天野は魔術師が潜伏しているという塔へ向かった。


 それは森の奥深くにあった。

 かなり古い建築物。

 こけと腐食が目立つ不気味な塔だ。


天野勇二

気味の悪い塔だな……。


 塔の中に踏み込む。

 壁際には螺旋状らせんじょうの階段。

 それ以外に目立ったものはない。


 天野が周囲を見回していると、黒いローブをまとった女性が現れた。


???

フフフ……。

私は闇の魔術師の弟子……。


 長い杖を持ち、挑戦的に天野を睨みつけている。

 天野は即座にメスを取り出した。


天野勇二

俺様は男女平等主義者だ。
女でも敵であれば容赦しない。
そこをどけ。

魔術師の弟子

ここは通しません!
火球よ!
師に あだなす敵を焼き払え!


 杖を振りかざす。

 ソフトボールほどの火球が飛び出した。

 天野は冷静にメスを振り回した。




 キン!




 あっさり火球を一刀両断。

 火花が四散してかき消えた。


天野勇二

クックックッ……。
なぜか知らんが、俺様のメスは魔法とやらを弾いてしまうようだな。


 弟子の女は火球を弾かれ動揺している。

 天野は素早く跳びかかった。



天野勇二

俺様のメスに切れないものはないッ!

魔術師の弟子

きゃああっ……!


 激しいメスの一撃。

 弟子は地面に崩れ落ちた。


天野勇二

言っただろう?
俺様は女でも容赦しない。
だが『みね打ち』だ。
慈悲じひ深い俺様に感謝するんだな。


 天野は螺旋状の階段を上り始めた。


 敵の出現を警戒しながら進む。


 無事に最上階まで辿り着いた。



闇の魔術師

ククク……。

我が弟子を倒して上がってくるとは大したものだ。



 塔の最上階。

 闇の魔術師が天野を待ち構えていた。


 天野は魔術師の傍らを見た。

 アイシャが眠っている。

 まだ息はあるようだ。


天野勇二

クズ魔術師よ。
その娘を返してもらうぜ。

闇の魔術師

フゥーーハハハッ!

愚かな人間め。

娘を奪い返しに来たのか?


 魔術師は高笑いをあげた。


闇の魔術師

娘には『呪い』をかけた。

呪いの名は絶望と孤独。

真の希望なくしてあの娘の呪いは解けん。

お前ごときに何ができる?


 魔術師は杖を勢い良く振りかざした。


闇の魔術師

ククク……!

人間よ!

我が魔法をくらえ!


 バレーボールほどの火球が飛び出す。


 天野はメスを閃かせ、火球を粉々に弾き飛ばした。


天野勇二

それは効かないのさ。
俺様のメスは魔法さえも超越するようでな。

闇の魔術師

な、なにぃ!?

なぜ、私の魔法を弾き返す!?

お前は何者だ!?


 その問いを無視して、天野が駆けた。

 間合いを一気に詰める。


天野勇二

俺様のメスに切れないものはないッ!

闇の魔術師

うげぇぇぇ!


 血飛沫が上がった。

 魔術師は切り裂かれた自らの胴体を見つめながら、ゆっくり倒れた。


闇の魔術師

ば、ばかな。

こ、この、私が……


 それが最後の言葉になった。


天野勇二

残念だったな。
俺様という極悪が存在する限り、悪が栄えることはないのさ。


 天野はゆっくりアイシャのもとへ向かった。

 まるで眠れる森の美女。

 安らかな寝息をたてている。



天野勇二

やはり美しい……。

この世の全てを集めたかのような美しさだ……。



 そっと頬に手を伸ばす。

 柔らかい温もり。

 それさえも愛おしく感じる。



 どうすれば娘にかけられた呪いが解けるのか。

 天野にはわからない。

 だが、すべきことはひとつだと感じていた。



 天野は静かに顔を近づけた。


 アイシャの口唇に自らの口唇を重ねる。





 ほんの数秒。





 ただ触れるだけの軽い口づけ。





 それでも確かな柔らかさが、天野の全身を火花のように貫いた。




 そっと口唇を離す。


 アイシャの瞼が静かに開いた。



アイシャ

あ、あなたは……?

天野勇二

俺は旅のものだ。
君を助けに来た。


 天野はアイシャを抱き上げ、爽やかに笑った。


天野勇二

さぁ、君の村に帰ろう。




 天野はアイシャを抱いたまま村へ戻った。

 村人たちは感激して2人を出迎えた。


村長

アマノ様!
本当にありがとうございます!

天野勇二

気にするな。
俺はただ、惚れた女を奪い返しに行っただけさ。


 熱い瞳でアイシャを見つめる。


天野勇二

アイシャよ。
君から祝福をいただきたい。
構わないな?


 アイシャが小さく頷き、また2人の口唇が重なる。


 お互いの温もりと存在を分け合うような情熱的な口づけ。


 村人達は祝福の歓声をあげていた。








 ……それから幾つかの月日が流れた。



 俺はまだ異世界にいる。



 なぜ俺が異世界に転生したのか、未だにわからないままだ。



 わかっていることはひとつだけ。



 目の前には、初めて恋をした女性がいること。



アイシャ

アマノさん。
どうですか?
ドレス似合いますか?

天野勇二

ああ、とても素敵だ。
行こう。


 俺はアイシャの手を取り教会へ向かった。


 この日、俺は彼女と夫婦になるのだ。


天野勇二

アイシャ……。

君を一生、幸せにするよ。

アイシャ

はい……。













 もしかしたら、俺は彼女と出会うため、異世界に来たのかもしれない……。


 そう思えることができた出会いに、心から感謝している。


 この物語を観ている君にも、素晴らしい出会いが訪れることを願う。







~FIN~










佐伯涼太

……勇二!
勇二ってば!


 涼太がうつらうつらしていた天野を叩き起こした。


天野勇二

……うん?

終わったのか?

佐伯涼太

とっくに終わったよ!
なんで寝てるのさ!?
自分が主役の話なんだよ!
ほとんど勇二しか映ってないのに!
よく寝れるね!
僕の出演シーン観てなかったでしょ!?

天野勇二

なんか思ったより長くてなぁ。

ふわぁぁ……。


 大きく欠伸あくびしている。

 隣では前島が頬を赤らめていた。


前島悠子

はぁ……♡
なんて甘々な師匠とのラブシーン……♡


伊藤監督!
是非DVDに焼いてください!
何枚もください!

伊藤・監督

もちろんです!
あの、良かったらまた出演を……。


 天野は即答した。


天野勇二

却下だ。
もう映画はこれっきりにしてくれ。


 伊藤がしょんぼり肩を落とす。

 天野は大きく伸びをしながら言った。


天野勇二

おい、チームの諸君よ。
テラスでコーヒーでも飲みに行こうぜ。


 こうして『天才クソ野郎チーム』の処女作であり最終作になった映画は、無事に完成されたのであった。






 試写会から数日たったある日。


 テラスに映画研究部エイケンの看板女優こと和泉の姿があった。


天野勇二

和泉か。
君がここに来るとは珍しいな。


 天野が驚いて声をかける。

 和泉は深く頭を下げた。


和泉亜里沙

天野さん、その節は大変ご迷惑をおかけしました。
本当に申し訳ございません。

天野勇二

終わった話さ。
気にすることはない。
それを告げに来たのか?


 和泉は小さく首を横に振った。

 1枚のDVDを取り出す。


和泉亜里沙

あの後、短い映画を撮影したんです。
これを天野さんに観てほしいんです。

天野勇二

なぜだ?
俺様は映画評論家じゃないぜ。


 和泉は真正面から天野を見つめた。


和泉亜里沙

……あれからずっと、天野さんに言われたことについて、考えていたんです……。
そしてなぜ『女優』にこだわっていたのか、その『はじまり』を思い出しました。


 真っ直ぐな瞳。

 どこか吹っ切れたような表情。

 天野は「良い顔だな」と思った。


和泉亜里沙

1年生の時でした。
たまたま伊藤さんが撮った映画を観たんです。


本当に、素晴らしい映画でした……。


あの時、伊藤さんが作る映画の一部になりたい……。
そのために役者を こころざしたい……。
生まれて初めて、そう思ったんです。


 頬がかすかに赤らんでいる。


和泉亜里沙

不純な動機ですよね。
前島さんのような立派な心がけじゃありません。
ちょっと情けないです。


 天野は静かに首を振った。


天野勇二

それは違うな。
立派な『きっかけ』だ。
恥じることなんてないさ。


 和泉は照れ臭そうにはにかんだ。

 新作が収録されたDVDを見つめる。


和泉亜里沙

この作品を撮る前……。
部員の皆と色々話したんです。

もうドロドロした人間関係は終わりにしよう。
腹を割って話せる関係を目指そう。

そんな提案をしました。
天野さんたちのような、ひとつの『チーム』になるために。


 嬉しそうに微笑む。


和泉亜里沙

まだ完璧とは言えません。
でも、これからの私たち、もっと良い作品を作れます。
これはその最初の一歩。
是非とも、天野さんに観てほしいんです。


 天野は満足気に頷いた。


天野勇二

それは興味深い。
拝見させてもらうよ。

和泉亜里沙

ありがとうございます!
いつか私、天野さんを最後まで騙せるような、素晴らしい役者になってみせますから!


 和泉はそこまで言うとテラスを後にした。


 天野が満足気にDVDを眺めていると、前島がテラスにやって来た。


前島悠子

師匠!
おはようございます!

天野勇二

おお、ちょうど良いところに来た。
お前、DVDプレイヤーを持ってるか?

前島悠子

はい。
仕事用に持ち歩いてますけど。

天野勇二

それならこれを観てみないか。


 天野はDVDを前島に見せた。


前島悠子

何のDVDですか?

天野勇二

映画研究部エイケンがドロドロした人間関係を払拭ふっしょくして撮影した新作だとよ。

前島悠子

へぇ、それは面白そうですね。


 前島は嬉しそうにDVDプレイヤーを取り出した。

 セッティングして天野の隣に座る。

 天野は困ったように顔をしかめた。


天野勇二

おい……。
だから腕を組むなよ。
お前、本当に最近ベタベタ触ってくるな。

前島悠子

いいじゃないですかぁ。
もしかして師匠、照れてます?

天野勇二

照れてるんじゃない。
ベタベタ触るなと言ってるんだ。

前島悠子

ベタベタってぇ、こんな感じですかぁ?



 テラスにさす木漏れ日が、天野と前島の仲睦なかむつまじい姿を照らしている。


 それを遠くから眺めている人物がひとり。


 天野の相棒、涼太だ。



佐伯涼太

……あの中に入るのが面白いんだけど……。

たまには、2人きりにしてあげようかな。



 涼太は苦笑しながら、天才クソ野郎とその弟子の姿を見つめていた。








(おしまい)


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つばこ

ご愛読いただきありがとうございます。
何かひとつでも心に残るものがあれば幸いです。
 
今回の映画が文化祭で公開された時、あまりに激しいキスシーンの連続に、前島悠子の関係者とファンたちは阿鼻叫喚の巷と化してしまうのですが、それはまた別の話でございます(´∀`*)ウフフ
 
 
さて、次回のエピソードですが、半年ぶりに懐かしいキャラが登場します。
56~60話『彼が上手に結婚する方法』を覚えてますでしょうか。
天才イベリコこと『奥田』の結婚式です。
次回はあのブタ野郎…………ではなく、その時登場した『混沌のカルテット』の1人が登場します。
まだお読みでなければ、是非とも一読いただければ幸いでございます。
 
それでは来週土曜日、
『彼が上手に理想の医師になる方法』
にてお会いしましょう。
 
つばこでしたヽ(*´∀`*)ノ.+゚

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コメント 145件

  • まこと

    きたー!キスシーン!(≧▽≦)
    ありがとうございます!

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  • ココノ

    イベリコ色の空に飛んだ彼ですね!
    覚えてますよ!
    イベリコ色の空って単語が強烈すぎて!

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  • ゆめおぼろ@天クソ/パステル

    センテンススプリング

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  • バルサ

    きゃ〜がっつりキスシーンありました(^^)
    カットされてなくて、良かったね前島さん(^.^)

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  • もやし

    たしかにほのぼのだったなぁ…いい読後感
    挿絵すばらしすぎました(合掌)あの、映画のフィルム?みたいな?あれオシャレすぎでしょ〜!!悠子ちゃんが喜んでるから私も幸せ♡
    ラスト涼太の気遣い素敵すぎた惚れちゃう(惚れない)
    色々と萌えポイントはあったけどクソ野郎の「おい、チームの諸君」ってセリフが1番最高でした

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