天野勇二

悪いね。
ねえさんには、ここで……




 冷酷に言い放った。









天野勇二

死んでもらうよ。









 沙織の目が大きく見開く。


如月沙織

んんっー!?



 何度も首を横に振る。


 何かの冗談を言っているのかと、自分をからかっているのではないかと、潤んだ瞳が訴えかける。


 それを天野は軽く笑い飛ばした。


天野勇二

俺は本気だよ。
そこまでしなきゃ、ねえさんたちは分からないんだ。

それじゃ。
バイバイ、ねえさん。


 ドラム缶から離れ、沙織のスマホを調べる。

 ロックはかかっていない。

 ダイヤルの履歴を確認する。


天野勇二

コイツだ……。


 目当ての人物を発見。

 薄ら笑いを浮かべながら電話をかける。

 相手はすぐに出た。



如月正雄

……やぁ、沙織かい?

どうしたんだね?

今日はお友達と会食ではないのかい?



 穏やかで優しげな声。

 沙織の父、如月正雄だ。

 天野は楽しげに答えた。


天野勇二

如月さん。
沙織じゃありませんよ。
天野です。

如月正雄

……なに?

天野勇二

いや、こう呼んだほうがいいのかな?
義父とうさん、夜分遅くに申し訳ございませんね。

如月正雄

なっ!?
そ、その声は……!
勇二くんなのかい!?


 如月の穏やかな口調が一変した。

 天野はケラケラと笑いながら言った。


天野勇二

そうだよ。
天才クソ野郎こと天野だ。

生意気なクソジジイめ。
ヤクザに頼んで俺様を殺そうとしやがったな?
残念だがその企み、全て失敗したぜ。


 また如月の口調が一変する。


如月正雄

な、な、なんだと……?
ど、どういうことだ。
私は何も知らないぞ……。

天野勇二

はぁ?
知らないワケねぇだろ。
ここには貴様の執事である渡辺がいる。
とぼけてもムダさ。
何度もしつこく俺様を狙いやがって……。

貴様はクズだ。
外道の中の外道だ。
こうやって同業者や娘に近づく人間を排除してきたのか?


 如月は深く息を吐き出した。


如月正雄

……どういうことだ。
なぜ、沙織のケータイから勇二くんが電話しているんだ……?

天野勇二

あんたの雇ったヤクザは間抜けでさぁ。
俺とねえさんを同時に拉致ったのさ。
そしてねえさんを

『パーーーン』

と撃っちまったんだよ。
俺様はその隙に全員を倒したってワケ。


 如月の声が詰まった。


如月正雄

ウ、ウソだろ!?
勇二くん!
ウソだと言ってくれ!

天野勇二

ああ、ウソだよ。

如月正雄

そ、そうか!
沙織は無事なのか!

天野勇二

あ、それもウソ。
ホントは死んだ。

如月正雄

なっ……!!!
く、くそ!
貴様ぁ!
ふざけるんじゃない!


 スマホが震えるほどの怒号だ。

 天野はニタリと悪い笑みを浮かべた。


天野勇二

おいおい如月よ。
なぜ貴様が怒るんだ?
怒っているのは俺様だぜ?
殺人を くわだてる外道に怒鳴られる筋合いはないんだよ。

今から渡辺もヤクザも全員撃ち殺して帰ろうと思うんだ。
どうせ俺の銃じゃない。
全員を殺害しても、俺様が捕まることはないからな。


 如月は天野の言葉なんか聞いていなかった。

 必死にひとつのことを尋ねる。


如月正雄

沙織はどうしたんだ!?
なぜ沙織と一緒にいる!?
沙織は無事なのか!?
怪我をしているのか!?
勇二くん!
教えてくれ!

天野勇二

チッ……。
マジでクソ生意気だな。


 天野は舌打ちした。

 イライラしながら吐き捨てる。


天野勇二

おい如月よ。
なんだその態度は?
子離れできないクソ親め。

貴様は俺様を殺そうとしやがったんだぞ。
まず俺様に びるべきじゃないのか?
貴様はそれでも大人か?
こっちがガキだと思ってナメてんのか?
俺様の命なんて欠片ほどの価値も感じてないのか?

……いいだろう。
気が変わった。
今からお前の見たいものを見せてやる。


 天野は一旦電話を切った。

 テレビ電話でかけなおす。

 如月はすぐに出た。


天野勇二

よう如月。
俺様の顔が見えるか?

如月正雄

ゆ、勇二くん!
娘はどこにいるんだ!?


 その質問は軽やかに無視。

 まずは撃たれて倒れている男たちを映した。


天野勇二

ほら、よく見るんだ。
お前が殺害を依頼したヤクザどもだ。
そこに渡辺の姿もある。

如月正雄

わ、渡辺!?
お前しくじったのか!?

天野勇二

そうだ。
渡辺は残念ながらしくじったのさ。
物騒なオモチャを大量に用意したのに哀れなものだ。


 拳銃を如月に見せつける。

 そして、倒れている渡辺に銃口を向けた。


天野勇二

そういえば渡辺よ。
お前は右の太股しか撃ってなかったな。
左の太腿が寂しいだろう。
良いものをくれてやる。




 パン!




渡辺

ぎゃあ!!!

如月正雄

わ、渡辺!?


 渡辺が伏せたまま激痛に呻く。

 天野は腹を抱えて笑い出した。


天野勇二

ぎゃはははは!
傑作じゃないか!
見ろよ如月!
俺様を殺すつもりだったのに、逆に殺されてしまうんだぜ!
さぁ死ねよ!
オラオラオラァ!


 天野はカメラで渡辺を映したまま、容赦なくその身体を蹴り飛ばした。


 鉄板を仕込んだ靴の威力は絶大だ。


 渡辺の身体が軽々と吹き飛ぶ。


天野勇二

オラァ!
てめぇらも死ね!
ヒャハハハハ!!!


 狂気の笑い声をあげながら倉庫を歩き回る。


 手短なヤクザをドカドカ蹴り飛ばす。


 誰もが抵抗もできなかった。


 無駄な抵抗を試みれば、天野は容赦なく引き金に指をかけるのだ。


天野勇二

……おや?
おかしいな如月よ。


 ひとしきり蹴り飽きると、天野は首を捻った。


天野勇二

貴様の娘がいない。
どこに消えたんだ?

如月正雄

さ、沙織は!?
沙織はどこなんだ!
沙織には手を出さないでくれ!

天野勇二

おや、あんなところにドラム缶があるな。
さてはあそこかな?


 ゆっくりドラム缶に近づき、その中身を映す。


 後手に縛られ、猿ぐつわをはめられて、恐怖に震えて泣きじゃくる沙織の姿があった。


如月正雄

さ、沙織!
よかった!
生きていたのか!

天野勇二

よかった、じゃねぇよ。
この状況をよく見ろ。


 コンクリートを流し込む機械を映す。


天野勇二

このドラム缶にはスイッチひとつでコンクリートが流れこむようになっている。
これで俺様を殺すつもりだったんだろう?
お前の指示で間違いないな?


 如月は必死に叫んだ。


如月正雄

ち、違う!
私の指示ではない!

天野勇二

そんなワケないだろう。
これだけ大規模な襲撃だ。
執事の渡辺が1人で仕組んだとでも言うのか?

如月正雄

そ、そうだ!
渡辺が勝手にやったんだ!

天野勇二

ほう、まだそんなことを言うのか……。

お前は俺をナメすぎだよ。
俺はただのガキじゃない。
野蛮と暴力を好む 『天才クソ野郎』だと言ったはずだ。

貴様のようなクズには 『お仕置き』を与えてやる。

如月正雄

な、なにをするんだ!?

天野勇二

決まってるだろう?
お前が 何よりも大切にしている存在を消してやるんだよ。

俺様は完全にキレている。
もう手遅れだ。
カメラの向こうで自らの行いを悔やみ続けろ。

さてと、ドラム缶にコンクリートを流しこむボタンはどこかなぁ。

如月正雄

ま、まさか……!
やめてくれ!
勇二くん!
それだけはやめてくれ!


 天野はスマホを床に置いた。


 カメラが何も映さないようにすると、ドラム缶にコンクリートを流し込むための準備を始める。


天野勇二

ああ、これか。
このボタンで動くのか。


 スマホを拾い、遠くから装置とドラム缶が見えるようにセッティングする。


天野勇二

待たせたな。
お楽しみの時間だ。
今から貴様の娘を生き埋めにしてやろう。

如月正雄

やめてくれ!
やめろ!
やめろと言っているんだ!

天野勇二

はぁ、なんだよ。
まだ謝罪の言葉がない。
俺様は非常に残念だ。
ほれ。ポチッとな。


 装置が 「グオオオオ」と大きな音をたてて動き始める。

 そして、勢い良くドラム缶にコンクリートを注ぎこんだ。


如月正雄

うああああ!
沙織!
沙織ぃ!!!
もうやめてくれぇ!


 天野がボタンを押した。

 装置が静かに停止し、コンクリートの流出も止まる。


天野勇二

さぁ如月よ、早く全てを認め謝罪してくれ。

まだ間に合うぞ?
まだコンクリートは固まってなく、ねえさんも埋まりきっていない。

娘を助けてほしいなら早く告げるんだ。
社会人として、一児の父親として、俺様に告げるべきことがあるだろう?

謝罪の言葉だよ!


 如月は涙を流しながら必死に訴えた。


如月正雄

ゆ、勇二くん……。

私が悪かった。
全て私の指示だ。
私が君を殺害するよう指示を出した……。

本当にすまなかった。
この償いは何でもする。

お願いだ。
娘を助けてやってくれ。


 天野は極悪の笑みを浮かべた。


天野勇二

それじゃダメだな。
貴様は二度も俺様を殺そうとした。
今の謝罪ではちっとも誠意が伝わらない。

如月正雄

悪かった!
本当にすまない!
何でもする!
いくらでも金を出す!
君が願うだけ渡そう!
許してくれ!

天野勇二

金を出すぅ?
許してくれだぁ?


何を偉そうに謝ってんだ。
貴様の汚い金なんか欲しくもねぇよ。
まずは 土下座しろ。
土下座して、

『申し訳ございません』

とでも言えよ。
人としての基本だろうが。
頭が高いんだよ。
心から深く謝罪しろ。

言っておくが生き埋めってのは苦しいぜ。
苦しさだけでいえば、数ある死の中でも上位に入るだろう。
娘は相当な苦しみに襲われて死ぬぞ。


 如月はカメラに向かって土下座した。

 心の底から泣き叫ぶ。


如月正雄

誠に申し訳ございません!
お許しください!
どうか
お許しください!
申し訳ございませんでした!


 天野は如月の土下座を見つめ、恍惚こうこつの笑みを浮かべた。


 相手はVIP中のVIP。


 それが泣きながら土下座している。


 是非ともカメラ越しではなく生で拝みたいものだな、と天野は思った。


天野勇二

良い土下座だ。
褒めてやる。
ご褒美をくれてやろう。


 天野はまたボタンを押した。

 装置が音をたてて動き始める。


如月正雄

なっ……!!! 

やめろ!
やめてくれぇ!
どうかお許しください!
沙織は無関係じゃないか!
装置を止めてくれ!

天野勇二

ダメだ。
お前は『天才クソ野郎』に手を出した。
俺様に手を出せばどんな報いが返ってくるのか……。
絶望の底で見ていろ!


 コンクリートが 「ズシャーー」と、勢い良く注ぎ込まれる。


 如月は悲鳴をあげてそれを見つめた。


 あっという間にコンクリートはドラム缶を埋め尽くした。


 入りきらないコンクリートが床に溢れる。


 そこで天野はようやく装置を止めた。


天野勇二

アーーーーーーッハッハッハッハ!

娘が生き埋め!
愛する娘が生き埋めにされちまったぞ!
俺様に手を出すからこうなるんだ!


悪いのは如月!
貴様だ!


貴様が娘を殺したんだ!
外道の娘にはお似合いの最期だ!
このまま海に落としちまえ!


 如月が悲鳴とも怒号ともつかない声をあげている。


 天野は全てを無視して倉庫のシャッターを開けた。


 ドラム缶が載った台車に手をかける。


如月正雄

頼む!
沙織を助けてくれ!
出してやってくれ!
お願いします!

天野勇二

却下だ!
外道の頼みなんか聞きたくもねぇ!


 天野はカメラを地面に固定すると、台車を押して倉庫から飛び出した。


 ちょうど良いことに目の前は海。


 天野は台車ごとドラム缶を海に放り投げた。


天野勇二

ぎゃははははは!

死んだ!
死んだぞ!

如月よ!
見ているか!?
最愛の娘が生きたまま東京湾に沈んでいくぞ!

そんなところで何してるんだ!?
助けに来いよ!
重しもたっぷりついてるから浮かんでこねぇぞ!
早く助けに来やがれってんだ!


アーーーーーーッハッハッハッハッハ!!


 天野は倉庫の前で狂ったように高笑いをあげていた。



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つばこ

今回の話、書いているつばこ自身は
 
「怖い。天野くん怖い。ガチでコンクリ詰めにしやがった。やりすぎだよ(´;ω;`)」
 
と、涙目になってしまう恐ろしさがありました。
読者の皆様はどう感じましたでしょうか。
 
「また天野くんはっちゃけてるなw 天野くんが人を殺すワケないじゃんwww」
 
という笑いが乾いたものとなり、いくら何でもやりすぎだと、背筋が凍るようなものを感じていただければ嬉しいです。
それから何より、
 
「ポルシェを恵んでくれるからって良い人とは限らない。むしろ真っ黒。如月パパは外道オブ外道だった( ゚д゚)」
 
ということも教訓にしてください!
皆様も快くマルシェ、じゃなかったポルシェを恵んでくれる人に出会ったら気をつけましょう!
 
そんなこんなで「お付き合い編」もクライマックス突入!
いつもオススメやコメントありがとうございます!ヽ(*´∀`*)ノ.+゚

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コメント 318件

  • しの

    回を重ねる毎に天野くんのいきいき度がましてきてる笑笑

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  • なゆ

    ねえさんのいたドラム缶とコンクリを流したドラム缶は別物なんだろうけど
    やるねぇ天野くん。
    「これくらいしないと分からない」んだねぇ。

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  • 千花音(ちかね)

    ドラム缶の中身は空なんやろうけど…

    この状況で高笑いとかヤベエよ…(笑)

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  • ぷ~にょ

    ダイジョブ!

    ポルシェもらったら、ソッコーで売っぱらうカラ!

    ダカラ、ダイジョブヨー♪

    (その前に、ポルシェくれるようなリッチメンを知らない…)

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  • n@s

    一度見えないようにスマホ置いた時に出してあげたのかな~。
    天才クソ野郎は根が優しくてこれまで(多分←)人殺しだけはしてないからね!
    運が悪ければ死ぬシーンはあったけど、そこは天才だから間違わないんだろうね!

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