※この物語はフィクションであり、実在の人物及び団体とは一切関係ありません。


 とある大学。

 学生食堂の2階テラス席。


 ここは『天才クソ野郎』こと、天野勇二あまのゆうじの根城だ。


 その日も天野は孤高の昼食をたしなむはず……だった。


天野勇二

……ほう、涼太りょうたか。


 テラスに1人の先客がいた。

 天野の友人であり、『天才クソ野郎』の相棒でもある佐伯涼太さえきりょうただ。


佐伯涼太

やっほー……。


 涼太は小さく手を振った。

 青白く生気のない表情。

 かなり気落ちしている様子だ。

 なぜか知らないが、顔中に 『後悔』という文字が貼りついている。


 天野はじっと涼太の瞳を見つめた。


天野勇二

(……コイツ、何かとんでもないことを仕出かしたな。しかも俺様に関係がありそうだ)


 天野はタバコを取り出しながら、のんびり声をかけた。


天野勇二

涼太よ、何をやらかした?


 涼太は椅子に腰掛けると、真っ青な顔でぽつりと呟いた。



佐伯涼太

……勇二、ごめんよ。
やっちゃったよ。



 天野はタバコに火をつけながら、ニヤニヤと悪い笑みを浮かべた。


天野勇二

クックックッ……。
何をやったんだ。
やばい女でも妊娠させたのか?


 涼太は力なく首を振った。


佐伯涼太

はぁ……。
そのほうが、まだマシだったかもしれない……。

天野勇二

そのほうがマシだと?
何を仕出かしたんだ。
まさかとは思うが、ついに人でも殺したのか?


 涼太はがっくりと肩を落としたまま、力なく口を開いた。


佐伯涼太

……僕たちがさ、悪人に「お仕置き」をしたり、殺人犯を捕まえたりする時……。

証拠を残すために撮影してた『動画』があったでしょ?

天野勇二

ああ、色々あったな。
ストーカー男などを 『処刑』した後に、犯行を自供させて

「二度と被害者には近づかない」

と証言させたやつか。

佐伯涼太

そうそう。
それで再犯を防いでいたんだよね。

大きな事件でいえばさ、殺人犯にハッタリを仕掛けて、殺人未遂や自供の証拠にしたやつもあったよね。

天野勇二

それがどうしたんだ?


 涼太はチラリと天野の顔を見上げた。

 どこか甘えるような上目遣い。

 舌をぺろりと出しながら告げた。



佐伯涼太

ごめん……。
あれ、流出しちゃった。



 天野の眉がピクリと動いた。



天野勇二

なに……?


 その場の空気が一変する。


 テラスに張り詰めるような緊張感が広がっていく。


 天野が 殺気を放ち始めたからだ。


佐伯涼太

(ひぃぃ……。やっぱり怒ってるぅ……!)


 涼太は激しく怯えていた。

 天野が放つ殺気は本当に怖いのだ。

 殺気だけならば、下手な極道を凌駕りょうがしてしまう。


天野勇二

……悪いな涼太。


 天野はあくまでも冷静に、それでも膨大な殺気を放ちながら尋ねた。


天野勇二

俺様は今、あまりに驚いてしまい、お前の言葉がよく聞き取れなかった。

もう一度、幼稚園児でも理解できるように、時系列をまとめて説明してくれないか。


 涼太は肩を落としながら、ぼつりぼつりと白状し始めた。


佐伯涼太

実はさ、あの『お仕置き』の動画、一部をWeb上にクラウドさせて保存してたんだよね。
記録メディアは破損したり盗まれたりするじゃん。
クラウドさせちゃうのが安全だよね。
ネットに繋げば動画を取り出せるし。
僕って頭いいでしょ。


 冷や汗を流しながら、ご機嫌を取るように苦笑してみせる。


 しかし、天野の目は鋭いままだ。

 無表情のまま一言も発しない。

 脳髄のうずいまで突き刺すような鋭い視線だけが飛んでくる。


 涼太は「あはは」と、無理やり笑い声をあげた。


佐伯涼太

そんな感じでクラウドしてたんだけど、この間、友達と『お花見』をしてきたんだよ。
桜の季節だからさ。
もう満開で綺麗で楽しいコンパ……お花見になったんだよ。

それでさ、その時の写真をみんながWeb上で閲覧できるように公開したんだ。
いちいちデータを送受信したり、メディアを回す必要もないじゃん。
僕って気が利いてるでしょ。


 天野は可笑しそうに「クックックッ」と笑った。


天野勇二

まさかとは思うが、『お仕置き』動画の保存場所と、花見写真の保存場所。
同じファイルだったんじゃあるまいな。

佐伯涼太

すごい。
さすが天才クソ野郎。
大正解。


 天野は納得したように頷いた。

 呆れたように涼太を睨みつける。


天野勇二

そういうことか……。
バカなことをしやがって。
どこまで流出したんだ。
お前のダチの間だけか?


 涼太はただでさえ青白い顔を、さらに青白くさせた。





 ここまでは大した問題ではない。


 ここからが問題なのだ。


 これから天野が激怒することを告げなければならないのだ。




 涼太はガタガタ震えながら口を開いた。



佐伯涼太

それがさぁ……。

バカなダチがいてさ。

アップしちゃったんだ。



 天野の動きがピタリと止まった。


 膨大な殺気がテラスに満ちていく。


 天野は鬼の形相を浮かべながら尋ねた。



天野勇二

どこにアップしたんだ。
まさかとは思うが、『大手動画サイト』などじゃないだろうな。

佐伯涼太

さすが天才クソ野郎。
大正解。


 天野がキレた。

 ドカンとテラスの机を蹴り上げる。

 テラスの机は頑丈で重いが、それでも数センチは浮いて「ガシャン」と着地した。



天野勇二

お前は、何を、やっているんだ……!



 天野が静かに立ち上がった。


 座っている涼太の首を片手で掴み、メキメキと締めつけながら持ち上げる。


佐伯涼太

うぐぅ……!
はぐぅぅぅ……!


 涼太の体が数ミリ浮かび上がる。


 キレた天野は手加減を知らない。


 それが例え幼馴染で、相棒である涼太であろうが変わりはない。


天野勇二

おい涼太よ。
あの動画がどれだけ重要なのか、理解していないワケではあるまい。
俺たちの顔は出来る限り映さないように配慮しているが、そんなことはどうでもいい。

ストーカーなどにおける被害者と加害者の 『実名』『顔』が出るんだ。
まだ勾留中のヤツだっているんだぞ。

お前が仕出かしたのは最悪の失態だ。
どの程度、動画をアップされた。


 涼太はガタガタ震えながら天野を見つめる。


 絞め上げられている喉が苦しい。


 必死に声を絞り出した。


佐伯涼太

い、い、いっこ……!
いっこだけ……!

天野勇二

1個とはなんだ。
ひとつの動画だけがフォルダに残っていたのか。


 涼太は顔を真っ赤にさせながら「うんうん」と頷いた。


天野勇二

どちらだ。
殺人事件の動画。
お仕置きの動画。
どちらが流出した。

佐伯涼太

お、お、お仕置き……!

天野勇二

バカ野郎!


 天野は涼太の首から手を離すと、すぐさま拳を握った。


 涼太の頬を思い切り殴りつける。


 涼太は派手に殴り飛ばされ、テラスの床を転がった。


佐伯涼太

うぅ……!
ゴホッ、ゴホッ……。
ほ、ほんとにごめん!


 咳き込む涼太は無視。

 天野はすぐさまスマホを取り出した。

 大手動画サイトをチェックする。

 そして頭を抱えた。


天野勇二

マジで投稿されてるじゃねぇか!

しかもかなりの再生数だ!
これはまずい……。
これはまずいぞ……!


 天野はまとめサイトをいくつか調べた。


 話題の動画を紹介するアフィリエイトサイト。


 そこにも天野の『お仕置き動画』が紹介されている。


天野勇二

くそっ……!


 動画を再生させると、懐かしい顔が映し出される。


 撮影したのは約2年前。


 当時、経済学部2年生だった女子をストーカーしていた男だ。


 男は涙と鼻血を流しながら、カメラに向かって喋り始めた。



ストーカー男

僕は 本田人志ほんだひとしといいます。
もう 香月美代子こうづきみよこさんには近づきません。
彼女をストーカーしていたことを認めます。
本当にすみませんでした。

天野勇二

もう二度としねぇな。


 画面の外で声が聴こえる。

 天野の声だ。

 本田は「はい、はい」と、必死に頷いている。

 動画はそこで終わった。



天野勇二

何ということだ……。
香月を守るための動画だったのに……。
これは彼女を苦しめるぞ……。


 加害者の『顔』。


 そして被害者と加害者の『実名』が出てしまった。


 被害者を守る『予防線』となるべき動画なのに、被害者を苦しめる『火種』になってしまう。


天野勇二

おい、犯人は誰だ?
動画をアップしたバカを突き止めているんだろうな?
早く削除させろ!


 投稿者はこの動画しかアップしていない。

 恐らく『捨てアカ』だろう。


佐伯涼太

もちろん削除申請は出してるよ。

だ、だけどさ……。


 涼太は頬を押さえながらよろよろと立ち上がった。

 情けない声で呟く。


佐伯涼太

困ったことに、 誰が動画をアップしたのかわからないんだよ……。

何人かの友達には聞いてみたけど、みんな知らないって。


 天野はイライラしながらテラスの椅子を蹴り飛ばした。


 何の罪もない椅子が転がっていく。


天野勇二

くそ、なんてことだ。
最悪だ。
俺たちや加害者がどんな社会的制裁を受けても構わないが、香月の実名が出てしまった。
それが最悪だ。
俺たちのせいで香月を危険な目にあわせてしまう。


 涼太はおずおずと頭を下げた。


佐伯涼太

マジでごめん。
あの動画だけ隠すのを怠ったんだ。
僕のミスだよ。

もう匿名掲示板じゃ『犯人探し』が始まっててさ、加害者と容疑者の住所まで割れてるんだ。
そして、制裁者は僕と勇二ってこともバレてる。


 天野は頭を抱えた。


 匿名掲示板を利用する人間の中には、犯罪者や被害者を特定することに執着する人間がいる。


 ストーカーの被害者となれば、『美人』である可能性が高い。


 興味半分で香月に接触する人間が出現するかもしれないのだ。


天野勇二

どうしようもないな。
削除申請し続けろ。
俺様は生憎、SNSなんぞはやってない。
お前はどうなんだ。

佐伯涼太

もう大炎上。
祭りになったよ。
アカウントは全部消した。

天野勇二

それが賢明だな。
香月には謝罪したのか?

佐伯涼太

うん。もう話してある。
ストーカー退治のことは本当に感謝してたから、そんなに怒られなかった。
逆に僕や勇二のことを心配されたよ。
香月さんは優しいね。
美人は心まで美人だよ。


 香月の心配も もっともだ。

 動画は『傷害』につながる物的証拠。

 天野や涼太が罪に問われる可能性は高い。


天野勇二

まだ下火の状態だろう。
だが念のため、香月には引っ越しするよう伝えたほうがいいな。

佐伯涼太

そうだよね。
香月さんのSNSも祭りになってたし。

天野勇二

これはお前の失態だ。
引っ越し代を工面しろ。
香月を新しい住居に移し、可能な限り二次被害を防ぐんだ。


 涼太は力なく頷いた。

 責任を取るのは必然だろう。


佐伯涼太

はぁ……。
もうなんでWebにアップしちゃうのかなぁ。
何考えてんだろう……。

これ僕たち、いつ捕まってもおかしくないよね。

天野勇二

当然あり得るな。
加害者である本田が騒ぎ、警察もその気になれば、前科というありがたい『勲章』をいただけるぜ。

俺様は医者のボンボンだから前科ごとき大した問題ではない。
だが、お前は一般企業に就職する予定だろう?
前科は大きな かせになるだろうな。

佐伯涼太

うげぇ……。
そうなるよねぇ……。


 涼太はため息を吐きながら肩を落とした。

 人生を左右しかねない痛恨のミス。

 前科持ちだけは避けたい。

 それに香月のことも心配だ。


天野勇二

よし……。
それじゃ行くぞ。


 携帯灰皿にタバコを捨てると、天野は静かに立ち上がった。


佐伯涼太

ど、どこに行くの?

天野勇二

決まってるだろ。
動画をアップしたバカを見つけるんだ。
花見に参加した全員を紹介しろ。
俺様に下手なちょっかいを出したこと、地獄で後悔させてやるぜ。


 天野はもう完全にキレていた。

 涼太に止めることはできなかった。




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つばこ

どうも、つばこです。
今週もお読みいただきありがとうございます。
 
これまでの事件にも少し出ていましたが、天野くんは基本的に『動画』を駆使しています。
殺人犯を警察に突き出すための証拠にしたり、自供を撮影して「二度と近づくな」とユスるネタにしたりと。
天野くんが警察に捕まらずうまく立ち回れていたのは、こうした細かい予防線をいくつも用意しているからなのでしょう。
この流出騒ぎから始まる大事件。かつてないほど天野くんを追い詰めますので、ご期待ください(`ω´)グフフ
 
さてさて、前回は衝撃のキスシーンをお届けしましたが、楽しんでいただけましたでしょうか?
キスって、いいですよねぇ……(´∀`*)ホッコリ
いつもオススメやコメント、ありがとうございます!ヽ(*´∀`*)ノ.+゚

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コメント 192件

  • たま

    涼太の落ち込み見てたら、
    自分もなにかやらかしたみたいに凹んできた…
    いや…自分はなにもしてないんだけどね 笑

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  • ノア@3/8は38記念日!

    なぜ、大事な動画をクラウドなんて場所に預けやがったのか

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  • 近頃はプライバシーもへったくれもねえな、あほ、ばか、間抜け、一旦東京湾へ(略)

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  • ごくどこにでもいるかまちょ

    お花見ってところがまたなんか許せないよねぇー
    そんなほのぼのしてるから100話で登場逃すんだよー

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  • 咲月

    バカにも程があるw

    実名も顔もあるのに他人のプライバシー考えんとかw
    笑えるよww

    天野氏よ、精神ごとぶっ壊せ

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