※この物語はフィクションであり、実在の人物及び団体とは一切関係ありません。




 とある大学。


 学生食堂の2階テラス席。


 ここは学園一の問題児『天野勇二あまのゆうじ』の特等席だ。



 ほとんどの学生は天野と「関係がある」と思われたくないため、テラスに近寄ることはない。


 その日も天野はテラスでコーヒーを飲み、好物であるみかんを頬張り、のんびりとタバコを吸っていた。


 誰も訪れない平穏な時間になる……はずだった。




天野勇二

……ん?




 足音が聴こえる。


 テラスへの階段を上がる足音。


 誰かがテラスにやって来る。


 天野が何気なく目線をやると、そこに思わぬ人物が現れた。














天野勇二

……ほう。
これはこれは。
懐かしい顔だ。



 灰色のシャツを着た訪問者。


 やや背の低い華奢きゃしゃな男だ。


 全体的に陰気なオーラをまとっている。



天野勇二

久しぶりだな。
いつ日本に帰ってきたんだ?

???

…………



 訪問者は何も答えない。


 テラスの椅子に座り、真っ直ぐに天野を見た。


 天野が苦笑しながら言った。



天野勇二

……お前の瞳はいつ見ても気持ち悪いな。



 訪問者は小さく笑った。



???

失礼じゃないか。
僕は懐かしい友人の顔を見ていただけなのに。

天野勇二

懐かしい友人、ね。
こっちはお前の顔なんて忘れていたよ。

???

それは寂しいね。
僕は君のことを忘れてはいなかったよ。

天野勇二

生憎、俺様は思い出すことさえなかったな。

???

冷たいな。
僕たち色々あったじゃないか。


 訪問者がにやりと口唇をゆがめる。


 親しげな口調なのに、瞳はどこまでも冷たい。


 気味の悪い男だ。


天野勇二

『色々』ねぇ……。
まぁ、確かに色々とあったかもな。


 ため息を吐き、天野は懐からタバコを取り出した。


 火をつけながら尋ねる。


天野勇二

それで……。
俺様に何か用事なのか?
よく俺がここにいると知っていたな。

???

日本に帰って来たからね。
この国に帰った時、最初に会うべき人間は勇二……。
君だと決めていたんだよ。


 天野は嫌そうに顔を歪めた。


天野勇二

おいおい……。
まさかとは思うが、今でも俺様のことを引きずっているのか?
お前が『仕出かした行為』を考えれば、自業自得じごうじとくだったと思うがな。

???

ふふっ……。
引きずるさ。
少なくとも僕が死ぬまで。
君のことを引きずるよ。


 天野は呆れたように両手を広げた。


 お手上げ、といったジェスチャーだ。


天野勇二

人生は長いぜ。
医療も発達している。
簡単には殺してくれない。
かなり長く引きずることになるぞ。

???

もちろん、覚悟の上さ。



 男が小さく笑った時、テラスにもう1人訪問者がやって来た。



前島悠子

師匠!
おはようございます!

……って、あら?
お知り合いですか?



 男はじろりと前島を睨みつけた。


 顔から胸元、つま先まで値踏ねぶみするように眺める。


 蛇のような舌をぺろりと出し、どこか失望したように言った。



雨宮誠司

……貧相な娘だ。
君はこいつの女かい?



 いきなりの不躾ぶしつけな視線と言葉と質問。


 さすがの前島も不快感を覚えた。



前島悠子

は、はぁ?
何ですかあなたは?

知らない人に会ったら自分から自己紹介をしましょうって、幼稚園で教わりませんでしたか?



 天野のいやみったらしい口調を真似ている。


 男は口唇を歪めて笑った。


雨宮誠司

ククク……。
勝ち気な娘だ。
なるほど。
君が好む訳だ。


 男は椅子から立ち上がると、うやうやしく手を差し出した。



雨宮誠司

僕は雨宮誠司あまみやせいじ
そこにいる男の古い友人さ。



 雨宮と名乗った男は握手を求めている。


 前島はそれを無視して名乗った。


前島悠子

私は前島悠子まえしまゆうこです。
師匠の弟子です。

雨宮誠司

師匠?
誰のことだい?


 前島は黙って天野を指さした。


 雨宮は驚き、呆れたように言った。


雨宮誠司

へぇ……?
君は『弟子』なんか取り始めたのか。
人間とは変わるものだね。
『孤高の天才児』だった君はどこに行ったんだい?

天野勇二

人間ってのは変わりながら生きているんだ。
お前もアメリカに数年いたんだから、少しはマトモな人間に更正したんじゃないか?


 雨宮はニヤニヤと笑みを浮かべた。


 実に気色悪い笑顔だ。


雨宮誠司

僕はあの頃と何も変わらないさ。
自分自身も。
君に対する感情もね。


 天野は冷たく吐き捨てた。


天野勇二

くだらねぇ……。
お前はアメリカで何を学んでいたんだ?
更正施設にでも入ったほうが良かったんじゃないか?

雨宮誠司

僕が学んだこと?
勇二、君よりも優秀な人間になり、君に『復讐』する……。
そのための方法を学んでいたのさ。


 雨宮はトカゲのような笑みを浮かべた。


雨宮誠司

アメリカは素晴らしかったよ。
日本とは何もかもが違う。
あの国には君が足元にも及ばないような天才がゴロゴロしている。
僕の世界は一気に広がったね。


 雨宮はゆっくりと指先を振り、天野を指さした。


雨宮誠司

今の僕は君を超えた。

君を超える力を手に入れた。

今の僕なら、君に勝つことも可能なんだ。



 天野は心底呆れてしまった。



天野勇二

……お前、頭大丈夫か?

俺様に勝つだと?
それに何の価値がある?
格闘技でも学んだのか?
お前は相変わらず貧弱。
身体を鍛えてないことは一目でわかる。

どうやって俺様を超えるのか知らないが、勝手に超えてくれて結構だぜ。


 雨宮は指先を降ろした。


 気味悪い微笑を浮かべたまま天野を見下す。


雨宮誠司

その内に理解するさ。

真の僕の恐ろしさを実感する時がくる。

楽しみにしておくといい。



 雨宮はそう言うときびすを返し、テラスを後にした。



 天野は半眼で雨宮の背中を見送った。



 前島が心底嫌そうな表情を浮かべて言った。



前島悠子

……何ですか?
あの爬虫類はちゅうるいみたいな気持ち悪い笑顔を浮かべる失礼な男は?

天野勇二

爬虫類か。
お前、なかなか良い表現をするな。
俺様もそう思っていた。
だが、アイツと比べるなんて爬虫類に失礼だ。
そこは改めろ。


 前島は雨宮が座っていた椅子とは別の椅子に腰掛けた。


前島悠子

師匠の『古い友人』とか言ってましたね。
あんな人と友達だったんですか?

天野勇二

友達なんてものじゃない。
ただの高校時代のクラスメイトさ。


 前島は興味深そうに天野の顔を覗きこんだ。


前島悠子

師匠の高校時代なんてあまり聞いたことないですね。
さっきの男の話からすると、高校時代から『天才』と呼ばれていたんですか?


 天野はあっさり頷いた。


天野勇二

ああ、俺は昔から天才児。
常に学年トップ。
アイツは永遠の『ナンバー2』だった。

しかも腕力は弱い。
陰気で目立たたない。
清潔感のない気味の悪い風貌ふうぼう……。

あまりに対照的な俺様と比較され、アイツは俺のことを気持ち悪い目で睨んでいたものさ。


 タバコを携帯灰皿にねじ込む。


 2本目のタバコを取り出しながら、天野は顔を歪めた。


天野勇二

しかも……。
アイツはとんでもないヤツでな。
『シリアルキラー』だったんだ。


 前島は「ぎょっ」と震え上がった。


前島悠子

連続殺人鬼シリアルキラー
ひ、人殺しだったんですか!?


 天野は静かに首を横に振った。


天野勇二

いや、人ではない。
小動物を切り刻んで殺すことを楽しむ悪党クズだった。
快楽殺人鬼サイコキラーの性質を持っていたんだ。


ある日、高校で飼育していたウサギが惨殺される、という事件が起きた。

犯人はウサギの死体をバラバラに切り刻み、学校中にき散らしたのさ。

首も、脚も、胴体までも細かく切り刻まれた。
校内のあちこちに捨てられていたよ。


 思わず前島は耳をふさいだ。


前島悠子

ひ、ひどい。
可哀想です。

天野勇二

ああ、むごい話だ。
それが何度か続いた。

俺様は現場の状況。
犯行の性質。
そして全生徒のアリバイを調べ上げ、雨宮が犯人だと見抜いた。

最終的にはアイツを屋上に呼び出し、犯行を自白させた上でフルボッコにしてやったんだ。

前島悠子

当然の報いですね。
さすが師匠。
たまには善いことをしますね。

天野勇二

結果、それが原因でアイツは高校を追放されることになった。
その後すぐにアメリカへ渡り、それっきりだ。


 前島は呆れた口調で言った。


前島悠子

本当に自業自得じゃないですか。
さっきの口調だと師匠を恨んでいるみたいでしたけど。

天野勇二

まったくだ。
アイツは何を考えているのか。


 

 嫌そうにタバコに火をつける。

 

 雨宮のいた空間を睨みつける。


 天野は雨宮の言葉を思い出していた。



天野勇二

俺に勝つ……?

真の恐ろしさを実感するだと……?

何をバカなことを言ってやがる……。

妙なことにならなきゃいいんだがな……。



 そう呟きながら、天野はタバコの煙を吐き出した。






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つばこ

どうも、つばこです。
今週もお読みいただきありがとうございます。
 
今回は天野くんの高校時代のクラスメイト、『雨宮誠司』という男を軸に物語が進んでいきます。
なんと初っ端から雨宮くんのイラストが登場ですよ。かなりプッシュされてます。つばこ、かなり雨宮くんをプッシュしています。
しかも『雨宮編』ではイラストが4枚も登場するんです。過去最大です。超絶VIP待遇の雨宮くんにご期待ください(∩´∀`)∩
 
【以下告知】
 
7月20日(水)より、つばこのエッセイ『つばたび。』が始まりました!
読んでほしい!
「天クソ」も「つばたび。」も読んでほしい!!!
読者の皆さまにめっちゃ楽しんでいただけるよう、これからも命をかけて頑張っていきます!ヽ(*´∀`*)ノ.+゚
 
では、いつもオススメやコメント、本当にありがとうございますm(_ _)m

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コメント 115件

  • みんみ

    雨宮さんの名前出てきたけど忘れちゃってたから読み返しに来たけど、こんなキモイやつそういえばいたねぇ笑

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  • ИДЙ

    あぁ…嫌な予感しかしない(´Д`)

    どうでもいいかもしれないけど、コーヒーとみかんとタバコって口の中カオスじゃ?匂いすごそう…とか思ってしまった…(  ̄▽ ̄)

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  • syo

    つばたび読みたいけど無課金者は排除されちゃった。。。残念

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  • ピコにゃん

    なんで前島さんシリアルキラーの事知ってるの…w

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  • ゆめおぼろ@天クソ/パステル

    妙なことになる気配しかねぇw

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