだい?

天野勇二

あんたが『処女の娘を選抜しろ』と命じたんじゃないか。
処女を守るには必要不可欠な要素だろう?
それとも何か?
そんな話をしちゃいけない理由でもあったのか?


 春川は深く息を吐いた。


 腕を組んで天野を睨みつける。


春川泰俊

君って、本当に天才でクソ野郎なんだね。
まさか僕の考えを読んだのかな。

天野勇二

その通り。
あんたの考えを読んだ。
選抜すべき娘はいない。
これが俺様の結論アンサーだ。


 春川はチラリと前島を見やり、天野に告げた。


春川泰俊

そんな仕事の結果じゃ『報酬』は渡せないね。

天野勇二

それは契約違反だ。
報酬はいただく。

春川泰俊

柏田の『処女』がそんなに欲しいのかい?


 前島は愕然がくぜんとした表情で天野を見上げた。


 そんな話は聞いてない。


 天野はニタニタ笑いながら言った。





天野勇二

欲しいね。
望み通りの結果じゃないようだが、いなかったんだから仕方ないさ。

仕事は果たした。
柏田の処女は俺様がいただく。
そして冷凍保存させてもらう。
柏田がグループを抜けて本当の恋に出会うまでスリープさせてもらう。

意味はわかるよな?


 春川はパンパンと拍手した。


 呆れたように吐き捨てる。


春川泰俊

大したものだね。
何がクソ野郎だ。
君は偽善ぎぜんの塊』じゃないか。


 天野は薄ら笑いを浮かべ、春川は真顔で天野を睨みつけている。


 前島は今ひとつ会話の中身がつかめず、オロオロと両者の顔を見ている。


春川泰俊

……ねぇ、君はどこまで僕の考えを読んだ?
そこを教えてよ。

天野勇二

そうだなぁ。
こんなところじゃないか?


 指を「パチリ」と鳴らし、偉そうに言葉を続ける。


天野勇二

これまで前島や柏田といったグループの花形エースに『枕営業』させる必要はなかった。
しかし前島が卒業。
柏田も20代。
グループの人気は下方修正される可能性が高い。
今のうちに『未来のセンター』を固めておき、いつか『枕』として売り飛ばす。
完全なる『生娘きむすめ』だ。
飛びつくやからは多い。
グループの切り札というべき『最強の枕』になるだろう。


 気障キザったらしく自らを指さす。


天野勇二

そんなことを考えていた時、処女と非処女を見分ける男の存在を知った。
しかもそれは柏田が惚れている男。
もう柏田は『処女性』を売りにするのではなく、大人の魅力を振りまく女性に成長すべき年頃。
男に『報酬』として『処女』を奪わせれば誰もが喜ぶ結果になる。
まさに『一石三鳥』というワケだ。


 天野は「クックックッ」と笑った。


天野勇二

だが困ったことになぁ。
どこかの偽善者が『処女』の娘にこう伝えちまったんだ。

春川は『処女の枕営業アイドル』を探している。
枕になれば君に未来はない。
指示されたらグループを抜けることも考えろ。


 天野は懐から『録音機ボイスレコーダー』を取り出した。


 春川の顔が一気に険しくなる。


 天野は春川との会話を『盗聴』していたのだ。


天野勇二

研究生たちは素直に聞き入れたよ。
俺様が偽善の塊か。
あんたにはこう思ってほしいな。
余計なことしやがってこのクソ野郎ってな。
あっはっはっ!


 天野はゲラゲラと笑っている。


 前島は唖然あぜんとしている。


 春川は大きく深呼吸すると、


春川泰俊

……なるほどね。
これが天才クソ野郎か。
君を甘く見ていたようだ。


 温和な笑顔を浮かべ、嬉しそうに両手を広げた。


春川泰俊

ここまで綺麗に裏をかかれるとは。
天野くん、君は素晴らしいよ。
僕と手を組まないか?


 春川は身体を前に乗り出した。


春川泰俊

君は僕にとって理想のビジネスパートナーかもしれない。
最高のブレインだ。
少なくとも敵には回したくないね。
僕は全ての本音をぶちまける。
僕の右腕になって、マスメディアを支配してみないかい?


 前島は驚いて春川を見つめた。


 春川は芸能界の『裏のドン』だ。


 広告代理店やメディアを裏で操作してしまうほどの男。


 ここまで言うとは、よほど天野のことを認めたのだろう、と感じた。


天野勇二

クックックッ……。
ならば、こちらも本音をぶちまけよう。


 天野は立ち上がると、殺気を放ちながら春川を睨んだ。


天野勇二

俺様はな、女子供を自らの駒のように扱い、利益をむさぼうとするブタが大嫌いなんだよ。

貴様が扱っている商品は女子供の人生そのものだ。
奴隷商人どれいしょうにんのようなクズめ。
俺はその輪に加わるつもりはない。


 春川は激しい殺気を受け止め、ため息を吐きながら言った。


春川泰俊

君はそんな本音を持っていたのか。
それを知っていれば良かったよ。
だけど、君は少し勘違いをしている。


 春川も立ち上がった。


春川泰俊

女子供に「人生を差し出せ」と命じているのは、僕じゃない。
それを命じているのは『大衆』だ。
大衆は望んでいるんだよ。

熱狂できるアイドルを。
女として輝き、世間にちやほやされる舞台を。
そこから生まれる金を。


どれだけ時代が変わってもこの事実は揺るがない。


 背の高い天野を挑発的に見上げる。


春川泰俊

彼らは熱狂するんだ。
僕のプロデュースに。
僕の書いたうたに。
そうして僕の書いたうたは後世に残る……。

それがこの仕事の醍醐味だ。
僕は奴隷どれい商人しょうにんじゃない。
大衆の先頭に立つ『プロデューサー』なんだよ。


 天野は鼻で笑った。

 春川を見下す。


天野勇二

お前は神にでもなったつもりか?
アイドルという神像を作り、信者に賛美歌を聴かせ、CDを買うことで富を捧げと命令する。
それは、いつか消えてなくなる空虚くうきょなものだ。
そんなものを産み出す時間があるなら、俺は目の前に横たわる病人を救う。

だが、これだけは言おう。


 天野は殺気を放つのを止めて、冷静に春川を見つめた。


天野勇二

お前のおかげで、俺は前島と出会った。
その点は感謝している。
もしかしたら、俺は『空虚な神』に救われたのかもしれないな。


 そこまで言うと、天野は春川の事務所を出て行った。


 春川はもう天野を見ようともしなかった。


 前島は春川のことも気になったが、急いで天野の後を追った。


前島悠子

師匠!
待ってください!


 天野は事務所の外でタバコを吸っていた。


 その腕を掴み、声をかける。


前島悠子

確かに師匠の言うとおり、春川さんは酷い人です。
でも私をただの中学生からアイドルにしてくれました。
そのことはすごく感謝してるんです。


 天野は煙を吐きながら頷いた。


天野勇二

ああ、お前はそれでいい。
その気持ちを大切にしろ。
だが、春川のアプローチ方法がまずかった。
柏田の『処女』をエサにして、枕営業させる女を選ばせようとしやがった。
俺様をナメやがって。


 嫌そうに首を振る。


天野勇二

もっと違う出会い方だったら、違う付き合い方があっただろう。
だが、所詮は相容れぬ価値観。
俺と春川はあれでいいのさ。


 前島は肩を落とした。


 切なげに問いかける。


前島悠子

師匠……。
私もいつか消えてしまう『空虚な存在』ですか?
私のやっていることは、いつかは消える、むなしいことでしょうか?


 天野は優しげに笑った。


天野勇二

お前は『流星クソ女』じゃなかったのか?
きっと春川にも何かの『本質』があったのだろう。
お前は『本質』を見失うな。
目に見えなくても、永遠に残る輝きを届けろ。



 前島は深く頷いた。



 ぎゅっと天野に抱きつく。



 内なる輝きを届けるように。



 天野の心が、たった一時ひとときだけでもきらめくように。



 天野は前島の頭を撫でながら、星の見えない灰色の夜空を見上げていた。






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つばこ

恥ずかしいことを告白しますが、私は「天才クソ野郎が実写ドラマ化されたらいいなぁ」という大それた願い事を持っています。
 
「どうかテレビ局や製作会社の皆さま。試しに天クソをゴールデンタイムでやってみませんか。何かの間違いでヒットするかもしれないじゃないですか。ガッキーに可愛いダンスを踊ってもらったりすれば流行るかもしれませんよ(´∀`*)ウフフ」
 
こんな大それた願い事も「今回のゲスすぎるエピソードを公開したことで、もう叶うことがないのかなぁ( ゚д゚)」とか思いますが、つばこは諦めない!!
いつか叶いますように!!!!
読者の皆さまは天野くんや涼太くんを誰に演じてほしいですかー!?ヾ(*´∀`*)ノキャッキャ
 
来週は『プロデュース編』の後日談!
いつもオススメやコメント、本当にありがとうございます!ヽ(○´∀`)人(´∀`○)ノイェーイ♪

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コメント 195件

  • ぷよぷよ

    春川もクソ野郎だけど、確かな「本質」を持ってるんだな…

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  • ゆんこ

    もう恋人だよ、それ。

    ドラマ化するといいですね!私も観たいな!!
    どこかのプロデューサー様、どうか天クソ天野様を実写化させてくださいm(_ _)m

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  • まっきー

    最初は天クソが面白過ぎて実写化を期待したけど、読み進めていくうちに天野くんのクソ加減や人格が神過ぎて…圧倒的唯一無二の存在になってしまった。誰にも演じれない、演じて欲しくないに変わっちゃった(笑)それに極道の凄みを出せるイケメン若手俳優も思い浮かばないw

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  • バルサ

    スカッとする逆転劇だったな…流石だ、天野くん‼︎ 合格者ナシとは(^^;;
    年齢は置いといて…
    天野くんは、福山雅治だな。涼太は、三浦翔平いいね〜(^^)

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  • ブラウン管

    ナチュラルにいちゃつく師匠と弟子……嫌いじゃないです

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