研究生の中から『未来のセンター』を選抜し、5人組のユニットを結成する……。



 そんな依頼を受けた翌日。



 天野は研究生たちの練習レッスン公演ライブ、握手会などに同行することにした。



 研究生たちの間にも「天野という謎のイケメンがユニットを選抜するらしい」という噂は一気に広がった。



研究生A

天野さんはじめまして!

研究生B

よろしくお願いします……。

研究生C

天野さぁん♡
私を選んでください♡



 研究生たちは様々な反応を見せた。


 媚びを売ったり、うとましく睨んだり、無関心を装ったり……。


 それらの反応を天野は楽しげに眺めていた。


前島悠子

師匠!
お待たせしました!
弟子がきましたよ!

天野勇二

おお、前島か。
待っていたぞ。


 天野は珍しく前島を歓迎した。


天野勇二

ちょっと見た目だけでは選考できない、と感じていてな。
垢抜あかぬけていない娘が多すぎるんだ。

前島悠子

まだ若い子ばかりですからねぇ。
私も中学生の頃はあんなものでしたよ。

天野勇二

お前らのグループは何を重視しているんだ?

前島悠子

やっぱり歌とか……。
あとは踊り方のセンスを見ますね。

天野勇二

研究生ってのは、それをクリアしていると考えていいんだな?

前島悠子

そうです。
みんな厳しいオーディションを突破してます。
研究生になるだけでも立派なことなんですよ。

天野勇二

なるほど……。


 ちょうど本日はダンスレッスンの日。


 研究生が全員集まっている。


 天野は研究生たちを呼び寄せ、パンパンと両手を叩きながら声をあげた。


天野勇二

噂は聞いていると思うが、俺様が天野勇二というものだ。
お前らの中から『未来のセンター』になり得るヤツを選抜する。
春川からのリクエストは5人だ。
お前らはアイドルとして輝くための原石だろう?
原石の中にある輝きを俺様に見せろ!


 研究生たちは怯えながら天野を見上げている。


 天野は舌打ちしながら怒鳴った。


天野勇二

おい!
返事はどうした!?

研究生たち

は、はい!


 まだ研究生たちは真剣味に欠けている。


 天野は釘を刺すことにした。


天野勇二

いいかお前ら。
俺様は春川に『5人はいませんでした』と伝えることもできるんだ。
逆に5人以上を選抜することもできる。
このチャンスを見逃すアイドルなんてたかが知れているぞ。
全力を見せやがれ!
いいな!!!


 今度は研究生たち全員が「はい!」と叫んだ。


 天野は満足げに頷き、恐るべきオーディション内容を告げた。


天野勇二

明日、この時間に全員が集まり、ダンスレッスンをするらしいな。
その時間を使って『俺様流オーディション』を行う。
明日までに各自、プロレスを研究してこい!


 研究生の間にざわめきが走った。


 前島が慌てて天野の腕を掴む。


前島悠子

し、師匠?
プロレス?
プロレスって言いました?
本気で言ってるんですか?

天野勇二

ああ、 本気マジだ。
プロレスを研究し、各自が最も芸術的だと感じた技を俺様に披露しろ!
求めるのは破壊力じゃない。
芸術性再現性だ!
それを演じきるための努力を行え!
以上だ!!!


 研究生たちは動揺しながらも「はい!」と返事した。


 前島はかなり不安げな表情だ。


前島悠子

あの、師匠……。
今の子は、プロレスなんて知らないと思いますけど……。

天野勇二

たった技ひとつだ。
知らなければ調べればいい。
できなければ特訓すればいい。
それだけの話さ。

前島悠子

はぁ……。
特訓なんてできるんですかねぇ……。


 前島は困惑しながら、プロレスを調べ始めた研究生たちを見つめていた。



 翌日。


 ダンススタジオに厚いマットを用意し、念のためコーナーポストも設置した。


 前島は仕事が忙しく立ち会えない。


 天野は特別に涼太を呼んだ。


佐伯涼太

うはぁ……!
これが研究生の子たち?
可愛い娘多いじゃん!

天野勇二

そうだろう。
しかも今日はお前が大好物のオーディションがあるぞ。

佐伯涼太

なになに?
水着審査とか?
うぷぷ……。
たまんないねぇ。
僕ちゃんがナマ着替えを手伝ってあげようか?


 その声を無視して、天野は名簿を取り出した。


 研究生たちの名前とプロフィールが書かれている。


 研究生それぞれに番号を割り振り、覚えやすくするために番号札も装着させている。


 番号の頭からやらせることにした。


天野勇二

涼太よ、マットの中央に立ってくれ。

佐伯涼太

オッケー。
なんだかプロレスでもやるみたいだね。

天野勇二

どう見てもそう思うよな。
ところがそうなんだ。
よし、1番!
やれ!!!


 涼太が「え?」と困惑した声をあげた。


 研究生たちはスタジオの壁沿いに座っており、その中から『1番』の娘が立ち上がった。


天野勇二

技名はなんだ?

研究生①番

チョ、チョップです!

天野勇二

よし、やれ。


 涼太を指さして命じる。


研究生①番

え、えい。


 怯えてガードする涼太に弱々しいチョップが「ぺちん」と当たった。


 天野は壁を「ドカン」と蹴り上げ、怒りを爆発させた。





天野勇二

てめぇ俺様のオーディションなめてんのか!
なんだそのチョップは!?
熊でも殺すつもりで打て!
本気でやらねぇならぶっ潰すぞ!
俺様はママゴトしにきてんじゃねぇんだ!



 凄まじいほどの怒号。


 スタジオの壁がビリビリと振動し、研究生たちは全員震え上がった。


 天野の殺気をびた怒号は恐ろしく怖い。


 殺気と怒号だけならば、本職の極道そのものだ。



天野勇二

これアイドルに関係ないじゃん、なにがプロレスだよ、と考えているヤツは出て行っても構わんぞ!
そうなれば俺は春川に

コイツは難問に取り組む姿勢と意欲がない。
困難があればすぐに挫けるだろう。
スターになる素質はないからクビにしてしまえ。


と伝えるだけだ!
別に俺様はプロレスラーになる色物アイドルを探してるんじゃない。
お前らの『異質な難問に対する姿勢』を見ているんだ!



 どこからか竹刀を取り出し、床にバチンバチン打ちつける。



天野勇二

お前らは一流のアイドルになりたいんだろう!?
自らの容姿やダンスで観客ファンを魅了させるつもりなら、プロレス技でも魅了させてみろ!

お前らは研究生。
磨かれてもいない原石。
つまりはただの石ころだ!
それでもいつか、スポットライトを浴びて輝きたいんじゃないのか!?
ならば石ころなりの輝きを見せやがれ!



 研究生たちは怯えながらも「は、はい…」と返事した。


 その姿を見て、涼太は「とんでもないことやらせるなぁ。可哀相に」とため息を吐いた。



天野勇二

1番!
もう一度やれ!
チョップを打て!
このチャラ男を全力でぶち殺せ!



 可哀想なことに、1番の娘は天野の怒号を受け、震えて泣き出していた。


研究生①番

ひっく……。
えっぐ……。


 涼太がオロオロしながら語りかける。


佐伯涼太

うわぁ、そんなに泣かないでぇ……。
本気で打っていいからね。
ほら、遠慮しないで。


 1番の娘は嗚咽おえつをあげている。


 天野の怒号が再びとどろいた。



天野勇二

この愚鈍ブスが!
泣けばすむと思うなよ!


もういい!
2番に代われ!
お前はもう一度ラストにやらせる!
他のヤツらの根性を見ていろ!



 研究生たちは「とんでもないことになった」と怯えていた。


 ほとんどの娘は本気でプロレス技なんて研究していない。


 激しく困っていた。


天野勇二

2番よ。
技名はなんだ。

研究生②番

わ、わたしもチョップです。

天野勇二

よし、やれ。


 2番の娘は覚悟を決め、本気のチョップを「パシーン」と放った。


天野勇二

いいだろう。
次だ。


 涼太はげんなりしてきた。


 いくら貧弱な攻撃でも、36人分を受けると痛い。


天野勇二

3番よ。
技名はなんだ。

研究生③番

パ、パンチです。

天野勇二

よし、やれ。

研究生③番

えいっ!


 弱々しいパンチが、涼太の頬に叩き込まれる。


天野勇二

4番よ。
技名はなんだ。

研究生④番

はい!
キックです!

天野勇二

よし、やれ。

研究生④番

せいりゃ!


 「べチン」と鈍い音が響く。


 涼太はもう涙目だ。


天野勇二

5番よ。
技名はなんだ。

研究生⑤番

ラ、ラリアットです。

天野勇二

ほう、やれ。


 5番の娘は腕をぐるぐる回すと「愛してまーす!」と叫んだ。


 現役プロレスラーのモノマネを取り入れ、しっかりアピールの間を設けている。


天野勇二

(ほう……。やるじゃないか。そんな工夫が見たいんだよ)


 5番の娘は「いくぞぉ!」と叫び、涼太にカチ上げるようなラリアットを繰り出した。


佐伯涼太

やられたぁ!


 涼太はその衝撃を受けたように後方宙返りバック転し、うつ伏せでマットへ倒れ込んだ。


 見事なプロレス技の完成。


 研究生から歓声があがった。


天野勇二

5番よ。
お前の愛称あだ名はなんだ?

みおりん

はい!
みおりんです!

天野勇二

どうだお前ら!
みおりんの細腕が男を反転させるほど吹き飛ばしたように見えただろう!
これがプロレスだ!

みおりん、よく研究してきたな。
君は合格だ。
褒めてやろう。

みおりん

あ、ありがとうございます!


 天野は手をパンパン叩いて叫んだ。


天野勇二

よし、次だ!
次の技はなんだ!





 研究生たちのプロレスショーは2時間後に終了した。


 天野から合格を貰ったのは3名だけ。


天野勇二

これじゃダメだ。
明後日のダンスレッスンの時間に追試を行う。
33人はやり直せ。


 研究生たちは果てしなくグッタリしていた。


 こんなことをして何の意味があるのだろう。


 研究生たちの表情を見て、天野は極悪の笑みを浮かべた。


天野勇二

お前らの表情はくっきり分かれている。

面倒だと嘆いているヤツ。
やばい勉強しなきゃと考えているヤツ。
もう帰りたいと願うヤツ……。

言っておくが、今の態度も全てチェックしているからな。


 研究生は慌てて表情を整えた。


 特に「面倒だ」と考えていた娘は慌てて表情を引き締めている。


 それらを眺め、天野は不敵に微笑んでいた。





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つばこ

36人のプロレス技を受けきった涼太くんは、全身の痛みに震えながらも、どこか満足した至福の笑顔を浮かべていたそうです。(余談)
 
しかし理不尽ですね。天野くんは理不尽極まりないです。
でも、一流のプロを指導するコーチはほとんどがスパルタらしいので、これはこれで正しいオーディション……なワケはありませんな( ゚д゚)
天野くんなら大丈夫だとは思いますが、研究生たちがケガをしないよう祈るばかりです(´;ω;`)
 
ではでは、いつもオススメやコメント、本当にありがとございます!(ノ*´∀`)ノ☆アイシテマァァース+・。*♪

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コメント 128件

  • たけっち

    カミゴェが簡単だよ、多分

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  • すみす

    みおりんとか笑笑
    てか豆腐プロレスやってたこと知ってらっしゃるのかな作者さん…!

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  • 美月

    フレッシュレモーン!

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  • 綾夏

    天野、流石だな。
    そしてけが人が出なくて良かったな。涼太含め

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  • あお

    フレッシュレモン

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