天野が板村美久の『ストーカー』を退治してから数日が経過した。


 その間、涼太のスマホに『カイン』からのメールは届かず、動画も投稿されることはなかった。




 天野と涼太も、ただカインのメールを待っていただけではない。


 まず花見に参加した学生全員に接触。


 残念ながらその中に怪しい人物は存在せず、




『やはり穂乃果が最も疑わしい』




 ということで、天野と涼太の意見は一致した。


 『天才クソ野郎』の 脅威きょういを知っている学生は、動画を投稿したことがバレれば、天野から恐ろしい制裁が下されることを理解している。


 動画を投稿するような愚か者はいなかったのだ。



天野勇二

ちくしょう。
カインは何をしてやがる。
板村のストーカーは退治したぞ。
なぜそれ以降接触しないんだ。


 天野はタバコを吸いながらぼやいた。


 場所はお気に入りのテラス席。


 隣には弟子である前島悠子まえしまゆうこの姿がある。


 前島は天野から今回の事件のあらましを聞かされていた。


前島悠子

恐ろしい事件ですねぇ……。
アイドルの私にとっては、『流出』という言葉が 呪詛じゅそのように聴こえます……。


メールを送ってきた『カイン』とは何者なんでしょうね。

天野勇二

わからんな。
いくつか推理できる要素はあるが、どれも確信には至らない。
これ以上カインから接触がないのであれば、やはり穂乃果を拉致するべきかもしれんな……。


 天野が思案している時、ちょうど涼太がテラスに飛び込んできた。


佐伯涼太

勇二! きたよ!
カインからのメールがきた!


 天野は思わず立ち上がって涼太を出迎えた。


天野勇二

ついに来たか。
今度は何だ。
どんなメールだ。

佐伯涼太

見てもらったほうが早い。

……あっ!
前島さんじゃん!
今日は学校に来れたんだ。

前島悠子

はい。
今日はお昼がオフだったんですよ。

佐伯涼太

まきりんは元気?
僕のこと何か話してない?

前島悠子

まきりんは涼太さんのこと、まったく覚えてませんよ。

佐伯涼太

えぇー。
それじゃまたSPをやらせてよ。
まきりんに会いたいなぁ。


 天野がイライラしながら催促した。


天野勇二

……おい涼太。
早くメールを見せろ。

佐伯涼太

あ、うん。
これだよ。
もう、マジでふざけたヤツだよ。


 涼太はテーブルにスマホを置いた。







学園の処刑人へ



私はカインです。


先日は依頼を達成いただき、ありがとうございました。



私からの依頼、ふたつめです。


下記女子の『ストーカー』を退治してください。


依頼達成後、再度依頼をお送りいたします。




野中瑞穂のなかみずほ

I動物専門学校1年生

19歳






天野勇二

何だこれは!?
ふざけてんのか!



 野中瑞穂という名前の下には、携帯の番号、住所、生年月日といった詳細な情報が記載され、女性の顔写真が1枚添付されている。


 前回とまったく同じだ。


 今度は専門学校生。


 動物の専門学校なんて、天野と涼太にとっては完全に未知の領域だ。


 専門学校への侵入は大学ほど容易くはない。



 天野は椅子に深く腰掛けると、顎で涼太をさした。



天野勇二

俺様はもうイヤだ。
やりたくない。
涼太よ、今度こそお前1人でやれ。

佐伯涼太

ゆ、勇二ぃ……。
頼むよぉ。
協力してよぉ。

この住所はアパートでもマンションでもない。
一戸建てだ。
たぶん実家だよ。
実家に近づくストーカーを捕まえて退治するのは苦労するじゃんかぁ。

天野勇二

知らねぇよ。
この俺様が無報酬で動くなんて御免だ。
もう穂乃果を拉致ろう。
そのほうが早い。


 涼太も同感だ、とばかりに頷いた。


佐伯涼太

確かにこんなこと何度もやりたくないね。
穂乃果ちゃんが一番怪しい。
口を割らせたほうが早いかもしれないね。

天野勇二

ああ、絶対にアイツが関係しているか、『投稿者カイン』そのものだ。
俺様をコケにしやがって。
あのクソビッチめ。
ガチでシメてやる。


 天野は完全にキレている。

 頭に血が上りすぎているようだ。

 前島はおずおずと口を開いた。


前島悠子

も、もし、穂乃果さんが『共犯者』だった場合はまずくないですか?
カインが何をするか心配です。

天野勇二

知ったことかよ。
そうなれば穂乃果に致命傷を与えるだけだ。
顔面をズタズタに切り裂いてやる。
そうなれば、嫌でもカインの正体を吐くさ。


 前島はブンブンと首を横に振った。


前島悠子

師匠!
何をバカなこと言ってるんですか!
そんなことしたら逮捕です!
こんな卑怯なヤツらのために逮捕されるなんて、天才クソ野郎の名が泣きます!
私も刑務所まで面会に行くのはイヤです!


 天野はチラリと前島を見つめ、深いため息を吐いた。


天野勇二

チッ……。
お前はうまく俺を説得しやがる。
確かに天才クソ野郎の名に傷がつく。

まったく……。
なんて面倒な話だ……。


 天野は何度も深呼吸した。


 冷静になるように努める。


 スマホを睨みつけながら涼太に告げた。


天野勇二

今回もどんなストーカーなのか。
そもそもストーカーが存在するのか。
何ひとつ判明していない。
相変わらず情報が多いようで少ない。

涼太よ、専門学校を張れ。
野中とかいう女を見つけてナンパしろ。
自然に近づいて接触するんだ。


 涼太は「ふんふん」と頷いた。


佐伯涼太

ナンパしてお友達になって、ストーカーされているかどうか尋ねるんだね。


 涼太はニヤニヤと悪い笑みを浮かべた。


 もう頭の中では、野中が好みそうな車種、盛り上げるトークの内容、必要な小物類の調達まで考えている。


天野勇二

これでストーカーを退治して、それでもカインからふざけた依頼が来るようならば、その時こそ穂乃果を拉致する。
涼太、しくじるんじゃねぇぞ。

佐伯涼太

うぷぷ。オッケー。
女子ナンパのことなら任せてよ。
この娘は派手好きっぽいね。
またホストの時みたいに髪を盛っちゃおうかな。


 涼太のニヤニヤ笑いは止まらない。


 野中を落とす計画を練って浮かれているのだ。


 天野は念のため釘を刺した。


天野勇二

今回の騒動の発端にあるのは、お前がやらかした『痛恨のミス』だ。
そのことを忘れるな。
ここでしくじれば、お前の『お仕置き』動画を撮影アップしてもいいんだからな。


 涼太は思わず真顔に戻って叫んだ。


佐伯涼太

わ、わかってるよ!
全ては香月さんを苦しめようとした、カインへの復讐のため!
そして僕のミスを返上してみせるよ!


 天野は半眼で涼太を睨みながら「本当にわかってんのかなぁ、コイツ」と、少々不安になっていた。





 涼太はその日から張り込みを開始した。


 専門学校は小さなビルを1棟丸ごと使用している。


 出入口は1箇所のみ。


 ゲートが設置されており、警備員が常時立っている。


 部外者の侵入は困難。


 涼太はとりあえず出入口を張り続けることにした。


佐伯涼太

さて、野中さんはどんな娘なんだろう?
好みのタイプだといいなぁ。


 今回の涼太は『ホスト仕様モード


 髪を派手に盛り、いつも以上にチャラチャラしている。


 派手好きと思われるターゲットの好みに合わせているのだ。


佐伯涼太

うーん……。
なかなかお目当ての娘が見つからないねぇ……。


 専門学校から出て来る娘は、どれもお洒落で派手なタイプばかり。


 一見しただけではターゲットである野中瑞穂かどうか、判断がつかない。


 残念ながら初日は空振りに終わった。


佐伯涼太

まいったなぁ。
勇二に怒られちゃう。
女の子ってコロコロ外見を変えるからなぁ。
遠目じゃよくわかんないよ。
裸にしちゃえばそんなに変わらないのにさぁ。



 張り込みは2日目に入った。


 何はともあれ野中と接触する必要がある。


 深夜の内に野中の実家も張り込み、ポストなどを覗いてみたが、ストーカーの気配は見つけられなかった。


 本人から話を聞けないとお手上げだ。



佐伯涼太

……おおっ!
きたきた!
このチャンスを待ってた!



 野中が1人で専門学校から出てきた。


 小走りで歩いている。


 最寄り駅を目指しているようだ。


佐伯涼太

急いでるカンジだね。
困ったなぁ。
あんな子には声をかけないのがセオリーなんだけど。



 野中はどこかの目的地に急いで向かっている。


 時間に追われている女の子は、ナンパの話なんか聞こうともしない。


 だが手段は選んでいられない。


 涼太は車に乗ったまま野中に声をかけた。



佐伯涼太

ねぇねぇ!
そこの女の子!
ちょっとお話しない?
そう! 君のこと!



 野中は一瞬チラリと涼太を見つめた。


 ホストのようにチャラそうな出で立ち。


 人懐っこい笑顔の男前だ。


 好みの髪型ということもあり、野中の視線は一瞬泳いだ。


 涼太はその隙を見逃さない。


佐伯涼太

そのバッグ、ヴィヴィアンじゃん。
僕も好きなんだよね。
ほらほら見てよ。


 涼太はほとんどのブランドアクセサリーを持っている。


 ナンパのためだ。


 野中の鞄を見て、すでに同じブランドのリングを装着している。


 ファッションを女の子と同調させることにより、趣味の類似性が存在していると錯覚させ、警戒心を解くためだ。


佐伯涼太

きっと話があうと思うな。
君みたいな素敵な娘と一度だけでもお話したい。
超タイプなんだよ。
もちろん少し奢るからさ、僕にアピールタイムちょうだいよ。


 野中は困ったように告げた。


野中瑞穂

今からバイトなんです。
ごめんなさい。


 涼太から視線を逸らす。


 普通のナンパならばこれで終了。


 だが涼太は諦めない。


 すかさず車から飛び出すと、涼太は野中の隣を素早くキープした。


 野中は驚いて涼太と車を見つめる。


野中瑞穂

……えっ?
く、車……。
いいんですか?


 涼太は先程まで乗っていた真っ赤なポルシェを指さし、爽やかな笑顔を浮かべた。


佐伯涼太

あんな車、レッカーで運ばれちゃえばいいのさ。
それより僕は君というシンデレラを見つけた奇跡を逃がしたくない。
一目惚れした女の子は、どんな声を発し、どんなことを話すのか聞きたいんだ。

急ぎなんでしょ?
それなら駅まで一緒に歩こうよ。


 涼太は野中と一緒に小走りで歩きながら、さり気なく身分を伝えた。


佐伯涼太

別にサークルとかスカウトとか、変な勧誘じゃない。
ただの純粋なナンパだからさ、それだけは安心してよ。
僕はただの大学生。
サトシって名前なんだ。


 涼太は念のため「偽名」を使った。


 探偵まがいのことが趣味の涼太は、偽名用の本人確認書類まで持っている。


サトシくん

それに僕はね、本当はシャイで引っ込み思案の男なんだよ。
ただ君とお近づきになりたいだけ。
今は頭ん中真っ白なの。
絶賛テンパり中。
情けないでしょ?
膝とか軽く震えてるよ。
これでも今、すっごい勇気出してるんだ。


 おどけた口調でいきなりのキャラ変。


 さすがに野中の顔が綻んだ。


 涼太は「これはイケる」と手応えを感じた。


野中瑞穂

……嘘だ。
絶対モテないはずない。
すごいチャラ男じゃん。

サトシくん

そんなことないさ。
大学じゃ大人しいんだ。
でも君からそう見えるなら、僕ちゃん超カンゲキ!


 涼太はオーバーリアクションを取りつつ、ピエロのように会話を盛り上げた。


 涼太のナンパのテーマは 『エンターテイメント』だ。


 野中が逃げ出さないように退路を絶ち、身振り手振りで会話を盛り上げ、ナンパしていることを周囲にアピールして、野中の自意識をうまく刺激している。


サトシくん

マジで君って小物使いが上手でオシャレだよね。
読モちゃん?
それともアーティスト?

野中瑞穂

ううん。
ただの専門学生。

サトシくん

えぇっ!?
モデルじゃないの!?
こんな可愛くてオシャレなのに!?


 派手に驚いてみせる。

 野中もコミカルな涼太の仕草に思わず笑ってしまう。


サトシくん

ねぇねぇ。
何を学校で勉強してるの?
教えてよ。

野中瑞穂

動物のこと。
ペットトリマーになりたいの。

サトシくん

トリマー!
それってセンスの良い君にピッタリじゃん!

動物って最高に可愛いよね!
僕は犬も猫も大好き!
よく犬派? 猫派?
とか訊くヤツいるけどわかってないよね。
全ての動物が可愛いんだ!
ワンとも鳴けるし、ニャーとも鳴いちゃうね!


 野中は楽しそうに涼太を見つめた。


 ここまでふざけたピエロ発言をしているのに、嫌味な様子を一切感じさせない。


 むしろ涼太ほどのイケメンを過剰反応させていることが楽しい。


 野中は一種の優越感を覚え始めていた。


佐伯涼太

(……よし、ここで決めちゃうかな)


 涼太はこの辺が頃合だと感じた。


 いきなり真正面に立ち、野中の歩みを思い切って止める。


 そして壁に 「ドン」と押し付けた。






サトシくん

まだ名前も知らぬ、一目惚れしたお嬢さん。
今からすごく重要なことを、お尋ねしても構いませんか?


 問いかけ自体はかなり紳士的。


 野中は困惑しながらも、楽しそうに訊き返した。


野中瑞穂

えへへ。
急にマジメになった。
何ですか?


 涼太は得意の『流し目』を飛ばした。


 力強さと、実直と、一途さと、色気。


 全てを同時に放つ魅惑の瞳。


 女性の心に深い余韻よいんを与え、心と股を同時に開かせてしまう、チャラ男『必殺』の流し目だ。


サトシくん

あなたには、今、お付き合いしている方が……いらっしゃいますか?


 野中は可笑しそうに笑った。


野中瑞穂

あはは!
いません。
別れたばっかりなんです。


 涼太は道の真ん中で跳躍して、喜びを全力で表現した。


サトシくん

いやった!
フリーなんだ!
やったじゃん!


街の皆さん!
聞いてください!
僕のシンデレラがフリーなんです!


あっ、なんだか、今日は電車でどこかに出かけたい気分だなぁ。
ねぇバイト先の近くまで僕もご一緒していい?
移動しながらでいいからさ、少しだけお話しない?
いいでしょ?


 野中は少しだけ迷ったが「コクン」と頷いた。


 その瞳には、涼太という変わった男への好奇心が浮かんでいた。



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つばこ

今回のイラストも素敵ですねぇ(*´∀`*)
絵師様、いつも本当にありがとうございます。
つばこからは単純に「『壁ドン』をください」とお願いしたんですが、絵師様から
 
「涼太くんに『壁ドンされている視点』からのイラストなんてどうですか?」
 
と逆提案いただきまして、今回のイラストを描いていただきました。
さすが絵師様。本当に神です。
是非とも涼太くん(サトシくん)に壁ドンされている場面を妄想していただき、キャッキャウフフしていただければ幸いです(´∀`*)ウフフ
 
ではでは皆様、いつもオススメやコメント、本当にありがとうございますヽ(*´∀`*)ノ.+゚カベドーン

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コメント 164件

  • rtkyusgt

    涼太すげーなww

    でも車なくなって天才クソ野郎に
    さらに締め上げられそう(笑)

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  • まこと

    裸にしちゃえば…心も股も…サラッと際どい!センスが光る!

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  • なゆ

    心と股を同時に開かせるwww

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  • ゆずか@魔法契約

    ポチは守ろう
    運ばれちゃダメだ
    そして心と股を開かせるんじゃねぇ笑笑

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  • n@s

    ポチが持ってかれたら今度こそ天才クソ野郎にお仕置き動画流されるよ!!??

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