その夜、涼太は都内の喫茶店で野中とデートしていた。


佐伯涼太

そうなんだ……。
殺された生田くんって、瑞穂ちゃんの『元カレ』だったんだ。


 被害者は元カレ。

 犯行現場は自宅側の空き地。

 容疑者はいまだ逃亡中。

 当然ながら野中はかなり怯えていた。


野中瑞穂

うん……。
もう怖くて……。
どうして家の近くで殺されたんだろう……。
もしかして私のことを狙っていたのかな……。


 震える野中の手を、涼太は優しく握り締めた。


佐伯涼太

容疑者は僕と同じ大学の学生なんだ。
話したことはないけど、噂は聞いたことがある。
ヤクザとも関係があるような野蛮人チンピラだって。
瑞穂ちゃんを狙っていたワケじゃないと思うよ。


 涼太は何度も野中を慰めた。


佐伯涼太

安心して。
瑞穂ちゃんは大丈夫。
仮に狙われたとしても、僕が必ず守ってみせるから。

野中瑞穂

でも……。
サトシくんが危険な目にあっちゃう……。


 涼太は爽やかに微笑み、力こぶを作ってみせた。


佐伯涼太

こう見えても僕は空手の有段者なんだ。
喧嘩だって強いんだよ。
瑞穂ちゃんを守ることだって容易いことさ。

野中瑞穂

ありがとう……。
こんな時に励まして支えてくれるなんて……。
サトシくんがいてくれて良かった。


 涼太は野中の手を握りながら、お得意の『流し目』を飛ばした。


佐伯涼太

僕もこんな時に君と出会えて良かった。
君に振りかかる不安を払うことができる。
君を見つけたのは偶然だと思ってたけど、きっとこれは運命だよ。
瑞穂ちゃんのことを守るために、僕はこの世界に存在していたんだ。


 真摯で誠実な口説き文句。


 涼太の言葉は、弱気になっている野中の心に深く突き刺さった。

 

佐伯涼太

君のことを守りたい。
あらゆる危険から君を守る盾になりたい。
こんな時に言うことじゃないかのかもしれないけど、ひとつお願いがあるんだ。


 涼太は真正面から野中を見つめた。


佐伯涼太

僕を、瑞穂ちゃんの 『正式な恋人』にしてほしい。

君のことが好きだ。

一目惚れから始まって、声を聞いて、話をして、君を知って、予感は確信に変わり運命に辿り着いた。

どうかお願いだよ。

僕のことを瑞穂ちゃんの 『カレシ』にしてくれないかな?


 野中は涼太の瞳を見つめた。


 恥ずかしそうに俯く。


 やがてコクンと、静かに頷いた。


野中瑞穂

……うん。
サトシくんが『カレシ』になってくれたら、私も嬉しいな……。


 涼太は小さく拳を握った。


佐伯涼太

良かった!
ありがとう!
今日は人生最高の日だ!
僕は世界で一番美しいシンデレラの隣に立てるんだ!


 野中は照れ臭そうに笑った。


野中瑞穂

もう、サトシくんはオーバーなんだから。

佐伯涼太

オーバーなんかじゃない。
本当の気持ちさ。
本心そのものだよ。


 涼太はダメ押しとばかりに言葉を続けた。


佐伯涼太

今日はこれからバイトなんだよね。
何時から何時まで?

野中瑞穂

23時から朝の6時までだよ。

佐伯涼太

じゃあ、終わるまで四谷で待ってるよ。
バイトが終わったら、僕の車で家まで送るからさ。


 これはありがたい申し出だ。

 野中は心の底から嬉しそうに微笑んだ。


野中瑞穂

いいの?
嬉しいけどそれは悪いよ。
サトシくんをすごく待たせちゃう。

佐伯涼太

ううん。気にしないで。
僕が待っていたいんだ。
そして瑞穂ちゃんを送ってあげたい。

僕は瑞穂ちゃんが友達や職場の人に自慢できるカレシになりたい。
立派なカレシなら当たり前の行為だよ。
今の僕なら、みんなに紹介できるかな?


 野中は惚れ惚れと涼太を見つめた。


 出会った時はホストにしか見えないチャラ男で、友人に紹介するのがためらわれるほどの外見だったが、今はすっかり落ち着いている。


 むしろ涼太はかなりのイケメン。


 知性と頼もしさを兼ね備えた一流私大の学生。


 友人から 羨望せんぼうの眼差しを浴びることができるだろう。


野中瑞穂

うん……。
私もサトシくんをみんなに紹介したい。

佐伯涼太

良かったぁ。
実を言うとさ、瑞穂ちゃんが『職場の人』と付き合うんじゃないかって、ちょっぴり心配だったんだ。

野中瑞穂

えへへ。
もう私のカレシ、サトシくんしかいないよ。

佐伯涼太

それなら『職場の人』にも僕のことを伝えてよ。
同じ女性を好きになったもの同士、通じるものがあると思う。
仲良くなれる気がするんだ。


 涼太は器の大きさをアピールした。


 相手が『恋敵』であっても、カノジョのために友人になってみせよう、と発言しているのだ。


 野中は涼太の発言に感心し、嬉しそうに頷いた。


野中瑞穂

わかった。
今夜は上司と会うから、サトシくんと付き合うことを話すね。
サトシくんの写真とか見せたほうがいいかな?


 涼太はその『提案』だけを恐れていた。

 爽やかな微笑みを浮かべたまま首を横に振る。


佐伯涼太

それは止めておこうよ。
いきなり僕って男を紹介したほうが面白いと思うな。

野中瑞穂

そうかなぁ。
写真見せたいなぁ。

佐伯涼太

どんなカレシなんだろうって、みんなをワクワクさせようよ。
サプライズ要素があって楽しくない?


 野中は素直に納得した。

 涼太ほどのイケメンならば、実物を紹介したほうがインパクト絶大だろう、と判断したのだ。


野中瑞穂

わかった。
実際に会うまで秘密だね。

佐伯涼太

そうだね。
写真はバイトが休みの時に遠出でもして、そこでいっぱい撮ろうよ。

野中瑞穂

うん!
とっても楽しみ。


 涼太はもう一度野中の手を握った。

 必殺の『流し目』を飛ばす。

 まるでトドメを刺すかのように言った。


佐伯涼太

瑞穂ちゃんと付き合えるなんて、僕は世界で一番の幸せ者だよ。
素晴らしい瞬間を与えてくれてありがとう。
瑞穂ちゃん、大好きだよ。
これからは僕がずっと傍にいるからね。


 涼太は爽やかな笑顔を浮かべた。

  

 その裏に隠された黒い笑顔に、野中は残念ながら気づくことができなかった。





 涼太は車に乗ったまま、四谷側の交差点で野中を待っていた。


 深夜3時頃を過ぎた頃。


 野中から着信が入った。


佐伯涼太

マジで電話がかかってきたよ。
勇二の『読み』は凄いね。
地球は天才クソ野郎を中心に回ってるんじゃないかと思うよ。


 涼太は感心しながら電話に出た。


佐伯涼太

はぁい。サトシだよ。

野中瑞穂

あっ、瑞穂だよ。
いきなりごめんね。

佐伯涼太

ううん、どうしたの?
バイトもう終わったの?


 野中はすまなそうに告げた。


野中瑞穂

サトシくん、実はちょっとお願いがあるの。
バイト先の人がね、どうしてもサトシくんに会いたいって言うの。


 涼太はにやりと笑みを浮かべた。


佐伯涼太

へぇ……。
僕がどんな男なのか、気になってるのかな?

野中瑞穂

そうみたい。
あんな事件があったばかりだから、どうしても会って話がしたいって。
迷惑だよね?


 涼太は明るい声で言った。


佐伯涼太

全然オッケーだよ!
今は四谷の交差点あたりにいるんだ。
近くにお寺があるから、そこまで来てもらっていいかな。

野中瑞穂

大丈夫だと思う。
10分後くらいでも平気かな?

佐伯涼太

うんうん。問題ないよ。
境内で待ってる、って伝えてよ。

野中瑞穂

本当にありがとう。
こんな無茶なお願いを聞いてくれて。

佐伯涼太

気にしないで。
バイト頑張ってね。


 そう言って電話を切ると、涼太は素早く車を飛び出した。


 待ち合わせ場所の境内に入ってスタンバイ。


 『バイト先の人』とやらを待つことにした。


佐伯涼太

さぁて、サトシくんの面談が始まるのか……。
ふふっ、うまくいくかな?


 深夜の時間帯となれば、四谷といえども人気はほとんどなくなる。


 特に境内はほぼ無人。


 境内を照らす電灯がひとつ、寂しげに揺れているだけだ。



 きっかり10分後。


 境内に人影がひとつ現れた。


 髪をオールバックにしたスーツ姿の男性だ。


 年の頃は30を過ぎたぐらいだろうか。



 男性は不安気に境内を眺めた。


 境内はほぼ無人。


 だがベンチに1人、座っている男がいた。


???

すみません。
君が『サトシくん』かな?


 ベンチに座っていたのは派手な金髪の男。

 舌打ちをしながら立ち上がる。

 指先を気障ったらしく振り回し、偉そうに言った。


サトシ?

おいおい……。
確かに俺は『サトシ』だが、アンタは誰だよ?
人に名前を尋ねる時は自分から名乗りましょうと、幼稚園で教わらなかったのか?


 スーツ姿の男性は嫌そうに顔を歪めた。

 それでも懐から名刺を取り出し、丁寧に名乗った。


飯田源太

これは失礼した。
私は 飯田源太いいだげんたというものだ。
野中くんの上司にあたる。
時間を頂いてすまないね。


 金髪の男は満足気に名刺を受け取った。

 肩書きは居酒屋チェーン店のエリアマネージャーとなっている。


サトシ

それでいい。
へぇ、マネージャーだなんて、お偉いさんだね。

飯田源太

そんなことはない。
数店舗の担当を任されているだけだ。


 サトシと名乗った男は名刺を懐にしまいながら、飯田の顔をじっと睨みつけた。

 そしてニタリと不敵な笑みを浮かべた。


サトシ

ああ、やっぱり。
アンタだ。

飯田源太

……は? なんだね?

サトシ

アンタさぁ。
昨晩、 生田庄司が殺された現場にいたでしょ?


 思わぬ名前が出てきた。


 飯田の表情が一瞬固まる。


 サトシは指をパチリと鳴らすと、飯田の顔に突きつけた。


サトシ

実は俺、瑞穂ちゃんをよく 『見張るクセ』があってね。
昨晩も瑞穂ちゃんの家を見張ってたんだよ。

そしたらアンタが現れた。
しかも 『空き地』に隠れてずーーーっと出て来ない。
何をしてんのか疑問だったんだよ。

しばらくしたら男が何人かやって来て揉め始めて、アンタはいきなり原付で逃げちまった。
そして残ったのは生田庄司の死体ときたもんだ。

あん時さぁ、アンタ、あそこで何してたのよ?


 飯田は額に吹き出る汗を拭った。


飯田源太

な、何の話をしているんだ……。
ちょ、ちょっと……私にはわからないな……。

サトシ

わからねぇワケないだろ?
アンタ自身のことだぜ。
これを見てくれよ。


 サトシは1枚の『黒い写真』を取り出した。


サトシ

これ、アンタを撮影した写真ね。
特殊なレンズを使っているから今は真っ黒にしか見えないけど、特定の光をあてるとアンタの姿が浮かび上がる。
現場から原付に乗って逃げて行く、アンタの姿さ。

ちなみに原付のナンバーは『墨田区・183』ね。
まぁ、盗難車だろうけど。


 サトシはケラケラ笑いながら言葉を続けた。


サトシ

アンタは怪しいよねぇ。
あの 『殺人現場』で何をしてたの?
俺がこれを警察にタレこんだらマズイだろうなぁ。
警察はアンタの痕跡やアリバイを調べ始めるぜ。
その結果、とんでもないことになるんだろうなぁ……。


 飯田はイライラしたように言った。


飯田源太

そ、そんな話をしにきたんじゃない!
私は野中くんのことを話すために来たんだ!

サトシ

俺はずっと瑞穂ちゃんの話をしてるけどねぇ。

俺のカッコ見てわかんない?
俺は『ホスト』なワケよ。
瑞穂ちゃんをゆくゆくは店に招待して金を貢がせたいの。
居酒屋のバイト代だけじゃ足りないね。
専門学校も辞めさせて『裸の仕事』を紹介するつもり。

これでわかるでしょ?
俺がアンタと何を取引しようとしてるのか。


 飯田は愕然としながらサトシを見つめた。

 確かに見た目は悪いホストそのものだ。

 飯田は震えながら尋ねた。


飯田源太

わ、わからない……!
何が言いたいんだ……!?
お、お前の目的はなんだ!


 サトシは親指と人差し指で『輪っか』を作ると、吐き捨てるように言った。


サトシ

金だよ。
警察にタレこんでほしくなければ 『金を払え』と言ってんだ。

俺はね、金が欲しいの。
瑞穂ちゃんのことも、アンタが殺人現場にいたことも、 『金ヅル』としか思ってないワケ。


 サトシは悪い笑みを浮かべた。

 手を差し出しながら語りかける。


サトシ

さぁ、金だ。
タレこんで欲しくないだろ?
金を出しな。




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つばこ

前回の作者コメントでも書きましたが、『天才クソ野郎の事件簿』の物語は、基本的に「つばこの脳内」で天野くんが勝手に動き回ることで作られています。(冷静に考えるとつばこって結構アブナイ人ですね)
今回もサトシくんという謎のキャラが「金が欲しい」と、ワケのわからないことを言い出しまして、つばこはとても困ったものです(´∀`*)ウフフ
 
どうしてサトシは「金が欲しい」と要求しているのか!?
そもそも「サトシ」は何者なんだ!?
瑞穂ちゃんの元カレを殺したのは誰なのか!?
気になる「カイン」の正体とは!?
全ての謎が集結する次回をご期待ください!
 
ではでは、いつもオススメやコメント、本当にありがとうございますヽ(*´∀`*)ノ.+゚

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コメント 159件

  • ちいすけ

    あれれ〜??サトシの人格が変わったな〜??誰だろうね〜??

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  • なゆ

    飯田さんのアイコン、どう見てもやられてるね( ̄∀ ̄)?

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  • Atik

    サトシくん悪いやつになったねー!サトシくんそれじゃ、女の子を敵に回すでしょ?

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  • マッスル

    天野くんなにしてはるん!?

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  • バルサ

    黒い笑顔…思いっきり笑った(^^)

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