※この物語はフィクションであり、実在の人物及び団体とは一切関係ありません。



 その日、天野は学生食堂の2階テラスで昼食であるパンを頬張り、のんびりとコーヒーを飲んでいた。


佐伯涼太

勇二! 大変だよ!
エライことになったよ!

 
 そこに涼太が真っ青な表情を浮かべて飛んで来た。
 片手には週刊誌を持っている。
 随分ずいぶんと慌てている様子だ。
 

天野勇二

どうした?
やばい女でも妊娠させたのか?

佐伯涼太

違うよ! これ!
これを見て!


 涼太はテラスのテーブルに週刊誌を叩き付けた。
 ひとつのページがスキャンダルなニュースを紹介している。
 天野はそのページを見て仰天した。

天野勇二

おい、
これは俺様じゃないか。

佐伯涼太

メインは勇二じゃないよ!
前島さんだよ!


 週刊誌のページには、



『人気アイドル前島悠子、噂の大学生との密会現場をスクープ!』



 という記事が掲載されている。
 ピントのぼやけた写真も載っている。
 場所はテラス席。
 天野と前島が談笑している場面だ。
 見開きのページには、

『突然のグループ卒業発表には、この男が関係している?』

 といった文章や、

『この男との交際が卒業の理由?』

 といった文章、

『もう2人は肉体関係に発展している!』

 などの憶測記事が書かれている。



 写真は高所から撮影されている。
 望遠で盗み撮りされたものだ。
 天野と涼太は素早く周囲を見回した。


天野勇二

あそこだ。

佐伯涼太

そうだね。

 

 天野と涼太はテラスの近くにある校舎を睨みつけた。

 7階建ての校舎だ。

 撮影された角度から推測すると、最上階から撮られた写真の可能性が高い。

 

天野勇二

くそっ、俺は一般人だぜ。
モザイクや目線を入れ、顔を隠すのが普通じゃないのか。


 一般人である天野の顔は一切隠されていない。
 涼太が不安気に尋ねた。
 

佐伯涼太

ねぇ、前島さんは勇二のアドバイスで卒業を決めた、とか言ってたよね。
それがマスコミにリークされないかな?

天野勇二

アイツはそんなことを喋る女じゃない。
だが、この記事は厄介だ。

 

 その懸念はすぐに当たった。

 テラスに4人の男たちが上がって来たのだ。

 

天野勇二

……どうした?
この天才クソ野郎に依頼したいのか?

 

 天野は白衣のポケットに両手を入れながら、嫌そうに侵入者を睨みつけた。

 男たちは週刊誌を丸めて持っており、すでに殺気立っている。

 その中の1人が叫んだ。

 

男A

天野!
お前、ゆうこちゃんとやった、ってのは本当か!?

 

 その言葉を聞くと、天野は指先をパチリと鳴らした。

 

天野勇二

おいおい。
昼間から下品なことを言うものじゃない。

 

 気障キザったらしく指先を振り回す。

 天野は偉そうに言葉を吐き出した。

 

天野勇二

そんな話はもっとオブラートに包んで尋ねるべきだ。
そうだな、

『天野様と前島さんはコウノトリさんに赤子を注文したんですか?』

ぐらいのウィットに富んだ質問を心がけてくれないか?
さては、そんなシャレも通じないほど女に飢えたバカな童貞なのか?

 

 男たちはその発言でさらに殺気立つ。

 1人が天野に向かって叫んだ。

 

男A

お前がゆうこちゃんを卒業させたのか!

天野勇二

卒業するかどうかは本人が決めることだ。
俺様には関係ない話だな。

男A

天野のことは前から気に入らなかったんだ!
ゆうこちゃんの恋人で、関係を持っているなら 容赦ようしゃしないぞ!

 
 男は刃物を取り出した。
 刃渡りの短いナイフだ。
 

佐伯涼太

うわっ、
ちょっと落ち着こうよ。

 

 涼太は怯えて遠ざかる。

 しかし、天野は悪の笑みを満面に浮かべた。

 

天野勇二

容赦しない?
それは脅しのつもりか?
そんな刃物1本で、この天才クソ野郎に挑むつもりなのか?

……だが、
これだけは言っておこう。

 

 天野は偉そうに両手を広げた。

 

天野勇二

前島は俺様の弟子だ。
お前らが勘ぐっているような男女関係ではない。
安心するんだな。

 

 天野としては場を治めるつもりの発言だったのだが、男たちの怒りはさらに燃え上がった。

 

男A

で、弟子だと!
ゆうこちゃんを弟子呼ばわりとは何様だ!
てめぇ絶対に許さねぇ!

 

 1人が天野に殴りかかった。

 

天野勇二

まったく……。
単細胞な生物だ。

 
 天野は冷静に構えると、男の拳を避け、その手首を素早く掴んで逆手に捻りあげた。
 

男A

いづづ!

 
 手首を捻りあげたまま、鳩尾みぞおちに膝を叩きこむ。
 

男A

がはっ!


 男の息をつまらせると、その体を反転させ、前蹴りで吹き飛ばした。
 残りの男たちはそれを見て一気に 怖気おじけづく。

天野勇二

どうした?
もう終わりか?
次は手加減しないぞ?

喧嘩がしたいなら買うぜ。
だが俺様は柔術、合気、骨法、空手を習得した 殺戮さつりく兵器だ。
おまけに骨の位置を細かく知っており、効率よく人体を破壊する術を身につけている。

これ以上、俺様に近づくなら本気でやるぞ。
これは最後の警告だ。

 

 天野は殺気をみなぎらせ、まだ倒れている男に近づいた。

 

男A

ひいいっ!

 

 悲鳴をあげて男たちはテラスから逃げ去った。

 涼太が安堵あんどして後ろ姿を見送る。

 

佐伯涼太

マジでビビった。
刃物とか心臓に悪いよ。

天野勇二

おいおい、
あれで終わりだと思うか?

 

 しばらくすると沢山の足音が響き、10人ほどの男たちがテラスに上がって来た。

 先ほどの男たちが援軍を呼んだのだ。

 金属バットや、木刀、刃物を手にした男もいる。

 

???

天野!
これ以上お前に支配されるのはごめんだ!
ここでカタをつけてやる!

 
 男の1人が威勢いせいよく叫ぶ。
 天野はその顔に見覚えがあった。
 

天野勇二

おや?
お前は確か、法学部の女生徒をストーキングしていた男じゃないか。
前島のファンだったのか?
前島のストーカーだとは知らなかった。


 天野はそう言うと、全身から並々ならぬ殺気を放ち出した。

天野勇二

お前はタチの悪いクズだったな……。
次に顔を見せれば殺すと、警告したはずだぞ。

 
 ストーカーと呼ばれた男は吐き捨てるように叫んだ。
 

ストーカー男

いつか復讐してやろうと思ってたんだよ!
前島悠子の件で、お前に恨みを持つ連中が増えた。
お前でもこの人数は勝てやしない!
覚悟しやがれ!

 

 男たちは一斉に襲いかかった。

 場所は2階テラス。

 入り口は一ヶ所。

 逃げ場はない。

 

 天野は仕方なくテラスの椅子を取り、男たちに投げつけた。

 

ストーカー男

うわっ!

 

 男たちの動きが一瞬止まる。

 わずかに椅子を避けて後退した。

 天野はすぐさま男たちに近づき、掌底しょうていと肘を先頭の男2人に打ち込んだ。

 

男B

ぎゃあ!

 
 男たちの悲鳴と鮮血が飛ぶ。
 鼻骨が折れる嫌な音が響いた。
 

男C

こ、この野郎!

 
 1人の男が金属バットで殴りかかるが、天野は紙一重で避け、男の鼻柱を掌底で叩き潰す。
 

男C

ぐあっ!

 

 手のひらについた返り血を嫌そうに払い、前蹴りを連発して男たちを後退させる。

 死角から木刀が襲いかかるが、涼太がハイキックではじき飛ばした。

 

天野勇二

涼太、よこせ。

佐伯涼太

はいよ!

 

 天野が差し出した手に、涼太が椅子を投げる。

 それ取ると振り回して投げつけ、さらに男たちを後退させた。

 もう後方にはテラスの階段が迫っている。

 

男D

くそったれ!

 

 刃物を持った男が突きを入れ、わずかに天野の頬をかすめた。

 その男の手首を掴んで引き、真っ直ぐに固定すると、肘の外側に容赦なく掌底を打ち込んだ。

 

男D

うぎゃあああ!

 

 骨が折れる嫌な音が響く。

 男の腕は逆側に折れ曲がった。

 

天野勇二

さて、面白い玩具オモチャが手に入った。

 
 天野の手に相手の刃物が残っている。
 男たちは狂気に満ち、返り血を浴びた白衣姿の悪魔に膝が震えていた。
 

天野勇二

お前ら、人体の解剖なんてやったことがあるまい。

 

 男たちは怯えて遠ざかる。

 テラスの階段まで後退させられた。

 

天野勇二

飛びやがれ!


 天野は前蹴りで1人、また1人と階段の上から蹴り飛ばした。
 悲鳴をあげて男たちがテラスの階段を転げ落ちていく。

 1人が何とか階段にしがみついたが、その指を天野は容赦なく踏み潰す。
 天野は基本的に鉄板を仕込んだ安全靴を履いている。
 男の指は派手な音をたてて折れた。

男E

ひぃぎゃあああ!

 
 男たちは戦意を喪失して逃げ始めた。
 しかし、本気を出した天野はそれさえも許さない。
 

天野勇二

全員、飛びやがれ!


 背中を向けて逃げる男たちも突き落とす。
 階段の下に、男たちが何重にもなって倒れこんだ。

天野勇二

クックック……。
警告してやったのに。
俺様に喧嘩を売るからこうなるんだよ。

 
 天野は階段から飛び降りると、1人の男の首を掴みあげ、思い切り壁に叩きつけた。
 先ほど天野に『ストーカー』と呼ばれた男だ。
 

ストーカー男

あ、あう……
やめ、やめて……

天野勇二

おいストーカー野郎。
これだけの人数が相手では、俺様が何をやっても正当防衛で罪には問われないだろう。
潰した時に言ったはずだ。
次に顔を見せた時は殺す、とな。

 

 刃物を投げ捨てると、白衣の胸ポケットからメスを取り出した。

 ナイフよりも切れ味の鋭い刃物。

 銀色の小さな輝きが、ストーカー男に死を届ける。

 

天野勇二

冗談を言っているとでも思ったのか?
甘いんだよ。


 天野は首筋にメスを当てると、一切の迷いなく切り裂いた。
 鮮血が勢いよく吹き出す。

ストーカー男

ひぃぃぃっ!

 

 男は悲鳴をあげながら首を押さえた。

 その手も真っ赤に染まっていく。

 

ストーカー男

た、たすけてぇ!
殺さないでぇぇ!

 

 男は吹き出す血を押さえながら悲鳴をあげている。

 

 天野はメスに付着した血を飛ばし、狂気の笑みを浮かべながら叫んだ。

 

天野勇二

次にオペされたいのはどいつだ!?
まだメスは何本もある!
何人でも解剖してやるぞ!
お前らもこいつのように殺されたいか!?


 その声がトドメとなった。
 男たちは互いの体を支え、必死に逃げ出していった。

佐伯涼太

だ、大丈夫?
あれ、本当に死んじゃうよ……?

 

 涼太が心配そうに声をかける。

 

天野勇二

死ねばいいのさ。

 

 天野は極悪の笑みを浮かべたまま、男たちの背中を見送った。

 

天野勇二

俺様の忠告を守らない馬鹿は死ねばいいんだ。

……だが、残念ながら 頸動脈けいどうみゃくを切っちゃいない。
すぐに血も止まる。
あれじゃ死ねないな。
あと5ミリ横を切っていれば死んだのに。
実に残念だ。

 

 2人は椅子を拾ってテラスに戻った。

 

佐伯涼太

相変わらず、
勇二は容赦ないね。

天野勇二

これでしばらくテラスは平穏だ。

佐伯涼太

また襲われるかもしれないよね。
僕らの「秘密兵器」準備しとく?
防刃シャツとか、スタンガンとかさ。


 野蛮な「クソ野郎」にとって、このような喧嘩は日常茶飯事に近い。
 ストーカーを退治したり、犯罪者にお仕置きすることがクソ野郎の日常でもあるのだ。
 多少の脅威に対抗するため、大学にいくつかの「兵器」を隠している。

 防具ならば、防刃シャツやグローブ。

 武器ならば、スタンガンやテーザー銃、メリケンサックにスラッパーに特殊警棒……。

 日本では購入できない強力な武器まで隠し持っている。
 一般人には縁のないものばかりだ。

天野勇二

そこまでは必要ないさ。
あれだけ脅してやれば二度と近づきやしない。

 

 返り血の付着した白衣を脱ぎ、丸めてゴミ箱に投げ捨てる。

 嫌そうに週刊誌を睨みつけた。

 

天野勇二

どこかの馬鹿がこんな記事を書いたせいで、面倒なことが起きるんだ。
記者は骨を折られた人間に謝罪するべきだな。

 

 自分が暴力を振るって骨を折ったくせに、平然と人に罪をなすりつける。

 良く見る光景とは言え、涼太は苦笑するしかなかった。

 

天野勇二

おっ、弟子から電話だ。

 
 スマートフォンが前島からの着信を告げている。
 

前島悠子

師匠!
師匠の大切な弟子ですよ!

天野勇二

知っている。

前島悠子

あの、週刊誌の記事を読みましたか?

天野勇二

読んだぞ。
おかげで何人か骨を折る騒ぎになったぜ。

前島悠子

師匠は大丈夫ですか?

天野勇二

ああ、俺様は無敵だ。

前島悠子

じゃあ良かったです!

 

 前島は嬉しそうに笑っている。

 師匠がクソ野郎なら、この弟子も相当なものだ。

 

前島悠子

本当にすみません。
私のせいでご迷惑をかけてしまって。

天野勇二

別にお前が気にすることじゃないさ。
そっちこそ大丈夫なのか?

前島悠子

えへへ。
事務所の方にとても怒られました。

天野勇二

お前も損な役回りだな。

前島悠子

大丈夫です!
こんなのへっちゃらです!

 

 元気良く声を張り上げている。

 どうやら前島は無事の様子だ。

 

前島悠子

師匠、実は記事の件でご相談があるんです。
是非とも会ってお話したいのですが、今晩はお暇ですか?

天野勇二

20時まで大学だ。
それ以降なら空いている。

前島悠子

それでしたら、終わった後に大学でお会いできませんか?

天野勇二

ああ、構わんぞ。

前島悠子

では、20時に校門でお願いします!

 

 タバコを取り出しながら電話を切ると、すぐに涼太が興味深そうに尋ねた。

 

佐伯涼太

ついに前島さんから『おデート』のお誘い?
スキャンダルを報じられたばかりなのに度胸あるね。

天野勇二

いや、
何か相談があるらしい。

佐伯涼太

相談ってことはデートじゃないね。
相棒である僕が一緒でも問題ないよね。

天野勇二

別に構わないが、今の俺様に近づくと、闇討ちに巻き込まれる恐れがあるぞ。
大丈夫か?

 
 涼太は誇らしげに拳を握った。
 

佐伯涼太

僕も勇二と一緒に空手を習ったじゃん。
腕には自信あるよ。

天野勇二

よく言うぜ。
さっきは静観してたくせによ。

佐伯涼太

あっ、僕の活躍シーンを見てなかったでしょ?
残念だなぁ。

 

 涼太が肩を落としながらタバコを取り出すと、またテラスに人がやって来た。

 今度は女の子だ。

 

女の子

あ、あの、すみません。
天野さん……。

 

 彼女も週刊誌を手にしている。

 

天野勇二

なんだ?

女の子

天野さんがゆうこちゃんと付き合ってるって……。
本当なんですか?

 

 天野はうざったそうに言った。

 

天野勇二

付き合ってねぇよ。

女の子

ほ、本当なんですか!?
ちゃんと教えてください!
私、ゆうこちゃんの大ファンなんです!

 

 天野は心底嫌そうに顔を歪めた。

 ちらりと涼太にアイコンタクトを送る。

 涼太は苦笑しながら頷き、女の子に近づいた。

 

佐伯涼太

前島さんは勇二と男女の関係なんかじゃない。
安心していいよ。
君もそんなデマに振り回されちゃダメだって。
大人しく帰りなさい。

女の子

は、はい……。
わかりました……。

 

 女の子は涼太に説得され、しぶしぶテラスを後にした。

 

天野勇二

おいおい。
詫びが一言あってもいいんじゃないのか。

佐伯涼太

この分じゃ、まだお客さんが来そうだね。

 

 涼太の言葉を合図にしたかのように、また何人かの人間がテラスに上がって来た。

 

男F

いた! 天野さんだ!
天野さん!
ゆうこちゃんとデキてるってマジですか!?

 

 天野と涼太は顔を見合わせ、深くため息を吐いた。

 

 


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つばこ

どうも、つばこです。
ご愛読いただきありがとうございます。
 
今回の「スキャンダル編」は少し長めのエピソードとなりまして、全8話ほどを予定しております。
ドキドキハラハラするエピソードになれば良いなぁ、と願っております。
 
序盤からいきなり天野くんがバイオレンスバイオレンスアンドバイオレンスで驚かれましたでしょうか。
天野くんは酷いですね。
喧嘩のやり方もグロい。
あと強い。強すぎ。強いにも程がある。
刃物とか金属バットを持った集団を素手で瞬殺って、怖い。怖すぎ。
やっぱりこいつクソ野郎だ!
あんなにハートフルだった先週までの天野くんを返してよぉ!。゚(゚´Д`゚)゚。
 
ではでは、いつもオススメやコメント、本当にありがとうございます!ヽ(*´∀`*)ノ.+゚

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コメント 263件

  • ゆう

    え、いや普通にやばいって…
    だが状況が状況だから確かに正当防衛、なんだよなぁ

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  • とりこ

    秘密兵器...
    天野くん、どんだけ恨まれてんだ笑

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  • 紫蘭

    コウノトリさんに赤子を注文したんですかwwwww

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  • 和泉

    クソ野郎思ってたよりもずっとヤベー!!笑

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  • ゆめおぼろ@天クソ/パステル

    開幕妊娠させたか定期

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