ARIA T.S.A. RE:GHOST?   作:かまぼこ大明神

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06" 白昼の酒気 - INTOXICATED

「んだよアオイー、全然飲んでねぇじゃねぇかぁ」

「あんたのペースが早すぎるだけだっての」

 

 グラスに注がれた酒を一息に呷る。

 強襲科、生徒も立ち寄らない教員室。……もとい暴君蘭豹の根城。

 そんな場所に俺は呼び出され、朝っぱらから蘭豹のくだ巻きに付き合わされていた。

 

「おっしゃ、グラス空いたな?」

「……空けさせたの間違いじゃねぇの?」

「あーあー、聞こえねぇなぁ」

 

 教師にアドレス握られてるってのは一長一短だ。

 やり取りするのになにかと便利な反面、相手が不良ならこういうこともある。

 俺の携帯番号を知っている3人の中で、2番目にやり取りが多いのが蘭豹だ。

 いや1番が頭イカれてるだけで、2番でも普通に多いのだが……。

 

「よっし、次はコレ飲め〜」

「あ? おい、なんだこれ」

 

 ここぞとばかりに注がれたのは、嗅覚に激しく訴えかけてくる謎の酒。

 てか、次はコレ〜じゃねぇよ。シレッとチャンポンさせようとするな。

 

 喉元過ぎれば熱さを忘れるという言葉がある。

 これは苦しいことやつらいことも、過ぎてしまえば忘れるということわざの1つだ。

 昨晩の銃撃戦より、今の絡み酒のがよほど厄介だな。

 

「あん? アタシの酒が飲めねぇってかぁ?」

「……や、飲むが」

 

 こんな朝っぱらじゃなけりゃもっといいんだがな。

 目の前の蘭豹は完全に出来上がっている。

 朝っぱらから酒を浴びるほど飲み、義体とはいえ生徒に飲酒を勧める教師の鑑だ。

 

「おらいっきいっき〜」

「それ、他のやつにやんなよ?」

 

 平日なのにあんた授業はどうするんだとはもはや訊かず、渋々コップの中身を呷る。

 味覚まではカットしてないので、なんとも言えない妙な味が口いっぱいに広がるのが感じられた。

 

「……ぅえ。なんだぃ、これ」

「これかぁ? あー、またたび酒っての?」

 

 そう言ってからからと笑うが、この人に薬酒が必要とは到底思えない。となると物珍しさからか。

 ふと目を奪われて珍しかったから買ってきたと、その気持ちはわからないでもない。

 歪に膨れた果実がぎっしり詰め込まれた瓶になみなみと注がれた琥珀色の液体は、そこいらの酒屋でそうお目にかかれる代物でもないだろうしな……。

 

「そら酒ならまだあんぞ。おら、飲め飲め」

「しゃーねぇなぁ。……昼過ぎまでだかんな?」

 

 そんなわけで言われるまま、されるがまま。

 飲めと言われれば飲むし、空いた杯には注いだり注がれたり。

 愚痴を聞けと言われれば聞いてやる。大抵はあの教師がどうだとか、仕事が面倒だとか。

 早朝からの酒盛りはノンストップで続けられ、今や部屋に入れば万人がその異様なまでの酒臭さに顔を顰めるだろうし、ぶっちゃけ扉を開けるだけで酔えそうな空間を生み出してるんだろう。多分。

 

『ああ、マスターはまたあんなに飲んで……』

『アルコールは瞬時に分解されるんでしょ?』

『うん、体内プラントでね。──けど、だからってあまり見てて楽しいものじゃないよ』

 

 先生も相当な酒豪だが、それでも人間なので飲めば飲むほど酔いが回る。

 ペースは早いし量も多いしで、もうべろんべろんの酩酊状態だ。

 

『アルコールって、血中濃度 0.5パーセントで致死レベルなんだっけ?』

『うんまあ、大体ウィスキーボトル1本ちょっとくらいかな』

『えーでもあの女の人、がばがば飲んでるよ? ホントに人間?』

『さあ?』

 

 疑問に思うな、ありのままを受け入れろ。俺はもうその域を脱している。

 

「あはァ……アオイぃ、飲んでぇるかぁ?」

「見ての通り、あんたにしこたま飲まされてるが」

「あーん? なぁんだ、まぁだシケたツラしてんなぁ……んー」

 

 お昼をそこそこ過ぎた頃。

 上半身を振り子のようにゆらゆらさせはじめた蘭豹が、一升瓶片手にもたれかかってくる。

 この状況でなにが不満なのか、じろりとそのままの体勢で俺を見上げると、ぐりぐり頬に指を立ててきた。

 訂正、どちらかというと"ごりごり"に近い。

 

「アオイよぉ、んなぶっすーっとしてよぉ……おもろいか?」

「これでもけっこー楽しんでるんだけどな」

「んぁー、そーじゃねぇんだよなぁ……っち、くっそムカムカするぅ……」

「おい乙女。ここで吐くなよ」

「ちげーし。わっかんねぇかなぁ……わっかんねーよなぁ……お前はそーいうやつだもんなぁ……」

 

 わかってる。だから失礼な、とは思わない。

 今が楽しかろうがつまらなかろうが、こっちは義体の都合で大して表情に出ないのだ。

 申し訳ないが、表情の変わらない相手と飲んでても面白くはないだろう。

 

 理不尽かつアレな部分が多いものの、なんだかんだで蘭豹には世話になってる。

 気に掛けてもらっている自覚があるので嫌と断ったりはしないし付き合いもするが、こればっかりはどうしようもない。

 どれだけ楽しんでいると口頭で伝えても、平坦な声色では焼け石に水だ。寧ろこうして火に油を注ぐような場合もある。

 

「俺さ、隠れんぼが得意なんだわ」

「……かもなぁ」

「サルでもわかる隠れんぼの必勝法、知ってるか?」

「あ? ……んだよ」

「捕まるのが嫌なら()に見つからないようにすりゃ良い。な、簡単だろ?」

「うっさいわ、アホぉ……」

 

 いやいや、冗談じゃねぇんだが。

 

『あっ。ボス、遠山キンジが動いたみたいです!』

『午後は任務に出るみたいだ。神崎・H・アリアと共に校舎を出て、駅に向かってますよ』

 

 それは好都合。遠山を経由して神崎と接触を図る手間が省けたな。

 

『わかった。そのまま継続してくれ』

『はぁい。命令は了解されましたぁ!』

 

「っし。蘭豹、俺はそろそろ暇させてもらうぞ」

「…………」

「おい?」

「──くぅ」

「……あー」

 

 互いにそれなり以上に稼いでいる──と、思われる。

 少なくとも稼いでないとは言えない。ゆえにちょっと長めの酒盛りをしたところで用意した酒が尽きることはそうないが、大抵はその心配をする前にこうして蘭豹が先に潰れる場合が多い。

 その話を介抱を頼むついでに教務科の他の教師にしたところ、乾いた笑いと共に白目を剥かれたとだけ言っておく。

 ちなみにその人は綴というらしい、蘭豹の親友なのだそうだ。俺も落ち着いたら友人関係に手を伸ばしてみるかな……。

 

「そんじゃ、また」

「……すぅ」

「失礼しますっと」

 いつだかに買って持ち込んでおいた触り心地の良いもふもふのタオルケットを掛けておいて、明かりを消してから部屋を出る。

 

『プチコマ、遠山たちは?』

『遠山キンジ、神崎・H・アリアの両名は駅から青海行きの便に乗ったみたいです。直近の便は十分後ですね』

『よし、最短ルートで行くぞ』

 

 最短ルート、光学迷彩をふんだんに利用した時短ルートだ。

 不法侵入、サイボーグダッシュ、サイボーグジャンプ、サイボーグ飛び降り。つまりなんでもアリ。

 算出した経路──といってもほぼ一直線だが、マップに表示された線をなぞるように出発……の、前に。

 トイレの個室に隠れ、俺はひっそりとインナースーツの光学迷彩を起動させた。

 

 

 


 

 

 

「……けっ、そのまんま出てくかよふつー」

 

 ぱちり──。アオイが部屋を出た後、しばらくして蘭豹は目を開けた。

 多量に飲みはしたが、自分はこの程度の酒気で潰れるほどヤワじゃない。

 つまるところ、わざと寝たフリをしていたわけだ。

 

 出ていったのは暁アオイ。入学初期から蘭豹が目をかけている男子生徒、変わり種だ。

 蘭豹が教諭を勤める強襲科は通称『明日無き学科』と呼ばれ、卒業までに約3パーセントの生徒が死亡する魔境である。

 そんな強襲科に於いても彼、アオイは死にたがりと揶揄される程に浮いていた。

 だから目を掛けるのか。いいや、噂になる前から蘭豹はアオイを知っている。

 

 実は武偵校の入試前日に2人はすれ違っていたのだ。

 もっともそれを覚えているのは蘭豹だけであったが、ともかく2人の縁はすでにそこから始まっていた。

 そして偶然にも、暇つぶしに街中をぶらついていた自分の目の前で、ひとりの若い女性が引ったくりの被害に遭ったのである。

 犯人は帽子を目深に被って人相を隠した大柄な男。

 体格がネックだが、それでも男がとった作戦は人混みの中であれば確かに有効な手段といえた。

 一目散に駆け出す犯人。しかしその逃走劇は早々に、酷く呆気ない終わりを迎えることになる。

 

 逃げ道を塞ぐように立っていた小柄な少年が、自分を押し退けて通り過ぎようとした男の首を片手で掴み、そのまま力技で硬い地面に押し倒したのだ。

 そのまま伸びて動かなくなる男。"お見事っ!"──久し振りに面白いものを見れたと、蘭豹は犯人を捕らえた少年に声を掛けようとした。

 

 しかしどうしたことか。少年は犯人を手放すと踵を返し、周囲の視線から逃れるように走り去っていく。

 蘭豹が慌てて追い掛けるも、ビルの隙間に駆け込む少年の背中を最後に完全に見失ってしまった。

 追いかけっこで負けるなんて、曲がりなりにもプロである蘭豹からしてみればそうそうない経験だ。

 面白い、ますます面白い。そう友人の教師に話してみれば、なんと一般枠の中に似た特徴の受験生がいるというではないか。

 

 そんなわけで受験生である少年──アオイとその日試験監督官を務めていた蘭豹が再会したのは、他でもない蘭豹が自らアオイを探していたからである。必然だ。

 アオイが他でもない武偵校の、それも強襲科の受験生であることを知り、どんなものかと蓋を開けて見てみれば素人の集まりである一般枠。

 当人が武偵となんら関わりのない公立中出身であることは蘭豹も知らされていたが、草食動物の中に飢えた獣を放つのではつまらない。

 

 それならば、と。蘭豹が道中で偶然を装い捕まえたアオイを連れて向かったのは、武偵中出身者の集まる試験会場。

 養殖された獣の檻の中へ、事情を知らない天然物を叩き込んだのだ。

 口元を三日月のように緩め、蘭豹は苦言を呈す友人らの声を右から左へと流す。

 きっと楽しくなる。そんなことを考えながら。

 

 

 それから1年。──そう、1年が経った。

 

 結果的にアオイは、武偵としてなんでもそつなくこなす優秀な生徒として成長した。

 恐らくどの学科に行っても恥ずかしくない能力を持っているだろうと、他でもない蘭豹はそう高く評価している。

 

 そも、アオイには思っていた以上の素質があった。

 セオリーもへったくれもなく雑に戦場を走り回り、かと思えば突然ふっと気配を消し、意識の外から正確かつ無慈悲な一撃を叩き込む。

 無防備に走り回っているだけようにも見えるアオイの姿や、物音等に迂闊にも釣られてしまった受験者がそうして次々とアオイに狩られていった。

 

 そんな入試での大立ち回りからして、すでに才能の芽は出ていたのだろうが。

 アオイの成長を急速に促したのはまず間違いなく、蘭豹がこの1年間でしてきた無茶振りの数々だろう。

 

 自分でもしょうもない動機だとは思うが。最初は単純に酷く無愛想なアオイの困った表情が見たいが為の、ちょっとした出来心だった。

 教師の前で分厚い鉄仮面みたいなものをつけたままでいるとは無礼なやつだ! ──と、我ながら妙なことに掛かったものである。

 

 事の次第はこうだ。

 

 ある時、ほんの冗談でアオイに度数の高い酒を飲ませてやろうと絡んだのだが──もちろん酒は散々困らせてから冗談だとショットグラスに差し替えるつもりではいた。

 ちょっとしたイタズラ心でジョッキ一杯に並々と注いだ酒を、アオイは躊躇なく一気に飲み干し、さすがに不味いと慌てふためく自分の前で表情をピクリとも変えずこう言ったのだ。

 

 "おえ。なかなか効くな、これ"

 

 こればっかりはさすがの蘭豹も口元が引き攣った。

 こいつ化け物か、と。

 だが同時にしてやられたとも思った蘭豹。

 こうなってくると、自分のどうしようもなく負けず嫌いな部分が出てくる。

 なんだかアオイに負けた気がして、ちょっと面白くない。

 

 そうしてその翌日。

 午前の授業を終えてひとり廊下を歩いていたアオイを待ち伏せし、蘭豹はいつかのようにあくまでもばったり出会したように装いつつ、丁度いいからお前これやれやと最初の無茶振りを寄越してやった。一芝居打ったわけだ。

 するとどうだ。アオイは任務の概要が印刷されたコピー紙を手に僅かに嫌そうな表情を浮かべたではないか。

 普段が普段なだけに、僅かな変化でも印象に残る。

 やった、あいつの分厚い鉄仮面を目の前で剥いでやった。

 

 祝、アオイに文句なしの大勝利──と、そこまでは良かったが。

 しかし蘭豹は忘れていた。というかこれを計算に入れてなかった。

 

 "え、これすか。……らじゃ。"

 

 嫌そうな表情を浮かべたのもつかの間。

 白昼夢もかくやといった調子で表情が素に戻り、アオイは昨夜のジョッキ一気飲みの時と同じノリでコピー紙を鞄に仕舞い込んだのだ。

 

 嘘やろお前と、ちょっとはごねろよお前と。

 立ち去る彼の背中を凍り付いた笑顔で見送り、蘭豹はまたしてもアオイにしてやられたと感じた。

 

 "ああ、面白くない。絶対あいつに嫌だと言わせてやる!"

 

 そう心のどこかで誓いつつ、自分が持ってきた任務について改めて確認する。

 無茶振りと言っても、自分がアオイの実力ならギリ行けるかどうかといったボーダーを考えてこの為に引っ張ってきた任務だった。

 アオイが適切なチームを組んで臨めば、万一ということもないだろう。別にそこは心配していない。

 

 早ければ今週末にでも報告してくるだろうっ!

 ガハハ……等と悠長に構えていた過去の自分。

 今でも思う。……とりあえず1発でいい。

 あのアホ面を思いっきり殴ってやりたい。

 

 翌日、たった1人で任務に行って帰ってきたと報告を聞かされた時はさすがに開いた口が塞がらなかった。

 

 それからというもの、自分の中で暇を見つけては適当な任務を探し、それをアオイに寄越すという殆ど日課のようなものが出来上がっていた。

 毎日毎日毎日、時間さえあれば大仕事から雑用まで幅広い任務を寄越しては『これだけのことをしてるのだ、そのうち音を上げるだろう』と。

 結局アオイが音を上げることは一度もなく、たまに休日を申請してきたかと思えばそれはちょうど手頃な任務がなかったりする日に限った話で、それもまるで知っていたかのようなタイミングで蘭豹に話を切り出してくるのだった。

 

 そうして休日になった場合以外のほぼ毎日、アオイは午後──稀に午前を含む時間を任務に費やしている。

 大抵は1人、パーティーを組まずソロで。

 

 別に本人が望んでソロ活してるなら特に口出しするべきじゃないと自分は考えているが、可能性の幅を広げる指導として後衛を1〜3人と任務によっては複数人付けさせたりもした。

 もっとも、大抵は長続きせず同じ者と2度組むことはなかったし、あんな死にたがりとコンビを組むなんて御免だと、そう直接言ってくる肝の据わった生徒もいた。

 通信科の生徒ですら、アオイは任務中に1本も連絡を寄越さないから最初から最後までずっと心臓に悪いと愚痴を零すくらいだ。

 

 どういうことか訊けば、アオイにパーティーで連携する気がこれっぽっちもなく、基本的に独断先行のワンマンプレイで自分たちと足並みを揃えようともしないのだと言う。

 おまけにやることといえば真っ向からの突貫だ。結果的に付き合わされる身にもなれと言わんばかりの乱闘になるらしい。

 加えて任務の前後は口数がぐっと減り、無視されることすらあるそうだ。普段の口数が多いだけに露骨だという声もあった。

 話の一部始終を聞けばたしかに、アオイが死にたがりの馬鹿だと言われるのも頷けるだろう。

 

 だが、アオイにはアオイのやり方があるのだ。

 足並みの問題も、言外にお前たちのやるべきことをやれと行動で示しているだけ。

 そのためにわざわざ前衛ではなく、後衛の生徒を選んで組ませている。少なくとも蘭豹はそう考えていた。

 

 任務の前後で口数が減るというのも、オンオフの切り替えができていると好意的に見ることもできるだろう。

 それに普段もたまにぱったりと喋らなくなることがあるし反応が鈍くなることもあるが、その時は返事をするまでしつこく話しかければいいだけである。

 実際、蘭豹は何度もそうしてきているし、アオイ自身も決してノリが悪いわけではない。

 

 いつだったか、アオイを呼んで晩酌に付き合わせた日のことだ。

 いつになく上機嫌な自分は、普段と毛色の違う無茶振りをしていた。

 "なあアオイー、お前ノリと即興でなんか面白いことやれよー"と。

 これもアオイを困らせようと適当に振ったネタで、蘭豹も彼の露骨に嫌そうな顔がちょっと癖になってる節があった。

 だからまあ、別に面白いことをしてくれなくてもそれはそれで良かったのだが。

 

 少し考える素振りを見せたアオイはそこら辺に落ちていた紙っ端を千切り、なにを思ったのか左手をもぞもぞと動かし始めた。

 なんとも地味だが、アオイの真剣な表情はそこそこ絵になっていた。時間もさほど掛かってなかったように思う。

 とにかくそうして動かしていた左手をパッと蘭豹の前で広げると、そこには白い小さな折り鶴が鎮座していた。

 今でも好きな時に現物を見れるが、なかなか見事なものである。

 

 "ほい、片手折り鶴。"

 

 それくらい酔ってても見れば分かる。

 心做しか表情がドヤっている気がしてムカついたのでそのまま"面白くねー"と拳骨を落としたが、寧ろ己の拳を痛めるハメになってしまった。アオイは石頭だった。

 ひりひりする拳を庇いつつ、納得いかないがこの鶴に免じて許してやると言って、さり気なく折り鶴を回収してからしげしげとそれを観察してみた。

 

 成程、とても綺麗なものだ。

 白い鶴はあのごく短い時間、それも左手の掌の中で折ったものとは思えない程のクオリティだった。

 あまりの器用さに自分でも出来るだろうか等と柄にもないことを考えてしまったが、結局こいつの前でそんな真似はできないとその場では保留した。

 

 後日、苛々しながら片手でくしゃくしゃな鶴を折る蘭豹の姿が随所で確認されるが、見本品を作った当の本人はそれを知らないでいる。

 ……恐らくは、今後も知らないままでいるのだろう。

 

 以前、蘭豹は友人の教師に随分とアオイに入れ込んでいるじゃないかと指摘されたことがある。

 自分自身それは十二分に認めていることで、愛想が良くて可愛げがあるとはとても言えないが、打てば響く、叩けば鳴る、当たれば砕く。そんな反応が心地好くなかったと言えば嘘になるだろう。

 

 だがそれとこれと、贔屓するしないの話は別だ。

 アオイには確かな実力があって、かつそれに傲ることもなく更に上を目指そうとする向上心がある。

 まだまだ伸びる、化ける。自分は将来有望な教え子に期待しているだけなのであって、含みのある目で見ているわけじゃないのだ。

 そう訂正してもまだ抗議してきた、疑いの目を向けてきた教師はもれなく1発ずつおみまいしてやった。

 

 ……と、まあそれはそれとして。

 武偵校にはカルテットと呼ばれる1年全員参加、試合形式で行われる実戦テストが存在する。

 教員の間でどのチームが優秀な成績を収めるか話し合われる中、蘭豹は話に混ざることもなく相変わらずアオイに回す依頼を見繕っていた。

 結果は見えている。アイツが暴れる、そして勝つ。

 他でもない自分が鍛えているのだから、当然だ。

 

 誰だって応援しているスポーツチームが勝てば、お気に入りの選手が活躍していれば嬉しいだろう。

 だからこそ、教え子の活躍にご機嫌になるのは当然のことなのだ。

 決して、そこに含みがあるわけではない。

 

「……さぁて」

 

 今日も今日とて蘭豹はガサりと紙束に手を伸ばす。

 武偵校にはひっきりなしに依頼が集まってくる。

 アイツにちょうどいい依頼は来てないものか、と。




intoxicated──中毒になる・酩酊する・夢中になる

アオイ──その気にならなければ酔わない。しこたま飲まされたが素面のまま、アルコールは分解処理されている。遠山を探しに青海方面へ出かけた。

蘭豹──リアル育成ゲームをやっている。酒には強く、浴びるほど飲んだが潰れてなかった。アオイの前で寝たフリしたが、別に深い意味はない。決して深い意味はない。

プチコマ──マスコット。お酒って美味しいのかなぁ?

またたび酒──美人に飲まれるかと思ったらサイボーグに一瓶まるごともってかれた哀れな薬酒。甘ったるい香りがする。

綴──不良教師2号。生徒の前で狸寝入りする蘭豹に驚愕した。あらやだ、うちの親友生徒に入れ込みすぎ。

アリアなんとかさん──アオイの情報を集めるのは諦めてないが、とりあえずキンジのスカウトに力を入れている。現在初デート中。

キンジなんとかくん──まだ原作通りの道を進んでいる。初デート中。


引き続きお気に入り登録、しおり、評価、ありがとうございます
思ってた以上に旧作読者さんから反応が来てビックリしてます
感想もどっちゃり増えてウッハウハです

活動報告の都合もあるので、ユーザー情報へのリンクを公開しました
※活動報告に目安箱の設置をしておきました

ところで、文字数を設定していると評価しづらいとのご意見がありました
その方はそう言いつつきっちり感想を添えて評価をくださったのですが
低評価の内容に具体性が欲しいので改めて文字数を設定していたのですが、どうなんでしょう
もっとも改善しようがない部分が理由だと手の施しようがないので、その場合はごめんなさい
正直30文字以上も視野に入れてたのですが、設定してるとやっぱりつけにくいですかね

変わらず、感想なんかあると作者は大いに喜びます
心の内を語ると、作者の原動力は評価(点数)よりも読者様のナマの反応(コメント)なんですよ

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