※この物語はフィクションであり、実在の人物及び団体とは一切関係ありません。


 とある私立大学。



 学生食堂の2階テラス席。



 そこは学園一の問題児である『天野勇二あまのゆうじ』の根城ねじろだ。



 その日、天野はタバコを吸いながら、のんびり『有田みかん』を食べていた。



前島悠子

ねぇ師匠。
見てくださいよ。
今日は師匠に『お土産』を持って来たんです。


 隣には「後輩」であり「弟子」でもある『 前島悠子まえしまゆうこ』の姿。


 現役大学生でありながら、お茶の間を賑わす国民的アイドル。


 芸能と学業を両立させているスーパースターだ。


前島悠子

サイパンでグラビアの撮影をしたんです。
水着ビキニですよ水着ビキニ
師匠にプレゼントしようと思って、生写真を持参しました!


 嬉しそうに写真を取り出す。


 オフショットの生写真。


 健康的なビキニ姿を惜しげもなく披露している。


 ファンであれば喉から手が出るほど欲しい品だ。


天野勇二

お前の写真だと?
そんなものいらねぇよ。


 天野はあっさり吐き捨てた。


 生写真への興味なんて、1ミクロンも存在しないようだ。


 しかし、前島はこの程度の拒絶でへこたれる娘ではない。


前島悠子

冷たいですねぇ。
愛弟子まなでしの生写真ですよ?
自慢ですけど高く売れたりしますよ?
1枚ぐらい無料ロハでどうですか?
手帳とかお財布に入れて、肌身離さず持ち歩きましょうよ。

天野勇二

いやなこった。
なぜ俺様がお前の写真を携帯せねばならんのだ。

前島悠子

だって、師匠はうちの事務所の『SP』でもあるんですよ。


 前島が所属しているのは 『TKプロ』という芸能事務所。


 天野は事務所の『SP』であるため、大学では前島を付きっきりで警護している。


 だから2人きりでいても何ら不自然なことはない。


 スキャンダラスな熱愛カップルネタとしてフライデーされたりセンテンススプリングされたりしてもそれは誤解なのだそうなのだ…………ということにしているのだ。


天野勇二

それがどうした?

前島悠子

いざという時には、私を守る盾になってくれるんですよね。

天野勇二

まぁ、ヒマだったらな。

前島悠子

SPは常に護衛のターゲットに気を配る必要があります。
つまり、私のことを常に考える必要があるワケです。
写真だって持ち歩く必要がある……ってことですよ!

天野勇二

……無茶苦茶な理屈ロジックだ。
まるで話にならんな。


 前島はいじけたように頬を膨らませた。


 「ダメ元でもうひと押ししてみようか」と前島が考えた時、机の上に置いてあったスマホが鳴った。


前島悠子

あら師匠。
お電話ですよ。


 天野のスマホが鳴っている。


 画面に表示される電話番号。


 天野はそれを見て舌打ちした。


前島悠子

……ん?
出ないんですか?

天野勇二

いや……。


 天野は静かにスマホを取った。


天野勇二

……天野だ。
誰だ?

 

???


…………ぉ…………

 

天野勇二

チッ……。
またか……。


 天野は嫌そうに顔を歪めた。


天野勇二

……おい貴様。
俺様に何度 『無言電話』をかければ気がすむんだ?
もう切るぞ。


 ため息を吐きながら切断。


 机の上にスマホを放り投げる。


 前島が不安気に尋ねた。


前島悠子

師匠……?
何かあったんですか?

天野勇二

ふざけた話だよ。
昨日から何度も『無言電話』がかかってくるのさ。
それも同じ番号からな。

前島悠子

無言電話ですか……。
誰なんですかね?
師匠は色々な人に恨まれてそうですから、その中のひとり……。


……いやっ!
も、もしかして!


 前島は何かに気づいた。


前島悠子

その無言電話、師匠の『ストーカー』からじゃないですか!?
ありえる!
師匠ならありえる!
私の知らないところで女を騙して泣かせたんじゃないでしょうね!


 なぜか前島がお怒りだ。


 天野はその姿を不思議そうに見つめ、静かに首を振った。


天野勇二

覚えがないな。
それに相手は 『男』だ。
受話器の向こうから『男の鼻息』が聴こえるのさ。

前島悠子

お、おとこ…‥!

それは確かにストーカーじゃない……。

いや、まだわかりませんよ……。

師匠は 男色家にだってモテそうですからね……!!!


 何かをブツブツ呟いている。


 天野は汚物でも見るかのような瞳で、弟子の横顔を見つめた。


 そしてまた、スマホが鳴った。


天野勇二

……しつこいな。


 舌打ちしながら電話に出る。


天野勇二

いい加減にしろよ。
着信拒否にしてやるぞ。
用件はなんだ?

 

???


…………ぅ…………



 また無言電話だ。


 微かに聴こえるのは男の鼻息だけ。



???


……………………………
……………ぁ……………
………………ぉ…………
……………………………




 いや、よく聴いてみると、何か 気味の悪い音も混じっている。


天野勇二

(これは何の音だ?)



 受話器スマホのボリュームを最大にする。


 天野はじっくり耳をすませた。





???


……………………………
……………こ……………
………………や…………
……………の……………
……………………………





 天野は驚いて声をあげた。


天野勇二

小谷野こやの!?
まさか今、『小谷野』と名乗ったのか!?


小谷野?


…………!!!


 相変わらず何も聴こえない。


 ただ、どこか嬉しそうな気配が伝わる。


天野勇二

お前の声は聴こえない。
鳴らせるものはないか?


 受話器の向こうから 『プワァ』という音が聴こえた。


 アヒルのような鳴き声。


 オモチャなどを鳴らせたのだろう。


天野勇二

それじゃわからんな。
本当に小谷野なのか?

 

小谷野?


…………ぅ…………



 よく聞こえない。


 天野は思案して言った。


天野勇二

メアドを教える。
メールを送ってくれ。
メモを用意しろ。


 受話器の向こうからゴソゴソと物音が聴こえる。


天野勇二

いいか?
g、e、n、i、u………


 メアドを2回復唱。


天野勇二

ここに送ってくれ。
じゃあ電話を切るぞ。


 天野は電話を切った。


 前島が興味深そうに尋ねた。


前島悠子

ねぇ師匠、小谷野さんってどなたですか?

天野勇二

医学部のOBさ。
混沌こんとんのカルテット』の1人だよ。

前島悠子

混沌のカルテット?
それ何でしたっけ?

天野勇二

『天才ブタ野郎』を覚えてないか?
あいつの結婚式の写真を見せたろう。
小谷野はそこに映っていたブサイクの1人だよ。


 前島は何となく思い出した。


 確かに写真の中に、ひときわブサイクな4人組の写真があった。


 (詳しくは『彼が上手に結婚する方法』にて)


天野勇二

小谷野は 『フランケン』という『あだ名』で呼ばれていてな。
バカでかいマッチョのくせに無表情でシャイな男だったんだよ。
しかも口下手でなぁ。
恐ろしいほど声が小さいんだ。
6人部屋でもマイクが必要だ、と言われるほどだったな。


 小谷野のことを説明していると、スマホがメールを受信した。


 小谷野からのメールだ。


 天野と前島は画面を覗き込んだ。





小谷野だよ!


天野くんお久しぶり!

奥田くんの結婚式以来だね!

元気してる?

俺は小児科の研修医として変わらずやってるよ!



ごめんね。

電話じゃうまく伝えられなくて。

まだ声を出すのが苦手なんだ。

患者さんや看護師のみんなにも「身体がデカいくせに声が小さい」って、よく怒られてるよ(笑)



実はね、天野くんに相談したいことがあって電話したんだ!

『天才クソ野郎』が多忙なのはわかってるんだけど、もし時間があったら聞いてもらえないかな?

俺の仕事、つまりは小児科医のことで、天野くんに相談というかアドバイスをいただけないかなぁ……と思ってるんだ。



というのもさ、天野くんは幼子の世話が得意だったよね?

あまり公言してなかったけど、俺と同じくらい子供好きだったしさ(笑)

そんな天野くんだからこそ、悩んでることのヒントを教えてくれるんじゃないか、って思うんだよ。



平日でも祝日でも構わないから、昼の間で暇な時があったら教えてよ!

それじゃ体に気をつけてね!



小谷野




 前島は苦笑しながらメールを見つめた。


前島悠子

メールだとめっちゃ陽気でお喋りじゃないですか。
フランケンだなんて想像できませんね。


 天野も嬉しそうに苦笑した。


天野勇二

小谷野のヤツめ。
メールじゃこんなに 饒舌じょうぜつだったのか。

前島悠子

師匠に相談したいことって、何でしょうかね。

天野勇二

まるで想像できんな。
アイツが俺に『依頼』するなんて初めてのことだぜ。

前島悠子

『子供好きな師匠』を頼りたいみたいですね。

天野勇二

俺には妹がいるからな。
幼子の扱いには長けてる。
小谷野め、そんなことよく覚えてたな。

前島悠子

小谷野さんも子供好きなんですか?

天野勇二

あいつは筋金入りだよ。
昔から小児科医を強く志望していた。
子供の治療に携わるのが夢だったんだとよ。


 天野は「今度の日曜なら暇だ」とメールを返した。


 小谷野からのメールはすぐ返ってきた。



今度の日曜日だね!

忙しいだろうにありがとう!


それじゃ申し訳ないんだけど、大学病院の小児科棟まで来てくれないかな?

ナースセンターには話を通しておくからさ!

お礼はできる限りするから任せてよ!


いやぁ、卒業してから天才クソ野郎に依頼するなんて思わなかったな(笑)

天野くんに会えるのを楽しみにしてるね!



小谷野



 前島がスケジュール帳を見つめ、にんまり笑った。


前島悠子

今度の日曜。
昼間でしたらオフです。
私も同行して良いですか?

天野勇二

構わないぞ。
小谷野はお前が来たところでどうこう言うヤツじゃない。
歓迎してくれるさ。

前島悠子

やった!


 前島は無邪気に喜んだ。


 まるで初デートに挑む少女のようであり、本人は実際にそんな気分だ。



 天野はメールを打ちながら不敵な笑みを浮かべた。


天野勇二

小谷野フランケンからの依頼か。
実に楽しみだ。
さて、どんな依頼かな?

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つばこ

どうも、つばこです。
今週もお読みいただきありがとうございます。
 
実は今回のエピソード、comicoでお届けするかボツにするか、本当に迷いました……( ´Д`)
ちょっと地味な話ですし、わかりやすい派手さもないんです。
天野くんも誰かの骨を折ったり拳銃を撃ったりはしません(日本は法治国家だから当然ですね(´∀`*)ウフフ)
 
だけどこのエピソードは、つばことして絶対に書きたかったテーマのひとつです。
comicoのトレンドではないかもしれません。
『天クソ』らしい、かなり尖ったエピソードです。
それでも読者の皆さまの心に、何かひとつでも残るものがありますようにヽ(*´∀`*)ノ.+゚
 
ではでは、いつもオススメやコメント、本当にありがとうございます_(_^_)_

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コメント 133件

  • rtkyusgt

    天野くんの1行にそんな長文で返すだなんてww

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  • えいじ

    センテンススプリング

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  • みと@第3艦橋OLD


    天野くんのアドレスはきっと
    genius_kuso_man

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  • 凡才クズ野郎

    天野くん、メールで誤字とかするんかな
    とか考えたらちょっと可愛くね(((は

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  • 美月

    アイドルという立場なのに天野くんにベタベタしてるゆうこちゃんにちょっとモヤモヤしちゃうわたしは、心狭い…?

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