時刻は昼過ぎ。



 学生食堂のテラスにて、前島と雨宮が再会した頃。



 天野はホテルの一室で、雨宮からの連絡を待ち続けていた。




天野勇二

……きたか。




 着信が入った。


 ひとつ深呼吸し、スマホを手に取る。







雨宮誠司

やぁ、勇二くん。
どうやら生き延びたみたいだね。




 雨宮だ。


 天野はひとつ息を吐き、不敵な笑みを浮かべた。



天野勇二

お前、大丈夫か?
指名手配されてるぜ。
連続殺人鬼シリアルキラー』が捕まるのも時間の問題だな。


 雨宮は「ククッ……」と気味悪く笑った。


雨宮誠司

なんだい?
僕の心配をしてくれるのか?

天野勇二

そりゃそうさ。
お前は警察官まで殺したんだ。
警察の恨みってのは怖いぜ。
血眼ちまなこになってお前を探してるよ。


 雨宮は小さくため息を吐いた。


雨宮誠司

そのようだね。
僕が捕まるか。
君が死ぬのか……。
どちらが先になるかな。

天野勇二

しつこいヤツだ。
まだ俺様を狙うつもりか。

雨宮誠司

もちろんさ。
まだ『プレゼント』は用意してあるんだ。



 天野はスマホを強く握り締めた。



天野勇二

(また 『プレゼント』か。まだ『生首』をストックしているのか? それともこれから調達するのか……?)



 天野は思案した。



天野勇二

(前回の『トラップ』の件もある。誘いに乗るのは危険だ。だがそれでも、多少の危険を犯したとしても、コイツの尻尾を掴む必要がある……。何とか直接対決に持ち込めないか……?)



 灰色の脳細胞が高速回転している。



 天野はひとつ息を吸い込み、大声で笑ってみせた。



天野勇二

あっはっはっ!
そんなものに釣られるかよ!
警察にプレゼントを回収してもらうだけだ。
無関係な人間がどれだけ死のうが知ったことじゃねぇ。

俺はこのまま姿をくらます。
お前はもう俺を殺すことができない。
死ぬまで警察に追われ続けるんだ。
無駄な殺人を犯して、本当に殺したいヤツは殺せない。
馬鹿の極みだよ。


 雨宮は薄く笑った。


雨宮誠司

そんなことを言っていいのかな。

君の『親しい人間』の命がかかっている……。

そう言っても動じないのかい?


 天野は心の中で「やはりそうきたか」と舌打ちしながらも、不敵に笑ってみせた。


天野勇二

ほう?
誰を殺すつもりだ?

雨宮誠司

誰がいいかな?
君の父親か……。
それとも親友か……。

……いや、君はそんなことを言っても動じないか。

そうだな。

君の『女』の命だったら、どうかな?




 天野は眉をひそめた。




天野勇二

女、だと?
誰のことだ?

雨宮誠司

とぼけるなよ。
君の『弟子』だ。
貧相な小娘のことだよ。

実は先程、偶然顔をあわせてね。






 天野の思考が止まった。






天野勇二

貴様……!
まさか、前島に手を出したのか……!




 雨宮は「へぇ」とおどけた声を出した。




雨宮誠司

そう興奮するなよ。
傷つけた訳じゃない。
僕の『プレゼント』をたくしただけだ。

天野勇二

うるせぇ!
答えろ!
何をした!?
てめぇ、前島に何をしたんだ!




 雨宮は思わず黙りこんだ。


 静かに口を開く。




雨宮誠司

……フフッ。
なんだ。
君も人間だな。
そこまで我を忘れた声、初めて聴いたよ。
そんなにあの娘に『お熱』だとはねぇ……。



 からかうような言葉。


 天野はそれを聴いて冷静さを取り戻した。



天野勇二

(クソッ……。落ち着け……。これはコイツのペースだ。乗せられるんじゃねぇ)



 動悸をなだめる。


 ここは冷静になるべき場面だ。


 雨宮の言葉が真実という保証はない。


 今一番に考えるべきことは、雨宮の尻尾を掴むことだ。



天野勇二

……何を前島に託した?
俺様に渡す『プレゼント』か?

雨宮誠司

その通り。
だが、それを今の君が手にしても、何の意味も成さない。
意味を成すためには、僕と再会する必要がある。

天野勇二

……どういう意味だ?

雨宮誠司

僕からの要求はただひとつ。


 小さく笑うと、雨宮は冷たい声で告げた。


雨宮誠司

勇二、君との『決着』をつけたい。
僕と君の因縁を終わらせるんだ。

あの日、僕が君に腕を折られ、無様に敗北した、あの屋上……。
あの日の続きがしたい。
君を倒し、この手で殺し、この悪夢を終わらせるんだ……!




 天野はじっと口唇を噛み締めた




天野勇二

俺と直接やりあうつもりか?
勝ち目はないぜ。

雨宮誠司

問題ないさ。
君を倒すためにアメリカから持ち帰った技がある。
負けるつもりはない。



 天野は「ふぅ」と息を吐いた。



天野勇二

直接対決タイマンの誘いか……。こちらとしては願うべき展開だ。だがしかし……)



 口唇を噛み締めながら思案する。



 雨宮は間違いなく、『何か』を用意しているだろう。



 トイレに仕掛けたような爆弾か。



 アメリカから持ち帰った技とやらか。



 想定していない凶器か。



 何を用いても「天野を殺す」と、堂々と宣言しているに等しい。



天野勇二

……場所はどこだ?
どこで決着をつけたい?

雨宮誠司

そうだね。

今日の18時。
新宿駅。
タイムズスクエアとサザンテラスをつなぐ陸橋イーストデッキ

ここで待ち合わせしないか。


 天野は驚いて尋ねた。


天野勇二

そんな目立つ場所でいいのか?
橋の上なんて逃げ場がないぜ。

雨宮誠司

僕は逃げるつもりはない。
君との『決着』をつけるだけだ。

天野勇二

本当に俺が『単独』で来ると思うのか?
警察に通報するかもしれないぞ。



 雨宮は一瞬黙りこんだ。


 だが、すぐに押し殺したような声を出した。



雨宮誠司

勇二……。
君は必ず、1人で来るさ……。
僕と逢わなければ、『最後のプレゼント』は意味を成さない。
それに大切な『女』が僕と何を話したのか、気にならないかい?



 天野はニタリと不敵な笑みを浮かべた。



天野勇二

……気になるな。
悪くない誘い方だ。
褒めてやるよ。
お前との決着ケリをつけてやる。

言っておくが、お前は俺様に勝てやしない。
俺様にかかれば全てうまくいくんだ。
雪辱戦リターンマッチの結末に待つのはお前の無様な敗北だけ。
覚悟しておけよ。

雨宮誠司

クククッ……。
感謝する。
楽しみにしているよ。



 そう言って雨宮は電話を切った。




 その瞬間、スマホが別の番号を着信した。




 天野は驚いて画面を見つめた。




天野勇二

……天野だ。

前島悠子

あっ! 師匠!
私ですよ!
師匠の大切な弟子ですよ!
なんで電話に出ないんですか!?




 大きな前島の声。


 酷く慌てているようだ。


 天野は安堵あんどのため息をこぼした。




天野勇二

……デカい声を出すな。
何の用だ?

前島悠子

何のようだ……じゃありませんよ!
なんでそんなにクールなんですか!
こっちは大変だったんですよ!

天野勇二

そのようだな。
雨宮に会ったのか?

前島悠子

うおっ!?


 前島は驚き、素っ頓狂な声をあげた。


前島悠子

そうです!
そうなんです!!
あの爬虫類フェイスの変態と電話してたんですね!

天野勇二

お前は無事か?
何かされなかったか?


 天野としては冷静に尋ねたつもりだった。


 しかし前島は「おおっ!?」と、また素っ頓狂な声をあげた。


前島悠子

師匠……。
もしかして、私のこと心配でした?

えへへ……。

大丈夫ですよ!
師匠から貰ったスタンガンで追い払いましたから!

天野勇二

そうか。
涼太から警告されただろうに単独行動しやがって。
いつでも俺様が守ってやれるワケじゃねぇんだぞ。
気をつけろこのグズが。

前島悠子

うぐっ……!

す、すみません……。

なんか師匠、ご機嫌が悪いですねぇ……。


 落ち込んだ前島の声。


 しょんぼりと肩を落としている様子が目に浮かぶようだ。


 天野は思わず口元を優しげに歪めた。


天野勇二

……無事で良かったよ。
お前と接触するとは想定していなかった。
すまなかったな。



 前島はまた驚いた。


 冷たかったり、優しげだったり。


 電話越しのため、天野がどんな心境なのか、いまひとつ掴めない。



天野勇二

そんなことより、雨宮はお前に『プレゼント』を託したと言っていた。
何か受け取ったのか?

前島悠子

あっ!
それ!
それなんですよ!


 前島は大声で叫んだ。


前島悠子

あの変態、『変なもの』を置いていったんです!
なんか、キモチ悪くて妙なことも言ってました!

天野勇二

それはなんだ?

前島悠子

いや、それがですねぇ……。



 前島はチラリと『最後のプレゼント』を見た。


 今は学生食堂のテラスから電話をかけている。


 それはテーブルの上に置かれたまま。


 気味が悪くて触れることができないのだ。







前島悠子

『ウサギさんのぬいぐるみ』なんですよ……。







 前島はげんなりと言葉を続けた。


前島悠子

10cmぐらいのちっちゃなぬいぐるみなんです。
それをいきなり懐から出して、首を 「ざくっ」と切ったんです。
ウサギさんは首の皮を1枚残して、テーブルの上でぐったりしてるんです……。
雨宮はそれを置いたら、スタスタどこかに行っちゃいまして……。




 天野は静かに言った。




天野勇二

……爆発物であれば厄介だ。
涼太を呼べ。

前島悠子

はい。
もう連絡しました。
すぐに来てくれるそうです。

天野勇二

警察には通報したか?

前島悠子

いえ……。
師匠にお話ししてから、と思って。

天野勇二

それでいい。
警察には言うな。


 天野は少々思案してから言った。


天野勇二

俺様は雨宮と会ってくる。
準備があるため、そちらに行く暇はない。
涼太と一緒に行動しろ。

前島悠子

は、はい……。
で、でも師匠、雨宮と会うなんて……




 前島が何かを言っていたが、天野は構わず電話を切った。





 長い息を吐く。




 前島は無事だった。





 ふと鏡を見ると、頬を緩めている自らの顔があった。




天野勇二

……チッ。
何をにやけてやがる。




 頬を叩き立ち上がる。


 瞳に鋭さが戻っていく。


 天野は虚空を睨みつけた。



天野勇二

首の皮を1枚残したウサギか……。
ワケのわからねぇものを残しやがって……。
雨宮、お前と決着ケリをつけるのが楽しみになってきたよ。



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つばこ

首の皮を1枚残したウサギさん「ボクがいったい何をしたって言うんだ(´;ω;`)ウッ…」
 
今週はひとつ、とても残念なことがあります。
涼太くんです。
私は先週の『ざくっ』の時にですね、「ああ、きっと涼太くんが前島ちゃんをかばって刺されたんだな。チャラ男やるじゃん。それでこそ我らが涼太くんだよ。グッバイ涼太くんフォーエバー涼太くん(*´∀`*)」とか思ったんですよ。
 
まさか一切、出て来ないとはなぁ…(´・ω・`)
 
さてさて、『雨宮編』も残りあと少し!
いつもオススメやコメント、本当にありがとうございます(o*。_。)oペコッ

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コメント 155件

  • rtkyusgt

    胡桃ちゃんたちは大丈夫かな・・・

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  • そろそろ涼太が報われても良いのではw

    確かに普段はチャラ男でストーカーだけれども……

    綾瀬さんに向けた優しい笑顔を俺は忘れない!

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  • すず

    作者さん、涼太になんの恨みがあるのwww

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  • ゆめおぼろ@天クソ/パステル

    RIP 涼太

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  • バルサ

    作者コメで笑笑笑。亮太、可哀想…(^^;;
    何より、前島さん無事で良かった(^^)

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