上野駅、14番線のトイレはすぐさま封鎖された。



 天野が機動捜査隊きどうそうさたいの到着を待っていると、1人の中年刑事が声をかけた。



???

勇二くん、久しぶりだね。
大きくなったな。


 見覚えのある顔。


 橋田の父親だ。


天野勇二

お久しぶりです。
もうお話は聞いてますか?

橋田在昌

ああ、私も中を確認する。
ちょっと待ってくれ。


 トイレの中に入る。


 すぐに青ざめた顔で出てきた。


橋田在昌

……酷いな。
とんでもない犯人だ。

天野勇二

犯人は雨宮誠司。
俺の高校時代の同級生です。
とある事情から俺に恨みを持っています。

橋田在昌

恨み?
それはどういうことかね?



 天野は簡単に雨宮との因縁いんねん、そして昨日からのいきさつを説明した。



橋田在昌

なるほど……。


 橋田は何かを考え込むように腕を組んだ。


 さり気なく周囲を見回し、ためらいがちに口を開く。


橋田在昌

……本来であれば捜査の状況を勇二くんに話すことはできない。
しかし容疑者が接触してくる以上、少しは状況を把握する必要があるだろうね。

天野勇二

お願いします。
情報がないと逃げることもできません。



 橋田は天野の腕を掴み、現場から離れた場所に連れて行った。



橋田在昌

……雨宮誠司は1週間ほど前、日本に帰って来た。
どこに滞在しているのか不明だ。
親戚も彼の居場所がわからないそうだ。

天野勇二

雨宮の両親は?
日本にいないんですか?

橋田在昌

それが……。
詳しい事情はまだわからないんだが……。


 橋田は苦しそうに言葉を続けた。


橋田在昌

……両親はアメリカで殺害されている。
1ヶ月ほど前のことだ。
犯人は捕まっていない。
しかもどうやら、ここを切断されていたらしいんだ。


 橋田は自らの『首』を指さした。


天野勇二

首を……!?
まさかそれも雨宮が?

橋田在昌

まだ何とも言えない。
向こうの警察が雨宮を追っているのか、それさえ不明なんだ。

天野勇二

携帯の番号はどうですか?

橋田在昌

飛ばしの番号だ。
契約者は全くの別人だよ。


 天野は懐からボイスレコーダーを取り出した。


天野勇二

アイツとの会話を録音してあります。
捜査に役立ててください。


 橋田は録音された音声を聞き、深くため息を吐いた。


橋田在昌

……この分では、また殺人が起きそうだね。

天野勇二

間違いなくそうなります。
上野駅の防犯カメラ。
雨宮の名前と顔写真。
全てを公開して指名手配すべきです。


 橋田は苦しそうに呟いた。


橋田在昌

……名前を出すのは難しいね。
まだ彼がやったという物的証拠がない。
この音声だけでは、そこまで踏み切ることができないな……。



 橋田はそこで会話を打ち切った。



 天野はそのまま警察署へ。



 長い事情聴取から解放されたのは深夜になる頃だった。




天野勇二

くそっ……。
これから毎日こんなことが続くんじゃねぇだろうな……。




 警察署を出てため息を吐く。


 事情聴取だけで1日が終わってしまった。


 雨宮のことを捜査するどころではない。



 天野が一服しているとスマホが鳴った。


 涼太からの着信だ。


天野勇二

涼太か。
進展はあったか?

佐伯涼太

ごめん。
まったくないよ。
雨宮くんが勇二の電話番号を大学の事務室から聞き出した……ってことが判明したけど、それだけだね。

天野勇二

そうか……。



 天野は途方に暮れた。


 雨宮の尻尾さえ見えない。


 今この瞬間にも、誰かが殺されているかもしれない。



佐伯涼太

……だけど、そのことで気になることがあるんだ。

天野勇二

なんだ?

佐伯涼太

雨宮くんは『僕の番号』も聞き出してるんだよ。



 涼太の声に怯えが混じっている。



佐伯涼太

もし勇二を最後のターゲットにするなら、その前に『親しい人間』を狙うのが定石じょうせきだよね。
僕のことはどうでもいいけど、心配なのは……。


 天野は舌打ちした。


天野勇二

……危険だな。
雨宮は『妹たち』のことを知らないはずだが、念のため警告してくれ。
お前もしばらく身を隠せ。

佐伯涼太

そうする。
どっかの女の子の家に潜り込むよ。

天野勇二

だが、そうなると……。
いや、まさかな……。

佐伯涼太

うん?
どうしたの?

天野勇二

ああ、大したことじゃないんだが……。



 天野は少々迷ったが告げた。



天野勇二

……実はな、弟子が雨宮と顔を合わせている。

佐伯涼太

えぇっ!?
前島さん、雨宮くんと会ってるの!?

天野勇二

雨宮がテラスを訪れたのは、俺と前島が一緒にいる時だったのさ。
しかも名乗っている。
雨宮が前島を狙うとは思えないが……


 涼太は慌てて叫んだ。


佐伯涼太

なんでそれを早く言わないのさ!?
前島さんは今の勇二にとって、最も親しい人間だよ!

天野勇二

そうか?
アイツはただの弟子だぜ。

佐伯涼太

その言葉は聞き飽きたよ!
前島さんには僕から連絡しとくから!
勇二はとにかく気をつけてね!



 涼太はそこで電話を切った。


天野勇二

なんだアイツ……?
何を興奮してやがるんだか……。



 天野はタバコの煙を吐きながら思案した。



 敵は狡猾こうかつ快楽殺人鬼サイコキラーだ。


 かつてない最悪の敵といえるだろう。


 恐らくそれなりの凶器を持ち歩いている。


 直接対決すれば勝てると、甘く考えるべきではない。


 警察が雨宮を捕まえるまで身を隠すべきかもしれない。




 色々と思案していると、またスマホが鳴った。




天野勇二

……勇二だ。

雨宮誠司

やぁ、雨宮だよ。
調子はどうかな。
僕からの『プレゼント』は受け取ってくれたかい?




 天野は大きく深呼吸した。




天野勇二

……ふざけた『プレゼント』だよ。
お前は俺様を直接狙う度胸がないのか?
この臆病者が。
アメリカでも『黄色いチキン』と呼ばれてイジメられたんじゃないか?


 雨宮は「クククッ……」と気味悪い声をあげた。


雨宮誠司

安い挑発だね。
昔の勇二くんのほうが凄みがあったよ。
やはり年を取ると人間、弱くなるものだね。

天野勇二

ほう?
随分と口が達者になったじゃねぇか。
早く俺様の命を狙えよ。
直接やろうぜ。

雨宮誠司

フフッ……。
随分と冷たい人間になったじゃないか。
旧友からの贈り物は丁重に受け取るべきだと思うけどね。


 天野は怒りを静めながら尋ねた。


天野勇二

……面倒くせぇ。
本題に入れ。
次の『プレゼント』はどこだ。

雨宮誠司

それでいい。
次は『新宿西口公園の男子トイレ』だ。

天野勇二

また男子トイレか。
お前はトイレが好きだな。
アメリカでケツでも掘られてそっちの道に目覚めたのか?

雨宮誠司

クククッ……。
次のプレゼントは『メッセージ』を添付してある。
喜んでくれると嬉しいよ。


 そこで電話は切られた。


 天野はすぐさまタクシーを停めて行き先を告げると、橋田の父親に電話した。


天野勇二

勇二です。
雨宮から連絡が入りました。
次は新宿西口公園の男子トイレ。
警官を向かわせてください。

橋田在昌

わかった。
後は我々に任せてくれ。
勇二くんは現場に向かわず……


 天野は黙って電話を切った。


 警察に状況を伝えられるのはいいが、このままでは自分自身が捜査に参加できない。


 天野は民間人の無力さを噛み締めた。



 タクシーが新宿西口公園に到着した。


 すでにトイレの前には2人の警察官が立っている。


天野勇二

どうだ?
何かあったか?


 警察官は天野を訝しげに見つめた。


警察官

君は誰だ?
ここに近づくんじゃない。

……あっ!
そこに入るな!


 警官を無視してトイレに飛び込む。


 小便器以外には個室が1つ。


 扉は閉まっている。


 ドアの上には人が通れるだけのスペース。


 天野は扉の上に手をかけ中を覗きこんだ。




天野勇二

……くそっ。




 予想通りの光景が広がっていた。




警察官

ちょっと君!
何をしている!



 警察官が天野を引きずり降ろす。


 天野は吐き捨てるように言った。




天野勇二

『生首』がある。




 警察官の顔が一気に青ざめた。





天野勇二

便器の奥底に押し込められている。
上野駅の事件は聞いているはずだ。
捜査一課の連中を早く呼ぶんだな。





 警察官が慌てて天野をトイレから遠ざける。




 天野は特に抵抗もせず、遠くからトイレを見つめた。




 雨宮は『メッセージがある』と言っていた。



 何か『生首』に仕込んだのだろうか?



 見た限りでは、ただの生首。



 便器の奥底に押し込められていた。





天野勇二

(……妙だな)





 違和感を覚えた。



 これまでの『作品』は『復讐の上に置かれた生首』だった。



 なぜ、今回は形状が違うのか。





 復讐はどこにある?



 メッセージとは何を意味している?



 これまでの『作品』と何が違う?





 いや……。







 もし、これまでの『作品』が、全てひとつのブラフだったとしたら……?






 2人の警察官はトイレの扉を破ろうとタックルしている。


 天野は慌てて叫んだ。



天野勇二

やめろ!
嫌な予感がする!
扉を破るな!



 警察官たちは天野の声なんか聞いていない。


 無理やり止めるべきか迷っていると、背後から声をかけられた。



橋田在昌

勇二くん!
もう来ていたのか!


 橋田が捜査隊を引き連れてやって来た。


天野勇二

橋田さん!
あいつらを止めてくれ!


 天野がトイレを指さした時、警察官のタックルで個室の鍵が破られた。




 その瞬間だった。











 個室の扉が爆発し、火柱が上がった。


 爆音が公園に轟く。


 地響きと熱波が広がる。


 2人の警察官の身体は炎に包まれ、木偶でく人形のように吹き飛んだ。



 天野たちは警察官の身体にまとわりつく炎を必死にかき消した。


 2人とも意識がない。


 天野は急いでトイレの中へ駆けた。



天野勇二

なんてこった……。



 便器は粉々に破損。


 『生首』は床にこぼれ落ちていた。


 まだ小学生ぐらいの女の子だ。


 その口に何かが詰められている。


 ステンレス製のカード。


 文字が彫られている。


 天野はそれを引きずり出した。









復讐業火かれ

愚者える








 天野は悔しさのあまり叫んだ。





天野勇二

雨宮!
くそったれが!
貴様は絶対に許さんぞ!




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つばこ

天野くん「そうか?アイツはただの弟子だぜ」
涼太くん&つばこ「その言葉は聞き飽きたよッヽ(`Д´)ノ!!!」
 
とはいえ、私は鈍感クソ野郎な天野くんが嫌いではないので、これからもマイペースな彼らしい姿を遠くから見守りたいと思っております(´∀`*)ウフフ
 
ていうかそんな状況じゃない(真顔)
トイレ爆発です。
警察官2名は意識不明の重体です。
しかも便器や扉などを破壊しつつも『生首』には傷ひとつ与えていない、という計算し尽くされた爆発です。
天野くんが警察官より早く到着し、扉を蹴破っていたら死んでいた……ということなのかなぁ。
恐ろしい話です(´・ω・`)
 
そんな危機的状況の天野くんにオススメやコメント、いつも本当にありがとうございます((。´・ω・)。´_ _))ペコリ

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コメント 172件

  • るー

    アイス食べながら読むもんじゃないですね…

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  • ぱーかー

    天才クソ野郎のお兄様が心配だ

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  • ゆめおぼろ@天クソ/パステル

    救いようがないクズとはこの事か

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  • ヽ(・∀・)ノ

    子供はやめてあげてよ(T ^ T)

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  • バルサ

    小学生の女の子…自分の子供達の事を思うと、怖いし、許せない(ー ー;)早く、天野くん やっつけて怒‼︎

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