※この物語はフィクションであり、実在の人物及び団体とは一切関係ありません。

『天才クソ野郎の事件簿』

「彼が上手に名探偵になる方法」



佐伯涼太

うぅ……。困ったよう。
本当に困ったよぅ……。



 その夜、涼太りょうたは激しく困惑していた。



 そもそもの発端は夕方。


 渋谷で1人の娘をナンパして、道玄坂のホテルに連れ込み、それなりの行為に励んだのはいいが、女の子がよりにもよって、とんでもない場所に帰りたいと言い出したのだ。


佐伯涼太

それすごく遠いじゃん。
また今度にしようよ。


 女の子はグズグズ泣きながら叫んだ。


女の子

帰りたい!
帰りたいの!
家出したのが間違いだった!


 娘は秦野はだのの山奥から家出していたそうだ。


 家出の理由は単純なこと。

 両親との喧嘩だ。


 涼太が優しく慰めてあげた結果、自らの家出が間違っていたと後悔してしまったのだ。


佐伯涼太

それじゃ渋谷駅で降ろしてあげるよ。
後は電車を乗り継いで1人で帰ってね。
バイバイキーン☆


 そんなこと、フェミニストの涼太には言えない。

 何せ娘は一文無し。

 渋谷から新宿まで移動することも出来なかった。


佐伯涼太

困ったなぁ。
君は誰かに騙されそうだ。
この街は『家出娘』を喰い物にする連中が多いからなぁ……。


 出会ってほんの1時間でホテルに連れ込まれた娘だ。

 涼太のようにタチの悪い男に引っかかる可能性が高い。


 涼太は諦めて告げた。


佐伯涼太

はぁ、しょうがない。
僕が家まで送ってあげるよ。

女の子

えっ! いいの!?
ありがとう!


 そんなやり取りがあり、涼太は神奈川県秦野市の山奥を目指した。


 ツイてないことに、その日は大雨洪水警報発令中。

 ただでさえ遠いのに、凄まじいほどの嵐が行く手をさえぎる。


 結局、家まで3時間もかかった。

 その間、女の子は後部座席で爆睡ばくすいしていた。


佐伯涼太

ほら、家に着いたよ。

女の子

……あっ! ホントだ!
お母さんごめんなさい!


 娘はすぐさま家の中に飛び込んだ。

 そして、もう出て来ることはなかった。

 両親すら挨拶に出て来なかった。


佐伯涼太

なんだよもう!
ガソリン代ぐらい出すのが礼儀でしょ!


 もう時刻は深夜。

 そして大雨だ。

 これから東京に帰るのかと思うと、涼太は激しく憂鬱だった。


佐伯涼太

はぁ……。
でも明日は1限から授業だ。
帰らないと……。


 薄情な娘の家を後にして東京を目指す。


 凄まじい暴風雨。

 事故らないように車を操る。


 そして、ツイてないことは重なるもので、ナビが山道の途中でおかしくなった。


佐伯涼太

ちょ、ちょっと!
ウソでしょ!


 何度も電源を切ってナビの修復に励む。

 しかし、ナビは検討違いの方向を示し、やがて電源すら入らなくなった。


佐伯涼太

うわぁ……。
困ったよぅ……。
スマホも圏外じゃん。
超最悪じゃん。
なんで高級車なのにナビがイカれちゃうのさぁ……。


 涼太は山道の途中でため息を吐いた。


 完全に迷子だ。


 そして嵐が収まる気配はない。


 涼太は野生のカンを信じて車を操った。


佐伯涼太

くそっ!
やっぱりセンチュリーちゃんはナンパに向いてない!
僕に向いてない!


 とある事情により、涼太の愛車は超高級車であるセンチュリー。

 (詳しくは『彼が上手にお姫様を守る方法』を参照)

 視界は狭く車体は長い。

 山道を走るには不便すぎた。


佐伯涼太

標識!
標識が見つからない!
なんでないの!
東京はどこ!?
僕のホームタウンに帰りたいよぉ!


 やがて「ゴゴゴ……」と、唸るような地響きが聴こえた。


佐伯涼太

うわあぁぁぁぁ!

道が!

道が落ちる!!!


 目の前で土砂崩れが起きた。


 道が土砂に巻き込まれようとしている。


 ブレーキを踏んでも間に合わない。



 涼太はイチかバチか、アクセルを思い切り踏み込んだ。





 ズゴゴゴゴゴ……





 センチュリーは何とか土砂を乗り越えた。


 振り返ると、もう道そのものがない。


 土砂に巻き込まれ、崖下に落ちている。


 あと1秒遅かったら死んでいただろう。


佐伯涼太

ひぃぃぃ!
危険だ!
この道にいるのは危険!
早く逃げなきゃ!


 涼太は山道を走り続けた。


 遠くで地面が唸る音が聴こえる。

 雷や雨の音も凄まじい。


 涼太は神に祈った。


佐伯涼太

神様!!!
僕はまだ死にたくない!
まだパコりたいんです!

パコパコが、したいです!

こんなところで死ねるか!
ここで死ぬのが僕の運命なんかじゃない!
いつか僕も死ぬ時が来る!
パコる日々も終わる!

だが、今日ではない!!!


 その祈りが神に届いたのだろう。

 山道の先に、一軒の明かりが見えた。


佐伯涼太

おおおッ!
家だぁ!
しかも民宿だァァ!!


 まだ明かりが点いている。

 人は起きているはずだ。

 涼太は迷うことなく民宿の前に車を停めた。


佐伯涼太

誰かぁ!!!
誰かいませんか!?


 民宿の中に飛び込む。

 すると、奥から割烹着かっぽうぎ姿の女性がやって来た。


割烹着姿の女性

え、は、はい!?
な、何でしょうか!?

佐伯涼太

ああ! 人だぁ!
道に迷ったんです!
東京までの道を教えてください!

割烹着姿の女性

み、道ですか?
いや、あの、その……。
え、えぇ……?


 割烹着姿の女性は真っ青な表情を浮かべ、涼太の顔を覗きこんでいる。

 随分と動揺している様子だ。


 涼太は小首を傾げながら尋ねた。

 

佐伯涼太

いや、だから道を教えてくれませんか?
東京に帰りたいんですよ。

割烹着姿の女性

いや、東京だったら、山道を下れば国道に出るので、そのまま帰れますけど……。

佐伯涼太

えっ!?
上って来ちゃいましたよ!
この先から東京に行けないんですか!?


 女将は真っ青のまま首を横に振った。


割烹着姿の女性

この先は行き止まりです。
登山口しかありません。

佐伯涼太

マジで!?
道が途中で崩れ落ちちゃったんですよ!
もう下れませんよ!


 涼太が叫ぶと、民宿の中から『3人』の人間が飛び出した。


???

み、道が崩れ落ちた、だって!?


 3人の中の1人。

 体格の良い男が尋ねた。

 ハタチ前後の若い男だ。


佐伯涼太

ええ、道が土砂で押し流されちゃって。
あれはしばらく通行止めになりますね。

体格の良い男

そ、そんな……。
それじゃどうすればいいんだよ……。

佐伯涼太

困りましたよねぇ。
他に下る道はないんですか?


 涼太が尋ねると、割烹着姿の女性は静かに頷いた。


割烹着姿の女性

車が通れるような道は、もうありません……。

佐伯涼太

はぁ……。
それじゃ今夜は帰れないのか……。

まっ、仕方ないね。
えっと、あなたがここの女将さんですか?
今晩泊めてもらえません?


 割烹着姿の女性は何も答えず、ガタガタと震えている。


佐伯涼太

……あれ?
どうしました?


 涼太はきょとんと周囲を見渡した。

 全員の顔が真っ青だ。


 この場にいるのは4人。


 割烹着姿の女性。

 先ほど涼太に声をかけた男。

 メガネをかけたロングヘアーの娘。

 細身のショートカットの娘。


 それぞれがこの世の終わりでも迎えたような、絶望に満ちた表情を浮かべている。





 ジリリリリン!





 民宿の電話が鳴り響いた。

 割烹着姿の女性が慌てて電話に出る。

 何度か頷き、残念そうに言った。


割烹着姿の女性

そ、そうですか。
わかりました……。
なるべく早く、お願いします……。


 受話器を置く。

 ショートカットの娘が詰め寄った。


短髪の娘

警察からですか!?

割烹着姿の女性

ええ……。
道が土砂崩れで崩壊して、来るのに時間がかかるそうです……。


 女性2人が、力なくその場に崩れ落ちた。


短髪の娘

うわぁぁぁ!
そんな!
ウソでしょぉぉ!

メガネの娘

なんで……。
どうして、こんなことに……。


 体格の良い男が狂ったように叫ぶ。


体格の良い男

なんでだよ!
人があんなことになってんのに、警察は来ないのかよ!


 涼太はきょとんとその光景を見つめた。


佐伯涼太

(なんだろ? みんな何を大騒ぎしてるのかなぁ?)


 小首を傾げながら、割烹着姿の女性に尋ねる。


佐伯涼太

ねぇ、あなたがここの女将さんですよね。
素泊まりいくらですか?
できればお風呂に入りたいんですけど。


 割烹着姿の女性は震えながら叫んだ。


割烹着姿の女性

い、い、今!
それどころじゃないんですよ!

佐伯涼太

えっ?
ここ民宿でしょ?

割烹着姿の女性

そ、そうですけど、大変なことが起きてるんです!

佐伯涼太

大変なこと?
なんですかそれ?


 困惑する涼太を見て、体格の良い男が口を開いた。


体格の良い男

見てもらったほうが早い。
こっちに来てくれないか。


 ついて来い、と手招きしている。

 涼太は何度も首を傾げながら、とりあえず従うことにした。


 男は額の汗を拭いながら名乗った。


体格の良い男

俺たちはT海洋大のワンダーフォーゲル部なんだ。
俺は3年。
村松侑輝むらまつゆうきという。

佐伯涼太

あらそう。
僕は佐伯涼太。
大学はね……。


 大学名を告げながら奥に向かう。

 それほど広くない民宿だ。

 奥には食事を取るようなリビングらしき部屋があった。


 4人がけのテーブルキッチン

 1人の男が座り、机に倒れこんでいる。

 眠っているのだろうか。


 村松と名乗った男は、その光景を指さした。


村松侑輝

あれだ……。
こんなことが起きてるんだ……。

佐伯涼太

はぁ?
こんなこと?
酔い潰れちゃったの?

村松侑輝

違う。


 村松はため息を吐きながら言った。




村松侑輝

……死んでいるんだ。




 涼太は村松を見つめた。


 死んでいる。


 すんなり脳に入るほど、現実的な言葉ではない。


佐伯涼太

……へぇ?
はぁ?
ほぇ?
ほ、本当に?

村松侑輝

ああ、本当だ。

佐伯涼太

なんで?

村松侑輝

そ、そんなのわからねぇよ……。


 涼太はゆっくり「死んでいる」という男に近づいた。


 眠っていると思ったが違う。


 苦悶の表情を浮かべ硬直し、目を見開き、口から泡を吹いている。


佐伯涼太

えっ……。
な、なにこれ……。


 思わず脈をとった。


 反応はない。


 目立った外傷は見当たらない。


 心臓発作か脳卒中でも起こしたのだろうか。


佐伯涼太

こ、この人は病気でも持ってるの?
救急車は呼んだ!?


 村松はゆっくり首を横に振った。

 テーブルの上を指さす。

 緑茶の入ったカップが『5つ』並んでいる。


村松侑輝

お茶を飲んでいる時に、突然苦しみ出して、泡を吹いて倒れたんだ。

佐伯涼太

はぁぁ!?
な、なんでこのままなのよ!?
救急の知識ぐらいあるでしょ!


 村松は辛そうに口を開いた。


村松侑輝

コイツは 山根やまねってヤツなんだが、死ぬ直前、苦しみながら言ったんだよ……。

『殺された』ってな。


 涼太はガタガタ震えながら、山根の死体を見つめた。


佐伯涼太

なにそれ!!!
さ、殺人ってこと!?

村松侑輝

ああ、そうかもしれない。
下手に触らないほうがいいと判断したんだ。
君がここに来る、ほんの数分前のことだよ……。


 お茶を飲んでいた。

 つまり『毒殺』の可能性がある。

 人工呼吸は危険だ。

 心臓マッサージなんて、恐ろしくて誰もしたがらなかったのだろう。


 涼太は当然の疑問を投げた。


佐伯涼太

誰が殺したのさ!?

村松侑輝

だから、そんなのわかんねぇって!


 村松は我慢の限界だったらしく、大声をあげて叫んだ。


村松侑輝

俺たちも女将さんも、全員で『同じお茶』を飲んでいたんだ!

そしたら突然、山根だけが死んだ!

誰が毒を盛ったのかわからないんだよ!!!


 涼太は山根の死体を見ながら頭を抱えた。


佐伯涼太

ウ、ウソでしょ……。

ここに『天才クソ野郎』はいないんだよ!

誰が犯人を捕まえるのさぁ!!!


この作品が気に入ったら「応援!」

応援ありがとう!

5,744

つばこ

どうも、つばこです。
今週もお読みいただきありがとうございます。
 
 
涼太「誰が犯人を捕まえるのさぁ(´;ω;`)」
つばこ「お前だよ( ゚д゚)」
 
 
とってもベタな展開ですが、涼太くんは殺人事件に巻き込まれてしまったようです。
探偵役が天野くんであれば、
「どうせ目を見るだけで犯人を見抜いて最後は暴力で解決だろ」
と思えるのですが、涼太くんが探偵役だった場合、いったいどうなってしまうのでしょう……。
 
頑張って涼太くん!
殺されないように頑張って!
チャラカッチョイイところを見せておくれよ涼太くん!!!
 
ではでは、いつもオススメやコメント、本当にありがとうございますヽ(*´∀`*)ノ.+゚

この作品が気に入ったら読者になろう!

コメント 261件

  • にゃんたろす

    小学生の頃はあんなにかわいく純粋だった涼太がパコパコ言ってる…(引

    通報

  • syosuke

    想像以上に下半身野郎だな涼太君w

    通報

  • 太宰雅

    涼太の生命力・・・底知れない。
    確かに、一番死ななそうなキャラではあるな。

    通報

  • 千花音(ちかね)

    ところで、山奥の実家に帰りたいよーお母さーん、と泣きついた家出少女は何歳よ?

    まさか、未成年やあるまいな?

    しかし、状況と言動的には…

    お巡りさん、買○の犯人はコイツです。
    毒殺の犯人は知りません。

    通報

  • なゆ

    パコパコが、したいです!
    で盛大に吹いたわwww
    ひっどいなぁもうwwwwww

    通報

関連お知らせ

オトナ限定comicoに移動しますか?
刺激が強い作品が掲載されています。

  • OK