前島悠子

どうも!
皆さんおはようございます!


 撮影も後半に差しかかった夜、ついにトップアイドル前島悠子が映画研究部エイケンに現れた。


 部員たちは最敬礼して出迎えた。


伊藤・監督

前島さん!
おはようございます!
お忙しい時にありがとうございます!

前島悠子

いいんですよ!
『天才クソ野郎チーム』の仕事ですから!

でも、私はプロダクションに入ってますので、作品を一般公開したり、公募に出したりすることはできません。
それでも構いませんか?

伊藤・監督

はい、もちろんです。

……文化祭で上映するのもNGですか?

前島悠子

学内の上演に限りOKをもらっています。
文化祭ならば大丈夫です。


 伊藤はほっと息を吐いた。


伊藤・監督

それでは前島さんクランクインします!
早速ですが前島さんのシーンからお願いします!


 前島は嬉しそうに天野たちに近づいた。


前島悠子

師匠に涼太さん!
天才クソ野郎チームの仕事、頑張りましょう!

天野勇二

お前は随分と楽しそうだな。

前島悠子

そりゃそうですよ!
学生たるもの、サークル活動への参加は憧れですから!

佐伯涼太

ねぇ前島さん、勇二との『キスシーン』はちゃんとカメラチェックをしないとね。

前島悠子

そうですね。
私も『女優』である以上、演技にはこだわりがあります。
納得のいくキスシーンが撮れるまで、何度だってリテイクしますよ。


 天野は嫌そうにため息を吐いた。


天野勇二

いくら何でもキスシーンが多くないか?

救出してキス。
村に連れ帰ってキス。
結婚式でキス。


こんな短時間で何度もキスする必要性を感じないぜ。


 前島は人差し指を立てた。

 横に振りながら 「チッチッ」と舌打ちする。

 天野のいやみったらしい 仕草ジェスチャーを真似ているのだ。


前島悠子

映画は脚本と監督の指示が絶対なんです。
我々 演者えんじゃは脚本に口を出してはいけませんよ。

天野勇二

お前がキスシーンを増やせって言ったんだろ。

前島悠子

そんな昔のことは忘れました。


 涼太はそのやり取りを見て笑った。


佐伯涼太

前島さん、なんだか勇二に似てきたね。
ねぇ勇二、師匠としては嬉しいんじゃない?

天野勇二

俺様はこんなに厄介な生物だったのか……。
傍目から見ると、俺は本当に嫌なヤツだな。
俺は今、生まれて初めて自分が恥ずかしくなったぞ。

佐伯涼太

ぎゃははは!
何を今更言ってるの!
勇二は昔からずっとこんなカンジじゃん!


 まずは前島の衣装合わせ。

 メイクをして『村一番の美少女』に変身する。


天野勇二

おい伊藤、和泉はまだ入院中で不在だ。
前島とは絡ませないのか?

伊藤・監督

和泉の絵は天野さんとの対決シーンで撮れましたので、そこまでにするつもりです。

天野勇二

いいのか?
和泉は看板女優だろう?
出番が少ないじゃないか。


 伊藤は気まずそうに顔を伏せた。

 天野はそれを見てニヤリと笑った。


天野勇二

さては和泉とモメたな。
出番やキャスティングについて。


 伊藤は恥ずかしそうに頷いた。


伊藤・監督

仰る通りです……。
前島さんを使える時間は限られてます。
無理に押し通しました。

天野勇二

クックックッ。
映画研究部エイケンの裏事情はドロドロだな。
まぁ、サークルなんてどこも似たようなものか。

伊藤・監督

お、お恥ずかしい限りです……。


 前島の準備が終わった。


 まずは天野、魔術師である涼太、そして捕まった前島が対面するシーンの撮影だ。


伊藤・監督

それではシーン93いきます!
アクション!


 天野はメスを構え、魔術師である涼太を睨みつけた。


天野勇二

魔術師め、ここで俺様がオペしてやるよ!

佐伯涼太

フゥーーハハハッ!

愚かな人間め。


娘を奪い返しに来たのか?


 涼太は杖を前島に向けた。

 前島は眠れる森の美女のように瞼を閉じている。


佐伯涼太

娘には『呪い』をかけた。

呪いの名は絶望と孤独。

真の希望なくしてあの娘の呪いは解けん。

お前ごときに何ができる?


 涼太はかなり演技力が向上していた。


 天野は「自分よりもアイツのほうが俳優に向いているな」と感心した。


伊藤・監督

オッケー!
涼太さん完璧です!


 次は前島を呼び起こす場面。




 つまりは、お待ちかねの 『キスシーン』だ。




 前島は期待に胸を膨らませながら眠りについていた。


伊藤・監督

シーン112いきます。
アクション!


 天野はゆっくり眠っている前島に近づいた。


天野勇二

なんと、美しい娘だ……。
この世の全てを集めたかのような美しさだ……。


 天野はゆっくり前島にキス……するフリをした。

 カチンコが「カンカン」と鳴った。


伊藤・監督

オッケー!
バッチリです!


 前島はガバッと起き上がった。


前島悠子

師匠!
なんでちゃんとキスしないんですか!?

天野勇二

今の角度なら問題ないさ。
伊藤、どうだった?

伊藤・監督

はい。
今のでバッチリでしたよ。


 前島は頬を膨らませながらカメラチェックを行った。

 確かに問題ない。

 キスしているように見える。

 だが前島は首を横に振った。


前島悠子

ダメです!
キスシーンはちゃんとキスしてこそのキスシーンです!

天野勇二

おいおい……。
ワガママを言うなよ。
撮影時間は短いんだ。
あまりスタッフに苦労をかけさせるな。
映画はお前1人で作るものじゃないんだぞ。


 ぐうの音も出ないほどの正論。

 前島はプンプン怒りながら天野の言葉に従った。


伊藤・監督

次はシーン113いきます!
アクション!


 前島が静かに目を覚ます。

 潤んだ瞳で天野を見上げた。



前島悠子

あ、あなたは……?



 その瞬間、スタッフたちは前島の演技力とオーラに圧倒された。


 さすがはプロだ。


 ただ目覚めただけなのに、とてつもない感動シーンのように感じた。


天野勇二

俺は旅のものだ。
君を助けに来た。


 天野は前島を抱き上げ、爽やかに笑った。


天野勇二

さぁ、君の村に帰ろう。


 カチンコが「カンカン」と鳴った。


伊藤・監督

オッケー!
素晴らしいです!
さすが前島さん!


 次は前島を村に連れ帰る場面。

 セットを変えて場面を変える。


前島悠子

まだ、2回。
まだ2回……。
チャンスは残ってます。


 前島は何かをブツブツ呟いている。

 天野は前島を『お姫様抱っこ』しながら、面倒臭そうに顔を歪めた。


伊藤・監督

じゃあシーン114いきます!
アクション!


 天野は前島を抱いたまま村に帰った。


 村人が感謝の言葉を述べている。


 天野は爽やかにセリフを言って前島にキス……するフリをした。


伊藤・監督

オッケー!
バッチリです!


 すかさず前島が声をあげた。


前島悠子

カメラチェックお願いします!


 殺気を帯びた目でカメラチェック。

 まったく問題ない。

 ばっちりキスしているように見える。

 それでもブンブン首を横に振った。


前島悠子

ダメです!
リテイクです!
撮りなおしてください!

天野勇二

なんだよ。
何が不満だ。
良いシーンじゃないか。


 前島はその声を無視して、再び天野の腕の中に戻った。

 村人たちも元いた場所に戻る。


天野勇二

今ので良かっただろう。
何が不満だと言うんだ。


 前島はぷいっと横を向き、唇を尖らせた。


前島悠子

ふんだ。
師匠はイジワルです。

ぷんすこです。
ぷんのすこですよ。

これじゃ撮影に参加した意味がありませんよ。


 完全にスネている。

 天野を見ようともしない。

 天野は深くため息を吐いた。


伊藤・監督

シーン114テイク2いきます!
アクション!


 天野は前島を抱いたまま村に帰った。


 村人が感謝の言葉を述べている。


 天野は爽やかにセリフを言って前島にキスをした。





 本当にキスをした。





 その瞬間、前島の身体は完全に停止した。




伊藤・監督

オッケー!
バッチリです!



 天野は腕の中で硬直している前島に声をかけた。



天野勇二

ほら、降りないか。
撮り終わったぞ。



 前島は硬直しながらも、恍惚の笑みを「にんまり」と浮かべている。


 反応がない。


 ペシペシ叩いても応答がない。


 身体はピキーンと硬直したまま。


 天野はしょうがなく前島を椅子に座らせた。


 そこで前島は我に返った。



前島悠子

……はっ!

師匠!

今、私に!

キスしましたね!

天野勇二

……ああ、したぞ。

前島悠子

やったぁ!


 涼太は苦笑しながらも、優しげにそんな2人を見つめていた。



 次は前島のラストシーン。

 『結婚式』の場面だ。

 簡易的な教会のセットが作られ、村人たちはレプリカの花びらを持ってスタンバイする。

 

伊藤・監督

天野さん、準備できました。
お願いします。


 天野は立ち上がって前島と並んだ。

 前島は嬉しそうにはにかんでいる。


前島悠子

師匠、まるで本当の結婚式みたいですね。

天野勇二

まぁ、そういうシーンだからな。

前島悠子

私たちはどこで式を挙げますかね。

天野勇二

挙げるワケないだろ。
結婚なんか興味ねぇよ。

前島悠子

もう!
そこはウソでもいいコト言ってくださいよ!
女優のテンションを上げるのも俳優の仕事ですよ!


 天野は「面倒なんだなぁ、俳優って」と思いながら息を吐いた。


伊藤・監督

シーン116いきましょう!
アクション!


 村人が喝采かっさいをあげた。

 祝福の声を浴びながら、天野と前島が登場する。

 天野は前島を抱き上げ、爽やかな微笑みを送った。


天野勇二

君を一生、幸せにするよ。

前島悠子

はい……。


 天野は前島の唇にキス……するフリをしたが、前島は天野の白衣をガシッと掴み、無理やり天野の唇に吸いついた。


 村人から大きな拍手が送られた。


伊藤・監督

オッケー!
バッチリです!
ありがとうございます!


 天野はげんなりしながら前島を見つめた。


天野勇二

お前、ラスト吸いついてきやがったな。
スッポンみたいなやつだ。

前島悠子

えへへ……。
キスするフリをしようとした師匠が悪いんです。

天野勇二

はぁ……。
まったく、恥ずかしいものに参加してしまった。


 前島は天野の腕に抱かれながら、刹那せつなの幸せを噛みしめていた。 




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つばこ

フッフッフッ……。
聴こえるぞ……。
読者の皆さまからの声が聴こえるぞ……。
 
 
『キスシーンのイラストが見たい』
 
 
そんな声が聴こえるぞ……。
むっふっふ……。
(もしそんなことを思っていないのであれば、つばこは幻聴が聴こえてしまっているので、素敵なホスピタルでも紹介してください)
 
さて、本日は重要なお知らせがあります。
来週から「天才クソ野郎の事件簿」は『週1連載』に戻ります!
土曜日の連載になります!
これからは『毎週土曜日』が天クソデイズ! サタデーナイト天クソ!
週1連載になっても、天才クソ野郎をよろしくお願いします!
つばこのことを忘れないで!
いつもオススメやコメント、本当にありがとうございます!ヽ(*´∀`*)ノ.+゚

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コメント 260件

  • rtkyusgt

    すっぽんで笑っちまったじゃないかww

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  • ゆんこ

    大丈夫かアイドル

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  • 村岡

    心の底から早く結婚して!!!!と思いました
    ご馳走様です

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  • ことり

    ゆうこ、めんこいなあ(*´∀`*)

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  • なゆ

    結婚式のシーンなのに天野くんは白衣着てるのかwww

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