新宿、イーストデッキでの死闘。



 その翌日。



 天野はテラスに現れた。



天野勇二

いよう。
待たせたな。



 テラスには涼太と前島の姿。


 2人はほっと胸をで下ろし、嬉しそうに天野を出迎えた。


前島悠子

師匠!
お帰りなさい!

佐伯涼太

お帰り。
早く解放されて良かったよ。
勇二が逮捕されないか心配だったんだよね。


 天野は呆れたように言った。


天野勇二

ああ、警察は本当に無能だよ。
俺が雨宮を撃ち殺したんじゃないかと、しつこく尋問するんだ。
目撃者が多くて幸いだったな。


 ため息を吐きながら尋ねる。


天野勇二

それで……。
『ウサギ』はどこだ?

佐伯涼太

あ、うん。
これだよ。


 涼太はアタッシュケースを取り出した。


 中には『ウサギのぬいぐるみ』が入っていた。



天野勇二

これか……。



 10cmほどの小さなぬいぐるみだ。


 後ろ足で直立不動しており、赤いツナギを着ている。


佐伯涼太

爆発物とか毒物みたいな、ヤバイものは仕掛けられてなかった。
マジでただのぬいぐるみ。
首は切られてるけどね。


 刃物で切られており、首の皮が1枚、わずかに残されている。


 真綿が飛び出し痛々しい。


佐伯涼太

問題は『ここ』なんだよ。


  涼太はウサギの胸元を指さした。


佐伯涼太

まだ手をつけてない。
調べるのは、勇二が一緒の時がいいと思ってさ。


 天野は静かに頷いた。




天野勇二

マイクロカードか……。




 赤いツナギの胸ポケット。


 マイクロカードが縫いつけられている。


  天野はメスを取り出し、慎重に縫い目を切った。


佐伯涼太

これ使ってよ。


 涼太が中古のモバイルPCを差し出した。


 オフラインであることを確認し、カードを挿入する。


 中にはZIPファイルが入っていた。


前島悠子

ありゃ。
パスワードロックされてますね。
どうしましょう。

天野勇二

問題ない。
パスは聞いている。


 天野は慎重にパスワードを入力した。







まがい物イミテーション天才ジーニアス







 ロックを解除しフォルダを開く。


 中にはテキストファイルがひとつ入っていた。













親愛なる勇二




君がこれを見ているということは、僕はもうこの世にいないのだろう。


君に敗北し殺されたのか。


自ら命を絶ったのか。


できれば前者であることを願うよ。




きっと君は気づいていないだろう。


今回の事件には『黒幕』がいる。


数々の『作品』を用意し、僕を操った、恐るべき黒幕だ。




あいつはある日、突然僕にメールを送ってきた。


僕が仕出かした愚かな過ち。


君との因縁。


その全てが書かれていた。


あいつは勇二に「復讐しよう」と誘い、自らのことを遠隔殺人者トリックメイカーと名乗っていた。





最初は信用していなかった。


こんな正体不明の相手に従うほど、僕も愚かではない。


だけど、あいつは「僕を理解できる」と言ったんだ。




僕の中には「生物を蹂躙じゅうりんしたい」という黒い欲望がある。


性癖せいへきと呼んでもいいだろう。


まともな人間の思考じゃない。


僕は黒い欲望を持った、人間ヒトの形をしたケダモノ


人間ヒトの皮をかぶったまがい物イミテーションだ。


あいつは、それを理解し、受け入れると、言ってくれたんだ……。





なぁ、勇二。


本当はこんな『手紙プレゼント』を残すつもりはなかった。


ただ、君と何度か会話して、気づいてしまった。





僕が本当に恨んでいたのは君じゃない。


君のように生きられなかった自分自身だったんだ……。






いつか『遠隔殺人者トリックメイカー』は君の前に姿を現すだろう。


本当の決着をつける時がくる。


勝敗の結果に興味はない。


君の味方をするつもりもない。


そうだな。


これは旧友への『プレゼント』だ。


そう思ってくれ。


地獄で待っているよ。




雨宮誠司











天野勇二

雨宮……。





 天野はじっとウサギのぬいぐるみを見つめた。


 首の皮1枚を残したぬいぐるみ。



天野勇二

これは、今の俺様の姿、ということか……。



 天野はタバコに火をつけた。


 ゆっくりと煙を吐き出す。



前島悠子

……ど、どういうことですか?
連続殺人鬼シリアルキラーは雨宮じゃない……?


 モニタを眺めていた前島の全身が震えている。


 涼太も同様だ。


佐伯涼太

く、黒幕?
はぁ?
雨宮くん、何を言ってんの……?


 動揺する2人の顔を見て、天野は何事もないように言った。


天野勇二

そういえば伝えてなかったな。
雨宮は身代わりスケープゴートだった。
恐らく誰も殺していない。
まぁ、猫の首ぐらいは切り落としたと思うがな。


 気だるげに煙を吐く。


天野勇二

俺は奴らが用意した『先入観』に踊らされていた。
雨宮が実行犯だと決めつけ、それを疑えず、裏取りもできない状況に追い詰められた。
恐ろしい敵だよ。
俺の思考パターンさえ読んでやがったんだ。


 舌打ちしながら言葉を続ける。


天野勇二

情けない失態だ。
気づくのが遅すぎた。
雨宮は何度か余計な言葉ヒントを口にしていたのに……。

佐伯涼太

余計な言葉ヒント
ど、どういうこと?

天野勇二

雨宮は俺を生かそうとしていたのさ。
生首のトラップなんかで殺したくなかったんだ。

俺との純粋な 決闘タイマン
それが一番の望みだった。

だからトラップを意味する『メッセージ』などの言葉ヒントを吐き、傍観者のようなスタンスを気取り、一度も「自分が殺害した」と言わなかった。
そうやって『第三者』の存在を匂わせた。
腹の底じゃ、黒幕の遠隔殺人トリックメイクに賛同してなかったのさ。


 悔しげに首を振る。


天野勇二

それだけじゃない。

長く米国アメリカにいたのに、俺の行動パターンを熟知していること。
日本に来たのは1週間前なのに、かなり腐敗した『生首』を置いていたこと。

もっと早く気づいていれば、違う結末が待っていただろう。


 涼太は呆然と尋ねた。


佐伯涼太

く、黒幕は誰なの?

天野勇二

知らねぇよ。
手紙プレゼントを読む限り、雨宮も正体を掴んでないな。

佐伯涼太

警察は複数犯だと知ってるのかな。

天野勇二

知っている。
だから俺様を疑った。
冷静に現場を調べ、複数犯の犯行だと確信していたのさ。


 涼太は「マジか…」と呟いて黙りこんだ。


前島悠子

あ、あの師匠……。


 前島が『首の皮1枚残したウサギ』を指さした。


前島悠子

ぬいぐるみの胸ポケットにマイクロカードを隠す……。

過去に、似たような事件ことがありましたよね?
まさか、それに引っ掛けてるんでしょうか?


 天野は深く頷いた。


天野勇二

だろうな。
つまり黒幕こと遠隔殺人者トリックメイカーは、かなり以前から俺たちの行動を把握していた、ということになる。



 涼太と前島は思わず周囲を見回した。


 木漏れ日のさすテラス。


 天野が好んで根城ねじろにしている場所。


 ずっと、誰かに監視されていたのだろうか。


 天野は嫌そうに吐き捨てた。



天野勇二

イカれたヤツだよ。
一切の姿を見せず遠隔殺人トリックメイクすることを好んでいる。
俺様が事件に振り回され、逃げまどう姿さえご所望なのさ。

佐伯涼太

そ、それなら……。
この間の『流出』の事件……。


 『流出』の事件。


 天野の脅迫動画が流出した事件だ。


(詳しくは『彼を上手に流出させる方法』にて)


佐伯涼太

あれも遠隔殺人者トリックメイカーが関わってたのかな?

天野勇二

ありえるな。
あの時の犯人は妙な 『捨て台詞』を吐きやがった。
手口パターンも似ている。
一度、全てを調べ直す必要があるだろう。

佐伯涼太

信じられない!
それがマジなら、ガチでイカれてるよ……!



 テラスに沈黙が訪れた。


 もう涼太と前島の顔面は蒼白そうはくだ。






 天野を以前から監視し、狙い続け、女子供の『生首』まで用意し、それでいて姿を一切見せない、謎の遠隔殺人者トリックメイカー






 涼太は頬を「パァン」と叩いた。


 力強く立ち上がる。



佐伯涼太

これ、警察に通報する?

天野勇二

却下だな。
警察は実害がなければ動かない。
そして、もう奴らと手を組むつもりはない。

佐伯涼太

根城ねじろは変える?
監視されてるかもしれないんでしょ。

天野勇二

それも却下だ。
俺はここテラスが好きなんだ。
誰に監視されていても引っ越すつもりはない。


 涼太は苦笑しながら頷いた。


佐伯涼太

じゃあさ、まず隠しカメラや盗聴器を探そうよ。
落ち着いて『みかん』とか食べられないもんね。


 天野は「ほう?」と呟いて涼太を見つめた。


天野勇二

まだ俺様とつるむのか?
危険だぞ。
首を切られる前に縁を切らないのか?


 涼太は「うぷぷ」と笑った。


佐伯涼太

冗談やめてよ。
僕は勇二の相棒バディだよ。
たった1人のね。
昔も今も。
そしてこれからも。
首なんか切られても、僕らの縁は切れやしないよ。

天野勇二

ほう……。
言うじゃねぇか。


 天野は前島を見つめた。


天野勇二

前島よ。
これは素直な忠告だ。
もうテラスに来るのはやめろ。


 前島はブンブン首を振った。


前島悠子

そんなのイヤです。
師匠との縁は切りません。

天野勇二

却下だ。
巻き添えを食うぞ。
俺に関わるのはやめておけ。


 前島はにんまりと笑みを浮かべた。


前島悠子

師匠、冷静に考えてください。
敵は私たちの師弟関係を知ってるはずです。
どこにいても巻き添えを食います。
それなら師匠のおそばにいる方が安全ですよ。


 ニヤリと悪戯いたずらっ子のような笑みを浮かべる。


前島悠子

というか、アイドルである私を有効活用してこその『天才クソ野郎』じゃないですか!
腑抜ふぬけた台詞なんて似合いませんよ!
私のことが心配だったら、しっかり末永く守ってくださいね!



 天野はぽかんと前島を見つめた。



 思わず口元が緩む。




天野勇二

……言ってくれるぜ。
上出来だ。
それでこそ俺様の弟子だ。




 天野は静かに立ち上がった。




天野勇二

遠隔殺人者トリックメイカーか……。

男なのか、女なのか。
どんなヤツなのか。

いつかそのツラを拝み、俺様をコケにした報いを与えてやる。

貴様がどんな手を使おうとも……。




 天野は不敵な笑みを浮かべた。




天野勇二

天才クソ野郎にかかれば全てうまくいくのさ。





(おしまい)









and...









To Be Continued...












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つばこ

ご愛読いただきありがとうございます。
何かひとつでも心に残るものがあれば幸いです。
 
『雨宮編』はここで完結。
しかし、未だ謎のベールに包まれたままの敵が現れました。
いったい何者なのか。いつか対峙する時がくるのでしょうか……。
 
 
さて、それはそれとして来週から新エピソードが始まります!
次回はちょっとだけコミカルで、それでいてとんでもなく重いテーマが登場します。
雨宮編とは違った意味で刺激が強いです。
どうか読者の皆さまに受け入れられますように(*・人・*)ナムー
 
それでは来週土曜日、
『彼を上手にプロ野球選手にする方法』
にてお会いしましょう。
 
つばこでしたヽ(*´∀`*)ノ.+゚

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コメント 172件

  • shunshun

    ついに最終決戦に向けて話が進みますね!

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  • rtkyusgt

    お父さんかな・・・?

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  • ↓ゆえはさんのコメント読んで、自分も同じ作品のこと考えてたので勝手に親近感わきましたw

    ゆえはさんのコメント大分前のことだからこのコメントには気付かないだろうけど……

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  • ノア@3/8は38記念日!

    と、見せかけての前島さんだったら最強に強すぎる。ハニートラップのつもりが惚れてる展開だったら美味しすぎる。

    まあ、一番は涼太がありえそう

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  • べっちん

    やっぱり、雨宮は主犯ではなかったけれど、そうなると、黒幕は、相当な切れ者だと思われ。

    サイコパスなんだろうね。

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