ネットフリックスで配信中のスタンドアップ・ショーがトランスフォビック(トランスジェンダー嫌悪的)だと批判を呼んでいる。
問題になっているのは、10月に公開された人気コメディアン、デイヴ・シャペルのネットフリックス・スペシャル「The Closer」。
シャペルは2019年に米国コメディー界最高の賞ともいわれるマーク・トウェイン賞を受賞した、当代きってのコメディアンだ。黒人男性である彼は元々、人種差別をテーマにした挑発的なジョークが売り。聴衆をざわつかせるのは彼の芸風だが、今回のスペシャルは悪い意味で鳥肌が立ちっぱなしの70分間だった。
いつものように不敵な笑みを浮かべながらステージに立つシャペル。自分は「TERF」(trans-exclusionary radical feminist)の一員だと宣言する。
TERFは、「トランス女性を女性と認めないラジカルフェミニスト」という立場をとる人のことで、実体としては「トランス嫌悪的」な態度表明とされる。
シャペルは、トランス女性の有名人ケイトリン・ジェンナーについて「女になって1年目に『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』を受賞した。生理も経験したことないのに!」と言い放つ。
生理の有無にこだわるのはTERFの特徴で、「ハリー・ポッター」シリーズで知られる作家のJ・K・ローリングが数年前、「生理がある人」を「女性」と明言しなかった記事を揶揄するツイートで炎上したこともある。
性別を「揺るがしがたい事実」と捉えて、生物学的性とは異なる性自認を持つ人をないがしろにしようとするTERFの立場は、各種人権団体から問題視されているだけでなく、米医師会も「性別についてのこのような狭隘(きょうあい)な定義は、トランスジェンダーの人々の健康を損ねる可能性がある」と警鐘を鳴らす。
シャペルはさらに、女性とトランス女性の性器を比較して「肉と植物由来の肉くらい違う」とエスカレート。過去にもトランス女性をからかうことはあったが、ここまであからさまなのは私の知る限りない。「たかがジョーク」とは擁護しきれないのは、トランス当事者たちがこうした偏見から、暴行や殺人に遭っているからだ。
私が落胆したのは、シャペルが好きだったからでもある。一昔前のことになるが、彼の冠番組「シャペル・ショー」(2003~06年)はカリスマ的だった。盲目の黒人男性が、自らを白人と信じて育ち、白人至上主義団体KKK(クー・クラックス・クラン)のトップに上り詰める、という設定のコントなど、タブーなしのコントの数々は掛け値なしに刺激的だった。
トランプ大統領の当選直後、シャペルはあるしぐさで、黒人差別の苦難を雄弁に物語りました。その彼が、なぜ。差別が交差する現状を記者が考察しました。
2016年にトランプが大統…