天野たちは金城の運転する車に乗り、まずは浅草を目指した。


 助手席には黒崎。


 後部座席には天野とサクラ。


 サクラは車窓に流れる風景を興味深そうに眺めている。


 景色の全てが新鮮で珍しいのだろう。


 天野は苦笑しながら言った。


天野勇二

そこは皇居さ。
なかなか綺麗な場所だぜ。

サクラ

コウキョ……。
つまりロイヤルファミリーのご自宅なのデスネ。

天野勇二

なぜかわからんが、東京じゃこの周囲をジョギングするのが流行りでな。
何人も走っている人間がいるだろう?

サクラ

本当デスネ。
日本の皆サンは走るのが好きなのデスカ?

天野勇二

そうかもな。
きっと『走り続けないと死ぬ』とでも、思っている人間が多いのさ。


 皇居を離れ国道に出る。


 車窓の風景が移り変わる。


 天野は色々と説明してやった。


天野勇二

この通りを真っ直ぐ行くと、秋葉原という街につく。

サクラ

アキハバラ……。
聞いたことありマス。

天野勇二

その先には上野公園。
君の名前と同じ、桜の名所のひとつさ。
通りの先まで桜並木が続くんだ。


 サクラは嬉しそうに顔を綻ばせた。


サクラ

ワァ……。
一度、行ってみたいデス。

天野勇二

日本人は弁当や酒を持ちより、桜の下で騒ぐのが好きでなぁ。
春になればそんなヤツらで溢れかえるぜ。

サクラ

とっても楽しそうデス。

天野勇二

日本には桜を見たことがないヤツなんていない。
君は日本人にとって、最も有名な花の名前の持ち主なんだ。

サクラ

嬉しいデス。
そのような名前をいただけるなんて。



 車は都内を走り、浅草に到着した。


 目的地は工芸品が並ぶ博物館。


 天野はサクラに寄り添い、移動には細心の注意を払った。


 いくら万能のクソ野郎でも、ライフルなどで遠距離狙撃されれば打つ手はない。


 この時ばかりは黒崎たちと協力して、サクラを見えない火線からガードした。



 博物館に入ると、都議会議員や職員、そしてマスコミがサクラを歓迎した。


 地元の子供たちが列を作り『ようこそサクラおうじょさま』という横断幕を持たされている。


 サクラは嬉しそうに子供に近づき、ひとりずつ丁寧に声をかけた。


 その様子をマスコミがしっかり撮影している。


天野勇二

(無邪気な娘でも、やはり王女なのか)


 天野は微笑ましい光景を眺めながらも、周囲をしっかり警戒している。


 博物館は貸切状態。


 都議会議員もマスコミも本物だろう。


 怪しい人物の姿はない。


 危険の気配は感じなかった。




 博物館を出て車に戻ると、サクラが嬉しそうに言った。


サクラ

天野サン、ステキなものをたくさんいただきマシタ。
私の名と同じ、桜の模様が入ってマス。


 サクラはかんざしや織物などを興味深そうに見つめている。


天野勇二

綺麗なものだろう。
こうした古き良き文化は失われつつある。
経済が発展しすぎると、こんな文化には興味を持てなくなるのかもな。

サクラ

残念デス。
こんなにキレイなのに。

天野勇二

貸してごらん。
俺がさしてやろう。


 天野は髪飾りをサクラにさしてやった。


サクラ

どうデスカ?
私でも似合いマスカ?

天野勇二

ああ、君の綺麗な黒髪によく映えるよ。


 サクラは照れ臭そうに微笑んだ。



 昼は大臣との会食だ。


 当然ながら天野の席は用意されていない。


 仕方なく部屋の隅に立ち、会食の様子を見守った。


天野勇二

おい、金城。

金城

どうされました?


 天野は同じように部屋の隅に立っていた金城を小声で呼びつけた。


天野勇二

腹が減った。
お前らは何を食うんだ。


 金城は冷たい目で天野を見た。


金城

何も。
護衛中は水分も食事もとりません。

天野勇二

そうなのか。
なかなか辛い任務だな。

金城

当たり前のことですよ。


 金城は平然と答えている。


 空腹なんて気にしたこともない、と言いたげな表情を浮かべている。


天野勇二

(なるほど……。トイレの時間も許されないワケか。さすがスパイだ。本職は気合の入り方が違うな)



 会食も無事に終わった。


 午後は神社と寺院をめぐり、スカイツリーの見学だ。


 天野はサクラの隣で色々と解説していたが、危険の兆候はまるで感じられない。


 日中の襲撃はなさそうだ。


 天野はのんびり東京見物としゃれこんでいた。




 夕方に近づくと、車は皇居に入った。


 この後はロイヤルファミリーとの歓談。


 さすがに天野はもちろん、黒崎や金城も同行を拒否された。


サクラ

天野サン……。
どうシマショウ……?


 サクラは不安気な表情だ。


天野勇二

ここは日本で最も安全な場所だ。
俺がいなくとも問題ない。
立派に大役を果たしてくればいいさ。

サクラ

ハイ。
わかりマシタ。


 サクラが歓談を済ませるまでしばしの休息。


 天野が外でタバコを吸っていると、黒崎が小声で話しかけてきた。


黒崎

天野、今晩の宿を変える。

天野勇二

なんだ。
何かあったのか?

黒崎

襲撃に備えて別のホテルを手配した。

天野勇二

ホテルだと?
外務省に戻らないのか?


 黒崎は少し黙ったあと、重い口を開いた。


黒崎

……外務省は使うな、という上からの指示だ。


 天野は黒崎を睨みつけた。


天野勇二

それはおかしい。
なぜそんな話になる。


 黒崎は問いかけを無視した。


 天野はじっと黒崎の瞳を見つめる。


 恐ろしいことに、この男は相手の目を見ることにより、ある程度の心理を読んでしまう。


天野勇二

……お前もこの件には納得していないのか。

外務省に脅迫か圧力でもかかったのか?


 黒崎は何も答えない。


 天野は瞳を睨みながら言葉を続けた。


天野勇二

もし襲撃されるならば、外務省は巻き込まれたくないだろう……。
つまり、襲撃犯は夜の決行を計画している可能性が高いと、判断したんだな。


 黒崎は深く息を吐いた。


 微かに口唇を歪める。


黒崎

……悪くない読みだ。


 黒崎は車のトランクからベストを取り出した。


黒崎

これを貸してやる。
服の下に着込んでおけ。


 防弾ベストだ。


 天野は装着しながら尋ねた。


天野勇二

ニューナンブかベレッタでも貸してくれないのか。


 黒崎は呆れたように笑った。


 静かに首を横に振る。


黒崎

民間人の銃の所持は禁止だ。
そこまではできんさ。



 サクラの歓談が終わった。


 天野たちは再び車に乗り込み、新しいホテルに向かって出発した。


天野勇二

サクラよ、今晩の宿が変わった。
俺も泊まったことがあるが良いホテルだぜ。


 軽い口調だったが、サクラはその言葉の意図をすぐに理解した。


サクラ

……襲撃があるかもしれないんデスネ。

天野勇二

大丈夫さ。
俺も黒崎も金城もいる。
危険を避けるためだ。


 車は湾岸線を走り、新しいホテルに到着した。


 天野は荷物をトランクから取り出しながらホテルのロビーを見渡す。


 怪しい人物は見当たらない。


 それでも油断はできない。


天野勇二

サクラ、俺から離れるな。

サクラ

ハ、ハイ……。


 サクラは慌てて天野の隣に移動した。


 白衣の裾を不安気に掴む。


金城

……行きましょう。


 先頭は金城。


 中央に天野とサクラ。


 後方は黒崎が警戒している。


 4人は周囲を警戒しながら、何とかエレベーターまで移動した。


天野勇二

黒崎よ、SPはどこにいる?
室内で待機しているのか?


 黒崎はその問いに答えない。


 ただ苦しそうに俯いている。


天野勇二

おい黒崎。
聞いているのか?


 黒崎は絞り出すように言った。


黒崎

……俺と金城。
この2人で護衛することになっている。

天野勇二

なんだと?


 天野は金城の顔を見つめた。


 金城の顔には緊張が浮かんでいる。


 問い詰めたいところだが、今は隣にサクラがいる。


 天野はぐっと堪えた。



 エレベーターが最上階に到着した。


 廊下に怪しい人影はない。


 それでも黒崎と金城は先ほどから殺気を放ち続けている。


 いつ襲撃者が現れても対処できるよう、覚悟している表情だ。


天野勇二

黒崎よ、部屋はどこだ。

黒崎

西側の一番端だ。
侍女が待っている。


 天野は静かに部屋の扉をノックした。


 ゆっくりと扉が開く。


 室内にいたのは2人の侍女。


 こちらも不安気な表情を浮かべ、サクラを出迎えた。


天野勇二

(どうなってやがる……)


 天野は全員の顔を見つめた。


 全員の顔には戦慄が浮かんでいる。


天野勇二

(黒崎と金城も、この侍女たちも、戦場に放り込まれたような顔をしているじゃねぇか……)


 天野は慎重に窓に近づき、カーテンを開ける。


 東京の夜景がよく見える。


 その隣にサクラが立ち、あえて明るい声を出した。


サクラ

観てくだサイ。
キレイな景色デスネ。

天野勇二

ああ……。
東京タワーがよく見える。
君が観てきたスカイツリーも見渡せるじゃないか。

サクラ

さすが日本デス。
すごく美しいデス。


 部屋は25階の高所。


 この高さ、そしてこの位置であれば窓からの狙撃はない。


 天野は夜景に見惚みとれているサクラを置いて部屋を出ると、すぐさま廊下に立っていた黒崎を問い詰めた。


天野勇二

おい、どういうことだ。
護衛がお前ら2人だけとは。
昨日より減っているじゃないか。


 黒崎は唇を歪めながら言った。


黒崎

ホテルを変えれば危険は少ない。
そのため護衛は最小人員で良いだろう、という上の判断だ。


 天野は「馬鹿馬鹿しい」と呟き、大きく両手を広げた。


天野勇二

昨日の襲撃犯の武装を忘れたのか?
あれだけの装備で襲ってきやがったくせに、もう諦めてくれると楽観視しているのか?
それとも何か?
金城はあいつらに勝てるほど強いのか?


 黒崎は口唇を噛み締めた。


 黙って俯いている。


天野勇二

おい金城よ。
お前、ライフルにサブマシンガンに拳銃。
おまけに手榴弾を所持した3人相手に、1人で立ち向かえるのか?


 金城も黙って俯いた。


 天野は大きく天を仰いだ。


天野勇二

何を考えているんだお前らのボスは!?
敵が武装を強化して再襲してくるに決まってるだろう!?


どうせ内通者が見つかったワケじゃあるまい。
お前らの様子を見ていれば、このホテルが敵に伝わっている可能性があることも理解できる。


……いや、そうか。


 天野は舌打ちした。


天野勇二

サクラは殺されても構わない、と考えているのか?
まさかお前らが内通者じゃないだろうな。


 天野は構えて2人に向き直った。


 黒崎は冷静に言った。


黒崎

誤解するな。
俺たちは内通者じゃない。

天野勇二

ならばお前らの狙いは何だ!?
俺には理解できんぞ!
ここまで来て秘密を貫くのか!?



 黒崎は諦めて口を開いた。



黒崎

……天野、お前が昨日言った通りだよ。

捨駒だ。

俺たちは2人で襲撃犯を迎え撃つが、あえなく殺されるんだ。

日本は最善を尽くしたが王女は殺されました、というシナリオなんだよ。

天野勇二

なんだと……!?


 天野は驚いて黒崎と金城の顔を睨みつけた。


 黒崎も金城も、血の気が引いている。


 冗談を言っている顔ではない。


 2人の顔に死相が浮かんでいる。


天野勇二

お前ら……。
ボスに死ねと、言われたのか。


 黒崎は苦笑した。


黒崎

そんなはっきりとは言わない。

ホテルは変えた。
危険は少ない。
最小人員で護衛できる。
危険があれば撃退しろ。

これが上からの指示だ。


 黒崎は呆れながら言葉を続けた。


黒崎

内通者が誰かもわかってないのにそんな指示だ。

死ねってことだ。

天野、お前の表現がピッタリさ。
俺たちは捨駒だよ。


 天野は「クソが」と呟き、壁をドンと叩いた。


天野勇二

ふざけてやがる。
そんなくだらん事情に巻き込まれてたまるか。

俺は王女を守ってみせる。

貴様らが死のうと知ったことじゃない。

だが、俺は王女を守るぞ。





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つばこ

俺は王女を守るぞ(ドン!
 
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つばこ「はい!何でもやります!」
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T氏「イエス!週2連載とは別に連載!しかも『なろう』では公開してなかった完全新作!最終日はなんと『24時間更新』!1時間毎に更新!これでノベルを盛り上げましょう!!!」
 
 
 
そんな感じで、今週は「天クソ祭り」が開催されますヽ(*´∀`*)ノ.+゚
 
T氏からの誘いもありますが、このイベントは自主的にやってます(´∀`*)ウフフ
書き下ろしもお届けしたいし、24時間形式の天クソも書いてみたいし、皆さんに楽しんでほしいし、本も売れてほしいし(ぐう本音)。
つばこにかかれば全てうまくいきみゃすので、お楽しみいただければ幸いです!!!

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コメント 310件

  • ねここ

    走り続けないと死ぬ、が最後まで気になっちゃいました。

    まぁ日本人の特徴だけども、多作過ぎのつばこさんも…ね。
    喋り続けないと、っていう某大物芸人さんとかね。

    …でも本当に命懸けの展開に。
    てか王女様まで天野くんに惚れちゃいそうな予感。

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  • まこと

    そして天野くんは国際的に英雄として認められる…

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  • 和泉

    こんな状況で王女を守ると言いきれる天野くんは誰もが最高の認めるヒーローですよ!(* ̄ー ̄)

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  • ピコにゃん

    天野くん、(`✧∀✧´)かっこいい♡

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  • 太宰雅

    天野と黒崎・・・何か、仲良くなった?
    後、天野・・・上の人間、潰そう?

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