佐伯涼太

やっほー!
前島さんじゃーん!


 天野が如月家に招かれた翌日。


 昼の学生食堂。


 涼太はうどんを購入している前島を発見し、すぐさま声をかけた。


前島悠子

あっ! 涼太さん!
おはようございます!

佐伯涼太

これからお昼?
テラスに行くんでしょ?

前島悠子

もちろんですよぉ。
昨晩の『戦果』を聞きたいじゃないですか!

佐伯涼太

だよね!
いやぁ、前島さんいい演技してたよ。
さすがスターだね!

前島悠子

涼太さんも名演技でした!
やらっれぷり最高ですよ!
それに人を叩きつけて車を破壊するなんて、生で見たの初めてです!

佐伯涼太

いやぁ、あれは入念にリハしたけど、やっぱり痛くてさ……


 そこまで言いかけた時、背後から車のクラクションが鳴らされた。


 2人は何となく振り向く。


 そして仰天した。


前島悠子

師匠!
師匠じゃないですか!

佐伯涼太

な、なにそれ!?
その最高にイカした真っ赤なポルシェはなに!?


 天野が白衣を ひるがえし、真っ赤なポルシェから飛び降りた。


 ドヤ顔で 気障キザったらしい指先を振り回す。


天野勇二

フッフッフッ……。

どうだ? いいだろう?
日本には1台しかない限定車のポルシェだ。

しかも持ち主は 『色が気に入らない』という理由で真っ赤に塗装したというバカな車だ。

佐伯涼太

へぇ、これが本物のポルシェなんだねぇ……。
いつの間に買ったの?

天野勇二

買ったんじゃない。
貰ったんだ。

佐伯涼太

ええ!? ポルシェを!
誰によ!?

天野勇二

如月の社長だ。
俺が自分の車をパワーボムで破壊したから、くれた。


 涼太は仰天して叫んだ。


佐伯涼太

マジで!?
あの車5万だったじゃん!
なにそのわらしべ長者!
そんな夢みたいなことあるの!?

天野勇二

あるんだよ。
この車、実に素晴らしい。
乗り心地。
デザイン。
派手で軽薄な赤。
重厚感のあるエンジン音。
何もかも最高だ。


 天野はうっとりとポルシェを見つめている。

 どうやらとてもお気に召した様子だ。

 前島が羨ましそうに言った。


前島悠子

いいなぁ師匠。
私も乗ってみたいです。
今度ドライブに連れて行ってくださいよぉ。

天野勇二

ああ、いいぞ。
お前は作戦の協力者だ。
俺様の新しい愛車に乗る権利がある。

前島悠子

わーい! やった!
それなら師匠と一緒に海へ行きたいです!

天野勇二

海か。悪くないな。
海ならこの愛車がよく映えることだろう。

せっかくだ。
何か名前をつけたいなぁ。
ポルシェか……。

よし……。
『ポチ』と名づけよう。

前島悠子

じゃあポチに乗ってデートですね!


 前島は「デート! デート!」とはしゃいでいる。

 涼太は羨ましい気持ちでいっぱいだ。


佐伯涼太

いいなぁ……。
ねぇ勇二、あれ売って僕にも車を買ってよ。

天野勇二

却下だ。
ポチは売らない。
それにお前には昔、センチュリーをくれてやった。

佐伯涼太

うぅ……。
確かにそうだね……。


 3人はそのままテラスへ向かった。


 天野は椅子に腰掛けると、ため息を吐きながら告げた。


天野勇二

さて……。
完璧な作戦だと思ったのだが、残念ながら大失敗に終わった。
今から反省会を始めるぞ。

佐伯涼太

えっ!?
あそこまでやったのに?
フツー女の子はドン引きするよ?

天野勇二

それがなぁ……。
ねえさんの第一声は驚いたことに『素敵!』だった。


 天野は肩をがっくり落とした。


天野勇二

しかもな、父親と母親に嫌われるため、俺様は『天才クソ野郎』を全開にしてみたんだ。
もうねえさんはどうしようもないと思ってな。
だが、父親がなぜか天才クソ野郎を気に入ってしまった。
父親もどうしようもなかった。

佐伯涼太

天才クソ野郎をナマで見て気に入るなんて、よっぽど酔狂すいきょうな人種なんだね。

天野勇二

そうなんだよ……。
かなり野蛮でギリギリの発言を連発し、品格のない男を演じてみたんだが、キサラギの後継者……。
つまりは娘の婿にならないかと誘われた。

佐伯涼太

うわぁ……。
勇二が全力でリカバーしてもそれなの。
とんでもない一家だね。

おめでとう。
『逆玉』ゲットじゃん。
『逆玉という名の墓場』への特急列車に乗ったね。


 前島が慌てて口を挟んだ。


前島悠子

し、師匠!
そ、それ、どう断ったんですか!?
もちろんちゃんと断りましたよね!?

天野勇二

当然断ったさ。
だが父親もねえさんも頑固でな。
あの金持ちども、人は自分の思い通りに動くと思ってやがる。
散々抵抗したが、

卒業までにじっくり考えろ

という結論に落ち着いた。
ヤツらは俺様が卒業するまでに準備を整えるつもりだ。


 天野は心底困った表情を浮かべた。


天野勇二

もう限界だ。
俺には手が思い浮かばん。

いつの間にかねえさんは俺と交際しているつもりだし、父親に気に入られた以上、うちの母親は全力でバックアップするだろう。

最悪の展開だ。
天才クソ野郎、史上最大のピンチだ。


 涼太は呆れながらも、少々同情しながら天野を見つめた。



 クソ野郎がここまで追い込まれるなんて、そうそうあることではない。


 殺人犯を1日で推理して捕まえてしまう完全無欠の天才なのに、作戦が空振りし最悪の方向へ転がり、策を失い頭を抱えている。


 たかが女性のことでだ。




 涼太は肩をすくめて言った。


佐伯涼太

これはまいったね。
もう本音を話すしかないんじゃない?


 前島も頷く。


前島悠子

そうですよ。
恋ができないって、素直に言ったほうがいいですよ。


 天野は2人の顔を力なく見つめた。


天野勇二

あんな惨劇さんげきを見てドン引かない女が、それで納得するだろうか?
俺様は『それでも構わない』と言って、無理やり押し切られそうな気がしてきたぞ。

佐伯涼太

うーん……。
それならお父さんに処刑現場を見せたら?
危険な男を愛娘まなむすめに近づかせたくはないでしょ。

天野勇二

それがな、父親も監視カメラであの『芝居』を見ていたんだとよ。
しかも音声つきだぜ。
それでもドン引かないどころか歓迎しやがった。


 前島が白衣の裾を引っ張り、どこか嬉しそうに提案した。


前島悠子

やっぱり師匠と私が 『お付き合い』しましょう!
ガチで付き合いましょう!
それで諦めさせましょう!
何なら婚約者フィアンセってことにしちゃいましょう!
目の前で 『チュッ』とかしちゃいましょう!
私はどんなお嬢様にだって勝ってみせますよ!

天野勇二

却下だ。
それはお前の芸能活動にとって障害となる。
そして俺様は相手が誰であっても結婚なんて御免だ。
絶対にしたくない。


 提案は瞬殺。

 前島はぷりぷり頬を膨らませた。

 涼太も真面目な顔で提案してみる。


佐伯涼太

こうなったら最終兵器、天才チャラ男の出番だね。
僕も一肌脱ぐよ。
沙織さんを口説き落として、勇二のことなんて忘れさせようか?

……いや、それは無理か。
あのお嬢様は勇二しか見えてなかった。
さすがの僕でも難しいね。

天野勇二

ああ、それも無理だな。
28歳の処女は重いぜ。

佐伯涼太

それならこれは?

『僕と勇二が付き合ってる』ってことにするの。

俺様は男しか愛せない。
だから女に興味ないんだ。

とか言えばさすがに諦めるんじゃない?

天野勇二

お前はアホか。
その 情報ウソは妹に伝わる。
俺とお前が男色家なんてアイツらは信じない。
却下だな。

佐伯涼太

うーん……。
そうなると困っちゃうね。


 3人は揃って頭を抱えた。



 昨晩以上の暴力を見せつけたとしても逆効果。


 関係が悪化する別れ方はできない。


 おまけに父親には好かれてしまった。


 何もかも最悪の展開だ。



 前島は真剣な眼差しで告げた。


前島悠子

これはもう諦めましょう。
きっぱり言うしかありませんよ。
妹さんに嫌われることを覚悟の上で、非情な別れ話を宣告すべきだと思います。

佐伯涼太

うん、僕もそう思う。
どうしても沙織さんとは交際したくない、そう言って突き放すしかないよ。
妹さんだって一時的に勇二を嫌うかもしれないけど、いつか許してくれるって。

天野勇二

ああ、そうだな……。


 天野は力なく頷いた。


 それしかなさそうだ。


 妹には絶縁宣言されるかもしれないが、根本的な理由を話せば納得してくれる可能性がある。


 何はともあれ、沙織との関係を粉砕しなければならない。


天野勇二

そうしよう。
ねえさんには泣いてもらうしかないな。


 天野は力なくタバコの煙を吐き出した。




 この時、天野は闇の中にいた。


 活路の見えない絶望という名の闇だ。


 胡桃の怒りの声を聞くのかと思うと、天野はもう全てを失うような気がしていた。







 その日の夜。


 天野は1日のカリキュラムを終え、大学の駐車場に向かっていた。



 辺りは薄暗い。
 駐車場に人気はない。
 真っ赤ポルシェだけがとてつもない存在感を放っている。


天野勇二

うむ……。
遠目から見ても良い車だ。


 ポルシェまで貰って交際を断るのも悪い気がするが、これは暴漢から救った『報酬』だ。


 天野はすっかりポチが気に入ってしまい、手放す気はこれっぽっちもない。


 ポチは沙織との交際とは別、と考えていた。


???

……天野勇二くんだね。


 背後から『スーツ姿の2人組』が声をかけた。


 浅黒い肌の男と、派手な金髪の男。


 どうやら待ち伏せしていたようだ。


 夜なのにサングラスをかけている。


天野勇二

そうだが……。
お前らは誰だ?
幼稚園で習わなかったか?
人に名前を尋ねる時は自分から自己紹介をしましょう、ってな。


 2人の男は顔を見合わせると、懐から何かを取り出した。


 天野は思わずぎょっとした。


天野勇二

お、おい……。
『拳銃』だと?
それ本物か?


 浅黒い肌の男が静かに語りかける。


浅黒い肌の男

御同行を願いたい。
我々の車に乗ってくれ。

天野勇二

いや、ちょっとそれを見せてくれよ。
拳銃なんて初めて見るぜ。


 天野はヘラヘラと軽い笑みを浮かべながら男に近づいた。


 拳銃はオートマのベレッタ。


 それを確認すると、銃身を左手でガシッと掴んだ。


浅黒い肌の男

お、おい放せ。
触るな。


 男は困惑している。

 天野は何事もないように告げた。


天野勇二

いやいや。
こう掴まないと、銃身がスライドして撃たれてしまうだろう?


 冷静に右手を伸ばす。


 拳銃を握っている男の親指を逆方向にねじ曲げ、即座にへし折った。


浅黒い肌の男

ぎゃあ!


 素早く拳銃を奪い取る。


天野勇二

おっと、動くなよ。
俺様は素人だからな。
暴発するかもしれないぜ。


 拳銃を浅黒い肌の男に突きつけ、その背後に回りこむ。


 首を絞めつつ、銃口をこめかみに押しつけた。


金髪の男

お、お前!?
何をする!


 金髪の男が慌てて拳銃を構える。


天野勇二

何をする、だと?
それは俺様が訊きたいよ。
さて、この拳銃は本物なのかな?
試してみようじゃないか。


 天野はすぐさま金髪の男の、右の肩口を撃った。





 パン!





金髪の男

うぎゃぁ!


 突然の発砲。

 金髪の男の右肩に激痛が走る。

 急いで拳銃を左手に持ち直した。


 天野は楽しそうに笑いながら拳銃を見つめた。


天野勇二

ほう、本物じゃないか。
どこで手に入れたんだか。

おいそこの金髪。
銃を足元に置け。
そして両手を上げろ。
さもなくばこの男を撃つぞ。


 金髪の男は迷ったように天野を見た。


天野勇二

決断が遅い。




 パン!




 天野は何の 躊躇ためらいもなく、拘束していた男の右太股を撃ち抜いた。


浅黒い肌の男

ぐあああああ!


 天野は非情にも縦に撃った。


 銃弾は太股の筋肉を引き裂き膝の骨も粉砕し、最悪なことに貫通しなかった。


 金髪の男が慌てて口を開く。


金髪の男

わ、わかった!
銃を置く!
だからやめてくれ!

天野勇二

ああ、早くしろ。
俺様は気が短いんだ。


 金髪の男は青ざめ、ゆっくり拳銃を置いて左手を上げた。

 右肩は上がらないのだ。


天野勇二

それでいい。
ご褒美をくれてやろう。




 パン! パン!




金髪の男

ぐああああッ!


 本当に非情なクソ野郎だ。

 もう抵抗の意思を示してないのに、金髪の男の両足を撃ち抜いた。


天野勇二

やかましいな。
急所を外してやったんだから騒ぐんじゃねぇよ。


 天野は拘束していた男を蹴り飛ばし、金髪の男が置いた拳銃を拾った。


 こちらもベレッタだ。


 片方を白衣のポケットに突っ込み、さらに男たちを脅す。


天野勇二

おい貴様ら。
誰に頼まれて俺を拉致らちしようとした?
誰の差し金だ?


 浅黒い肌の男は必死に口を開いた。


浅黒い肌の男

そ、それは言えない。
殺されても、言わん……。

天野勇二

ならば死ぬか?
これはお前らの銃。
お前らを撃ち殺したところで足はつかないんだ。
本気で殺してやるぞ?
冗談だと思うなよ。


 殺気を放ちながら脅す。


 それでも2人の口は開かない。


 天野は仕方なく、浅黒い肌の男の肩口を撃ち抜いた。




 パン!




浅黒い肌の男

うぎゃああ!

天野勇二

チッ……。
頭を狙ったのに肩に当たってしまった。
まだ目撃者はいない。
さぁ、次は頭を撃ち抜いて殺すか。


 天野が残念そうに告げると、金髪の男が叫んだ。


金髪の男

待ってくれ!
し、知らないんだ!
俺たちは金で頼まれただけなんだ!

天野勇二

誰に頼まれたんだよ?

本田組ほんだぐみだ。
それ以上のことはわからない。

天野勇二

本田組?
知らない名だな。
存在しない組をでっち上げるとは、いい度胸してやがるぜ。

金髪の男

ち、違う!
本当なんだ!
本当にある組なんだ!

天野勇二

わからんな。
2人共、グラサンをとれ。


 2人は激痛に呻きながら、涙目でサングラスを外した。


 それなりの外見に見せているが、まだ若い男たちだ。


天野勇二

それで、何という組だ?

金髪の男

本田組だ!
本当にあるんだ!
それ以上はわからない!


 天野は瞳を見ることで、ある程度の心理を読み取ってしまう。


 嘘を吐いている瞳ではない。


 男たちは金で雇われたチンピラ。


 しかも若手の下っ端だ。


 大した情報を持たされていないだろう。



 天野は拳銃を突きつけ、激しく脅した。


天野勇二

いいか貴様ら。
俺様は人の命を奪うことなんて何とも思ってないんだ。
この大学で死を沢山拝んできたからな。
貴様らごときを殺すことなんてワケねぇのさ。

今日は見逃してやる。
だが次はないぞ。
次に顔を見せれば殺す。
俺様の視界から消えろ。


 2人の男はその言葉を聞くと、互いの体を支え合いながら逃げ去った。


 天野は満足気にその後ろ姿を見送り、呆れたように呟いた。


天野勇二

やれやれ……。
物騒な世の中になったな。
こんな『オモチャ』を大学で振り回しやがって。


 拳銃を白衣のポケットに放り込む。

 そして不敵な笑みを浮かべた。


天野勇二

さて、どこのどいつが俺様を狙ってやがるのか……。
妙なことになってきやがったぜ。




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つばこ

皆様にお伝えするのを忘れておりましたが、今回の天野くんはかなり過激です。
むしろ過激な『クソ野郎っぷり』が本エピソードの目玉です。恐らく沙織ねえさんとの微妙な関係が相当なストレスだったのでしょう。
後半戦、かなりはっちゃけます。
リミッターの外れた天野くんにご注目いただければ幸いです( *`ω´)グフフ
 
さて、昨日は3月14日。ホワイトデーでしたね。
素敵なお返しを貰ったり、何を返すべきか悩んだり。
ボーイズアンドガールズの皆様は忘れられない1日になりましたか?
バレンタインデーに何もなかったつばこにとっては、特に思うことのない1日ですが、読者の皆様がハッピーならそれでいいんです!
 
いいんです!
リアルが貧困でもいいんです!
つばこの物語を読んでいただけるなら、それだけでいいんです! 
いつもオススメやコメント、本当にありがとうございます!。゚ヽ(゚`Д´゚)ノ゚。ウァァァン

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コメント 178件

  • そのみん

    派手で軽薄な赤って言葉が素敵すぎる

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  • phenyl

    クソ野郎「拳銃なんて初めて見るぜ。俺様は素人だからな。暴発するかもしれねえぞ」

    大嘘ついてんじゃねぇよ!!!!!!!!!!

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  • ゆんこ

    金髪の男のアイコンが黄色でワロタw

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  • まこと

    胸の悪くなる展開から一気に天才クソ野郎展開へ!待ってました!

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  • ゆめおぼろ@天クソ/パステル

    この前自分で喧嘩うったやつじゃないんですかねぇwww

    今回で、天野くんが胡桃を溺愛してる理由が分かったかもしれない

    正確には元々溺愛してて、心が壊れたからこそ、妹は絶対に守る、同じ過ちをさせないって思ってるから
    かろうじて天野くんに残ってる心の部分なんだと思う

    それを、天野くん自身なんとなく分かってるから、1番大切にしたいんだと思う
    妹まで離れてしまったら今度こそ兄と同じ道を辿るんじゃないかってね。

    ぼくも近い境遇にいるから
    そんな感じなのかなって思う。

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