天野と春川の長い話が続いている頃、ようやく前島が劇場に到着した。


 思ったより仕事が長引いてしまったのだ。


前島悠子

川口さん!
おはようございます!
もう師匠きてますか!?


 川口は黙って春川の部屋を指さした。


 扉の奥から天野と春川が談笑している声が聴こえる。


 かなり盛り上がっているようだ。


 大きな笑い声まで漏れている。


前島悠子

おおっ!?
意外に盛り上がってますね……。
何を話してるんでしょう……?


 前島が『盗み聞き』しようか迷っていると、部屋の扉が呆気なく開かれた。


天野勇二

おお、前島か。
遅かったな。

前島悠子

し、師匠!
春川さん!
おはようございます!


 天野と春川が不敵な笑みを浮かべながら出てくる。


 天野は上機嫌に言った。


天野勇二

弟子よ、思ったより春川さんは話せる人だ。
さすがは芸能界の『裏のドン』と呼ばれる人物。
俺様はひとつ春川さんの話に乗り、依頼を受けることにしたぞ。


 前島は驚いて天野を見つめた。


 天野と春川が『話が合う』ということが驚きだ。


 春川は女子供をアイドルに仕立て上げ、ファンからむさぼるように金を集める天才プロデューサー。


 『子供好き』である天野が好むような人種ではない。


 同じ『クソ野郎』といえども、意気投合することはないだろうと、前島は考えていたのだが……。


天野勇二

春川よ、俺様に紹介したい女どもはどこだ?


 川口がその声に恐れをなした。


 天野が敬語を使っていない。


 春川は上下関係をかなり重視する男だ。


 年下の若造にタメ口をきかれたら間違いなく激怒する。


 しかし、春川は気にした様子もなく、天野に答えた。


春川泰俊

今は公演ライブ中なんですよ。
まだグループの本メンバーではなく、二軍のような立場なんですが、場数ばかずを踏ませる必要がありますからね。

天野勇二

それが『研究生』と呼ばれるヤツらか。
そこから選抜センバツするんだな。

春川泰俊

その通り。
天野さんの御眼鏡おめがねかなうか楽しみですね。


 天野と春川は仲良く劇場へ向かった。


 前島が川口に近づき、小声で尋ねる。


前島悠子

あの、川口さん……?
師匠と春川さんは何を話してたんですか……?


 川口は盗み聞きをするような人間ではない。


 オロオロしながら首を横に振った。


川口由紀恵

わからないのよ……。
最初はボソボソ普通に喋っていたんだけど、途中から天野様が大声で笑い始めて……。
それから大盛り上がりになったの。

前島悠子

大盛り上がり?
信じられませんね……。
あの2人、意外に気があったんですね……。


 劇場ではちょうど公演が終了し、客が帰るところだった。


 ドルオタたちは爽やかな汗を拭い、それぞれが至福の笑みを浮かべている。


春川泰俊

どうですか天野さん。
本メンバーでもないのにこの客入りですよ。
しかもほぼ全員を満足させている。
僕のグループは大したものでしょう。

天野勇二

やり手だな。
研究生でも客を呼び、しっかり金を稼いでやがるのか。

春川泰俊

これだけじゃありません。
客の帰り道には売店が3ヶ所。
そこでさらに金を落とさせるんですよ。

天野勇二

ククク……。
悪いヤツだ。
嫌いじゃないね。

春川泰俊

ええ、なかなかのクソ野郎でしょう?

天野勇二

あっはっは!
まったくだ!


 天野と春川は完全に本性をさらけ出している。


 出会ったばかりとは思えない。


 長年の友人のようだ。


 前島と川口はその姿を呆然と見つめた。


春川泰俊

それじゃ、みんなを集めてくれるかな。


 客が全員立ち去ると、春川は研究生たちをステージに呼び寄せた。


 本日の研究生たちは18人。


 中学生から高校生まで幅広い年代が揃っている。


 公演後で踊り疲れていたが、プロデューサーである春川の指示は絶対だ。


 全員が元気良く一列に並んだ。


春川泰俊

天野さん。
これが研究生です。
この中から選抜していただけますか。

天野勇二

ふーん。
俺様にはどいつも可愛く見えるがなぁ。

春川泰俊

そうでしょう。
全員に素質はあります。
この中から前島や柏田のような『絶対的センター』を生み出したいんですよ。


 天野はステージに上がった。


 研究生の前に立ち、舐め回すように観察している。


 前島も天野を追いかけてステージに上がった。


前島悠子

あの、師匠?
いったい何をしてるんですか?


 前島の姿を見て、研究生たちはざわめきの声をあげた。


 もう卒業したとはいえ、前島はかつての『絶対的センター』だ。


 天野は研究生を観察しながら答えた。


天野勇二

研究生の中から『未来のセンター』になりえる娘を選抜して、ユニットを結成するんだとよ。
だが、プッシュすべき人材が多くて春川さんはお悩みらしい。
そこで天才クソ野郎の審美眼しんびがんを借りてみよう、と考えたそうだ。

前島悠子

えっ……?
それじゃ、師匠がユニットメンバーを選抜するってことですか!?

天野勇二

そうだ。
おい春川、コイツらは整形させても良いのか?


 春川は「うーん」と腕組みした。


春川泰俊

できればしたくないですね。
そこまでの『コスト』を回収できる見込みはありません。
ユニットの方向性ともズレますしね。

天野勇二

なるほど。
じゃあ、お前とお前は下れ。


 遠慮なく女の子を選抜していく。


 5人がまず脱落した。


 落とされた女の子はがっくり肩を落としている。


「お前はブスだから下れ」と言われたようなものだ。


天野勇二

お前とお前とお前とお前もダメだな。


 天野の選抜基準が前島にはわからない。


 ダンスも見ずにユニットを組もうとしているのだ。


 たまらず声をあげた。


前島悠子

し、師匠!
どうしてあの子たちはダメなんですか?


 天野は前島の耳元でささやいた。



天野勇二

非処女だからだ。



 前島は愕然がくぜんと天野を見つめた。


 確かに天野は女性を見るだけで、「処女」か「非処女」か、見破る才能を持っている。


天野勇二

春川よ、今わかるのはこの8人だけだ。
後は普段の行動などを見ないとわからないな。


 春川は拍手して天野をたたえた。


春川泰俊

さすが天野さん。
僕も同意見です。
本当に見極められるんですね。

天野勇二

ああ、アンタと同じさ。


 2人のクソ野郎がニヤリと笑う。


 前島がじれったく割り込んだ。


前島悠子

は、春川さん?
師匠はアイドルに関しては素人以下の知識しかありませんよ?
どうしてユニットを師匠に選ばせるんですか?


 春川は楽しそうに言った。


春川泰俊

天野さんは君と麻紀ちゃんの『本質』を見極めた男じゃないか。
そんな彼が選ぶユニット。
これは興味あるね。
運命に導かれた女の子たちになると思わないかい?


 前島は顔をしかめた。


 これは春川の『悪い癖』だ。


 人気者スターになる娘は「売れるべき天運てんうんを持っていると、春川は考えている。


 運命的な直感や、巡りあわせを好む男なのだ。


 前島はその性格が好きでもあり、嫌いだった。


前島悠子

師匠が選ぶ女の子ユニットは興味ありますけど……。
でもなぁ……。
なんか不安ですね……。


 春川は「ぽん」と手を叩いた。


春川泰俊

それなら悠子ちゃん、君も協力してくれるかい?
天野さんは1週間ほど研究生たちに同行するんだ。
天野さんのサポートをしてくれるかな?

前島悠子

えっ!?
1週間も!?
マジですか!?

天野勇二

ああ、マジだ。
弟子よ、俺様のプロデュースに協力してくれるだろうな?

前島悠子

は、はい!
もちろんです!
やったぁ!


 前島は飛び跳ねて喜んだ。


 仕事という名目で、天野との時間を増やすことができる。


 これまでは大学のテラスでしか会えなかったのに。


 喜ぶのも当然だ。


前島悠子

おまかせください!
師匠は芸能界にうといですからね。
私が師匠をしっかりアシストします!

天野勇二

助かるよ。
頼りにしてるぜ。

前島悠子

はい!
顎でコキ使ってくださいね!


 研究生たちは前島の言動を見て、「天野という男はタダ者じゃない」と感じていた。


 卒業したとはいえ、前島は今も国民的アイドル。


 研究生にとっては雲の上にいる存在。


 しかも普段の前島はどこか無愛想であり、本番以外では笑わないことで有名だ。


 それが天野には全力でデレており、顎でコキ使ってくれ」とまで言っているのだ。



 春川にタメ口をたたき、見たことのない前島を登場させる謎の男……。



 研究生は天野に畏怖いふの念すら抱き始めていた。


春川泰俊

あっはっはっ。
ここまで嬉しそうな悠子ちゃんは初めて見るね。


 春川が破顔はがんしながら言った。


春川泰俊

天野さん。
研究生は36人います。
今の倍はいるんです。

天野勇二

そんなにいるのか。
何人に絞ればいい?

春川泰俊

5人のユニットでいきましょう。
5人でひとつになるのではなく、5人全員がセンター候補として見てください。


 天野は悪い笑みを浮かべながら研究生を睨みつけた。


 ここでようやく研究生たちは「とんでもなく重要な話をしている」と理解した。




 選ばれるのは将来のセンター候補。



 春川は売るために全力でプッシュし、世間も期待のエースとして受け止めるだろう。



 突然舞い降りたチャンスの順番。



 これを勝ち取れば、間違いなく売れる。



天野勇二

春川さんの中にも、何人かピックアップしているヤツがいるんだろう?

春川泰俊

もちろんです。
天野さんの意見と一致すれば最高ですね。
僕も天才クソ野郎だ。


 天野と春川が「クックックッ」と笑った。


天野勇二

俺様に言わせれば、アンタは十分に天才クソ野郎を超えている。
実に楽しめそうだ。


 天野は気障キザったらしい笑みを浮かべ、研究生たちを睨みつけた。


天野勇二

お前たちの中から前島に匹敵する女を探すのか……。
さて、どんな姿を俺に見せてくれるのかな?





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つばこ

変わり者の春川プロデューサーの選抜方法は有名でして、これまで『選抜総選挙』だの『じゃんけん選抜』だの『ドラフト選抜』だの『日本列島ダ○ツの選抜』だの『ペンパ○ナッポーアッポー選抜』だのと、変わった選抜方法で世間を賑わせました。今回は『天才クソ野郎選抜』ともいえるユニットが誕生するのかなぁ(´∀`*)ワクワク
 
しかし天野くんは報酬の『処女』をどうするつもりなんでしょう……。
ホントに貰うのかな?
まきりんは「むしろあげたい」と考えてますから、天野くんが欲しがればみんなハッピーなんですね。
弟子と涼太くんは怒ると思いますけど(ノ∀`)タハー
 
ではでは、いつもオススメやコメント、本当にありがとうございます(`・ω・´)ゞ

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コメント 102件

  • ゆんこ

    想像するなよ!

    いいか、絶対に想像するなよ!

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  • ゆめおぼろ@天クソ/パステル

    今回の話めっちゃ面白いな!

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  • バルサ

    柏田さんの処女は、どうなるんかな(^^;;
    どうする気なんだ、天野くん。

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  • アノニマス

    処女と非処女の対比がリアルでしたね。作者様のアイドル感が、変に肩入れされてないぶん、アイドルに興味ない私も客観的に楽しめます。

    あきさん、良案!

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  • phenyl

    ppap選抜ってなに⁈www
    ppap上手い人が選ばれるの?w

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