天野は穂乃果を「拉致、そして監禁、やがて拷問」するための計画を練り始めた。



 居酒屋は23時で閉店。


 場所は歌舞伎町だ。


 閉店作業を終えて最寄り駅からの終電で帰るのか、それとも自家用車で帰るのか。


 終電に間に合わなければタクシーを使う可能性もある。


天野勇二

誰かが車で迎えに来る、という可能性もあるな。

佐伯涼太

あるね。
男が迎えに来ても不思議じゃないよね。
でもそれはイヤだなぁ。
穂乃果ちゃんは、

『カレシ募集中ですぅ♡』

なんて言ってたのに。

天野勇二

うるせぇなぁ。
どうせカレシがいても気にせず口説くくせによ。

……おっ、もう空か。
涼太よ、追加だ。
次は山口県あたりの純米大吟醸を飲ませろ。

佐伯涼太

はぁ……。
まだ飲むんだ……。
本当に勇二はザルだよねぇ……。


 追加の日本酒を舐めながら、天野は思案した。


天野勇二

穂乃果はまだ若い。
店側としても終電までには帰らせる、というのが妥当なセンだろうな。

佐伯涼太

じゃあ、そこを狙おうか。

天野勇二

そうだな。


 天野たちは穂乃果が店を出た瞬間を狙うことにした。


 ここは新宿、歌舞伎町。


 裏路地やラブホテルに引きずり込むことが難しくない。


 多少の騒ぎになっても、大抵の人間は関わろうとしない。


 終電間際はかなり混雑する時間帯でもある。


 警察の目も誤魔化せるだろうと踏んだ。


天野勇二

……ここだ。
ここに運ぼう。


 天野はスマホで地図を開き、ラブホのひとつを指した。


佐伯涼太

勇二は裏路地で待機。
声をかけるのは僕の役目なんだね。

天野勇二

そうだ。
下手に騒がせるなよ。
手荒に扱う必要はない。
とにかく裏路地まで連れてくれば、俺が即座に絞め落としてやる。


 恐ろしいことを平然と言う。

 涼太はため息を吐きながら言った。


佐伯涼太

なんか薬品とかないの?
麻酔とかさ。
ドラマだとクロロホルムなんてあるじゃん。


 天野は呆れたように言った。


天野勇二

クロロホルムのハンカチを嗅がせて気絶、なんてドラマの中だけの話だ。
実際には綺麗に気絶するというより、吐き気をもよおしてむせるぞ。
それにクロロホルムの液体が肌についたら一生消えない跡が残るんだ。
うら若き女子にそんな傷跡を残したくはないな。

佐伯涼太

そ、そうなんだ……。
拉致監禁を企むクソ野郎のくせに、妙なところが紳士的だよね……。

はぁ……。
うまく拉致れるかなぁ。
ただのナンパじゃないんだもん。
穂乃果ちゃんが抵抗したらどうしよう……。


 天野はタバコを吸いながら冷静に地図を見つめた。


天野勇二

お前はしくじりそうだな。
プランBも考えておこう。

お前がしくじれば無理やりビニール袋でも被せて……。
そうだな。
この路地からラブホまで担いで行こう。


 天野はもう完全に穂乃果が犯人だと決めてかかっている。

 涼太は心底呆れて言った。


佐伯涼太

何度も言うけどさ、穂乃果ちゃんが犯人じゃなかったらどうするの?
世の中『疑わしきは罰せず』だよ?
マジで何度も言うけど、女の子に理由もなく暴力を振るうのはまずいよ。

天野勇二

俺様の目は誤魔化せない。
アイツが関係していることは確かだ。
案ずることはない。
この天才クソ野郎にかかれば全てうまくいくさ。


 天野はお馴染みのセリフを決めて えつに浸っている。


 涼太は激しく不安だった。


 犯人の確証もないのに拉致、そして監禁、やがて拷問しても良いのだろうか。



 迷い続ける涼太を見て、天野はげきを飛ばした。


天野勇二

何を迷ってやがる。
これはお前の失態だぞ。
ストーカーの被害者だった香月に危害が及ぶかもしれないんだ。

人様の動画を 投稿アップする誠意のない愚か者は処刑してやるんだ。
俺様が傷害罪で逮捕されても構うものか。
お前のセンチュリーを売れば保釈金ぐらい捻出できるだろ。


 自らの失態であることは理解している。


 天野のことだから、穂乃果を殴り飛ばしたり、身体に傷を残したり、辱めたりするような真似はしないだろう。


 その点でいえばそこらの外道よりマシだ。


 だが、本当に穂乃果が『投稿者』であれば、それなりの厳しい制裁を受けることは間違いない。


佐伯涼太

はぁ、困ったなぁ……。
でも僕のせいだもんね。

天野勇二

そうだ。
お前のせいだ。
つまりは『俺たちの失態』だ。
責任を取る必要がある。
いいか、俺は責任を取るために動いているんだ。

佐伯涼太

うん……。
わかったよ……。



 2人は拉致計画を練り続けた。



 やがて時は過ぎ22時頃。



 涼太のスマホが1通のメールを受信した。



 涼太のスマホにはしょっちゅう女の子からのメールが届くので、どうせそのひとつだろうと思い、特に何も思わずそのメールを開いた。


佐伯涼太

……えっ!?


 慌ててアプリを起動。

 大手動画サイトを開く。

 アカウントを使ってログイン。

 涼太は呆然と呟いた。


佐伯涼太

ほ、本物だ……。


 天野は訝しげに尋ねた。


天野勇二

どうした?
何かあったのか?


 涼太は呆然としたまま天野の顔を見つめた。


 何が起きているのかわからない、と言いたげに首を振り、静かに口を開いた。


佐伯涼太

ゆ、勇二……。

今ね、知らないアドレスからメールが届いたんだ……。

メールにはあの動画を投稿した 『アカウント』『パスワード』が書いてあった。

それが本物なんだよ。

天野勇二

はぁ?
なんだそりゃ?


 涼太は口で説明するよりメールを見せたほうが早いと判断した。


 天野にスマホの画面を見せる。


 画面を見た天野も思わず表情が固まった。


 それは以下のようなメールだった。







学園の処刑人へ



私はあなたの処刑動画を大手動画サイトに公開したものです。


証拠としてアカウントとパスをお送りしましょう。


これで動画を消すことができます。



動画のデータはまだ私が持っています。


あなたが私の依頼を受けていただけるなら、今後、動画を公開しないことをお約束しましょう。


しかしあなたが私を探すのであれば、動画を何度でも公開し、しかるべき処分があなたに下されるよう動きます。



あなたは私を探してはならない。


あなたは私の依頼を遂行すいこうしなさい。


それが唯一の問題解決への道です。



依頼内容は明日正午にお送りします。



『カイン』より







天野勇二

……カイン?
依頼?
ど、どういうことだ?


 天野はスマホの画面を見て呻いた。


 よくできたメールだ。

 プロファイルするにも難しい。

 男か女かも判断がつかない。


 涼太はスマホを操作しながら天野に告げた。


佐伯涼太

文末にあったアカウントとパスワードでログインできた。
まず動画を削除したよ。
とりあえずサイト上からは動画が消えた。


 涼太はもう一度メールを表示させ、再び2人の間に置いた。

 天野は送信者の情報を調べている。


天野勇二

これはフリーメールか……。
まぁ、捨てアドだろうな。


 腕組みをしながら虚空を睨みつける。

 涼太は激しく動揺していた。


佐伯涼太

こ、これってどういうことかな?
今日聞き込みをして犯人探しをしていたことが、動画の投稿者にバレたのかな?


 天野は大きく頷いた。


天野勇二

間違いなくそうだろう。
だから敵は先手を打った。
自分を探すな、という 『警告という名の先手』を打ったんだ。
そして同時に 『依頼』を持ちかけやがった。


 涼太は居酒屋を見渡した。

 穂乃果は客の間を忙しそうに動き回っている。


佐伯涼太

穂乃果ちゃんは休憩に入ってない。
何度か奥に引っ込んでたけど、長時間じゃなかった。
こんなメールを送るヒマはないよ。

天野勇二

別に『トイレに行く』とでも言ってメールを作成することは可能だ。
時間を指定して送信することだって、スマホで簡単にできるさ。

だが確かに、この文章はそれなりにじっくり仕上げられている。
短時間であの女が作れたとは思えんな……。

佐伯涼太

僕らはちゃんと小声で打ち合わせしていた。
穂乃果ちゃんを拉致する計画は、店員も近くの客も聞いてないはずだよ。

どうしよう?
計画通り穂乃果ちゃんを拉致る?
カインとやらの指示に従う?


 天野は静かに目を閉じて思案した。




 穂乃果は限りなく怪しい。


 天才クソ野郎の直感はそう告げている。


 穂乃果が 『単独犯』であれば、メールを無視して拉致すればいい。


 しかし、穂乃果が 『複数犯』の1人であり、メールの送信者が別に存在するとなれば、事情は大きく変わってくる。


 穂乃果を拉致した場合、メールの送信者である『カイン』によって、再び動画がばら撒かれてしまうだろう。



佐伯涼太

ど、どうしよう……。
ねぇ、勇二。
どうすればいいのか教えてよぉ……。



 天野が思案して黙りこんだので、涼太はオロオロしながら尋ねた。


 穂乃果を拉致すべきか。

 拉致せずに泳がせるべきか。

 涼太には判断がつかない。

 天野の判断に従うほうが利口だ。


 天野は少し迷ったが、涼太に命じた。


天野勇二

……拉致は中止だ。
泳がそう。
涼太よ、お前の得意分野を生かしてもらうぞ。


 涼太はほっと息を吐いた。

 

 正直、穂乃果の拉致などしたくなかったのだ。


佐伯涼太

僕の得意分野となれば、つまり穂乃果ちゃんを『尾行しろ』ってことだね。

天野勇二

そうだ。穂乃果の住居を突き止めろ。

もし穂乃果が 『投稿者』の1人である場合、別の人間が穂乃果を救出するためにメールを送信した、と考えられる。
なかなか頭の回る人間だ。
穂乃果の性格を知り、ボロを出すことを察知しているんだ。

それはつまり、彼氏や友人といった『親しい人間』である可能性が高い。
そいつを引きずり出すためには、まず穂乃果の所在を掴み、情報を集める必要がある。

佐伯涼太

もし穂乃果ちゃんが『投稿者』じゃないとすれば、今日聞き込みしてない人間が犯人ってことだよね。

天野勇二

そうだ。

穂乃果の単独犯。
穂乃果を含めた複数犯。
まだ会っていない花見の参加者による犯行。


現状ではこの3パターンに絞られる。


 天野はスマホの画面を見ながら不敵な笑みを浮かべた。


天野勇二

この俺様に依頼したいならテラスまで足を運べ、って話だぜ。
報酬も用意せずに天才クソ野郎を使おうとは生意気なヤツだ。

さて、カインねぇ……。
貴様の依頼がどんなものなのか、実に楽しみだ。

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つばこ

【朗報】拉致そして監禁やがて拷問は中止になりましたヽ(*´∀`*)ノ.+゚
 
とはいえ、『カイン』と名乗る謎の人物からのメールによって、事態は大きく変わってしまいました。
余談ですが、カインといえば旧約聖書では世界で初めて人を殺し、嘘を吐いた人物とされています。嫉妬や裏切り者の象徴としてもお馴染みですね。
人様の画像をWeb上にアップするという行為は、ある意味カインが仕出かした行為と似通っているところがあるように感じます。
comico上で作品を連載し、情報発信の機会が多いつばことしては他人事ではありません。どれだけ注意していても道を誤ることがあります。特に天クソはタブーなネタだらけ。いつも気をつけねばならないと考えております(`・ω・´)
 
さてさて、そんな天クソにいつもオススメやコメント、本当にありがとうございます+。:.゚ヽ(*´ω`)ノ゚.:。+゚

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コメント 116件

  • ゆずか@魔法契約

    拉致そして監禁のちに拷問作戦は相手を代えて実行されるのね…

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  • ゆめおぼろ@天クソ/パステル

    頭は回るかもしれないけどかなり犯人焦ってるんじゃないの?

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  • 綾夏

    天気予報外れた……

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  • バルサ

    涼太、久々の尾行だね。そして、久々に聞いたような…全てうまくいく(^^)どんな依頼かな〜ワクワク。

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  • かぼす

    うけていただける…ではなく、
    受けて下さる、が正しい気がする

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