天野は涼太を先導させてキャンパスを歩いた。


 目的はただひとつ。


 『動画を投稿したバカ』を見つけてフルボッコにすることだ。


佐伯涼太

ね、ねぇ勇二……。
どうやって動画を投稿したことを白状させるの?
さすがに全員をフルボッコにするのはやばいよ。
参加者は30人ぐらい。
しかも半分は女子なんだ。


 涼太が怯えながら進言する。

 天野は指をポキポキ鳴らしながら答えた。


天野勇二

俺様はそれも『連帯責任』ということで、別に構わないと思うがな。

佐伯涼太

ダメに決まってるじゃん!
女の子を殴るのはダメだって!
ガチで警察から『実刑』をプレゼントされちゃうよ!

天野勇二

チッ……。
ならば『平和的』に物事を進めよう。


 涼太は恐怖のあまり肩を震わせた。


 天才クソ野郎の『平和的』が、これまで『平和的』だったことがあるのだろうか。


 天野は腕組みをしながら言った。


天野勇二

まずは花見の参加者全員と接触し、その場でスマホなどを確認する。
動画を投稿していなくとも、保存していれば同じことだ。

あとは俺様が得意とする会話術、『コールド・リーディング』で切り込むさ。
情報を漏らさなければ『ショットガンニング』で風穴を空けてやる。


お前も知っている通り、俺様はある意味一流の『トラッシュ・トーカー』だからな。

佐伯涼太

な、なに言ってるのさ!

ゆ、勇二の『トラッシュ・トーク』なんて……。

ただの 『脅し』だよ

天野勇二

脅しの何が悪いんだ?
俺様には『目を見る』という最強の武器がある。
下手な嘘や隠し事は通用しない。
天才クソ野郎の瞳は優秀だからな。


 天野は目を見るだけで「ある程度の心理を読んでしまう」という特技を持っている。


 この特技は優秀で、かなりの高確率で『犯人』を当ててしまう。


 脅しを駆使して、相手の動揺を誘うつもりなのだ。


 涼太はしぶしぶ全員を紹介することにした。


佐伯涼太

……あっ、いたいた。
あの4人はお花見に参加してたよ。


 涼太は喫煙所で談笑している学生たちを指さした。


天野勇二

4人の男か……。
メスも薬品も十分にある。
秒殺してやるか。

佐伯涼太

ひぃぃ……。
手荒なことはやめてよ。

天野勇二

その約束はできんな。

佐伯涼太

せめて素手にしようって。
メスはやめよう。
勇二は素手だけでも規格外に強いんだからさ。

天野勇二

何度も言うが、その約束はできんな。


 天野は真っ直ぐ喫煙所に向かっている。

 涼太は諦めて自ら声をかけた。


佐伯涼太

や、やぁ……。
先日は楽しかったねぇ。

涼太の友人A

おっ、涼太じゃん!
動画のこと聞いたぜ!
あれってマジでおま、ま、ま、ま、ま…………


…… あ、天野さん!


 4人の学生は天野の姿を見て一気に青ざめた。



 学園一の問題児、天才クソ野郎のお出ましだ。


 下手に近づく敵はメスで斬殺し、相手がヤクザでも学内で射殺する……そんな噂をまとった野蛮人。


 絶対にお近づきになりたくない。



 涼太はその心情をよく理解しながらも、4人に語りかけた。


佐伯涼太

ねぇ、お花見の写真の中に、僕らが『お仕置き』した動画があったでしょ?
それが『大手動画サイト』にアップされてる。
みんなも知ってるよね?
こんなこと訊きたくないんだけど、みんなが犯人かな?


 4人は必死に首を横に振った。


涼太の友人B

お、俺は知らない!

涼太の友人C

僕らはやってない。
この4人じゃないよ。


 涼太はひたすら下手に出ながら言った。


佐伯涼太

じゃあ、悪いんだけどさ、みんなの携帯とスマホ、できればノートPCやタブレットも確認させてもらえないかな?
みんなが潔白なら別にいいでしょ?

これは『被害者』の女の子を守るためなんだ。
動画が残っちゃうのは、女の子にとってまずいよね。


 4人はさすがに嫌な顔をした。

 スマホはプライバシーの固まり。

 あまり人に見せたくはない。


 涼太は「その心情もよく理解してるよ」という 表情ポーズを見せながら説得した。


佐伯涼太

写真や画像は見ない。
あくまで動画が保存されているか調べるだけだよ。
あるならすぐに消して欲しいんだ。
そしてアップした人間を知っているなら教えてくれないかな?


 4人はおずおずとお互いの顔を見つめた。


 「どうする?」と迷っているようだ。


 天野は即座に殺気を解き放った。


天野勇二

いいか貴様ら。
涼太の頬を見ろ。
涼太の頬にあるあざを見ろ。
俺様はもう鉄拳で制裁を与えた。


 涼太は照れくさそうに頬をかいた。

 拳の跡がくっきり残っている。


天野勇二

これが俺様の 『意思』だ。
貴様らの仲間の誰かがバカをやった。
俺様としては連帯責任で全員殴って蹴り飛ばし、何なら 『オペ』してやっても構わないと考えている。


 あれだけ「やめよう」と言ったのに、天野は懐からメスを取り出した。


 銀色の刃の輝きが、怯える4人の顔を照らす。


天野勇二

むしろ素直に見せないということは、貴様らが犯人なのか?

なるほど。
犯人ならば拒否して当然。
4人ともオペしてやろうじゃないか。

どいつから生きたまま生皮をいでほしいんだ?


天野の『トラッシュ・トーク』という名の恐喝が炸裂した。

4人は慌てて首を振り、1人の男は慌てて目を逸そらす。

天野はすかさずその男の胸倉を掴みあげた。


天野勇二

おい貴様……。
俺様から目を逸らしたな?
貴様が 投稿アップしたのか?


 男は目を開き、何度も首を横に振った。


涼太の友人D

してない!
してないよ!
本当にアップしてない!
天野さんに喧嘩を売ろうなんて思わないって!


 天野は瞳の奥を睨みつけると、舌打ちしながら手を放した。


 この男はシロだ。


 嘘を吐いている瞳ではない。


 天野はそれでも偉そうに言い放った。


天野勇二

じゃあ端末を出せ。
被害者の気持ちを考えれば協力するのがスジだ。


 4人はおずおずとスマホやタブレットを取り出した。


 涼太は「ごめんね」と言いながら、一緒に中身をチェックする。


 ありがたいことに、4人は動画を保存していなかった。


佐伯涼太

……うん、ないね。
みんなありがとう。
本当にごめんね。
それじゃまた!


 涼太はそう言って喫煙所を後にした。

 残りは約26人。

 膨大な数だ。


佐伯涼太

ねぇ、残りはどうしよう。
講義に出てる子もいるよ。

天野勇二

決まってるだろう?
時間は有限なんだ。
全員、呼び出せ。

佐伯涼太

ううぅ……。
そうだね。
わかったよ。


 天野と涼太は1人ずつ強引に呼び出し、同じように聞き込みを行った。


 20人ほどの聞き込みを終えたところで、もう夜になってしまった。


佐伯涼太

まいったね……。
今日は大学に来てない子もいる。
聞き込みした中で犯人と思われる人はいた?


 天野はゆっくり首を振った。


天野勇二

……いない。
今日会った連中は犯人じゃない。
花見に参加したのは、うちの大学の人間だけなのか?

佐伯涼太

ここだけじゃないんだ。
新宿にある居酒屋の店員の女の子もナンパして呼んだよ。
あとは全部ウチの学生。

天野勇二

じゃあ新宿まで行くか。
久々に2人きりで飲もう。もちろんお前の奢りでな。


 涼太は激しく肩を落としながら、天野を新宿まで招待した。


 現在の貯金だけでは、今回の失態はリカバリーできない。


 引っ越し代はかなりの金額になる。


 酒好きの天野はとにかく飲む。


 涼太は金の工面が心配だった。


佐伯涼太

はぁ、どうしよう。
そんなに貯金がないよ。
新しい家を契約するのっていくらかかるのかなぁ……。

天野勇二

何を言ってやがる。
お前には俺様がプレゼントしてやった、とっておきの『財産』があるだろう。
あれを売れ。
それしかないさ。

佐伯涼太

そうだよねぇ。
やっぱ、そうだよねぇ。
はぁ、愛着でてきたのに。
僕の麗しの愛車センチュリーちゃん……。


 とある事件で、天野は涼太の車を手榴弾で粉々に破壊した。

 その代償として外務省からせしめたセンチュリーをプレゼントしている。

 (詳しくは『彼が上手にお姫様を守る方法』を参照)


 センチュリーは高級車だ。

 売却すれば諸々の費用は工面できるだろう。


天野勇二

俺様もセンチュリーの後部座席は気にいってたんだ。
ったく、間抜けが。

佐伯涼太

ごめんよ。
マジでごめん。

はぁ……。
センチュリーちゃんは最高の車だったなぁ……。
きっともう二度と会えないんだろうねぇ……。


 2人は新宿にある1軒の居酒屋へ向かった。

 全国展開している大衆居酒屋チェーン店のひとつ。

 ワンフロアしかない店だが、それなりに広い。


 天野はビールを飲みながら、花見に誘った店員の登場を待った。


???

あー! 涼太さーん!


 やがて1人の娘が現れた。

 小柄で 愛嬌あいきょうのある顔つき。

 丸顔で二重の大きな瞳。

 程よい丸さのあるスタイルの持ち主で、男好きのするタイプの娘だ。


佐伯涼太

穂乃果ほのかちゃん、この間のお花見は楽しかったね!
穂乃果ちゃんのおかげでいつもより何億倍も楽しかったよ!


 大げさに言っているが、不思議とウソのように感じない。


 おまけに涼太は爽やかな男前。


 一流私大の大学生。


 これに人懐っこい笑顔と軽快なトークまで加われば、居酒屋の看板娘も「花見に行ってみようかな」と考えてしまうようだ。


穂乃果

涼太さんってばお上手なんですから。
私も楽しかったです。
また誘ってくれたら嬉しいです。

佐伯涼太

絶対誘うよ!
僕もまた穂乃果ちゃんと話したいしさ。

そうだ、写真見てくれた?
穂乃果ちゃんと僕のツーショットがあったでしょ?

穂乃果

見ましたよー。
あれ恥ずかしかったなぁ。
無理やりツーショット撮るんですもん。
あの後、少し気まずかったんですよ。

佐伯涼太

えぇ? なんで?
そんなに嫌だった?

穂乃果

そうじゃないですって。
涼太さん人気ですもん。
ここだけの話、涼太さんを狙ってる娘、結構多いんですよ。
なんか他の娘たちから睨まれて怖かったんです。

佐伯涼太

えぇ? マジでー?
それどこ情報よー?
僕は穂乃果ちゃんだけに狙われれば満足なんだけどなぁ。

穂乃果

またそんなこと言って。
本当に涼太さんはチャラいですよねぇ。


 穂乃果は満更でもなさそうに頬を染めた。

 そして時折、チラチラと天野に視線を送っている。

 「花見にいた人かな? でもこんなイケメンいたかな?」と困惑しているようだ。


 天野は小さく微笑むと、いきなり切り込んだ。


天野勇二

ねぇ、君があの動画を投稿アップしたんでしょ?


 穂乃果の表情が一瞬固まる。

 だが、すぐに愛嬌のある笑みを浮かべた。


穂乃果

……動画?
動画なんて撮りましたか?

天野勇二

撮影したよ。
一緒に花見で騒いだ時。
忘れてしまったかい?


 天野は自然に語りかけた。

 まるで自分も花見に参加していたかのようだ。

 穂乃果は小首を傾げながら舌を出した。


穂乃果

そうでしたっけ?
あんまり覚えてません。
ごめんなさい。


 穂乃果はそこまで会話すると、素早く仕事に戻っていった。

 如何せんまだ仕事中。

 店はまだまだ忙しいようだ。


 涼太は穂乃果の尻あたりを見つめながら呟いた。


佐伯涼太

ぐふふ、どうよ。
カワイイでしょ。
お尻が美味しそうだよね。
今はあの娘を狙ってるんだよ。

天野勇二

彼女とは連絡先を交換しているのか?

佐伯涼太

そりゃもちろんさ。

天野勇二

今日のシフトの時間などは知っているか?

佐伯涼太

うん。
穂乃果ちゃんはいつも23時までなんだ。


 天野はタバコを取り出しながら頷いた。


天野勇二

なるほど……。
ならば、そこを狙うか。

佐伯涼太

え? なにが?
なにを狙う……


 涼太はそこまで言って気づいた。


 天野の顔はもう確信に満ちている。


 瞳には鋭い殺気。


 穂乃果の後ろ姿を殺すような目つきで睨んでいる。


佐伯涼太

……ウ、ウソ!?
ウソでしょ!
ほ、穂乃果ちゃん!?
穂乃果ちゃんが怪しいと思ってるの!

天野勇二

ああ……。
あいつで間違いない。

ふざけたクソビッチめ。
この俺様からとぼけようとしやがった。
天才クソ野郎を知らない女め。
処刑だな。


 涼太は慌てて周囲を見回した。

 声が漏れないように気をつける。


佐伯涼太

マジで?
冗談でしょ?
あんな一瞬のコンタクトでわかるもんなの?
あんなに可愛くて無害そうな女の子が動画を投稿したの?
いくらなんでも信じられないよ!


 天野はタバコに火をつけながら言った。


天野勇二

『動画を投稿したのか?』という質問に対して、 『動画を撮影したか?』と尋ね返してきやがった。

質問の内容を別視点から尋ね返すことにより、回答を『保留』にしているのさ。

これはウソを吐いたり誤魔化す時の代表的な反応だ。
しかし、俺様の優秀な瞳は誤魔化せない。
あの小娘は『お仕置き』の動画を知っており、投稿に関係している。


 涼太はさすがに動揺を隠せなかった。


 涼太からしてみれば『最も容疑者から遠い人物』と考えていたからだ。


 穂乃果は天野とは何の接点もない。


 当然ながら恨みもない。


 動画を投稿して困らせる理由がないのだ。


 涼太は正直なところ、天野に恨みを持つ学生の仕業だと考えていた。


佐伯涼太

ど、どうするのさ?
もし、マジで穂乃果ちゃんが犯人だとしたら……?

天野勇二

決まっているだろう?
すべきことは単純だ。


 天野はタバコを灰皿に押し込みながら、何事もないように言った。



天野勇二

拉致らち
そして監禁。
やがて拷問だ。

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つばこ

天野くんは「人を殺さない」という点においては信頼できるのですが、「拉致・監禁・拷問」ぐらいはあっさりとやってしまいそうです。
というか、今回の発言は本気です。
このクソ野郎、本気で拉致って監禁して拷問するつもりです。
ちょうどこの回を仕上げている頃、世間では物騒な事件が発覚してしまい、拉致とか監禁とか書いていること自体がとてもスリリングなので、念のため補足しておきます!
 
拉致とか監禁とか拷問とか!
真似しないでください!
絶対ダメ! 拉致監禁したらダメです!
そしてつばこは犯罪及び犯罪者を賛美するつもりはありません!
つばこは平和主義者です!
「今度のオフはうさぎカフェに行ってモフモフしよっと(´∀`*)ウフフ」とか考える平和主義者です!
天野くんみたいな犯罪者にはならないようにしてください!
 
【4/11追記】
ご指摘をいただき一部内容を修正しております。

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コメント 210件

  • ゆんこ

    時々流血、か。

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  • 綾夏

    拉致 そして監禁 やがて拷問

    天気予報か…
    なんて恐ろしい予報

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  • バルサ

    クソ野郎らしい内容だ(^^;;
    普通の人は、拉致監禁拷問なんてしませんよ。ははは。

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  • ほのかって名前に本当ろくなキャラいないな…

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  • まー☆ちん

    拉致→監禁→拷問
    さすが天才クソ野郎!!

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