【グアムロケ2日目】
※イパオビーチ・現地時間AM11:15】

　グアムロケも2日目。

　太陽の下で前島と柏田のツーショットが撮影されている。

　これが終われば待ちに待ったオフ。

　2人とも全力で取り組んでいる。

　天野は残念そうに呟いた。

　グアムは平穏そのものだ。

　川口の言う通り、2人の撮影がようやくクランクアップした。

　前島も柏田も飛び跳ねるように川口の下へやって来る。

　柏田がそれを遮（さえぎ）るように口を挟んだ。

　天野は面倒くさそうに言った。

　前島は天野の腕を掴み、無理やり引っ張った。

【グアムロケ2日目】
※グアム・プレミア・アウトレット・現地時間PM2:40】

　しょうがなく天野は前島に連れられて、ショッピングモールへ向かった。

　財布役として川口も同行だ。

　2人は化粧品やマニキュアなどを、ぽんぽん購入していく。

　天野は周囲を警戒していた。
　ショッピングモールの中は日本人で溢れている。
　面倒ごとが起きそうだなと感じた。

　ひとりの小太りな男が気づいた。
　前島たちを指さしている。

　2人組が駆けてくる。
　天野はすかさず壁役となり、2人組の前に立ちはだかった。

　天野は舌打ちして相手を睨みつけた。

　見た限り高校生ぐらいの年頃だ。
　片方の男は平々凡々の顔立ち。
　もう片方は小太りのメガネ。
　恐らく修学旅行で訪れているのだろう。

　天野は全身から殺気を解き放った。

　飢えた肉食獣のような気配。

　高校生の2人は瞬時に青ざめた。

　天野は即座に男の手首を掴んだ。
　乱暴に逆側へと捻り上げる。
　男が「ひいい！」と悲鳴をあげた。

　男は涙目でコクコク頷いた。

　小太りの男は恐怖のあまり失禁しているようだ。

　それも無理はない。

　天野の放つ殺気は、下手な極道より怖いのだ。

　2人組は脱兎の如く逃げ去った。



　その様子を眺めていた柏田は、うっとりと乙女の声をあげた。

　その言葉を聴き、川口が動揺しながら尋ねる。

　川口が泣きついている。

　天野はそれを見てため息を吐くばかりだった。

【グアムロケ2日目】
※タモンビーチ・現地時間PM3:40

　前島たちの買い物が終わった。
　荷物を一旦ホテルに預け、天野たちは「タモンビーチ」へ向かった。

　ビーチでは前島と柏田が一般客に混じって、ボードで遊んでいる。

　天野は『フルーツ』のジュースを片手に持ち、のんびりグアムの空を見上げていた。

　常夏の陽気と風が心地よい。

　空を眺め鼻歌を奏でていると、携帯電話が鳴った。

　涼太からの着信だ。

　涼太の声が大きくなった。

　そういえば、涼太には結局グアムに行くと伝えていなかった。

　携帯で話している天野を見つけて、前島が嬉しそうにやってきた。

　天野は前島に携帯電話を手渡した。

　何か涼太が喚いている声が聴こえる。

　前島は天野に電話を戻した。

　海辺ではしゃぐ柏田のビキニの片方がずれて、左側の胸が露出している。

　前島が柏田の姿を見てぎょっとした。

　豊満な乳房がポロリしている。

　
　慌てて片乳を押し込む。

　天野はその光景を苦笑しながら眺めていた。

　グアムの心地よい風と太陽を浴び、天野は涼太に語りかけた。

　涼太が「ぎゃーぎゃー」喚いている。

　こちらもかなりやかましい。

　やはり誘わなくて正解だったな、と思いながら言った。

　電話を切ると、少々厄介な連中が柏田に絡んでいるのが見えた。
　恐らく地元の不良だろう。
　少々油断したな、と反省しながらビーチサンダルを脱ぎ捨て、柏田の下へ走った。

　天野は英語で語りかけた。

　相手は3人。
　肌は浅黒く体格は良い。
　ハーフパンツの水着姿。
　上半身はタトゥーだらけだ。
　1人の男の尻ポケットには拳銃がある。
　柏田は男たちに囲まれ、すっかり怯えていた。

　1人の外国人がニヤニヤしながら英語で言った。

　突然、天野は男の股間を蹴り上げた。

　男たちはいきなりの暴力を放った天野に驚き、身構えた。
　その様子を天野は鼻で笑い飛ばす。

　汚い英語での挑発。
　舌打ちしながら柏田に声をかける。

　柏田は怯えて天野の背中に隠れる。

　股間を蹴られた男は、倒れながら「ファックファック」と、やかましく喚いている。

　天野が素早く突進した。

　狙いは拳銃を持った男。

　右手で目を潰し、左手で喉への貫手ぬきて。

　男は喉元と目を押さえ、思わず前かがみになる。

　その首を正面から抱え込むと、フロントチョークで絞め上げながら男の動きを封じ込めた。

　そのまま尻ポケットに手を伸ばす。


　あっさりと拳銃を奪い取り、男を前蹴りで吹き飛ばした。

　天野は拳銃を見つめ、極悪の笑みを浮かべた。

　男たちは必死に両手を広げている。

　天野に「撃つな」とジェスチャーしているのだ。

　英語で男たちに怒鳴る。
　拳銃を突きつける。
　伏せるように促した。

　天野は英語で罵（ののし）りながら拳銃をスライドさせ、弾薬を全て取り出し海へ投げ捨てた。

　そして空に向けて、一発撃った。

　パン！

　命を簡単に奪う発砲音が響く。
　
　男たちは恐怖に震え上がった。

　天野は拳銃を投げ捨てると、両手をボキボキ鳴らしながら男たちに飛びかかった。

　1人の頭を掴み、側頭部への膝蹴り。

　その一撃であえなく昏倒。

　残りは目と首元を押さえて呻く男と、股間を押さえている男のみだ。

　もう勝負はついていた。

　天野は柏田の手を取り、前島に声をかけた。

【グアムロケ2日目】
※アウトリガー・グアムリゾート・現地時間PM5:10

　天野たちは急いでホテルに戻った。

　ホテルの客しか入れないプライベートプールへ向かう。

　念のためガードマンに不良たちの特徴を伝え、中に入れないよう警告した。

　そこに川口がやって来た。

　悪びれた様子もなく謝っている。

　川口は苦笑しながら言った。

　天野がため息を吐いていると、前島が慌ててやって来た。

　天野がプールに向かうと、青ざめて自らの肩を抱く柏田の姿があった。

　柏田はこくんと頷いた。
　そして、そっと天野に抱きついた。


　前島が声にならない悲鳴をあげている。

　柏田は腕の中で微かに震えている。

　恐る恐る声をかけられても、柏田は離れようとしない。

　柏田は天野に抱かれたままだ。

　前島はそわそわと落ち着きがない。

　天野の周りをうろちょろしている。

　柏田は何も答えない。

　完全に無視している。

　頬を赤くさせている。

　グアムの美しいサンセットが天野たちを包み込む。

　オレンジ色に染まる世界。

　水平線の彼方に今日が沈んでいく。

　天野は絶景に見惚れ、柏田はその横顔に見惚れ、前島は不満気に頬を膨らませ、後方では川口が苦笑しながら3人を眺めている。

　こうして天野たちのバカンスは終わりを告げた。

　学生食堂の2階テラス席。

　天野たちの土産話を聞き、涼太は案の定不機嫌になっていた。

　テーブルの上には無骨な黒い機械。

　小型のスタンガンだ。

　威力が強すぎるため、日本で購入することはできない。

　涼太はがっくりと肩を落とした。

　前島が励ますように言った。

　またがっくりと肩を落とす。

　天野は不満そうに声をあげた。

　黒い機械のスイッチを押す。
　「ジババッ」と過激な音が鳴り響く。
　熊だって裸足で逃げ出すほどの威力を持つあるスタンガンだ。

　涼太は再び肩を落とした。

　もう肩が地面を突き破ってマントルに達するのではないか、というほど落としている。

　前島が涼太を励ますため、鞄から何枚かの写真を取り出した。

　生写真を見て、涼太は歓声をあげた。

　デレデレしながら写真を漁る。

　その中の1枚を見て、涼太の動きが止まった。

　夕陽に照らされた天野と柏田のツーショットだ。

　柏田は天野に抱かれ、幸せそうな笑顔を浮かべている。

　前島がため息を吐きながら言った。

　前島が不満そうにコクンと頷く。

　涼太は跳ね上がって叫んだ。

　空手の形を構えた。

　天野はにやにや笑いながら立ち上がった。

　天野はスタンガンを手にとった。

　グアムからの土産品だ。

　熊だって裸足で逃げ出す高威力のスタンガン。

　涼太が慌てて声をあげた。

　天野は極悪の笑みを浮かべ、ゆっくり涼太に向い直った。

　テラスに絶叫が響き渡る。

　前島は嬉しそうにいつもの穏やかな日常を眺めていた。

（おしまい）