その日の夜。


 天野は「とある車」を用意して、『如月家』へ向かった。


 というのも、沙織は以前から、


如月沙織

家に夕食を食べに来ませんか?
お父様に勇二くんをきちんと紹介したいの。


 と、散々ねだっていたのだ。


 天野はこれまでのらりくらりと避けていたが、さすがに「もう逃げきれない」と諦めた。


 そのため『ひとつの作戦』を用意して挑むことにしたのだ。


天野勇二

よし……。
一発かましてやるぜ……。


 田園調布にそびえ建つお屋敷。

 門の前に車を停め、インターフォンを押す。


天野勇二

天野です。
沙織さんに招待されて参りました。


 広い門が自動で開く。

 しばらく待っていると、メイドが1人やって来た。


メイド

お待ちしておりました。
どうぞお入りください。


 天野は困ってしまった。


天野勇二

(チッ、使用人を迎えに寄越よこすのか。ねえさん自ら来て欲しかったのだが……)


 いきなり作戦のアテが外れてしまった。

 舌打ちしながら呟く。


天野勇二

……仕方ない。
『プランB』だ。


 その瞬間、車の影から覆面を被った人影が飛び出した。

 長身の男と、小柄な女性らしき2人組みだ。


メイド

……あら?
ど、どちら様でしょうか?


 長身の覆面が素早くメイドに飛びかかった。


メイド

ひゃあっ!
は、離し……!

……もがもが……!


 長身の覆面がメイドの口を ふさぐ。

 そして、 『拳銃』を頭に押し付けた。


天野勇二

お、おい!?
お前らはなんだ!?
何をしている!


 狼狽うろたえる天野。

 長身の覆面は楽しそうに言った。


長身の覆面

うるさいよ。
アンタも拳銃で狙われてんだ。


 見ると、背の低い覆面が拳銃を天野に突きつけている。


 天野はゆっくり両手を上げながら尋ねた。


天野勇二

お前ら……。
いったい何者だ。
何が目的なんだ?

長身の覆面

如月沙織をここまで呼べ。
従わなければ、このメイドちゃんの命はないよ。


 メイドのこめかみに拳銃を押し付ける。

 哀れなメイドは涙目で震えていた。


天野勇二

如月沙織を!?
沙織ねえさんを呼んでどうするんだ?

長身の覆面

それ説明する必要ある?
ないよね?
無駄口を叩いてるとアンタも撃ち殺すよ。

天野勇二

わ、わかった……。
如月沙織を呼ぶ。
手荒な真似はやめてくれ。

長身の覆面

ふん、早くしなよ。


 天野は相手を刺激しないよう、ゆっくりとインターフォンを押した。


如月沙織

はい、如月です。


 沙織の声だ。

 天野は安堵して語りかけた。


天野勇二

ねえさん……。
悪いんだけど、ここまで迎えに来てくれないか?

如月沙織

えっ?
メイドを呼びに行かせたけど……?

天野勇二

あ、ああ……。
だけど、ねえさんに出迎えて欲しいんだ。
頼むよ。

如月沙織

わかりました。
今行きますね。


 天野はインターフォンが切れるのを確認すると、長身の覆面に尋ねた。


天野勇二

如月沙織に用があるのか?
まさか、お前らの目的は誘拐か?


 長身の覆面は門の死角まで移動すると、ケラケラ狂ったように笑い声をあげた。


長身の覆面

ぎゃははははは!

誘拐?
そんなメンドーなことしないよ!
僕は如月沙織をぶち殺したいんだ!
金持ちのお嬢様をズタボロに汚してなぶり殺しにするんだよ!

僕ちゃんとのパコパコオールナイトでフィーバーして、アンアンヒィヒィ泣かせて、ズタボロになぶり尽くした後に殺してやるんだよぉぉ!


 天野は怒ったように目で訴えた。


天野勇二

下品ゲスすぎる。もっと言葉を選べ)

長身の覆面

(うん、ちょっと言いすぎたね。ごめんよ)


 天野は悔しそうに唸った。


天野勇二

くそっ! お前ら!
そんなことをして、ただですむと思うなよ!

長身の覆面

安心しなよ!
お前も殺してやるからさ!
ぎゃはへへへ!!!


 長身の覆面が叫び終えた時、沙織が門から顔を出した。


如月沙織

勇二くん。
お待たせしました。


……あれ?


 沙織は驚いて目を丸くした。



 両手を上げている天野。


 覆面姿の人間が2人。


 メイドは背後から拘束され、拳銃を押し当てられている。



長身の覆面

動くな!!!


 長身の覆面はメイドを突き飛ばし、沙織に拳銃を突きつけた。


長身の覆面

これで撃ち殺すよ!
両手を上げな!


 沙織はワンテンポ遅れて状況を理解した。


 怯えた表情を浮かべ、静かに両手を上げる。


 長身の覆面は沙織を羽交い絞めにすると、こめかみに拳銃を突きつけた。


長身の覆面

ヒャッハー!
良家のお嬢様だぁ!
パコってぶち殺しちゃう!
生まれたことを後悔するくらいの はずかしめにあわせてやるぅぅ!


 突き飛ばされたメイドが叫んだ。


メイド

お嬢様!
逃げてください!


 素早く低身長の覆面がメイドに拳銃を向ける。


 メイドは「ひぃ!」と悲鳴をあげた。

 

 その隙を天野は見逃さなかった。


天野勇二

おらぁ!


 天野が獣のように飛びかかった。

 長い脚を振り上げる。

 低身長の覆面が持っていた拳銃を高く蹴り飛ばした。

 

天野勇二

なめんなぁコラァ!


 大振りなアッパーカットを繰り出す。


低身長の覆面

うぎゃあ!


 低身長の覆面は派手に飛び上がり、車のボンネットに着地すると、車体の向こう側まで転がっていった。


天野勇二

逃がすかよ!


 天野はボンネットを滑って向こう側に行き、狂ったような雄叫びをあげた。


天野勇二

ひゃはははははは!

ナメてんじゃねぇよ!
俺様は天才クソ野郎だ!
お前みたいなヤツの処刑なんて大したことねぇ!

このクズが!
死にやがれ!
オラオラオラァァァ!


 狂気に満ちた叫び声。

 足を何度も踏み上げ、何かを踏み潰している。




 ガシュガシュブチュブチュ




 沙織からは何を踏み潰しているのか見えない。

 ただ、天野が足を振り下ろす度に、気味悪い音だけが響く。


天野勇二

……ふん。
こんなものだろう。


 天野は満足気に頷くと、またボンネットを滑って長身の覆面の前に戻った。


長身の覆面

ち、近づくな!
この女が殺されてもいいのかよ!?


 天野は両手を広げながら叫んだ。


天野勇二

ギャハハハハハッ!

グダグダうるせぇんだよ!
俺様はお前のような変態と交渉する気なんかねぇ!

殺す?
殺したければ殺せよ!
ただ、お前も死ぬぜ!
俺様は柔術、合気、空手、骨法をマスターした殺戮兵器だ!

お前の全身の骨をバラバラにへし折り、肛門にデカイ穴を空けてぶち抜いて、腸も内臓も引きずりだし、死肉と骨と腐った便を路上に撒き散らし、その上でタップダンスを踊ってやるよ!


 長身の覆面は思わず目で訴えた。


長身の覆面

(うわぁ。それちょっと 下品グロすぎない?)

天野勇二

(そうだな、言い過ぎた。すまん)


 長身の覆面は悔しそうに天野に拳銃を向けた。


長身の覆面

だったら、お前から死……

うわぁっ!


 天野の長い脚が弧を描く。

 長身の覆面が持っていた拳銃を弾き飛ばした。


天野勇二

おらよっと!


 長身の覆面に飛びかかる。

 巴投ともえなげで後方に放り投げた。


長身の覆面

うひゃああああ!


 長身の覆面は車まで投げ飛ばされた。

 よろよろと立ち上がる。


天野勇二

オラオラオラオラァ!


 天野が激しい連打を繰り出した。

 エルボーを長身の覆面に叩きつける。


長身の覆面

ぎゃぁ!


 カチ上げるようなエルボー。

 回転エルボー。

 逆水平チョップの連打。

 リズミカルな膝蹴り。

 マシンガンジャブ。

 往復ビンタ。

 サミング。

 アッパーぎみの掌底。


長身の覆面

うげぇ! いたい!
やめて!
マジで痛い! マジで!


 袈裟斬りチョップの嵐。

 バックハンドブロー。

 車に押し込むようなスピアー。

 ショルダータックル。

 ニーリフト。

 空手チョップの乱れ撃ち。

 ソバット。


長身の覆面

いたっ! 痛いって!
ぎゃあ! 痛い!
やめてぇぇ!


 天野は左右から掌底を浴びせ、高らかに叫んだ。


天野勇二

オラァ!!!

この! 外道が!
泣け! 叫べ!
そして死にやがれ!

必殺!
スィート・チン・ミュージックだ!


 天野は軽くステップを踏むと、顎先を狙ったトーラスキックを放った。


長身の覆面

ぎゃあああああ!


 長身の覆面が威力を受けたように後方にジャンプする。

 車のルーフまで飛び上がった。


天野勇二

アーーーーーッハッハッハッ!

この天才クソ野郎の恐ろしさを見たか!
俺様は極悪の殺戮兵器なんだよ!

力なき正義は無力!
正義なき力は暴力!
俺様こそ暴力を司る破壊の神だ!

俺様の処刑がこれで終わると思うなよ!


 天野はルーフに飛び乗ると、長身の覆面を掴みながら囁いた。


天野勇二

(いくぞ。頭を打つなよ)

長身の覆面

(オッケー。まかせてよ)


 天野はパワーボムの体勢に入った。

 長身の覆面の腰をガシッと掴む。


天野勇二

くらいやがれぇ!
これが『シットダウン式・ライガー・天野ボム』だぁ!


 長身の覆面を高く持ち上げる。


 天野は軽くジャンプし、両足を大きく広げた。


 自らの尻からルーフに着地する。


 ワンテンポ遅れて、長身の覆面の背中を叩きつけた。






 グシャン!!!







 車は天野のパワーボムで呆気無く潰れた。


 そして、中央から真っ二つに折れた。


 ガラスの破片などが周囲に飛び散る。



如月沙織

あ、ああ…………。



 沙織もメイドも壮絶な展開に腰を抜かしていた。


 凄まじい処刑の光景だ。


 天野は散々攻撃した後に、敵を自分の車に叩きつけ、完全粉砕したのだ。


 なかなか生で拝める光景ではない。


長身の覆面

ち、ちくしょう!
覚えてろ!


 長身の覆面は倒れていた低身長の覆面を抱えると、一目散に走って逃げ出した。


 天野は中指を突き上げながら叫んだ。



天野勇二

見たか!
これが天才クソ野郎だ!

俺様にかかれば貴様らなんて雑魚なんだよ!
次は百人ぐらいつれてこい!
俺様という殺戮兵器は甘くねぇぞ!
次も貴様らのケツをしばき倒してやる!

天才クソ野郎、かく語りきだ!



 一通り叫ぶと満足したのか、天野は「ふぅ」と息を吐いた。

 ギロリと沙織を睨みつける。

 哀れなお嬢様はガタガタ震えている。


メイド

け、警察を!


 メイドが慌てて立ち上がった。

 天野はそれを片手で制する。


天野勇二

やめておけ。
もう逃げた。
通報しても無駄なことだ。

メイド

そ、そうですか……?

天野勇二

ああ、まったく……。
こんな住宅街で襲撃を企てるとはな。
物騒な世の中になったぜ。


 天野は身体についたガラスの破片を払うと、真っ青な顔で震えている沙織に、何事もなかったかのように声をかけた。


天野勇二

ねえさん、怖いところを見せたな。
だが、俺はこんな人間だ。
これが『天才クソ野郎』と呼ばれる 所以ゆえんなのさ。

俺は野蛮そのもの。
極悪そのもの。
暴力と過激に 魅入みいられた野蛮人。

こんな俺と付き合えば、絶対に後悔すると言ったはずだ。


 天野は心の中で呟いた。


天野勇二

(クックックッ……。ビビッてやがる。涼太に前島、よくやった。名演技だったぞ)


 もうご理解いただいていると思うが、先ほどの襲撃者は 涼太前島だ。



 全てはお芝居。


 涼太たちのことも本気で殴ってはいない。


 車の上でのパワーボムは天野が尻から着地したので、涼太のダメージは少ない。


 潰れた車もクッション代わりになっている、という訳だ。



如月沙織

す、す、す、す、す……。



 沙織が震えながら口を開いた。



天野勇二

すげぇ怖いだろ?
なぁ? 言ったろう?
もう俺様には近づかないことだな。

如月沙織

す、す、す……。


す、す、す……。


すすすっ……!



 沙織は何度か深呼吸すると、大声で叫んだ。



如月沙織

素敵です!

勇二くん!
凄くカッコイイ!

天野勇二

……なに?

如月沙織

もう素敵すぎます!
私、ますます勇二くんが好きになってしまいました!

天野勇二

え、えぇ?

如月沙織

私のためにあそこまでしてくれるなんて……!
私を守るナイトみたい!

天野勇二

は、はぁ!?

如月沙織

いいえ!
勇二くんは、王子様!
私の王子様です!
やっぱり勇二くんのこと、大好きです!

天野勇二

う、うそでしょぉ!?


 天野は愕然がくぜんとしながら、瞳を輝かせる沙織を見つめていた。





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つばこ

「いやー、迫力のあるラフファイトでしたねぇ。解説のつばこさん」
「本当ですね。これこそハードコアマッチ。路上プロレスの醍醐味を見せてもらいました」
「まさか車上でパワーボムを繰り出して、自分の車を真っ二つにへし折るとは!(笑)」
「もったいないですよね(笑)現代プロレスではなかなかお目にかかれないので、お客さんも大満足だったことでしょう」
「覆面選手の去り際も美しかったですね」
「ええ、どれだけ傷めつけられても、最後は自分の足で帰るのがレスラーというものです。それに何だかんだあっても拳銃を撃たなかった、というフェアプレイも賞賛したいですね」
「放送時間も迫って参りました。総括をお願いいたします」
「プロレスラーたるもの、愛車を破壊してでも敵を倒す、という闘志を教えてくれた名勝負でした」
「ありがとうございました。まだ熱闘の興奮冷めやらぬ田園調布特設リングからお別れいたします。さようなら!」

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コメント 411件

  • たけっち

    今ならラストオブザ天野ドラゴンでフィニッシュやろうなぁ

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  • そのみん

    お嬢様ほっぽって逃げ出す方がよかったのでは?

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  • rtkyusgt

    28でここまで脳内お花畑とかムリ。

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  • うん、知ってた

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  • るー

    ときどき涼太と天野くんが目で会話してんのすごく好き

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