ARIA T.S.A. RE:GHOST?   作:かまぼこ大明神

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※前回の細かな不足部分を修正しました


07" 仔猫のワルツ - INGENUOUS

『さて、どうしたもんかな』

『うーん。困りましたねぇ……』

 

 遠山と神崎を追って青海の公園までやって来たところで、俺はちょっとしたアクシデントに見舞われていた。

 

『仔猫だね。首輪に鈴ってことはやっぱり飼い猫かな?』

『あんな高いところから落っこちるなんておっちょこちょいなやつだなぁ。ボスに助けられてなきゃどうなってたか!』

『この小動物もキミに言われちゃおしまいだね』

『んもう! なにさなにさ、喧嘩なら買うぞぉ!?』

 

 なんの因果か。青海の並木通りを爆走している俺の前に1匹の仔猫が木の枝から落っこちてきた。

 首元に赤いベルトがちらりと見えたので、怪我をしては不味いだろうと走り幅跳びの要領で助けたのだが。

 

「お、おいおいなんだ……大丈夫か?」

 

 熱心に頭を擦り付けてくる仔猫を抱えたまま、こいつをどうしようかと途方に暮れる。

 

『これ、またたび酒の影響じゃ……』

『うん?』

『あーそうかも。たしかにボス、さっき飲んでから着替えてないもんね』

『なんだって?』

 

 たしかに、俺はついさっきまで酒を飲んでいた。

 というか蘭豹は結局買ったまたたび酒を一滴も飲まずに、そのまま俺に一瓶まるっと飲ませてきた。

 

 が、それ以上に他の酒も大量に飲まされている。

 そんな状態でまたたびの効力があるものなのか……?

 

「……うっふ」

 

 キッつい。嗅覚機能を元に戻した途端、ある種の激臭にむせかける。

 しまった……。教員室に入った時、自分で嗅覚をカットしたのをすっかり忘れてた。迂闊だ。

 にしてもこいつは臭い。アルコール臭い。これ、またたび関係ないやつだな多分。

 

『なるほど。なかなかクるな、これ……』

『あぁ゛、ボスの不快指数が上昇してるぅ!』

 

 不快指数もそうだが、困った。

 とりあえず午後の動向が確定している今日、神崎とコンタクトをとっておきたかったのだが……。

 

 武偵校では1〜4時間目まで普通の高校と同じように一般科目の授業を行い、午後はそれぞれの専門科目に分かれての実習を行うことになっている。

 俺は今日その両方をサボってるわけだが。進級に必要な単位はもう揃ってるっぽいし、こっちはまだ別にいいとして。

 

 一定の訓練期間を経た生徒は民間から有償の依頼を受けられるようになり、学園外で事件現場に居合わせた場合は個々の判断で解決して報告することもできる。

 依頼遂行や事件解決、それらの実績と各種試験の成績に基づき生徒にはA~Eのランクが付けられていく。

 

 この武偵ランクにはさらにその上のSという特別なランクが存在し、件の遠山は入試でそのSに格付けされていた。これは過去形だ。

 遠山は去年の3学期に期末試験を受けず、探偵科に転科もしたのでランクEまで落ちたとかなんとか。……原因をここで語る必要はないだろう。

 

 本当は遠山と任務ついでに公園デートと洒落こんでいるであろう神崎に、最近の動向についてお説教するつもりでいたのだが。

 こんな酒臭いヤツが説教しても効果なさそう。……というか、真昼間から酒飲んでるようなやつに人のプライバシーのなんたるかを説かれてもこれっぽっちも響かないなこれ。

 

『仕方ない。計画変更だ、搦手でいくぞ』

 

 苦肉の策だが、遠山に代行を頼もう。

 あ、そうだ。ついでに猫もなんとかしてもらうか。

 

『それで、遠山は……』

『あ、ええと。付近のカメラから2人の姿を確認しました。この先のベンチですね』

『しめたっ。不幸中の幸いってやつだな』

 

 指定ポイントに従い、公園用に植樹された木々の隙間を抜け死角から2人の様子を伺う。

 ──と、神崎がいきなりベンチを立ち地団駄を踏みはじめ、それを見た遠山が慌てて止めようと立ち上がる。

 

『……なにしてんだ、あいつら』

『聴覚を調整すれば聞き取れるのでは?』

『いや、そうじゃなくてだな』

 

 人目もはばからず痴話喧嘩……か?

 通行人の視線を気にしてか、遠山は居心地が悪そうにしている。気まずそうだ。

 

 まあ、こっちはさっさと用事を済ませて風呂に入りたいので空気を読まずに登場するのだが。

 やあやあ、遠山キンジくん。アオイさんだよ。せいぜい青春を謳歌したまえ。

 

「アオイってやつはな、向こうから来るまで待つってのが定石なんだよ」

 

 んん? なんだ、俺の話してたのか?

 来るまで待つってお前それ……。

 

「まるで釣りの発想だな。するとあれか、俺は魚か」

「餌があれば釣れるだけ魚の方がまだマシ……は?」

 

 茂みからぬっと体を出すと、遠山の目が点になる。

 

「おうおう、俺を釣りたきゃ黄金の竿でも持ってきな」

 

 ベンチを挟み、一定の距離を保った位置取りをする。

 神崎は……なんか危ない目をして1人でぶつぶつ言ってんな。そっとしといてやろ。

 

「で、お前の彼女──神崎なんだがな」

「彼女じゃない。……できれば赤の他人ってことにしといてくれ」

 

 なんだ連れないな。主人公とヒロインだろ、もう熱々じゃないか。

 

「まあ聞けって。遠山、ツレの動向にはよくよく注意しておいてくれよ」

「……?」

「人様のことを根掘り葉掘り調べて回るの、あんまり感心しねぇぞ」

 

 あ、それとこの猫お願いね。じゃ。

 

「あ、おい待て──」

 

 待たない。

 少し早足気味に木陰に滑り込み、そのまま光学迷彩を起動。木と一体化しその場をやり過ごす。

 いや待てよ、これ臭いでバレないか。……今さら心配になってきたぞ。

 基本体臭は皆無だが、衣類や髪の毛等に染み付いた環境臭はどうだろう。

 

「……あら、どうしたのよその子」

「ん、ああこいつはな……」

 

 2人を見届け、そっと立ち去る。

 光学迷彩を過信して今まで考えてもこなかったが、これからはその辺も気にする必要がありそうだ。

 

 

 


 

 

 

「キンジ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「……なんだよ」

 

 アリア襲来の翌日。対策を練る為に適当な依頼を受けた俺は、結局待ち伏せしていたアリアを引き連れて依頼の猫探しに青海まで出ている。

 いざひと仕事といく前に、アリアのワガママもあって遅い昼食をマックのテイクアウトで済ませた俺たちは、食休みにそのまま公園のベンチになんとなく腰掛けていた。

 ──ふと、アリアが妙なことを聞いてくるまでは。

 

「あんたアオイって知ってる?」

「……は?」

「強襲科の生徒で、オマケにC組らしいんだけど、なかなか捕まんないのよね……」

 

 あいつC組だったのか……って、そうじゃなくてだな。

 

「あー──。……そりゃあれだ、諦めろ」

「はぁ? なによ、あんたもそれ?」

 

 ジトッとした目でこちらを見るアリアだが、どうしたって相手が悪い。

 

 強襲科でアオイと言えば死にたがりのバカだが、他所の──特に探偵学部なんかじゃどっちかって言うと神出鬼没、正体不明な印象が強い。

 アイツにはそれぞれのスキルが全く通用しない。いわば探偵、鑑識泣かせとして恐れられている。

 

 本人曰く隠れんぼが得意だとかで、去年のカルテットでは特にプワゾン*1の試合で誰にも見つかることなくたった1人で目標のフラッグを運び続けたという実績を持っている。

 ……噂じゃどうも、教務科が設置していたカメラにすら写っていなかったらしい。

 

 こう言っちゃなんだが、俺のヒステリアモードが全くと言っていいほど通用しなかった男だ。並のスキルじゃ歯が立たないだろうな。

 

「みんなして"探すだけ無駄だからやめておけ"って……目撃情報があるにも関わらずよ!?」

「あ、おいバカやめろって……」

 

 そんなこともあって首を横に振ると、アリアがいきなり立ち上がり、文句を言いながらその場で地団駄を踏みはじめた。

 

「あいつの場合向こうから来るまで待つってのが定石なんだよ」

「知らないわよ! あたしはすぐ会いたいのっ!」

 

 周囲の目もあるので慌てて止めるが、わがまま姫の噴火はそう簡単に収まりそうにない。

 それどころか勢いが増しているような気さえする。 

 

「調べようとしたらサーバーが落ちるし、資料はずっと閲覧中になってるし! なんなのよもう!」

 

 知らんわ。もう一度言うぞ、相手が悪い。

 あいつはどんなに探しても見つからない時は見つからないし、かと思えば──。

 

「まるで釣りの発想だな。するとあれか、俺は魚か」

「餌があれば釣れるだけ魚の方がまだマシ……は?」

 

 ……こんな感じで真後ろにいたりする。

 

「俺を釣りたきゃ黄金の竿を持ってきな」

 

 心做しか頭から湯気が立ち上りはじめているような気がするアリアをよそに、背後の茂みの中からガサリとアオイ本人が現れた。

 口でリールを巻く音マネをしながら、真顔でなぜか仔猫を1匹抱えている。マジかよ。どこからつっこめばいいんだ?

 

 肝心のアリアはアオイの登場に全く気付いている様子もなく、ブツブツと文句を言いながら地面に当たり散らしている。

 なんでお前、こういう時に限ってこっち見てないんだよ……?!

 

「で、お前の彼女──神崎なんだがな」

 

 一瞬アリアの方を向いて、アオイがボソリと呟いた。

 どこから調べたんだその情報は、とは聞かない。

 生徒連中が話のネタにする程度に、俺たちのことは校内でも有名になってしまっている。

 ああ、まったくもって不本意だが。

 

「彼女じゃない。……できれば赤の他人ってことにしといてくれ」

 

 その為に俺は癇癪を起こしたアリアから少し、さり気なく距離を置いている。

 このまま逃げても良かったが、そうすると後が怖いからな……。

 

「まあ聞けって。遠山、ツレの動向にはよくよく注意しておいてくれよ」

「……?」

「人様のことを根掘り葉掘り調べて回るの、あんまり感心しねぇぞ」

 

 うおーいアリアさーん、普通にバレてるぞー。

 

「んじゃ、頼むわ。俺はこれからドランクモンキーに師事してもらわなきゃなんねぇからな──ホワタァッ!」

「あ、おい待て──って、居ねぇ……」

 

 そう言うとアオイは抱えていた猫を俺に寄越すと、引き止める間もなく木々の間へと消えて行った。

 慌てて追い掛けるも、そこには人がいた形跡すら見られない。……相変わらず神出鬼没なやつだ。

 

「ちょっと聞いてる!?」

「はいはい、聞いてる聞いてる……頼んだ、か」

 

 アリアを適当にあしらいつつ渡された仔猫を眺める。

 思いのほか律儀なあいつのことだから、これが依頼料代わりってことなんだろう。

 というのも、アオイから預かった仔猫は俺が引き受けている依頼の、探し猫の資料にあった通りの特徴をしていた。

 念の為に写真と照らし合わせて見て、細部まで確認したので間違いない。

 

「なあ、アリア」

「……なによ」

 

 ああ、わかってるって。報酬分は働かないとな。

*1
カルテットの競技のひとつ。




Aria The Scarlet Ammo Re:Ghost?

アオイ──格闘技界の異端児。酔拳の動きもトレースできるが、平素は酔わないのでまず"酔"拳にならない。相変わらず真顔で応対していた。ホワタァッ!!

キンジなんかくん──アオイに真顔で説教されてわりとビビった。飼い主に引き渡すまで仔猫がご機嫌だったので、顔を引っかかれず服も濡らさずにすんだ。

アリアなんとかさん──お目当ての人物がすぐ近くにいたのにトリップしていて気づけなかった。この後キンジが突然1度だけ一緒に事件を解決してやると交渉をかけてきたので、アオイのことを調べるのは一旦やめた。

プチコマ──マスコット。

仔猫──哀れな小動物。アオイのフェロモン()にメロメロにされた。


お気に入り登録、しおり、評価、ありがとうございます
どうやらランキング入りしていたそうです
これもひとえに応援してくださる皆様のお陰です
本当にありがとうございました

やはり、感想なんかあると作者は大いに喜びます

恋愛モノの定番ネタできないじゃん!?

  • あの子は香水で自分色に染めるだろJk
  • 彼女は相方と囲む食卓の香りが好きなはずだ
  • くんかーは日々訓練されている、問題ない
  • ダークライがなんとかしてくれる

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