黒崎からの電話、その1時間後。


 天野はミニバンを操り外務省に向かった。


 正門に近づき、警備の人間に声をかける。


天野勇二

黒崎に呼ばれて来た。
天野というものだ。


 黒崎から貰った名刺を手渡す。


 警備の人間は駐車場を案内し、そこに向かうよう告げた。



天野勇二

(さて、何が出てくるのかね……)



 ミニバンが駐車場に入る。


 かなり広い駐車場だ。


 何台かの高級車が停まっており、見通しは悪い。


 ほのかに照明があたりを照らしているが、奥や隅までには光が届いていない。


 人が隠れるには恰好の条件が揃っている。


 そして駐車場の中央には1人の長髪の男……黒崎が立っていた。




 天野はゆっくりミニバンを降りた。


 黒崎と向き合う。


天野勇二

無事だったか。
なかなかタフなスパイだな。

黒崎

ああ、コイツのおかげでな。


 黒崎は胸の防弾ベストを指さした。


黒崎

しかし、金城は頭部と脚に銃弾を受けて重傷だ。

天野勇二

ほう、アイツも生きているのか。

黒崎

致命傷ではなかったからな。
運が良かったよ。

天野勇二

あれだけ激しい銃撃戦をよく生き延びたものだ。

感心するよ。

黒崎

そんなことはどうでもいい。
王女は車か?


 天野は親指でミニバンを指した。


天野勇二

後部座席で眠っている。
俺様が色々付き合わせてしまい、お疲れの様子さ。

黒崎

そうか……。
確認してもいいか?

天野勇二

構わないがお姫様は眠っているんだ。
起こさないようにそっとドアを開けろ。


 黒崎は静かに頷き、後部座席に近づいた。


 天野は黒崎なんて気にしていないかのように、タバコを取り出し火をつけた。


黒崎

…………。


 車の後部座席に横たわっている人影が見える。


 黒崎は静かにドアを開けた。


 中の存在を確かめる。


黒崎

フフフ……。


 黒崎は静かにドアを閉めた。


黒崎

さすがだ。
よくやった天野。
それでこそ王女指名の『プリンセスガード』だ。

フッフッフ……。
無事に王女を運んできてくれたな。


 黒崎がそう言うと、6人のライフルを持った男たちが物陰から飛び出した。


 全員覆面を被っている。


 天野と黒崎に銃を突きつけた。


 銃口が壁際に移動するように告げている。


天野勇二

……おい黒崎。


 天野は両手を上げながら尋ねた。


天野勇二

これはどういうことだ。
俺様は聞いてないぞ。


 黒崎も両手上げている。


黒崎

世の中には政治的な要素が大きく絡むのさ。
お前もいい勉強になっただろう。

天野勇二

コイツらは外務省の手先か?


 黒崎は「フフフ……」と小さく笑った。


黒崎

コイツらは外務省でも俺のチームでもない。
お前と俺が戦った襲撃犯の一味さ。

天野勇二

ならばなぜ戦わない。
お前の敵じゃないのか?

黒崎

残念だが俺は丸腰だ。
ボスの指令でな。
教えてやるよ天野。

外務省は死力を尽くした、しかし残念ながら王女は殺されました……。

そんなシナリオさ。


 天野と黒崎は完全に壁際に追い詰められた。


天野勇二

ほう、お前のボスがそう言ったのか。

黒崎

ボスはそうはっきりしたことは言わない。
襲撃犯がいたら当然抵抗しろ、ただし丸腰で行けよ、そう言われただけだ。


 天野は吐き捨てた。


天野勇二

お前のボスは頭がイカれてるな。
目の前にいたら全身の骨をバラバラにしてやりたいよ。
クズ野郎が。


 襲撃犯たちは天野と黒崎を壁際に追い詰めると、いきなりミニバンに銃口を向けた。


 天野たちをあっさり無視している。


 6人の襲撃犯はミニバンを囲むように散った。


天野勇二

なるほど……。
お前が手引きする代わりに命は助けてもらえる、ってワケか。
何が国際情報統括官だ。
クズの手先そのものじゃないか。

黒崎

そう言うな。
色々事情があるんだ。




 パァン




 襲撃犯の1人がライフルを撃った。


 それを合図にして、ミニバンにおびただしい量の銃弾が降り注ぐ。


 窓ガラスはバリバリに破かれ、後部座席は人影ごと蜂の巣にされていく。



 天野はそれを眺めるとのんびり言った。




天野勇二

黒崎よ、確かお前、丸腰だったな。
偶然なことに俺様はベレッタを2挺も持っている。
くれてやろう。

黒崎

それはいかんな。
民間人の銃の所持は禁止だ。
俺が預かろう。


 天野は黒崎にベレッタを2挺とも手渡した。


 黒崎は銃身をスライドさせ、弾の残数を確かめる。


天野勇二

そして……。
俺様はなぜか、こんなものまで持っているんだ。


 天野はもうひとつの取っておきを取り出した。


天野勇二

どう思う黒崎よ。
これも民間人が持つものじゃないよな。


 黒崎は天野が手にしているものを見てニヤリと笑った。


黒崎

なんて物騒なものを所持しているんだ。
手榴弾じゃないか。
民間人の持つものじゃないな。

間違ってもピンを外して、本体を車の下あたりに投げこんではいけないぞ。

天野勇二

そうか。


 天野は手榴弾のピンを外すと、ミニバンの下あたりに投げ込んだ。


 襲撃犯は銃撃に夢中だ。


 手榴弾の存在に気づきもしない。


 銃撃を止めて、襲撃犯の1人の男が後部座席を覗き込んだ時、手榴弾が爆発した。



 ドカァァーーン!




 手榴弾は車のガソリンにも引火して大爆発し、周囲にいた襲撃犯は全員吹っ飛んだ。



 パン! パン! パン!



 黒崎はベレッタを操り、意識のある襲撃犯を全員始末した。


 天野はニヤニヤ笑いながら言った。


天野勇二

おいおい。
ボスの描いたシナリオと違うんじゃないか?

黒崎

何を言う。
初めから王女なんていなかったじゃないか。
俺が後部座席で見たのはただの人形』だ。
ボスのシナリオとは少々異なるな。


 黒崎は不敵な笑みを浮かべた。


黒崎

俺は外務省に侵入した武装集団を始末しただけ……。

いや、違うな。
これはコイツらの銃。
手榴弾もコイツらの物。

そうだな。
勝手に自滅してくれた、ということか。


 黒崎はベレッタを地面に放り投げると、天野に向き直った。


黒崎

……天野、よく俺を信じたな。

天野勇二

お前が電話で言っていただろう?

『捨駒』になると。

お前と俺にしかわからない暗号のようなものさ。
もっとも、後部座席の人形を見たリアクション次第では、撃ち殺そうと思っていたけどな。


 黒崎は驚いて両手を広げた。


黒崎

お前……。
まさか武装集団がいたとしても、勝てる気でいたのか?


 天野は偉そうに指先を翻した。


 大げさなお馴染みのジェスチャー。


 気障ったらしく自らを指さす。


天野勇二

当たり前だ。

この天才クソ野郎にかかれば全てうまくいくのさ。

武装もしてきた。
最悪のシナリオまで想定済みさ。


 黒崎は大きく笑った。


黒崎

あっはっは!
そうか、それで天才クソ野郎か……。
なるほど。
お前にピッタリの『あだ名』だな。


 天野はタバコの火を消し、にやりと満足気な笑みを浮かべた。



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つばこ

黒崎さんが作中で襲撃犯を「始末」してますが、これって、殺したワケじゃないですよね……((((;゚Д゚))))
敵は6人いるのに3発しか撃ってないということは、天野くんが手榴弾で3人始末したのかな、って気もするけど、きっと気絶していたのでしょう! 全員辛うじて生きてます! そういうことです!!!
 
【以下告知&宣伝】
 
ついに一昨日12/10(木)!
「天才クソ野郎の事件簿」が文庫本で発売されました!
それに伴い、12/13(日)、書籍発売を記念してサイン会を開催します!
 
・受付場所:東京・虎ノ門ヒルズ2F
・受付時間:13:45~14:00
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※書籍をどこで購入しても大丈夫ですので持ってきて下さい。
※当日販売もしています。
※身分証などもご用意願います。
 
1人も来なかったらどうしよう…(´;ω;`)ウッ…

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コメント 260件

  • ИДЙ

    何この2人…
    かっこよ……♡♡♡

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  • 螢★剣の王国★ゴ太郎先生

    どういうこっちゃー!!
    なにがどうなって天野と黒崎息ぴったりになったんだ!?
    天野くんの言ってることがわからぬ

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  • 和泉

    黒崎さん始末してるよ!?
    って当たり前か!笑
    向こうも殺しに来てるんだもんね!
    それにしても何!このハードボイルドな感じ!!(*´∀`)

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  • ゆめおぼろ@天クソ/パステル

    きっと全員生きてるよ

    優しい世界だなぁ()

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  • あさのすけ

    黒崎さんからは暗殺教室の烏間先生のような男前オーラを感じる(`・ω・´;)

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