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悪堕ち〝元〟魔法少女は怠惰な日常を変えたいみたいです。 〜 毎日毎日しっぽりだけでは流石に飽きてしまいますの 〜 作者:ちむちー

第1章【導入編】

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うわっ…私の明順応、遅すぎ…?

 


 灯りのついていない薄暗い部屋。ふと目に入った窓の外には映るものは何もなく、今まさに夜の帳が下りようとしていることを告げております。



「……はぁ……」


 廊下から漏れ入る光を眺めながら、(わたくし)はただただ溜め息を吐くばかり。


「……手持ち無沙汰ですわ……」


 空虚な私の声はこの殺風景な部屋の壁から向かいの壁へと反射して辺りを彷徨い、次第に色艶を失っていきます。


 目を閉じ、そのままばたりと後ろに倒れ込みました。ここはベッドの上です。高品質なマットレスが程よい弾力で柔らかく跳ね返してくれます。


 瞼の隙間からうっすらと見えるのはベッドの天蓋です。吐息の当たったシルクのレース覆いは私をあしら笑うかのようにヒラヒラと揺れております。身に纏う黒のネグリジェと一体化して、私自身がベッドの一部になってしまったかのようです。


 手に触れるシーツをやおら撫でてみても無機質でサラサラとした感触が返ってくるばかり。寝返りを打ってもそれはあまり変わりません。



「……正直、退屈でございますわ……」


 個人の部屋を用意していただいているばかりか、こんなに広くて素敵なベッドでご主人様のご寵愛を受けられるのは大変に喜ばしいことなのですが、生憎、今日はその日ではございません。


 悲しいことに、今からその時を思って一人身を焦がすような気分にもなれません。こんな女にも節度というものはございます。雰囲気というものもございます。オンとオフのスイッチで例えるならば今はオフの気分。


 この点いつでも見境なくお猿さんになれる同期の茜さんが羨ましく思えますわね。モチロンああはなりたくはないのですが。

 疲れも飽きも知らない身体にしていただいているとはいえ、毎日毎日あの様子ではさすがに疼くものも無くなりそうなものなのに。


 それにほら、背徳的な行為とは、溜めに溜め抜いたからこそ、こう……下半身にグッとくるものでしょう?


あらやだ、私ったら、なんてはしたないっ。



「……くすっ」


 思わず口から微笑みが溢れてしまいます。はしたないなんて言葉では到底足りないくらいに、まして淑女というにはあまりに汚れすぎてしまっているというのに。


 おっと、いきなりの回想は置いてけぼり感満載になりそうですわね。後々に温めておいた方が美味しく熟しそうな気がしますわ。



 私はもうお利口な犬ではありません。清き魔法少女ではなく、今はワガママを覚えてしまった、哀れな雌猫。

それほどまでに私はもう自由に染まりきってしまったのです。また以前の生活に戻ってよいと言われても、私には間髪いれずにお断りさせていただく自信があります。



 そう。例えこの自堕落で何もない毎日がこれからも続くとしても、自らこの生活を選んだのです。




 いや、それでもですね。この生活においてご寵愛いただく以外に本当にすること成すことが何も無いというのは如何なものでしょう。待ちぼうけしていられるのならそれでよいのですが、かといって眠りに入るにはまだまだ到底早い時間です。


 ああ、そうですわ。こんな気分のときは散歩に出るのはいかがでしょう。別に出歩きを禁止されているというわけでもありません。


 ここから逃げ出すだなんて気はもちろんありませんし、毛ほども思われていないでしょう。



「……遅くなる前に帰ってきませんと」


 一体化していたベッドから抜け出し、床を引きずりそうな裾を巻きたくし上げながら、扉へと歩みを向けます。


 ドアノブに手にかけ、捻りまして。

 溢れる光が目に眩しいですわ。



 うわっ、私の明順応、遅すぎ……?


 うふ、冗談です。部屋の外はまだまだ明るいようで。まったく夜を知らないのかしら。ちょっと散策してみましょう。


 何を隠そうこの施設は悪の秘密結社のアジトの最奥部。決して表舞台には上がらないアングラ中のアングラ空間。そして私の住むここは、その人員駐在域、通称「上級社員寮」なのでございます。

 

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