さぁ、パーティをはじめよう。
雨宮と再会した日の夕方。
その日の授業を終え、大学を出ようとしていた時、顔見知りの事務員が天野を呼び止めた。
天野勇二
俺様に何の用だ?
事務員
天野くん宛に『手紙』が届いているわよ。
天野勇二
手紙だと?
事務員はひとつの封筒を差し出した。
宛名や差出人は書かれていない。
真っ白な封筒だ。
天野勇二
どんなヤツが置いていったんだ?
事務員はのんびり答えた。
事務員
そうねぇ……。
天野くんぐらいの年の男の子よ。
華奢でおとなしいタイプ。
見たことのない子だったわね。
天野勇二
どんな服装をしていた?
事務員
シンプルな灰色のシャツを着てたわよ。
あなたに直接渡すのは怖いって言うのよ。
事務員はため息を吐きながら天野を見つめた。
事務員
どうせ天野くんがイジメた子でしょ?
変なものが入ってないか、ちょっと心配なのよね。
天野は封筒を睨みつけた。
天野勇二
(……雨宮だな)
封筒を慎重に確かめる。
カミソリなどの異物は入れられていないようだ。
天野勇二
(アイツ、なぜ、こんなものを……?)
ゆっくりと封を切る。
1枚のメモが入っていた。
パーティがはじまる
はじまりは弓道場の裏手
パソコンで書かれたと思われる文字。
これだけだ。
これ以外には何も入っていない。
事務員
大丈夫?
変なもの入ってなかった?
事務員が不安気に尋ねている。
天野はその声を無視して、弓道場方面を睨みつけた。
天野勇二
(嫌な予感がするな……)
弓道場の裏手。
大学では最も人気が少ないといえる場所だ。
時刻は夕暮れ。
間もなく日が沈む。
夜になれば、あの辺りは一切の光が差し込まなくなる。
天野は急いで弓道場の裏手へ向かった。
天野勇二
(雨宮のヤツ、何を考えてやがる)
弓道場の裏手には誰もいなかった。
だがひとつ、『異質なもの』が置かれていた。
地面に白いA4用紙が敷かれ、その上に『何か』が置いてある。
天野は慎重にその物体を確かめた。
天野勇二
雨宮……。
あの、クズ野郎が……。
A4用紙の上に『切断された猫の生首』が置かれていた。
用紙には真っ赤な文字でこう書かれていた。
『復讐』
天野は舌打ちをして紙を丸めて投げ捨てた。
高校時代と同じだ。
まったく変わっていない。
雨宮は高校時代も同じようにウサギの首を切り落とし、『復讐』と書かれた紙の上に置いていた。
哀れな猫の生首を見ると、その前に『免許証』が置かれているのを発見した。
天野勇二
……免許証だと?
大学の付近に住んでいる女性のものだ。
天野勇二
どういうことだ。
あの野郎、まさか……。
とてつもなく嫌な予感がする。
天野は高校時代、雨宮を屋上で処刑した時のことを回想した。
天野が高校生の時。
飼育していたウサギのバラバラ死体が校内にばら撒かれる事件が発生した。
3回目の犯行が行われた日、天野は雨宮を屋上に呼び出した。
天野勇二
雨宮よ。
俺にはわかる。
お前が『ウサギ殺し』の犯人だ。
雨宮はニタリと気持ち悪い笑みを浮かべた。
雨宮誠司
なぜそんなことがわかる?
学年首席は『探偵ごっこ』も得意なのか?
天野は軽く舌打ちした。
拳を握り、雨宮の腹にぶち込む。
雨宮誠司
がはっ!
よろける雨宮の胸倉を掴み上げる。
天野勇二
とぼけるんじゃねぇ。
犯行は内部犯によるもの。
規則性と法則を好む性質。
そしてアリバイ。
犯人はお前以外に考えられない。
雨宮誠司
……ぐっ……!
な、何を言っている……。
僕を殴ったな……!
警察に通報してやるぞ!
天野勇二
それでも構わないぜ。
どうせお前を警察に突き出すつもりなんだ。
証拠も手に入れているしな。
天野は懐から制服のボタンを取り出した。
天野勇二
これは犯行現場で見つけたものだ。
雨宮よ。
お前の制服のボタンだ。
左腕を見てみろよ。
雨宮は慌てて左腕を見つめた。
ボタンがひとつ足りない。
雨宮誠司
なっ!?
バカな!
現場に証拠なんか残してないはずだ!
なぜそれを持っている!?
天野は雨宮から手を放し、ニタニタと悪い笑みを浮かべた。
天野勇二
ウサギ小屋で拾ったんだよ。
雨宮は悔しそうに顔を歪めた。
懐に手を伸ばし、血で汚れ
雨宮誠司
くそっ!
勇二……!!!
お前は本当に目障りだ。
殺してやる。
決着をつけてやる。
証拠を返してもらうぞ。
天野は「あっはっは!」と高笑いをあげた。
指先を
壮大なオーケストラを率いる指揮者のようなジェスチャーだ。
天野勇二
お前はバカだなぁ。
間抜けの極みだよ。
だからいつも『2番手』なんだ。
これは俺がお前の制服からむしりとったボタンだよ。
犯行は制服姿で行われた可能性が高い。
だから俺様は犯行が発覚した朝、お前の腕からさり気なくむしり取ってやったんだ。
雨宮は嫌な
ハメられた。
天野お得意のブラフだ。
雨宮は顔を真っ赤にして、呪いに似た言葉を吐き出した。
雨宮誠司
ひ、卑怯な、男め……!
だから僕は、お前が嫌いなんだ……!
天野勇二
卑怯?
それは俺様への褒め言葉だな。
単純な引っかけに騙されやがって。
俺もお前のように頭の悪い男は嫌いなんだ。
気が合うじゃないか。
さぁ、どうする?
俺様はウサギのように無抵抗なワケじゃないぜ?
自首して罪を
雨宮は再度天野にナイフを突きつけた。
爬虫類のような笑みを浮かべる。
雨宮誠司
……や、やってやる!
勇二、お前を殺す!
どうせいつか人を殺してみるつもりだったんだ!
お前が記念すべき1人目だ……!
こいつで一突きすれば人体なんて簡単に停止する。
お前で試してやるよ!
雨宮はナイフを両手で構えた。
天野に向かって勢いよく突進する。
雨宮誠司
うああぁあぁぁあぁあ!
雨宮の
天野は体勢を低くして構えた。
ナイフを紙一重で避ける。
同時に雨宮の手首を掴み、捻り上げる。
小手返しで地面に投げつけた。
雨宮誠司
く、くそぉぉっ!
雨宮の手からナイフが落ちる。
天野はそれを素早く蹴り飛ばした。
雨宮誠司
ま、まだ、負けて……
……ぐはっ!
なおも立ち上がる雨宮の両頬に、天野の
顎先に肘。
天野勇二
トドメだ。
天野のフィニッシャーである左の飛び膝蹴り。
雨宮の顔面に膝が吸いこまれ、ぐしゃりと鼻骨の折れる音が響いた。
雨宮は呆気なく地面に倒された。
天野勇二
無様だな。
俺様に刃物を向けるからそうなるんだ。
天野は極悪の笑みを浮かべ、ゆっくりと雨宮に近づく。
天野勇二
もうお前は終わりだ。
あのナイフからウサギの血液が検出される。
どこにも逃げ場はない。
諦めるんだな。
雨宮誠司
ち、ちくしょう……!
まだ、まだだ!
お前なんかに、屈してたまるか……!
雨宮はガタガタ震えながらも立ち上がった。
狂った悲鳴をあげながら右腕を振りかざす。
天野は冷静に雨宮の右腕を絡め取り、脇を固め、骨をベキボキとへし折った。
雨宮誠司
ぎゃあああああああああああ!
屋上に雨宮の悲鳴が
天野は汚物でも見るかのような瞳で、倒れる雨宮を見下ろしていた。
天野は少々迷ったが、免許証に記載されている住所へ向かうことにした。
雨宮は当時から「いつか人を殺す」と言っていた。
アメリカへ行っても何も変わらなかったのであれば、この免許証が示す意味合いが恐ろしかった。
住所を
免許証によれば27歳の女性の部屋。
オートロックなどはない。
天野は玄関に立つと、
何の反応もない。
天野はドアノブに手をかけた。
ゆっくりと回す。
天野の予想通り、鍵はかかっていなかった。
天野勇二
……くそっ。
扉を開けた瞬間、室内から凄まじい臭いが広がった。
むせかえるような血の臭い。
肉の腐敗した臭い。
医学部の天野が嗅いだことのある臭い。
間違いない。
誰かが死んでいる。
天野は震える手で部屋の明かりをつけた。
蛍光灯がまたたき、室内を静かに照らした。
天野勇二
なんてことだ……。
部屋の中央。
ローテーブルの上。
女性の『生首』が置かれていた。
生首の下にはA4用紙が置かれている。
真っ赤な『復讐』の文字。
胴体は部屋の隅に転がっている。
頭部は綺麗に置かれているのに、胴体にはさほど興味がないのか、かなり無造作に投げ捨てられている。
あまりの残虐性に、死体を見たことのある天野も吐き気を覚えた。
ピンポーン
部屋の
天野は驚いて振り返った。
天野勇二
(雨宮か?)
懐に潜ませている護身用のメスを手にしながら、扉の覗き窓から外を眺める。
立っていたのは制服姿の警察官が2人。
天野はひとつ息を吐き、ゆっくりと扉を開けた。
警察官
あっ、すみません。
通報を受けまし……
警察官の言葉が途中で止まった。
室内に転がる死体を目にしたからだ。
天野は冷静に告げた。
天野勇二
俺は第一発見者だ。
犯人も知っている。
事情聴取に応じよう。
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さぁ、パーティをはじめよう。
べっちん
すみません。どうしても気になったので…
私の認識が間違っていたら申し訳ありませんが、作中に出てくる事務員さんから手渡されたモノは、「便箋」ではなくて、便箋が入った「封筒」ではないですか?
「便箋」は、紙切れのことのはずで、封を切ることが出来ませんから。
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刺激が強い作品が掲載されています。