三谷の襲撃から数日たったある日。


 天野は真っ赤なポルシェことポチで、沙織を連れてドライブに出かけた。


 一通りの東京のデートコースを巡る。


 そして夜になると、自然に沙織を誘った。


天野勇二

ねえさん。
ウチに寄っていかない?

如月沙織

勇二くんのご自宅、是非ともお邪魔してみたいな。

天野勇二

ああ、せっかくだから泊まっていきなよ。

如月沙織

……うん。
何だか少し……。
緊張するね……。


 沙織は頬を染めて俯いた。


 カレシの家に呼ばれてお泊り。


 世間知らずのお嬢様でも、この後に待っている展開ぐらいは察しているようだ。


 28年間無縁だった、大人への階段。


 ついに足を踏み出す時がきたのだと、小さな期待を胸に秘めていた。


天野勇二

大丈夫さ。
優しくするからね。
俺にまかせておけばいい。


 沙織の頬がさらに赤くなる。


 天野はその変化を楽しそうに見つめ、さり気なく尋ねた。


天野勇二

ところで……。
あのこと、如月さんには話してあるよね?


 沙織は少し悲しそうに頷いた。


如月沙織

うん……。
勇二くんの言う通り、お父様にしっかり話したの。
かなり反対されたけど、最後には納得してくれたよ。

天野勇二

そうか。
あの如月社長も、ねえさんには逆らえないワケか。

如月沙織

逆らえないなんてそんな……。
私の決意が固いことを理解してくれたの。

天野勇二

『キサラギ製薬』はどうするって?
ねえさんがとつぎたい』って言い出すと、後継者をどうするか悩むんじゃない?


 沙織は無邪気に小首を傾げた。


 なぜそんなことを尋ねるのだろう、と不思議がっているようだ。


如月沙織

そんなこと話してないよ。
私はただ勇二くんに嫁ぐ、と言っただけ。

天野勇二

そ、そうなんだ。
やれやれ……。
如月さんに祝福してもらえるかな。

如月沙織

きっと祝福してくれる。
お父様、優しいから。


 沙織は無垢むくに微笑んでいる。

 天野は苦笑してしまった。


天野勇二

今日、俺とデートしていること、如月さんには内緒だよね?

如月沙織

うん。
女友達とご飯を食べるから遅くなる、って伝えてる。
お父様に嘘を吐いたのなんて初めて。
ドキドキしちゃうね。

天野勇二

それでいい。
上出来だ。


 満足気に頷くと、天野はダッシュボードから『カツラ』を取り出した。


天野勇二

ねえさん、悪いんだけどコイツをかぶってくれない?

如月沙織

どうして?

天野勇二

嫁入り前の娘が男の部屋に上がる時ってのはね、少し変装するものなんだよ。


 無茶苦茶な理由だ。

 それでも沙織は素直に従った。


如月沙織

わかりました。
こんな感じかな。


 短いパーマのカツラを装着する。


天野勇二

悪くないね。
でもちょっと髪のボリュームがおかしいな。
このキャップもかぶっておこうか。

如月沙織(変装中)

うん。こうかな。

天野勇二

ああ、それでいいよ。
よく似合ってる。


 沙織の変装を終わらせ、天野は自宅の駐車場にポチを停めた。


 沙織をエスコートしながら外に出る。


???

……天野勇二くんだね。


 スーツ姿の男が天野の前に現れた。

 今度は3人いる。


天野勇二

そうだが……。
お前らは誰だ?


 男は拳銃を取り出すと、天野に迷うことなく突きつけた。


スーツ姿の男

一緒に来てもらおう。
こちらの車に乗れ。


 天野はニタニタと悪い笑みを浮かべた。


天野勇二

おいおい。
俺様は女連れだぜ?
どこに招待するのか知らないが、女という目撃者はどうするつもりだ?


 男は沙織を一瞥いちべつすると、何事もないように言った。


スーツ姿の男

彼女も同行してもらおう。
君も、恋人が怪我をするところを見たくはないだろう?


 天野は殺気を放ちながら言い返した。


天野勇二

ほう、やる気だな。
だが思い通りにいくかな?
過去に『お仲間』が返り討ちにされたことを知っているはずだ。
俺様が素直に従うとでも思うのか?


 天野の声に応えるように、他のスーツ姿の2人も拳銃を取り出した。


 3挺の拳銃が天野たちに突きつけられる。


スーツ姿の男

確かに君は強いらしいね。
だが、状況をよく考えることだ。
この人数相手に女を守りながら戦えるか……。
冷静に考えるんだね。


 男の瞳には冷たい殺気。


 これまでの刺客とは格が違う。


 荒事に長けており、何かの格闘術にも精通している。


 真正面から戦えば、天野といえでも無傷では済まないだろう。


天野勇二

……なるほど。
お前らも本気を出してきた、ということか。


 沙織の腕をとって囁きかける。


天野勇二

ねえさん、ここは不利だ。
コイツらに従おう。


 沙織は恐怖に震えながら頷いた。


 天野は拳銃を持った暴漢を秒殺するほど強い、と沙織は信じている。


 その天野が「不利」だと言うのだ。


 かなり危険な状況だと感じた。


スーツ姿の男

この車に乗れ。


 案内されたのは黒塗りのベンツ。


 窓にはスモークが貼られている。


 天野を後部座席の右端、中央に沙織を座らせる。


スーツ姿の男

出せ。


 車が静かに発進する。


 助手席の男は天野に、後部座席の男は沙織に拳銃を突きつけている。


天野勇二

どこを見ても拳銃ばかり。
気が休まらないな。
もっとドライブを楽しく演出してくれよ。

スーツ姿の男

無駄な口を叩くな。


 助手席に座ったスーツ姿の男が即座に黙らせる。


 車は都心を抜け、勝どきの倉庫街へ向かった。


天野勇二

(俺たちに目隠しもさせないのか。確実に殺す気だな……)


 天野は悪い笑みが浮かんでくるのを抑えながら、沙織の震える手を握り続けた。



 やがて車は大きな倉庫に到着した。


 倉庫にはスタンバイしていた男が1人。


 ベンツが倉庫に入ると、素早く入口のシャッターを閉めた。


スーツ姿の男

降りろ。


 天野はゆっくり右側のドアを開け、車を降りた。


天野勇二

……ほう。
これはこれは……。


 まず視界に入ったのは大きなドラム缶

 2メートルほどの高さがある。

 台車に載っており、大量の 『重し』がくくりつけられている。


 ドラム缶の上にはあるのは、 コンクリートを流し込む機械だ。

 もう準備は整っている。

 スイッチをひとつ押せば、ドラム缶にコンクリートが流れ込むようになっている。


天野勇二

大げさな『墓場』だぜ。
しかも、知っている顔がありやがる。


 スタンバイしていた男の顔を見て、天野は不敵に笑った。 


スーツ姿の男

とっとと済ますぞ。


 助手席に座っていた男がそう言った瞬間、天野は素早く動いた。


 狙いは運転席にいた男。

 背後から跳びかかり首を絞める。

 そして、自らの懐から『拳銃』を取り出した。


天野勇二

どうやら、お前がリーダーのようだな。


 助手席にいた男に銃口を向ける。

 見事に一瞬の隙を突いた。

 男は状況を掴めず唖然あぜんとしている。

 天野はその肩口を撃ち抜いた。



 パン!



如月沙織

きゃあ!


 拳銃の破裂音と沙織の悲鳴。

 両方が倉庫に反響する。


スーツ姿の男(リーダー)

……くっ!


 リーダーの男は肩を押さえてうずくまりながらも、天野に拳銃を向けた。


 しかし天野は運転手を盾にしている。


 この距離では撃てない。


天野勇二

クックックッ……。
お前ら、ガキが『ハジキ』を持ってないと思って油断したな?
身体検査を先に済ませ、俺様を拘束すべきだったな。


 天野は盾にした男のこめかみに銃を突きつけながら、不敵に笑った。


 動ける敵はこの場に3人。

 それぞれが天野に拳銃を向けている。


 天野はすぐさま怒号をあげた。


天野勇二

なんだてめぇら!?
俺様に銃を向けんじゃねぇよ!
コイツを撃ち殺してほしいのか!?
とっとと銃を捨てて、両手を首の上に置いて伏せやがれ!


 怒号が倉庫に反響する。


 後部座席の男は沙織を引っ張り出し、天野と同じように銃を突きつけた。


スーツ姿の男B

や、やめろ!
女を撃ち殺すぞ!
てめぇが銃を置け!

天野勇二

フッ……。
それはできないな。

スーツ姿の男B

脅しじゃねぇぞ!
本当に撃ち殺す!
銃を捨てろ!


 天野は「クックックッ」と笑いながら、楽しそうに言った。


天野勇二

それはできないんだよ。
お前、その女が誰だか知っているのか?
『如月の娘』だぞ。
キャップとカツラを取って確かめろ。
如月の娘を撃ち殺したら、お前は間違いなく消されるぞ。

スーツ姿の男B

なにっ!?


 男は驚いて沙織のキャップとカツラをむしり取った。


 倉庫でスタンバイしていた男が叫ぶ。


渡辺

さ、沙織お嬢様!?
そんな! バカな!


 天野はその声の持ち主に視線を向けた。


天野勇二

確かお前は『渡辺』といったな。
如月家の使用人め。
殺しの現場まで出張とはご苦労なことだ。
俺様が本当に天野勇二かどうか、顔を確かめる役割なんだろうなぁ?


 渡辺は怯えて震え上がった。

 如月家の運転手であり、執事でもある初老の男だ。


天野勇二

ほら、とっとと銃を捨てて伏せろよ。
ターゲットは俺様だろう?
如月のお嬢様に傷ひとつでもつけてみろ。
貴様らは如月からの報復を食らうぞ。


 男たちの視線が交差する。

 どうすべきか迷っているのだ。


天野勇二

決断が遅い。




 パン!




 天野は盾にしている男の太股を撃ち抜いた。


スーツ姿の男C

ぎゃあああああ!


 天野は相変わらず非情だ。

 また太股を縦に撃ち抜いた。


天野勇二

そろそろ弾が切れるな。
補給しておくか。


 盾にしている男の懐から拳銃を奪う。

 再び怒号を飛ばした。


天野勇二

何をモタモタしてやがんだ愚鈍ぐどんどもが!

銃を捨てて伏せろ!

俺様に何度も同じことを言わせんな!


 男たちは慌てて銃を地面に置き、両手を組んで床に伏せた。


 天野は盾にしていた男を捨てると、全員の懐を探り、それぞれが持っていた拳銃を取り上げた。


スーツ姿の男(リーダー)

く、くそ……!
お前こんなことして、どうなるかわかってんのか!


 リーダーの男が伏せながらも脅す。

 天野は鼻で笑った。


天野勇二

お前こそどうなるのかわかってんのか?
偉そうに吠えやがって。
生意気だな。
俺様は短気なんだ。
少し黙ってろ。




 パン! パン!




スーツ姿の男(リーダー)

うぎゃあああ!


 うるさいリーダーの両太股を撃ち抜くと、その場は天野の支配下に変わった。


 極悪の表情を浮かべ、冷酷に、それでいて楽しそうに拳銃をぶっ放しているのだ。


 下手に刺激すれば本当に撃たれる。


 倉庫は天野の放つ恐怖で満ちていた。


天野勇二

お前は卑怯にも、女を盾にしやがったな。


 沙織を盾にした男にも近づく。


天野勇二

男の風上にも置けない外道めが。
クソ生意気だ。
お仕置きをくれてやろう。

スーツ姿の男B

えぇ!?
や、やめて、くださ……




 パン! パン!




スーツ姿の男B

ひぃぃぎゃああ!


 あっさり両太股を撃ち抜く。


 ガタガタ震える沙織を無視して、執事である渡辺のところへ向かう。


 伏せる渡辺の後頭部を踏みつけた。


天野勇二

おいこのクソ執事。
お前らのやり方はなんだ。
ここで俺様をコンクリ漬けにして海に沈めるつもりだったのか?
それが如月のやり方か?

上等だ。
俺様はマジでキレたよ。
如月家からの宣戦布告、確かに受け取ったぜ。


 渡辺は涙目で訴えた。


渡辺

も、申し訳ございません!
どうかお許しを!

天野勇二

人を海に沈めるような、外道の謝罪は聞こえんな。



 パン!



渡辺

うげぇ!


 渡辺の右太股も撃ち抜く。

 まだ弾の入った銃は4挺もある。

 天野は全てをベルトに挟みながら沙織に近づいた。


如月沙織

ゆ、勇二くん……?
こ、ここはなに……?

天野勇二

決まってるだろ?
ここは俺様の『墓場』さ。
ドラム缶に俺様を放り込んで、コンクリ詰めにして東京湾へ沈めるんだよ。
バカなお嬢様でも見りゃわかるだろうが。

そしてこれを誰が指示したかもわかるよな?
そいつに電話しろ。


 沙織はまだ状況を把握していなかった。


如月沙織

だ、誰が勇二くんを、こ、こんな目にあわせるの?


 天野は深くため息を吐いた。


天野勇二

もういいや。
スマホ貸して。


 沙織は震える手でスマートフォンを天野に差し出した。


 それを受け取ると、天野は沙織の口に布を当てた。


 猿ぐつわをはめて黙らせる。


 沙織の両手を背中で縛り、ひょいと担ぎ上げた。


如月沙織

んー! んー!


 沙織が何かもごもご言っている。

 天野はそれを無視して、大きなドラム缶の中に沙織を立たせた。





 その瞬間、沙織の顔が絶望に染まった。





 ドラム缶は沙織の背丈より高い。


 縛られた状態では這い上がれない。


 頭上にはセメントを流しこむ機械。


 ここに立っていればどうなるのか、沙織でも理解することができた。


如月沙織

んー! んー!?


 必死に助けを求める。


 その姿を、天野は冷たい瞳で見下ろした。



天野勇二

悪いね。
ねえさんには、ここで……



 冷酷に言い放った。










天野勇二

死んでもらうよ。




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つばこ

さぁ、ついにリミッターの外れた天野くんのお出ましです。
しかもまだ、この『お仕置き』は序章に過ぎません。
次回、天野くんが放つ『狂気』の真骨頂を見ることができます。
クライマックスまで「天才クソ野郎節」が炸裂し続けますので、ちょっと怖いかもしれませんが、お付き合い頂ければ幸いです。
 
念のため補足しますが、死体をドラム缶でコンクリ詰めにしても発見されてしまうそうです。海に沈めてもダメなのです。
 
だから絶対に真似しないでください!
天野くんの真似をしないでください!
拳銃とか容赦なく撃たないでください!
相手がわからず屋のムカつく天然お嬢様でも殺しちゃダメです!ヽ(`Д´#)ノ
 
ではでは、いつもオススメやコメント、本当にありがとうございます+。:.゚ヽ(*´ω`)ノ゚.:。+゚

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コメント 243件

  • Atik

    義理母様が仕向けたのかな?

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  • ゆめおぼろ@天クソ/パステル

    こんな大人の階段やだぁ

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  • バルサ

    凄い展開だ!コメ欄も面白い(^^)何か、アスファルトに詳しい人達が居るんですね〜。昔は、ドラム缶詰め流行った⁇よね。殺人事件ね(^^;;
    漫画連載も始まって、天野くん もう少し人気でるといいな!

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  • Vシネの世界でも生きていけそうだなぁ…天クソさん

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  • phenyl

    ここで今回のサブタイトル見てみましょうか

    サブタイトル「天野くんのデート」

    随分と物騒なデートですねwww

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