野中瑞穂とのファーストコンタクトは上々の結果に終わった。


 涼太は野中の連絡先をゲットし、後日、『 お茶デート』することにも成功した。


 野中と喫茶店で話し込み、必要な情報を集めたのだ。




 そして、ここで大きな問題が発生した。




天野勇二

どういうことなんだ。
ストーカーがいないって。



 場所はいつものテラス。


 天野は涼太の報告を聞いて、呆れたように言い放った。


佐伯涼太

だからさ、いないのよ。
瑞穂みずほちゃんのストーカーなんて存在しないの。
あの娘はストーカー問題なんかに悩んでないのよ。


 涼太も呆れたように言葉を続ける。


佐伯涼太

瑞穂ちゃんは最近カレシと別れたばっかり。
フリーでカレシ募集中。
だけど元カレは瑞穂ちゃんに 『復縁』を迫ってるんだ。
瑞穂ちゃんもそこまで元カレのことを嫌ってないみたいで、今はヨリを戻すかどうか迷ってる最中なんだって。

天野勇二

その『元カレ』とやらがストーカー、ってことじゃないのか?

佐伯涼太

そう思うよね?
ところが元カレは 『ストーカー行為』まではしてないんだよ。
電話やメールで

『ボクが悪かった。瑞穂とやり直したい』

って普通に頼んでる。
実際にメールを見せてもらったけど、あれはストーカーと呼べるレベルじゃなかったね。

天野勇二

なんだそりゃ……。
野中はモテるタイプなのか?


 涼太はあっさり首を横に振った。


佐伯涼太

モテるタイプじゃないね。
オシャレで派手な子なんだけど、内面は地味というか 素朴そぼくすぎるんだ。
本人も『自分がモテる』って意識は持ってないよ。

だけどバイト先には言い寄ってる上司がいるみたいで、元カレを選ぶか、その上司を選ぶか、ちょっと迷ってたみたい。


 涼太はそこまで説明すると、ニタリと下品な笑みを浮かべた。


佐伯涼太

ところがそこに『第3の男』である僕が現れた。
瑞穂ちゃんに『モテ期』が訪れたってことだね。
瑞穂ちゃんの心は、僕ら3人の男の間をフラフラさまよってるよ。

天野勇二

ほう、やるな。
野中はお前に好意を抱き始めているのか。

佐伯涼太

そういうこと。
だけど瑞穂ちゃんは僕の『趣味』じゃないね。
見た目は派手なのに中身は平凡かつ地味で大人しいフツーの娘でさぁ。
ちょっと物足りないね。


 涼太はあっさり吐き捨てた。


 野中と一緒の時には、「運命だ」「奇跡だ」「君は理想の女の子だ」と、甘い言葉をこれでもかと囁いているのに。


 男とは薄情な生き物だ。


 野中が涼太の本心を知れば、少々傷つくことだろう。


天野勇二

野中にストーカーは存在しない……。
それならば、カインは誰がストーカーだと言いたいんだ……。

佐伯涼太

ストーカーとやらが、 『元カレ』なのか、『バイト先の上司』なのか。
それともまだ 『第3の男』が存在するのか……。
ちょっとわからないね。


 2人は揃ってため息を吐いた。




 完璧にナンパしたのに、袋小路に迷い込んでしまった。


 ストーカーの正体は謎のまま。


 野中に接触しても判明しないのであれば、完全にお手上げだ。




 天野は諦めたように言った。


天野勇二

……仕方ない。
気が乗らないが、野中の自宅を張り込んでみるか。

佐伯涼太

そうだね。
『第3の男』が存在するかもしれない。
それを探したほうがいいね。



 その日の夜。

 天野と涼太は『お仕置き用の車』に乗って、野中の自宅へ向かった。


 場所は府中ふちゅう市にある閑静な住宅街。

 野中の家はそのひとつ。

 2階建ての立派な家だ。


佐伯涼太

ここには一度来たことがあるんだ。
ストーカーを見つけて退治するなら、あそこがいいと思うよ。


 涼太は数軒隣にある『空き地』を指さした。

 家を新築する予定なのか、まだ工事の途中だ。

 土台とわずかな壁が建てられている。


天野勇二

他は家ばかりで適当な土地がないか……。
そこしかなさそうだな。

佐伯涼太

壁の裏に引きずりこめば人目につかない。
『お仕置き用の車』に積んだスタンガンや物騒なオモチャだって存分に使えると思うよ。

天野勇二

まぁ、ストーカーが現れれば、の話だがな。


 天野たちは車に乗ったまま、のんびり野中の家を張りこむことにした。



 涼太からしてみれば2度目の張り込み。


 正直、成果はあまり期待できない。



 天野は車の助手席で大きく欠伸した。


天野勇二

ふわぁぁ……。
誰も来ないな。
夜も遅いから俺は寝るぞ。

佐伯涼太

うん。僕が見てるよ。


 時刻はもう深夜1時。


 その間、涼太は野中とメールしていた。



野中瑞穂(メール)

サトシくん、もう寝るね。
おやすみなさい♡



 メールを受信した後、野中の部屋の明かりが消えた。


佐伯涼太

瑞穂ちゃんも勇二も寝ちゃった。
2人とも早寝さんだねぇ。
今夜は空振りかな。


 涼太はのんびり周辺を眺め続けた。


 変化が訪れたのは、深夜2時を過ぎた頃だった。



佐伯涼太

……おや?
なんだあれ?



 1人の男が住宅街に現れた。


 パーカーを着た若い男だ。


 野中の自宅前で足を止めると、きょろきょろと周囲を見回し始めた。




 何かを探しているのか。


 誰かを待っているのか。


 周囲を警戒しているのか。




 涼太の位置からでは判断できない。


 だが、明らかに怪しい。


 涼太は慌てて天野を揺り起こした。


佐伯涼太

勇二! 起きて!
何かきたよ!
それっぽいのきたよ!

天野勇二

……ふわぁ?
なんだよ。
本当にきたのか。


 2人は素早く車から飛び出した。


 足音をたてずに路地へ散る。


 現れた男を挟み撃ちにするため、涼太は天野の反対側に回った。


天野勇二

……こんな夜遅くに、何をしているんだ?


 ドスを利かせた声。

 若い男は「ビクッ」と驚き、天野を見つめた。


若い男

えっ?
え、は、はい?


 見た目は20歳前後。

 青いパーカーを着た青年だ。

 天野は全身から殺気を放ちながら尋ねた。


天野勇二

お前は誰だ?
この家に住む、野中瑞穂のストーカーか?

若い男

ス、ストーカー!?


 若い男は慌てて首を振った。


若い男

ち、違います!
僕はストーカーなんかじゃありません!
瑞穂ちゃんの……その、友達です!

天野勇二

友達ねぇ……。
いくら仲の良い友人だとしても、こんな夜遅くに実家を訪ねる必要はないよな?

若い男

いや、あの、違うんですよ……。
ちょっと人に呼び出されて、通りかかっただけで……。

天野勇二

ほう?
誰に呼ばれたんだ?
詳しく教えてもらおうか。


 指をポキポキ鳴らしながら若い男との距離を詰める。

 全身からは唸るような殺気。

 まるで飢えた肉食獣のようだ。

 さすがに若い男は怯えて後ずさった。


若い男

そ、それは……。
別にあなたには、関係ないでしょ……。

天野勇二

関係あるさ。
俺たちはとある人物から 『野中瑞穂のストーカーを退治してほしい』と頼まれているんだ。

若い男

えっ?
瑞穂ちゃんのストーカーって……?
それ誰なんですか?

天野勇二

知らねぇよ。
俺様はもうお前でいいんじゃないか、と考えている。

若い男

は、はぁ!?
なに言ってるんですか!?
ぼ、僕はストーカーなんかじゃない!

天野勇二

よく言うぜ。
こんな遅い時間に女の実家前に立ってみろ。
誰が見たって立派なストーカーだぜ。

若い男

だって、僕は呼ばれ……

いや……まさか……!


 若い男は何かに気づいたように表情を変えた。

 慌てて周囲を見回す。


若い男

……そ、そんな……。

な、なんで……?

なんで……こんなことを……?


 きょろきょろと周囲を見回している。

 必死に何かを探しているようだ。

 天野はその様子を見て首を傾げた。


天野勇二

(……妙だな。ストーカーには見えない。この男、何者だ?)


 天野が再度口を開こうとすると、若い男は突然天野に背を向けた。

 逆方向に走り出す。


天野勇二

逃げたか……。
涼太!
そっちに行ったぞ!

佐伯涼太

オッケー!


 男が逃げることも想定内。

 そのために挟み撃ちにしている。

 涼太は若い男の前に立ちはだかり、ガシっと身体を受け止めた。


佐伯涼太

捕まえた!
ふっふっふ。
僕たちから逃げれると思ったら……

……あれ、あれれ!?

うそぉぉ!


 涼太の体が綺麗に反転し、地面へ投げつけられた。

 若い男が涼太を背負い投げたのだ。


若い男

くそっ!


 そのまま天野たちに背を向ける。
 路地を走って逃げて行く。


天野勇二

柔道をやってたのか!
何やってんだ!
このドジ!


 天野は涼太に1発蹴りを入れて男を追った。


佐伯涼太

ひぇ……。
まさか、あっさり一本取られるなんて……!


 涼太も急いで後を追う。


 若い男は真っ直ぐ路地を走り、『空き地』の中へ飛び込んで行った。


天野勇二

……なんだ?
アイツ、行き止まりの『空き地』に逃げ込みやがった。


 天野は呆れながら空き地を見つめた。


 建設途中の家があるだけ。


 完全な行き止まりだ。


 別の出入口なんて存在しない。


 若い男は壁の向こうへ隠れてしまったのだろう。


 姿も形も見えない。


 その時だった。











???



……うぐ、うぐっ!


いや、ぎゃああ!


うわあああっ!







 空き地から男の悲鳴。



 同時に何かが地面に倒れる音。



 天野は嫌な予感がしてきた。




天野勇二

な、なんだ……?
おい、何があった……?



 天野は慎重に空き地へ向かった。


 土台を飛び越え奥に進む。


 壁の向こう側へ回ると、1人の 横たわる男を見つけた。



天野勇二

……お、おい!
マジかよ!?



 先ほどの 若い男だ。


 ぐったりと横たわっている。


 特徴的なのは 左肩


 刃渡り20cmはありそうな 長い刃物が突き刺さっている。


 意識があるようには見えない。


 青いパーカーが ドス黒く濡れている。


 周囲には 生臭い血の匂いが漂っていた。




天野勇二

くそっ……!
出血してやがる。
止血だ。


 天野はまず刃物を抜き取って投げ捨てると、男の服を破いた。






 その瞬間、その行為が大きな過ちであることを知った。






 刃物による 刺し傷は複数。


 心臓付近にも見受けられる。


 医学部の天野は、もうその時点で救いようがないと判断した。


 心臓に刃物を刺され、男はほぼ 即死していた。


佐伯涼太

勇二、どうしたの?
さっきの男はいた?


 涼太が天野のもとにやって来た。


 若い男の姿を見て悲鳴をあげる。


佐伯涼太

うひゃああ!!?

な、なにこれ!?

えぇ!?

な、なにが起きたの!?


 その悲鳴と同時に、ひとつの人影が空き地から飛び出した。


 物凄い勢いで逃げて行く。


天野勇二

しまった!
犯人だ! 
涼太、逃がすな!

佐伯涼太

え、え?
どういうこと?
は、犯人ってなに?


 涼太はまだ呆然としており、思考が追いついていない。


 天野は急いで空き地を飛び出した。


 路地を走る『男』の後ろ姿がひとつ。


天野勇二

待ちやがれ!


 男は静止の声を無視して、路上に停めてあった原付に飛び乗った。


 エンジンをかけて加速。


 一目散に走り去った。


天野勇二

クソが!
待て!
逃げんじゃねぇ!


 天野は精一杯走ったが、まるで追いつけなかった。


 相手は完全に隙を突いて飛び出し、逃亡用の原付まで用意していたのだ。


天野勇二

…………くそっ。

ダメだ……。

追いつけん……。

なんてことだ……。


 呆然と路地の彼方を見つめていると、突然、懐中電灯の明かりが天野の顔を照らした。


???

……そこで何をしているんですか?


 声の主を見る。

 天野は思わず青ざめた。

 制服姿の 警察官だ。


警察官

……うん?

き、君……?

それはいったい……?


 懐中電灯が天野の白衣を照らす。

 裾が 赤く濡れている。

 刺殺された男の 返り血が付着している。

 警察官の顔色が変わった。


警察官

な、何があったんだ!?
それは血か!?
君は怪我をしているのか?




 天野の灰色の脳細胞は一気にフル回転して、瞬時に置かれている状況と取るべき行動を考えた。





 これはまずい。



 凶器と思われる刃物を素手で触ってしまった。



 犯人は確実に手袋をしているだろう。



 凶器に残っているのは天野の指紋だけ。



 この状況では確実に疑われてしまう。



 しかも『お仕置き用の車』の中には、スタンガンなどの凶器が入っている。



 このタイミングで警察に捕まるのは最悪だ。






 天野は大きく深呼吸した。


 ゆっくり空き地を指さす。



天野勇二

俺は怪我をしていない。
それよりも、そこの空き地に倒れている男がいる。
助けてやって欲しい。

警察官

そ、そうか……?
君は大丈夫なんだね?

天野勇二

ああ、問題ない。
まずは倒れている男を見てくれ。


 警察官が困惑しながら空き地を見ると、そこから真っ青な顔つきの涼太がやって来た。


 まだ涼太は呆然としている。


 警察官は涼太を訝しげに眺めながらも、とりあえず空き地へ向かった。



天野勇二

涼太よ。
『ケースZ』だ。



 涼太の顔が「はっ」とした。


 その瞬間、2人は 脱兎だっとの如く走り、現場から即座に逃げ出した。


 『ケースZ』とは2人が決めた暗号のひとつ。




『最悪の事態が発生。この場から全力退避』




 という意味を持つ暗号だ。


警察官

あ、ちょっと!
待ちなさい!


 警察官の制止は無視。


 天野たちは車に戻り、一気に住宅街から逃げ出した。


 裏路地を抜けて国道に出る。


 警察官をまいて逃げ去った。


佐伯涼太

ゆ、勇二!?
何が起きてんの!?
いったい、ど、どうなってんのよ!?


 涼太が涙目で尋ねる。


 天野は車を操りながら急いで白衣を脱いだ。


 刺殺されていた男の血が付着し、真っ赤に濡れている。


 それを後部座席に叩きつけながら、天野は怒号をあげた。



天野勇二

くそっ!
ハメられた!
カインの野郎め!
くそったれが!





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つばこ

【天野勇二容疑者を指名手配・府中市住宅街殺人事件】
※○○新聞記事より抜粋
 
東京都府中市の住宅街空き地にて、埼玉県在住のアルバイト従業員、生田庄司さん(20)が胸などを刺されて死亡する事件が発生し、警視庁捜査一課は23日、殺人容疑で都内在住の医学生を指名手配した。
 
指名手配されたのは東京都○区○○、医学生、天野勇二容疑者(2?)。指名手配容疑は23日午前2時ごろ、生田さんの胸部などを刃物で複数回突き刺し殺害したとしている。
生田さんと天野容疑者の関係は不明であり、警視庁は無差別殺人の可能性もあるとみている。
 
天野容疑者は現場から白いワゴン車に乗って逃走。それ以降の足取りが分かっていない。
天野容疑者は身長約180cmの痩せ型。現場から逃走した際の特徴は、長い白衣を羽織り、黒色のズボンを履いていたとのこと。
警察は広く情報提供を呼びかけるとともに、引き続き行方を捜索している。

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コメント 259件

  • rtkyusgt

    これは史上最大のやばさだ・・・

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  • 千花音(ちかね)

    殺人の指名手配は親もビビるよ…

    もう言葉にならないね。

    天野くん違うと証明して…!!!
    そして、誤認指名手配で大金ふんだくっt

    通報

  • ゆめおぼろ@天クソ/パステル

    すげぇ警察がカインて線は思いつかなかった…

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  • バルサ

    作者コメで、容疑者とか言ってるが あれぐらいじゃ天野くんとは分からないよね…(^^;;

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  • 咲月

    穂乃果を拉致って下さった方が良かった…

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