その日の夜。


 天野は秋葉原アキバにある、アイドルグループの劇場があるビルへ向かった。


 入り口にはマネージャーの川口が立っており、天野の姿を見ると、どこかすまなそうに頭を下げた。


川口由紀恵

お越しいただき感謝します。

こちらです。


 裏口に回り、関係者専用のエレベーターで劇場階まで上がる。


 フロアからはにぎやかな音楽。


 女性の歌声と、野太い男性の歓声。


 どうやらコンサートの真っ最中のようだ。


川口由紀恵

天野様、よろしいでしょうか。


 川口は神妙な顔つきで言った。


川口由紀恵

電話でもお伝えしましたが、プロデューサーは芸能界の『裏のドン』とも呼ばれる人物です。
今回ばかりは普段の無礼な発言をお控えください。
うちの事務所が潰れかねません。


 天野はニタニタと悪い笑みを浮かべた。


天野勇二

どうせ縁のない他人だ。
いつものスタンスを崩す気はない。
お前の事務所がどうなろうと知ったことではないな。


 川口は涙目で懇願こんがんした。


川口由紀恵

天野様、本当にお願いします……!
うちは何人もグループのタレントを抱えているんです。
今後も良好な関係を保たねばなりません。
前島や柏田に迷惑がかかるかもしれませんよ。

天野勇二

それを言われると弱いな。
まぁ、普通に接するよ。
普通にな。


 川口は深いため息を吐きながら、プロデューサーの部屋の扉をノックした。


川口由紀恵

春川はるかわさん、失礼いたします。
天野さんをお連れしました。

???

おお……。
今、開けますね。


 扉がゆっくり開かれ、太った中年の男が現れた。




春川泰俊

天野さんですね。
春川泰俊はるかわやすとしと申します。
お会いできて光栄です。


 春川は温和な笑顔を浮かべて天野を出迎えた。


 淡いピンク色のシャツを羽織り、虹色の派手なメガネをかけている。


春川泰俊

狭い部屋ですが座ってください。
川口さん、もう大丈夫ですよ。


 川口は困惑しながら天野たちを見つめた。


 天野の言動が不安だが致し方ない。


 一礼して部屋を後にした。


天野勇二

どうも、天野勇二です。


 握手を交わしながら春川を観察する。


 物腰は柔らかい。


 相手は年下の若造なのに、見下すような態度も取っていない。


 コイツは相当なタヌキだろうなと、天野は感じた。


春川泰俊

ずっと天野さんには興味を持っていたんです。
前島には『卒業』に関するアドバイスを与え、柏田の命をテロ集団から救い、難病の子供たちのためにチャリティーイベントを仕掛けた天才医学生……。
どんな御方なのか、一度お話をしてみたいと思っていたんですよ。


 天野はニヤリと口唇を歪めた。


 春川は心の内を見せない。


 いくら何でもタヌキすぎる。


 ちょっと不快感を刺激してやろうと思い、偉そうに指先を振り回した。


天野勇二

そんな世辞はいりませんよ。
そもそも春川さん、本当は俺なんて迷惑でしょうがないのでは?

チャリティーイベントなんて、本来はあなたの許可が必要だったはずです。
それなのに俺は無理やり話を通してしまった。
前島の卒業も賛成していなかったはずです。
おまけに今回、柏田とのスキャンダルが発覚。

あなたにとってこんな邪魔者いないでしょう?


 春川の笑顔が少しだけ歪んだ。


 天野は「それでいい。タヌキの素顔を見せな」と思いながら、偉そうに言葉を続けた。


天野勇二

前島から聞いたと思いますが、俺は『天才クソ野郎』と呼ばれる男でしてね。
やることが破天荒はてんこうなんでしょう。
模範的な学生でありたいだけなのに、大人の恨みを買うことばかりで困っちゃいますよ。


 ニタニタと下品な笑顔を浮かべる。


 春川は嬉しそうにその顔を見つめた。


春川泰俊

天野さんは前島から聞いた通りの方ですね。
実は君の持つ『あだ名』が凄く羨ましいんですよ。
僕は『天才』と呼ばれ、同時に『クソ野郎』とも呼ばれたいんです。


 春川は頬の肉を揺らせながら笑った。


春川泰俊

僕の仕事は様々な『やり方プロデュース』で、大衆が熱狂するものを生み出すことです。
当然ながら『天才』と呼ばれる感性が必要。
しかし、それだけじゃこの業界は生き残れない。
時には汚い『やり方プロデュース』を選ぶ必要がある。
ただの善人ではやっていけないんです。


 大げさに肩をすくめる。


春川泰俊

それに僕のポリシーは『下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる』でしてね。
アイドルグループのプロデュースはたまたま成功しましたが、それ以上の失敗と挫折を味わったものです。
ただの天才じゃそこで終わります。
でも『クソ野郎』であれば、

またやり直してやる。
次は必ず成功させるぞ。

そう思えるじゃないですか。

天野勇二

それで実際に『天才クソ野郎』を見てみたいと思ったワケですか。
面白い人だ。
あなたは変わり者なんでしょうね。

春川泰俊

ええ、僕は変人で有名です。
僕の言動はなかなか人に理解されない。

天野さん。
こんなことを言うと偉そうですが、君は僕になれる素質があると思うんですよ。


 天野は両手を大げさに広げた。


天野勇二

あなたみたいな天才プロデューサーに?
俺には無理ですよ。
大衆が好むものに興味はないんです。
事実、俺はあなたの書いた曲なんてひとつも知りません。


 春川は照れ臭そうに頷いた。


春川泰俊

嬉しいですねぇ。
まだ僕の詩や曲には届ける場所がある。
そう感じさせてくれます。

しかし君は彼女たちと信頼関係を築くことに関しては、僕の遥か上を行っている。
前島と柏田を見ればわかりますよ。

天野勇二

それはあなたと立場が違うだけの話です。
俺はアイドルという『商品』として前島を見てはいない。
ただの個人としか見てませんからね。


 春川は膝をパンと叩いた。


春川泰俊

それですよ。
僕が一番欲しいのは。
簡単なことのようですが、それを実践するのは本当に難しいんです。


 春川の言葉に熱がこもってきた。


春川泰俊

最初は天野さんをただの『純粋な人間』なのかと思ってました。
しかし川口さんからチャリティーを仕掛けた話を聞き、処世術しょせいじゅつに長けた『クソ野郎』であることがわかった。
それなのに前島や柏田を個人として見ている……。

これはですね、僕のように業界に染まった人間が一番大事にしている部分であり、多くの業界人が失う部分なんです。


 天野の顔を覗き込む。


春川泰俊

周囲からの評判、立場、そして見てくれで、人の見方は簡単に変わります。
しかし、天野さんはそんなもの気にされないでしょう。


 天野は偉そうに頷いた。


天野勇二

確かにそうですね。
天才である自分が、凡人の意見に耳を貸す必要はありませんからね。


 春川はニヤニヤしながら天野を見つめた。


春川泰俊

そんな天野さんに依頼したいんです。
実は今、ひとつの『アイドルユニット』を作ろうと考えています。
年齢は15歳前後。
未来のアイドルグループを背負う『センター候補』だけを集めたユニットです。


 天野は苦笑しながら首を横に振った。


天野勇二

別に俺の審美眼しんびがんなんて必要ないでしょう。
芸能事務所やスポンサーとの関係もあるはず。
必然的に使わなければならない人間は決まってくるのでは?

春川泰俊

その通りです。
それらの意見を無視することはできません。

ですが、僕はそれに染まらないものを生み出したい。
だからこそ、個人の資質を見抜く天野さんのご意見を頂戴したいんです。


 春川は挑発的に天野を見つめた。


春川泰俊

聞いた話では、天野さんは女性が『処女』『非処女』なのか、見るだけで判別できるそうですね。
僕も自慢じゃないですが同じ才能を持っているんですよ。
100%とは言えませんが、8割は当てる自信があります。


 天野はニヤリと口唇を歪めた。


 この辺りが頃合いだろう。


 いつもの偉そうな口調を引っ張りだす。


天野勇二

そいつは大した才能だ。
だが、俺は99%当てる自信がある。
医学部の首席かつ天才である俺様にとっては簡単なことだね。


 偉そうで気障キザったらしい『天才クソ野郎』のお出ましだ。


 春川は嬉しそうに普段通りの天野を見つめた。


春川泰俊

……いいね。
君に敬語なんて似合わない。
その天野さんにお会いしたかったんです。
是非とも君の才能を使ってユニットを選抜したい。
メンバー全員が『処女のユニット』にさせたいんです。


 天野は眉をひそめた。


天野勇二

全員が処女だと?
なぜそんなものにこだわる?

春川泰俊

アイドルマニアは『処女性』を重視します。
男を知った早熟な娘とは疑似恋愛できません。
今回はその点を徹底したいんです。

どうでしょう天野さん。
グループの『研究生たち』から前島や柏田に匹敵するほどの『原石スター』を掘り出すんです。
ご協力いただけませんでしょうか。

天野勇二

ふむ……。
前島や柏田に匹敵するほどの娘を選ぶのか……。



 天野は唸った。



 とてもじゃないが協力できる気がしない。



 処女を見抜くのは容易いことだが、アイドルとして大成する娘となれば話は別だ。




 天野が断ろうとした時、春川はもうひとつ言葉を重ねた。


春川泰俊

もちろん報酬を出します。
天才クソ野郎は『昼を奢ること』を条件に依頼を受けるんですよね?
そして、天才クソ野郎に受けられない依頼はないと?


 挑発的に語りかけてきた。


 天野が鼻で笑って答える。


天野勇二

その通りだ。
天才クソ野郎にかかれば全てうまくいくのさ。
どんな報酬を用意しているんだ?


 春川は嬉しそうに言った。


春川泰俊

柏田を女にしてください。

柏田の『処女』

これを報酬として差し出しましょう。







この作品が気に入ったら「応援!」

応援ありがとう!

15,943

つばこ

アイドルグループのプロデューサーかつ芸能界の裏のドン、春川泰俊先生の登場です。
つばことしては「ついに出てきたな」という感じです。どんな人物なのかウィ○ペディアを見てみましょう。
 
※以下ウィ○ペディアから抜粋
 
春川 泰俊(はるかわ やすとし 1968年5月2日-)は、日本の作詞家[注1]、放送作家、映画監督、メガネデザイナー、小説家、脚本家、漫画原作者。東京都台東区在住[注2]。株式会社はるる事務所所属[注3]。
アイドルグループのプロデューサー。全ての楽曲の作詞を担当している。テレビ番組の企画、構成、脚本なども手掛ける。身長170.1cm[注4]。体重は非公表。愛称は「はるる」。好きな動物はタヌキ。
 
 
念のため書いておきますが、春川先生のモデルはいません! いないのです!!!
いつもオススメやコメント、本当にありがとうございます!(`・ω・´)ゞ

この作品が気に入ったら読者になろう!

コメント 188件

  • rtkyusgt

    クソったれだな。
    プロデューサーのお尻を捧げなよ(いらないと思うけど)

    通報

  • 至極気に入らない

    通報

  • まこと

    すんごいゲスい面見せたな!(゚Д゚#)
    まきりん、何だと思ってやがる!?
    いや、まきりんの願望?でも納得したもんね!どちらにせよキショイ親父だ

    通報

  • ゆんこ

    げすいにゃ〜!

    通報

  • ココノ

    気持ちわるい…気持ちわるいぞ…(´・ω・`)
    「アイドルマニアは処女性を求める」とか言いながら、本当に処女性を求めているのは春川本人でしかないし、
    そもそも、まきりんの処女を自分の物みたいに扱うその根性が気に入らねぇ…(´・ω・`)

    通報

関連お知らせ

オトナ限定comicoに移動しますか?
刺激が強い作品が掲載されています。

  • OK